和泉と六郎の甘々な日々 ~実は和泉さんが一方的に六郎さんに甘えてるだけと言う説も有るけど和泉さんはそんな説にはそっぽを向いている~

くろねこ教授

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『こぼれ話 大学生だよ和泉さん』

第48話

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「母さんこそ、やけに彼女を気に入ってる様ですね。
 何か理由でも有るんですか」

「あの娘、すごく良い子よ」

玉江さんが六郎さんに話し出す。

和泉ちゃん。
年の離れた弟や妹が三人もいるんだって。
両親は共働き。
ずっと弟たちの面倒を和泉ちゃんが見てたらしいわ。
和泉ちゃんだって子供だったのよ。
友達と遊びたいだろうに、家に帰って小さい子の面倒をみてたの。

子供がそれだけ多くちゃ、生活費だって学費だって大変だわ。
だから、あの娘「仕送りは要らない」そう言って東京に来たんだって。
「学費だけ出してくれれば充分。生活費は自分でバイトして何とかする」って。
どう、泣かせるじゃない。

ずっと小さい弟妹の面倒見てきたのよ。
東京に行って、面倒から解放されて独り暮らししたかった。
そう言ってもバチは当たらないわ。
それなのにね、和泉ちゃん。

ずっとアタシ、弟や妹に頼ってました。
アタシ一人じゃ何にも出来ない。
一人でちゃんと生きていける、そんな人間になりたい。
だから東京で一人暮らし始めたんです。
結局、玉江さんや六郎さんに頼っちゃってますけど。

そんな風に言うの。

「どう、それがあたしが和泉ちゃんを気に入った理由よ」

母親は目に軽く涙まで浮かべてる。
この人は昔から涙もろい。

「そうですか……
 分かりました」

六郎さんは玉江さんに頷いた。


お風呂から出て来た和泉さんは慌てる。

「あっ、六郎さん。
 帰ってらしたんですね。
 玉江さん、ご飯温めてくれたんですね。
 ゴメンなさい、アタシやりますやります」

六郎さんは言う。

「慌てなくて良いです。
 髪を乾かしてからいらっしゃい。
 待ってますから、和泉さん」

柔らかい声で言うのだ。

和泉さんはストンと胸に落ちた。
そうか、慌てなくて良いんだ。

アレ、今六郎さんあたしのコトなんて呼んだ?


さて長尾家で暮らし始めた和泉さん。
もう一年以上月日は流れた。

「へへへ、和泉ちゃんの20歳のお祝い」
「えーっ、何ですか? 玉江さん」

「柿の苗木なの。
 少し庭にも高い木が有っても良いかなと思って」

長尾家の庭の中央。
お花や草を整理して真ん中あたりに場所を造って苗木を植えた。

和泉さんの腰までしかない小さな苗木。
最初は鉢植えに植えて、二年位してから地面に植え替えるのが良いらしい。

「小っちゃい。
 これが本当に背より高くなるんですか?」
「なるわよ、植物なんてすぐ成長するの。
 桃栗三年、柿八年。
 収穫できるのは八年後くらいね」

「楽しみですね、玉江さん」
「うん。
 でもその頃にはわたしはもういないわね」

玉江さんは庭を見ながらしんみり言う。

玉江さんはもう80台。
柿の実が成る頃には90台。
確かに御年齢なのだけど。

「何、言ってるんですか。
 玉江さん、お元気じゃ無いですか。
 柿の実、大きくなったら一緒に食べましょうよ」

和泉さんはそう言った。


……そう言ったのに。

玉江さんは亡くなってしまった。

あれは和泉さんがもう大学四年生。
就職先が決まった直後。

「やりました、玉江さん」
「やったわね、和泉ちゃん」

良かったわねー。
これで和泉ちゃんも一人前ね。
玉江さんは我が事の様に喜んでくれた。

「和泉ちゃん、よろしくね。
 六郎とこの家のコト、よろしくね」

そして。
玉江さんは目を閉じた。
眠るみたいに息を引き取った。

現在でも思い出すと和泉さんは泣いてしまう。

六郎さんは言っていた。

「ごめんなさい、和泉さん。
 貴方を巻き込んでしまって」

母が永くない事は分かっていたんです。
お医者様にも言われていた。
身体の色んな所に転移している。
この年齢で大きな手術に耐えられるかどうか。
母はもう身体を切られるのは嫌だと。

「自分の家で死にたいわ」

庭を見ながら一人で言う母親。

父親、玉江さんのご主人が亡くなって、メッキリ口数の減った玉江さん。
六郎さんが仕事で出かけてる間は、独りでお庭を見てるだけ。
そんな母親が心配でならなかった六郎さん。

だからあの貼り紙だったのだ。

「本当にもっと年配の方が来てくれないかと思っていたんです。
 和泉さんのような若い方にもうすぐ亡くなる人間の相手をしてくれ。
 そんなの荷が重すぎる」

「だけど、母は本当に和泉さんを気に入ってしまった。
 お医者様はあと一年保つかどうかと言っていた。
 それなのに四年も……。
 貴方のおかげだと思います、和泉さん。
 母は貴方に会ってから本当に楽しそうだった。
 少なくなっていた口数もニコニコと喋る様になって。
 本当に本当にあなたには感謝してます」

「だけど、貴方には……。
 なんてお詫びしていいか。
 親しくなった人を亡くす悲しみをまだ若い貴方に押し付けてしまった」

「ごめんなさい、和泉さん。
 ごめんなさい」

六郎さん。
六郎さんが目から涙を流しながら言う。
初めて見る六郎さんの涙。

「謝らないでください。
 あたし本当に玉江さんに良くしてもらって。
 本当に楽しかったんです」

「本当に楽しかったんです。
 だから……」

謝らないで。
もう泣かないで。
六郎さん。

泣いてるオトコを慰める。
そんなのしょっちゅう。
弟たちはナマイキなオトコノコ。
だけど。
すぐヒザを擦りむいた、足をカドにぶつけたと言って泣きだすのだ。
泣いてるオトコを黙らせる方法は一つ。
そんなコトは良く知ってる和泉さんなのだ。

六郎さんの泣いている顔。
その顔をそっと抱き寄せる。
自分の胸の中に埋める和泉さん。
六郎さんは「あっ」と一瞬驚いたけど。
そのまま動かない。
和泉さんの胸の中、静かに涙をこぼす六郎さんがいる。

それはもう大分昔。
和泉さんと六郎さんが二人だけで暮らしだす直前の物語。





















どーも。
くろねこ教授です。

ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
いつもと少し雰囲気の違う『和泉さん』でした。
7話だけでしたが。
通常1000文字前後、今回の『こぼれ話』は2000文字。
普段通りなら14話分。
少し雰囲気変えるといつもの1000文字じゃ少なすぎる気がして。
試しにやってみました。
これはこれで気に入って戴けると良いのですが。

冬の章はしばらく開けてから投稿予定。
また、いつもの一話1000文字にします。
雰囲気もいつも通りに戻るハズ。
少し間が空いてしまいますが。
お待ちくださいませ。

ではでは。
くろねこ教授でした。
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