7 / 18
第7話 心落ち着く
しおりを挟む
やえはゆっくりと目を覚ます。鼻に味噌汁の香りが届く。米が炊き上がる直前の香りもする。
「いけん、寝坊してもうたかいね」
朝餉の支度の手伝いもやえの仕事の一つ。やえは寝坊をした事などかつて一度も無い。それだけにやらかしたか、と慌てる。
がばと布団を撥ね退けて、そこで気が着いた。ここはいつもの下女の寝間では無い。
そうじゃった。昨日主さんの家に連れて来られて……布団のあまりの気持ちのよさに寝てしもうたんじゃ。
寝台から少し離れた場所に竈が有って。昨日見て回ったその位置に何かがしゃがみ込んで竈を見てるような気がする。やえの薄ぼけた視界ではその位しか分からない。
「起こしてしまったか。
なら、寝台を替わってくれないか。
一睡もしてないから、眠くてたまらない」
「ああ、これはそこらの人里から貰ってきた椀だ。
好きに使え。
飯は炊き上がってる。
数刻、蒸らせば食べられる。
火傷しないよう気を付けろよ」
そう言って、何かはやえと入れ替わりに布団に横たわる。通り過ぎる瞬間、見たものは人間の形をしていた。二本足で歩いて、腕が動いてた。
白い狼の獣毛を生やした犬に似た四本足で歩く形とはどう考えても一致しない。だけど、その声は山の主と同じだと感じた。昨夜背に乗った狼の喉から発せられていた声の響きと同じであった。
確認しようにも声の主は既に布団に潜り込んでしまった。眠くてたまらないと言っていたのは嘘じゃ無かった。既に寝息まで聞こえている。
仕方無くやえは窯の方へ向かう。昨夜場所の間隔は何となく掴んだ。顔を近づければ分かる。
釜と湯気。木で出来た蓋を開ければ、米の臭いがぱぁっと広がる。
部屋には腰掛のような物が置いてあった。その前には腰掛に座ると丁度良い台。
台に椀を置いて腰掛に座って食べる。やえにとっては初の体験。
なんか落ち着かんねぇ。
でも畳に座るのとは又違った解放感がある。
通常であれば下女たちと狭い部屋に押し込められ食事している。忙しく食事を取りながら他の下女たちは騒がしく会話もする。
やえは……
あの殿方はなかなか良い顔立ちじゃねぇ。
こないだ見た着物がすごい良い模様だったんよ。
そんな話の内容に入っていけはしない。自分の膳と食器を倒したりしないよう気を付けるだけで、一人静かに食事するやえだったのだ。
誰もいない空間で飯を食べる。せっかくの白米だと言うのに焦げもあって米は固くなっていたが。それでもやえにはとっては心落ち着く時間であった。
「いけん、寝坊してもうたかいね」
朝餉の支度の手伝いもやえの仕事の一つ。やえは寝坊をした事などかつて一度も無い。それだけにやらかしたか、と慌てる。
がばと布団を撥ね退けて、そこで気が着いた。ここはいつもの下女の寝間では無い。
そうじゃった。昨日主さんの家に連れて来られて……布団のあまりの気持ちのよさに寝てしもうたんじゃ。
寝台から少し離れた場所に竈が有って。昨日見て回ったその位置に何かがしゃがみ込んで竈を見てるような気がする。やえの薄ぼけた視界ではその位しか分からない。
「起こしてしまったか。
なら、寝台を替わってくれないか。
一睡もしてないから、眠くてたまらない」
「ああ、これはそこらの人里から貰ってきた椀だ。
好きに使え。
飯は炊き上がってる。
数刻、蒸らせば食べられる。
火傷しないよう気を付けろよ」
そう言って、何かはやえと入れ替わりに布団に横たわる。通り過ぎる瞬間、見たものは人間の形をしていた。二本足で歩いて、腕が動いてた。
白い狼の獣毛を生やした犬に似た四本足で歩く形とはどう考えても一致しない。だけど、その声は山の主と同じだと感じた。昨夜背に乗った狼の喉から発せられていた声の響きと同じであった。
確認しようにも声の主は既に布団に潜り込んでしまった。眠くてたまらないと言っていたのは嘘じゃ無かった。既に寝息まで聞こえている。
仕方無くやえは窯の方へ向かう。昨夜場所の間隔は何となく掴んだ。顔を近づければ分かる。
釜と湯気。木で出来た蓋を開ければ、米の臭いがぱぁっと広がる。
部屋には腰掛のような物が置いてあった。その前には腰掛に座ると丁度良い台。
台に椀を置いて腰掛に座って食べる。やえにとっては初の体験。
なんか落ち着かんねぇ。
でも畳に座るのとは又違った解放感がある。
通常であれば下女たちと狭い部屋に押し込められ食事している。忙しく食事を取りながら他の下女たちは騒がしく会話もする。
やえは……
あの殿方はなかなか良い顔立ちじゃねぇ。
こないだ見た着物がすごい良い模様だったんよ。
そんな話の内容に入っていけはしない。自分の膳と食器を倒したりしないよう気を付けるだけで、一人静かに食事するやえだったのだ。
誰もいない空間で飯を食べる。せっかくの白米だと言うのに焦げもあって米は固くなっていたが。それでもやえにはとっては心落ち着く時間であった。
0
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる