帝国暦55年と555年の学園ライフ〜最強賢者は魔術が衰退した未来に転生し無双、最弱愚者は魔術がクッソ強い過去に転生して無惨〜

騎士ランチ

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第一章二周目:チンポジも歴史も直そうと思えば直せるものだ

新・第七話:帝国暦55年から555年までの昔語り

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【帝国暦555年・魔王軍アジト】

「前回と変わらん場所でよかったわい」
「と言われても、アタシは前回来てないから分からへんけどな」
「私は来たみたいですけど分からないです」

 リーン、レーゼ、ゴンの三人は墓を調べた後、予定通りこの時代の魔王軍のアジトに突入していた。前回程の怒りも湧いていないリーンは、道中の魔族を壁に叩きつけ気絶させるに留め、先の戦いに備えて省エネで最深部に辿り着く。

「おるかー!」
「ほ、本当に来た!」
「おっ、今回は早いねえ」

 リーンが最深部の扉を開くと、怯えるゲンと余裕の時の魔導師が出迎える。

「相変わらずショボいアジトじゃの」
「ああ。あんたらの研究所をモデルにしたからな。で、お互い何をすべきかはもう分かっているだろ?」

 リーンが両手を前に出して、いつでと印を結べる様にすると、時の魔導師はゲンに指示を出す。

「ゲン、逃げろ」
「へ、…うわああああ!」


 その言葉を聞くやいなや、ゲンは真っ直ぐにリーン達の方へ走り出す。

「ゴン、頼むぞ」
「わかりました」

 ゴンはリーンの前に出て攻撃を受け止めようとするが、その横をゲンは全力で走り抜けて出入り口を通過して行った。

「…えっ?」

 ゲンは逃げた。前回と違いマジのガン逃げだった。そして、リーン達の鋭い視線がゴンに集まっている。

「ゴン、これはどういう事じゃ」
「すみません、読み間違えました。逃げるフリをして襲ってくるものかと」
「何故そう思った?アレはこの時代まで逃げを重ねて生きてきた愚物じゃ。しかも上司から逃げて良いと言われておる。アレが戦闘を選ぶなぞ、今までのお前ならば絶対判断せんわい」

 リーンの指と目はしっかりとゴンの方を向いていた。レーゼも、時の魔導師も、三人が警戒しながらゴンを囲んでいた。

「ゴン、お前本当は特異点の一人なんじゃろ?何で今まで黙っておった?」
「リーン様こそ、いつの間にヒース君と手を組んだのですか?」
「入学試験の後、帰宅してお前に会うまでの間じゃ」
「通りで帰りが遅かった訳だ。じゃあ、二周目の始まりから私の事を疑っていたんですよね?」

 ゴンの返事を聞き、リーンは確信してしまう。ゴンは今までずっと嘘を付いていた。ゴンは前回の記憶を持っていたし、時の魔導師が誰なのかも知っていたのに黙っていた。

「ゴン、お前だったのか。ワシを殺したのは」
「はい。特異点の死亡時に条件次第でループが発生する事は突き止めてましたが、自分の身体で試すのは怖かったので貴方に死んでもらいました」

 そう言いながらゴンは尻尾を引っ張って位置を直す仕草を始める。

「んっ、んっ」

 尻尾を左右にグイグイとしごく様に引っ張り続けるゴン。すると、尻尾が徐々に尻の後ろから前の方へと移動してくる。

「んんーっ!」

 完全に前へと回った尻尾を力強く真上へ引っ張ると、尻尾は根本から千切れ、代わりに男性器がブルンと垂れ下がった。

「んほーっ、気持ちよかーっ」

 喘ぎ声を上げながら股間をかきむしり、皮膚をどんどん剥がしていく。竜人族の鱗肌の下から人間の男の肉体が露出していく。

「本当の私を見てえー!」

 ゴンの顔の中心に縦に切れ目が入り、真っ二つに裂ける。中から出てきた男は、リーンの良く知った顔をしていた。そう、それは若き日の自分にとても似ていた。

「やはり貴様か、バート・ナード!!」
「あ、違います」

 リーンの推理を秒で否定した全裸の変態。果たして、ゴンに化けたいたこの変態は誰なのか?

「私は誰なのか、何故ゴンのフリをしていたのか、その答えは五百年前にある。今こそ話そう。私の正体を!」


【帝国暦55年・リーンの研究所】

 私が生まれたのは、転生の術が発動した時だ。私の目の前ではゴンがホムンクルスの起動の準備をしていた。間もなくあのホムンクルスに未来人の魂が入って動き出すのだろう。

「こちらの肉体は片付けておかないといけませんね。何かの間違いで未来の人がこの老人の身体に入ってしまったら可哀想ですし」

 そう言ってゴンは魂の抜けたリーン・ルイスの肉体を死体として処理しようとした。それが実行される事は私の死を意味する。何故なら、私の意識はリーンの中にあったからだ。そう、リーンの肉体から魂が抜けてもまだ残されていた思念、それが私だった。

 何故私がそこに居たのか、そんな事を考えている時間は無かった。ゴンは予定通り私を棺桶に入れて、秘密の墓地へと運び出す。このままでは、土の中で腐っていき何もできないまま私は死んでしまう!

 動け、動け、動かないと死ぬんだぞ私!残留思念が残された遺体だから仮に動いてもアンデッドであり、現代学問では死人扱いだが、そんな事関係無い!私が!生きたいのだ!

 そうだ、未来に転生したいと考えたのだって、魔王と決着をつけたいだとか未来の魔術を学びたいとかは建前だ。私はただ死にたく無かったのだ。死を目前にして漸く私は己の本心に気付けた。これは大きな収穫。だが、この窮地を乗り越えなければ私の発見も意味を成さない。

 考えろ私!この棺桶から脱出して生き続ける手段を!しかし、この肉体は指一本動かせないし、声も出せないし、呼吸も心臓も止まっている。よって、精霊術・無詠唱魔術・詠唱魔術全部無理!詰んだ!私はこのまま腐って死んで終わるのか、それとも腐ってもなお意識だけ残り地中で苦しみ続ける未来が待っているのか、そんなのどちらも嫌に決まってるだろ!

 考える事しか出来ない私の脳内で気持ち悪い笑顔をしたヒゲマッチョがポージングしている。コレが、死の間際に訪れる死神という奴ならあまりにも悪趣味だな。いや、私はこいつを知っている。そう、転生術の研究の最中、私はこいつの影とノイズ混じりの声を聞いている。

「しのぶー!」
「よくぞ呼んでくれましたぞおおおー!」

 声は出せずとも脳内会話は可能。いや、寧ろ声を出せない状況が脳内会話をクリアにしたのかも知れない。私の呼びかけに対し、時の大精霊しのぶは今まで聞いた事の無いハッキリとした返事で私に応えたのだった。

「リーン殿!この部屋すっごい住心地がよくなってますぞ!五大精霊との触れ合った記録が綺麗に消えてますぞ!」
「魂となって出ていった私が精霊術の経験ごと持っていったのかもな。先程生まれたばかりの私には知識はあれど、魔術の使用経験は一切無いからな」
「素晴らしいですぞ、リーン殿…じゃなくって、リーン殿が魂を未来に飛ばした時に千切れた魂の根っこ的なソレ殿お!」

 リーンの魂の根っこ、それが私という存在の正体なのか。専門家のしのぶがそう言うのだから、それが正しいのだろう。しのぶのおかげで私が何者かはハッキリしたが、当面の問題はまだ一ミリも解決していない。

「しのぶよ、お前が気に入ったこの空間だが、このままでは間もなく消え失せる。何故ならこの肉体は既に死に、これからじわじわと腐敗するからだ。しかも、現在墓場に向かって移動中ときた」
「それは困りますぞ!」
「なら、知恵を貸せ。この状態から延命する方法を教えてくれ」
「それなら転生術を使えばよろしいですぞ?早くするですぞ」

 こいつは何を言っているんだ?転生先の空の肉体を確保しなければ転生術は使えない。それは、今まで私が研究をしてきて真っ先にぶち当たった欠点だ。

「しのぶ、残念ながらここは私の研究所じゃない。魂を入れる為の器となるホムンクルスは置いてないんだ」
「ふむ、生きた他人に乗り移るとその相手の魂が邪魔になるですぞ?」
「ああ」
「邪魔なら蹴散らせばよろしいのではですぞ?」

 私は気付かされてしまった。魂同士の衝突による被害や魂の混合による自己の消滅を恐れてはいたが、それはまだ一度も実証はしていない。生きた他人の身体に魂を移したらどうなるかは、現時点でまだ誰も分かってはいない。そして、今の私の傍にいるのは、墓場に到着し私の遺体に最後の別れを告げているゴンだけだ。

「リーン様、一時のお別れですね。実験が成功していたなら五百年後に会いましょう」

 棺桶を開けて、ゴンが私の顔に手を触れた。もうチャンスはここしか無い。私は動かぬ肉体から意識を切り離し、顔に触れた手を伝ってゴンの中へと侵入する。

「イ、イヤアァァァ!!」

 ゴンの悲鳴、直後私の視界が急速に切り替わり私の死に顔が目の前に現れる。よし、ゴンの中に入れたのは間違え無い!自分でもどうやったかは分からんが、このままこの身体貰い受ける!

 だが、私の視界が再び動き、死体の方へと意識が押し戻されようとする。やはり、元々あったゴンの魂が私の魂を押し出そうとしてくる。完全な魂のゴンと切れっ端の魂の私では分が悪いが、私には魔術知識と何より生きる為の執着心がある。

 私はゴンの身体を奪う結果になろうとも、何ら罪悪感を抱く事は無かった。それは、こうしなければ私が死んでしまうというのも有ったが、そもそもの話、ゴンは私の延命の為に育て上げた存在だった。

 長命である竜人族の身体を研究すれば寿命を伸ばせると信じた私は、転生術の研究と並行して竜人族の解体と実験を繰り返した。魔王軍最強の戦士達とされていた竜人族を倒して回った私を咎める者は居なかった。それだけでは無く、私はいつしか英雄として称賛される様になっていった。

 思えばこの時に私の心は二つに別れてしまったのだろう。称賛され続けた私の中には功名心が生まれ、人々に褒められたいと、その為に規範となる振る舞いをしなければならないと考える様になっていった。その結果が竜人族の少女の保護や魔王の撃破や魔法学園への論文提出であり、どれも私には不要な行為だった。

 私の生きる為の糧だったゴンとはいつしか親子の情が生まれ、未来に復活を予言した魔王にはキッチリとケリを付けると宣言し、そんな事をしている間に私は怒らせると怖い最強のおじいちゃんという存在に成り果ててしまった。

 こんなものが私の人生の望みだったろうか?断じて違う。私は可能な限り生き続け、どこまでも強くなりたい。それこそが本音。それこそが私の魂の根っ子に残った意志。だから、ゴンの魂の抵抗が次第に弱まり身体の所有権を奪っていく中で私に罪悪感は一切無かった。

「ゴンよ、私はお前を長く生かし過ぎた」

 乗っ取りが完了した私、はゴンの口を使い呟いた。

「いやあ、お見事でしたぞ」

 新たな肉体の脳内にしのぶの声が響く。私の意識が肉体を支配しているからだろうか、この身体でもしのぶとの通信は可能だった。

「それでリーン殿、おっと、今の貴方はリーンでもゴンでも無い二つの魂が混合された存在。何と呼べば良いですぞ?」
「私の名前か…」

 確かに、今の私はリーン・ルイスとは完全に別人となってしまったし、ゴンでも無い。人前ではゴンと名乗ればよいが、しのぶと二人きりで話す為の名前も必要だな。私は少し考えてからこう答えた。

「今より遥か昔、人々が異世界から召喚された聖女の力に頼るしか無い程貧弱だった時代があった。これを良しとしなかった神は人々にスキルを与える事にした」
「ぞ?」
「人類最初にスキルを与えられた男の名前はテスター。彼にあやかり、今日からは私はテスターと名乗る事にしよう。我が名はテスター、試す者。人類初めての転生を成し遂げた者」
「お、おおお!運命を感じずにはいられませんぞ!テスター殿!このしのぶ!貴方様に一生ついていきますぞおおおー!!」

 しのぶは私がドン引きするぐらいの勢いで号泣し、忠誠を誓ってきた。きっと、転生という時の魔術の限界点に到達した私に感動し震えているのだろう。

「それでテスター殿、新たな人生を得た貴方はこれからどう生きるのですぞ?」
「研究所に帰りホムンクルスの休眠を解除する。リーンの実験が成功していたなら、未来人の魂が入る事で動き出すはずた。そうなったなら、私はゴンとして振る舞い、その人物を観察していこうと思う」

 こうして私の新たな人生は幕を開けた。だが、やって来た男は私の想像を越えたアホだった。そして、そのアホによって私と世界の運命がとんでもない事になるなぞ、この時の私は知るはずもなかったのである。
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