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第一章バカヤロウやらかし編

やらかし10:バカヤロウ、五百年後の恨みを晴らされる

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 夜になるとゴブリンが襲って来る。ブライアンはテスターの金貨を狙っていて、それがバレたら殺そうとしてくる。

 二度の死に戻り(テスター的には予知夢)から得た情報により、テスターはブライアンに金貨袋を渡し、日が暮れる前にゴブリンを狩りに行かせるという索を実行した。

 はっきり言って、成功率はほぼゼロの下策である。自分が助かるのが目的なら、なるべく早く宿を引き払い、この町の外に拠点を移すのが一番確実な方法だ。しかし、この町を守りたいし、ブライアンとも良い関係を続けたいと思ったテスターはこの無謀な作戦を実行した。

 結果として成功はしたが、それはゴブリンの多くが既にこの採取地を離れていたからであり、本来の数を相手にしていたら返り討ちにあっていたのは間違い無いだろう。

「ぐへへっ、ゴブリンを狩るなんて普段ならやらねえが、報酬が出るなら話は別よ。おいテスター、本当にその金貨を袋ごとくれるんだな?」
「ああ。この中身はブライアンさんと他の冒険者の皆で分けてよ。その代わり、この採取地のゴブリンは必ず全滅させて。得に、杖か薬瓶を持ったゴブリンは逃しちゃダメだ」

 大量の金貨、盗みの証拠、その両方が一度に手に入ると知ったブライアンはテスターの頼みを断れるはずも無かった。元々テスターがゴブリン相手にやっきになっている事を知るブライアンとその取り巻きは、得に理由を聞く事も無く狩りに参加した。

 確かにゴブリンは生まれながらのハンターであり、倒すのは決して楽ではない。だが、今日ここに集まったのはブライアンと愉快な仲間たち。金貨数枚の為に殺しだってやる畜生集団は、報酬に目がくらみ引き際を知らぬ狂戦士の群れと化した。

 つまり、寝起きで十分なスペックを発揮出来ない少数のゴブリンvs殺意マシマシで倍近い数の冒険者という見ていて可哀想な図式が完成し、ゴブリン達は一匹また一匹と倒れていった。

「ぐへへ、金ぇ!俺の金だ!もうゴブリンが金貨にしか見えねえよ俺は!」
「ゴブー!」
「報酬は活躍に応じてだからなあ、悪いが死んでくれゴブちゃん」
「ゴブー!」
「ブライアンの旦那あ、アッシらの分も残してくだせえ!」
「ゴブー!」

 こうなったのも、元はと言えばゴブリン達が聖女っぽい奴がいるから町ごと焼こうと計画したから、つまり自業自得ではあるのだがこの世界線ではまだ行為に及んて無いのにこの始末。まあ、いつか崩れる冷戦関係だったからしゃーない。

 そんな訳でブリダイコンが到着した時には、とっくに雑魚ゴブリンは全滅していたのだった。

「おっ、来なさったぜ強そうなゴブリンが。おうお前ぇら!アレの首とった奴が今日のエースだかんな!」
「よくも仲間達を…、貴様ら許さんぞ!」

 怒りに奮い立つブリダイコンだったが、まずは冷静に鑑定で敵全員の実力を確認する。

モンスター名:ベテラン冒険者
現在体力:120
最大体力:180
現在魔力:0
最大魔力:0
攻撃力:65
守備力:58
素早さ:60
解説:金の為なら、異種族程度なら笑いながら殺害する。積んだ金額次第なら同族すら手にかける人間の屑。しかし、それを実行するだけの実力があるのも事実。
 

モンスター名:スキル試用者
現在体力:15
最大体力:15
現在魔力:不明
最大魔力:569
攻撃力:10
守備力:8
素早さ:7
解説:人類が聖女に頼ることなく、魔族や他の危機を乗り越えられる様にスキルという力で強化された存在。彼は試験体であり、彼の成果が人類の未来を左右する。



モンスター名:寄り添う天使
現在体力:1500
最大体力:1500
現在魔力:8000
最大魔力:8000
攻撃力:900
守備力:801
素早さ:950
解説:特定の人に寄り添い、観察を目的とする天使。一見人間と大差ない見た目だが、その強さは神の配下として十分なものだ。ただし、観察の邪魔になる相手にしか手を出す事はない。


「か、勝てん!しかし、俺はお前らの手にかかるぐらいなら、自ら死んでやる!さらば!」

 鑑定の結果を重く受け止めたブリダイコンは、爆薬ポーションを自らの足元に投げつけた。大きな爆音と煙が発生し、煙が晴れると肉片すら残さずブリダイコンは消え去っていた。

「ヤロウ、勝てないと見て自爆しやかった。こちらとしちゃ楽でいいけどよ」
「ブライアンさんありがとうございます。これ、約束の金貨袋です」

 こうして、テスターは町を焼かれる事もブライアンに刺殺される事も無く一日を終えた。ついでに、ブリダイコンが持っていた銃も回収したかったが、爆発の時にブリダイコンごと消え去っていた。

 そして夜が明けた!

「おはよーさん、馬鹿金髪。今日のスキルは」
「死に戻りか?」
「ちゃうで。それは昨日のや」
「しゃあっ!」

 ループから抜け出したテスターはガッツポーズ。本人はループでは無く、予知夢を有効活用したと誤解をしたままだったが、結果が変わらないから問題無し。

 今日のスキルの説明を聞いた後、テスターは荷物をまとめて宿屋を出る準備をした。

「女将さん、ブライアンさん、皆さん、今までありがとうございました!これより、俺は魔王退治の夢の為、より強い敵のいる町を目指します!」

 元々、この町にいたのは冒険者としての基礎を積む為だ。近くに住むゴブリンが一掃され、スキルという未知の力を得たテスターは更なる高みを目指し次の町へ出発する事にしたのだ。

「よし、この辺りで適当なモンスター狩っておくか。今の俺は一文無しだし、今日のスキルの試し打ちもしたいしな」
「せやな」

 次の町を目指し街道を歩き数時間、テスターは近くの森に寄り、モンスターを狩る事にした。

「なーにがでーるかな、なにがでるかな」

 サイコロ振ってトークのお題を決める時ぐらいの軽いノリでモンスターを探すテスター。その足元が突如爆発し、派手に吹っ飛んだ。

「なんて事や!テスターが死んでもうた!」
「イキテマス」

 テスターは無事だった。死に慣れていた彼はとっさの受け身で全ダメージを片足に集め致命傷を避けていた。とはいえ、片足を大怪我した状態であり、攻撃の正体も分からない。思わぬ所さんで大ピンチである。

「爆薬ポーションを踏ませれば倒せると思ったんだが、今日は運が良いなお前」
    
 爆発の正体については直ぐに判明した。茂みからブリダイコンが出てきて丁寧に説明してくれた。

「お前はいつもテスターの前に現れてたゴブリン!生きとったんかいワレ!」
「昨日の状況では、あのまま挑んでも無駄死にだからな。爆発に紛れて川に飛び込み、傷はエリクサーで治した」
「ちょ、待って!何でお前が当たり前の様にテスターのスキル使っとるんや!」

 ここに来て、ようやくブリダイコンのヤバさに気付くヒース。まあ、ヒース視点だとブリダイコンは銃を拾ってイキリ散らす人語話せるゴブリンでしか無かったからしゃあない。…十分脅威だよバカヤロウ!

「俺はそいつの脳を食ったらこうなった。そして、そいつがいずれ魔王様に届き得る存在と知った」
「な、なんやて!せやったら、アタシはお前みたいな奴ぶっ潰し、あ、いや、どうなるんやこの場合?」

 ヒースはスキルを人類に与えたらどうなるのか、人類がスキルの力で脅威に立ち向かえるかを調査する存在である。故に、この様な事態も傍観するのが原則。

「やはりお前は俺に直接攻撃は出来ん様だな!では、遠慮無くいかせて貰う!」

 どうすれば良いのか考えている内に、ブリダイコンの攻撃が始まった。銃、魔術、爆薬の複合攻撃が倒れたままのテスターに降り注ぐ。

「えーと、えーと、アタシはスキルのデータをより多く取れる行動をせなあかん。せやから、このゴブリンは貴重なサンプルやから殺せへん。かと言って馬鹿金髪見捨てる訳にもいかん。つーか、今、宿引き払ったばっかやん!今って自動復活可能なんか?と、取り敢えずガードや!」

 ヒースは結界を張り、テスターへの攻撃を全てシャットアウトする。だが、暫くするとヒースの身体からピコーンピコーンと警告音が鳴り始め、身体が徐々に消え始めた。

「ええー!この程度の行動でも制限掛けるんかい!神様のイケズー!おい、馬鹿金髪!さっさと起きてこいつ倒さんかい!」
「あ、おはよヒース。お前何で身体透けてるの?」
「んなのええから、あのスキル使えやボケ!」

 ヒースには確信があった。ブリダイコンは確かに強い。テスターと違い、スキルを上手く使い戦術を練っている。だが、今日のテスターのスキルは間違い無く大当たり。テスターがいくらアホでも発動すればその時点で勝ち確のマジぶっ壊れスキルなのだ。

「はよやれー!ここで踏ん張らんと、コイツはまたアンタの脳を食う!そんで今日のスキルまで得たら人類終わるで!」
「よく分からんが分かった!行くぞ、いつものゴブリン!お前との決着はここでつける!」

 テスターは足からドバドバ流れる血液で魔法陣を描き、スキル発動の条件を整える。

「スキル『英雄ガチャ』発動!」

  英雄ガチャ、それは現在・過去・未来に存在するあらゆる英雄を召喚するスキルである。出現する英雄はランダムだが、魔王撃破かそれに準ずる実績を果たした存在が全盛期の姿で現れるのだ。まさに最強スキル。これにはテスターもヒースもニッコリ。

「俺を呼んだのはお前か?」

 魔法陣から現れた強そうな男が、テスターに問う。

「そうだ!マスターとして命令する。あのゴブリン倒せ!」
「容易い」

 英雄がブリダイコンに向かって右手をかざすと、無数の風の刃が発生し身体をバラバラに切り刻んだ。

「何だと…鑑定する暇さえ無く…グハッ」

 ブリダイコンはあっさりと力尽き、肉片となり散らばった。今度こそ因縁に決着がついたのだ。

「す、スッゲ!あのゴブリンを一撃か、スッゲ!スッゲ!」
「あいつは放置したらもっと強くなっていただろうが、今は魔王軍幹部候補程度って所さんだ。魔王をワンパンした俺の敵ではない。話は変わるが、マスターよ、お前の名はテスタメントで合ってるか?」
「ああ!テスタメント18歳、通称テスターでっす!」
「ならば死ねー!」

 突然英雄はテスターに向かって拳を振り下ろした!テスターは意味も分からず拳をマトモに喰らい、地面にめり込み即死した。

「なっ、何しとんねん!」
「お前も死ねー!」

 英雄はヒースにも殴りかかり、彼女も隣の地面に埋めた。

「あー、スッキリした!これで殴りたい奴も全員殴ったし、目的は達成かな」

 そう言うと英雄は魔法陣の中に入り帰っていく。この英雄の名はアレク。この時代から五百年後に生まれ、ハズレスキル持ちとして辛い少年期を送った彼は、不幸の原因全てに復讐すると誓った。

 自分を追放したパーティ、差別してきた家族、教会にギルドに王国に神、全てを殴り倒したアレクは最後に鑑定をハズレスキルと決めたバカヤロウを殴りに行く事にした。

 殴り倒した神から五百年前の事を聞き、テスターとヒースをターゲットに特定。最初は過去に遡り会いに行こうと考えたが、タイムパラドックスで自分が消滅する可能性に気付き作戦変更。

 その語、試行錯誤の末に『テスターが英雄召喚使った時に割り込み、理由を告げずに撲殺する』という方法を採用した。この方法を選んだ結果、タイムパラドックスは起こらず、テスター達もアレクも消滅する事はなく無事に復讐は完了した。

 そう、テスターはアレクに撲殺された後も無事に復活していた。元いた宿屋の部屋は、一応今日まではまだテスターが借りていた事になっていたのが幸いし、ベットの上で無事に復活した。ちなみに、ヒースは神様の手で蘇生して貰っていた。

 その後、女将さんと再会し気不味い空気の中、二度目の出発を行うテスターとヒースだった。
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