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第四章カマヤロウ考察編

考察5:カマヤロウ、スキル持ち同士の出会いを求める

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 まる一話、いや、まる一夜寝てすっかり回復した三人は活動再開。

「じゃあ私はギルドで何か仕事探してくるから、リブの事はお願いね」
「うぇ~い」

 アレックスは今日は仕事探しでリブの相手が出来ない。生活費がマジでヤバいので、何でもいいからギルドで仕事を貰いに行くしか無かった。

「さ~て、リブちゃん、今日はウチと二人でスキルのお稽古だよ~」
「今日は何ゴブ~?」
「今日は大当たり!ウチが神様から貰った中でも、かなり強いスキル、その名も合成術~!」

 合成術とは、その名の通り二種類あるいはそれ以上の術を組み合わせて強力な術を作るスキルである。

 だが、リブは魔術をほとんど使えなかった。生後半年以下のゴブリンだし仕方ないね!

「パパ待ちゴブ」
「そだね~」

 スキルの検証は出来なかった。強いてあげれば、魔力の低かったり魔術知識の少ない人物にとっては宝の持ち腐れなスキルだと分かった事が唯一の収穫だろうか。

 リブとしのぶが家の掃除と読書で時間を潰していると、夕方頃にアレックスが帰ってきた。

「ただいま。食堂で皿洗いの仕事があったから、報酬に銅貨十二枚と古くなった野菜を貰ってきたわ。今日はこれと鶏肉を使って自家製ホーガンステーキで勝利するわよ」
「わぁーい、久しぶりのお肉ゴブ」

 アレックスはエプロンをつけてキッチンに立つと、まずは野菜を洗い始めた。

「まずは野菜を雨水で洗って、変色している部位を手で千切るのよ。そして、モヤシ・キャベツ・人参をウインドカッター」

 野菜を千切りした後、サビの浮いた鍋をカマドに乗せ、薪に火を付ける。

「荒々しくも優しき炎の精霊よ、恵みの炎を我に与えたまえ、リトルファイア!」
「この薪は的を作る時に出た端材でゴブね。パパ、お肉はまだゴブ?」
「焦らないで、熱くなったお鍋に千切りした野菜と鶏皮を入れて踊らせるの。十分に火が通ったら、いよいよメインディッシュの登場よ」

 アレックスは水の入った壺から白く四角い物体を取り出す。それはどう見ても豆腐だった。

「野菜がしんなりとして鶏皮が焦げてきたら、これらをお皿に移して、人数分切ったお肉を鶏皮から出た油て軽く炒めて完成よ」
「オジサン、それ肉じゃなくて豆腐」
「はい、完成。そして一番のやつ~!肉体労働した日は安酒に限るわね」
「豆腐なんですけど?」
「しのぶさんとリブは未成年だからお酒は駄目よ」
「聞けよ話!これの!どこが!ステーキなんだよ!」
「ステーキじゃない?ねえ」
「ステーキゴブよ?」

 しのぶの追求を全力ですっとぼけるアレックスと、これが本当にステーキと思ってるリブ。怒っても無駄と悟ったしのぶは、大人しくホーガンステーキもどきにフォークを刺して口に運ぶ。

「あ、思ったよりイケる。まいう~」
「でしょ?自信作なのよ。所で話は変わるけど、今日のスキルはどうだった?」
「合成術だったんだけど、リブちゃんが魔術全然使えなかったから家のお掃除してたよ~」

 しのぶからの返答を受けたアレックスは少し考え込むと、再び口を開いた。

「しのぶさん、リブ、二人共他のスキル試用者に会いたくない?私は会いたいわ」
「何でぇ?」
「ゴブ?」
「仕事の帰りに考えてみたんだけど、全人類がスキルを使う社会を迎えるなら、スキルを持つ者同士の共闘や対立が必ずあるじゃない?なら、今こうやって、スキル試用者一人でスキルのデータ取ってるのはあまり意味が無いと思うのよ」

 それはそうだ。スキルが全ての人に広まった未来では、スキル毎に役割を分担してパーティを組むのが常識となる。ならば、試用者同士でスキルを確認し、有効な組み合わせを探した方がより良いデータが集まる。

「駄目コブ」

 しかし、リブの答えはノー。

「リブはまだ自分のスキルを全然マスターしてないゴブ。そんな状態で他の人が来ても連携がとれる自信が無いゴブ」
 
 こう言ってはいるが、実際はあの堕天使との接触を恐れての発言である。リブはこの山奥からなるべく出たくは無かった。

「そうね。契約者であるリブがそう思うのなら、まずは自分のスキルを使いこなす事に集中しましょう。他の試用者さん達、スキルを悪用する様な人じゃないと良いんだけどねえ」

 そうして、リブは引き続きスキル磨きに集中し続ける事になった。

「パパ、これってもしかしてステーキじゃないのゴブ?」
「何言ってるの。ステーキよ」

 キュイン!

「パパの嘘つきゴブー!」
「しまったー!」

 スキルが二周目に入った日、嘘感知でアレックスの料理がステーキではないと判明する緊急事態はあったが、それ以外は順調にスキルの訓練は続き、リブの見た目も子ゴブリンから大人へと近づいていった。

 しかし、そんな日々も終わりが来る。彼らが来る時だ。

 ある日の朝、いつもの様に研究所でスキルを使って試行錯誤していると、庭の方から悲鳴が聴こえた。

「マリアー!」
「こ、これは女性の悲鳴ゴブ!」
「どっちかってーと、女性の名前を叫んでる中年の悲鳴っぽく無かった?」
「二人共、そんな事言ってる場合?確認しに行くわよ」

 三人で悲鳴のした辺りを見に行くと、どでかいクレーターの中心でラッコの気ぐるみを身に着けた中年男性がピチピチと飛び跳ねていた。

「今日はラッコ鍋ゴブ!」
「駄目よ、あれは人間…って、会長じゃないの!取り敢えず怪我の治療よ!」

 聖女召喚の魔術に改良を施した大戦犯の二人が、一年ぶりに再会。そして、この出会いが魔王軍との戦いに巻き込まれていくキッカケとなる。
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