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【4】真夜中の秘密
【4】真夜中の秘密……⑧
しおりを挟む結果は、赤色だった。
しかも、すでにヒートと呼ばれる発情を経験したことを示す、血のようにどす黒い赤ーー。
石のらせん階段をシリンダーが、面白いくらい勢いをつけて落ちて行く。カン、カラコロ……、と。その陽気な甲高い音に腹が立ったミアは、検査キッドの入ったポーチを下へ向かって投げつけた。
(どうするんだ……、あとわずかな派遣期間を何もなく過ごせるのか。帰還後はどうなる)
しかも、バディのオセはアルファ。シャノンもアルマもだ。次のヒートで、間違いなく気づかれるだろう。夕飯で円卓を囲んだそれぞれの顔が浮かんできて、息が詰まりそうだった。
――家畜。
そんなオセの言葉が脳裏に浮かび、ミアは唇を噛む。
「ミア、見つけた」
シャノンの声は聞こえたが、ミアは呆然としていた。獣人の姿のシャノンが階段に散らばった検査キッドをひとつづつ拾って、ポーチへとしまいながら階段を上がって来る。
(この人は知っているんだ、私がオメガだって……)
その中には、シリンダーもあった。
「よいしょっと。僕は昔から、かくれんぼが苦手なんだ。この大きすぎる尻尾が隠しきれない」
ミアの隣に当たり前のように、シャノンが座った。そして、ふさふさの尻尾を左右に振るものだから、ミアの背中を撫でては離れていく。
「ミア、アルマが心配していたよ。約束していたんだって」
「……はい」
「僕じゃ、役に立てないこと?」
ミアは外を眺めていた。
今まで、アルファとして生きてきた。これからだってそのつもりだ。今さら生き方は変えられない。
「ミア」
「そもそも、あのでっかいホッキョクギツネに会ったから転化したんです」
「それ僕の事だよね」
「尻尾の振りが、なぜ激しくなるのですか」
八つ当たりにも似た感情で、ミアはうっとうしそうにシャノンの尻尾を払った。
「ミア」
「……ッ」
振り返ると、ミアの首筋に鼻先を寄せたシャノンに抱き締められた。
「ミアをまた、見つけられて良かった」
抵抗しようとシャノンの背中を小さな拳で打つが到底、敵わなかった。これが本物のアルファなのだ、と腑に落ちてしまったのも事実だ。
知力、体力は負けずとも劣らない。それは、ミアが努力によって得たものだ。ただ、この体格差。すでにこうなるように運命づけられていたのかもしれない。
「それは、どういう意味ですか」
「ミアを初めて見た時、僕の中で探していたピースが綺麗にはまった気がした」
「パズルの話ですか」
「うん。ずっと何か足りなかった。こんな双子みたいになくてはならない存在ってあるんだって思った。少しでもミアの記憶に残りたくて、僕はあの本を」
シャノンの手が緩む。額に額を重ね、夜に溶けるくらい小さな声でシャノンが囁く。双子と言ったって目鼻立ちは全く違う。ましてや、アルビノの自分と違ってシャノンには色がある。
「何のお話か、私にはわかりかねます」
「これからわかるよ、ミアは僕が欲しくて仕方なくなる。それは僕もだ。今もミアを片時も離したくない」
「何をおっしゃっているのか」
唇に触れた指先に黙らされた。他の人に触れられても何も感じないのに、なぜかシャノンに触れられた場所が、出会ったときは雷に打たれたような衝撃があり嫌だったが、今は心地良いものに代わってきていることも不思議だった。
「ミア……」
その指先に無意識に唇を寄せていた。ともすれば、むしゃぶりつく勢いだった。
名前を呼ばれ、ミアはハッとした。いつもは透けるように白い頬を紅潮させ、自分の行動が信じられないと言った様子で、覆い隠した唇を震わせる。
「失礼します」
また、だ。
シャノンのそばにいると、見境がなくなる。そう感じたミアはその場にいることに耐えられず、すくっと立ち上がってポーチとブーツを手に階段を駆け下りた。
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