獣人辺境伯と白い花嫁~転化オメガは地上の楽園で愛でられる~

佐藤紗良

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【6】起爆

【6】起爆……①

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 アルマが旅立って二週間が経つ。が、まだ何の知らせもなかった。

 ミアはアルマが言った『アルファと番になる事』を真剣に考え始めている。とは言っても帰還するまでに時間がなく、それまでに都合良くヒートが来るのか分からない。それ以前に、うなじを噛むことをお願いできるアルファなんて存在するのか、と言う難題に直面していた。

 地上で知っているアルファは、地下から派遣されている同僚とシャノンとアルマーー。オセをはじめとする同僚アルファは論外だ。となるとシャノンとアルマにお願いする以外、方法はない。

「完成だ!」

 外から聞こえたシャノンの声と沸き上がる歓声にミアはテラスへ走った。
 寒いと言うのに運河に入って水を掛け合ったり、笑い会う獣人たち。そんな中にシャノンを探し、ミアは唇の前で合わせた両の手のひらに白い息を吐きながら見ていた。

 あの日以来、シャノンがミアの部屋を訪れることはなくなった。大きな修道院内で顔を合わせることもなく、話すらできずにいる。運河建設が大詰めを迎えていたシャノンは、朝から晩まで獣人たちとともに泥だらけになって働いてたからだ。

 数日前に話がしたくて、明かりの灯った執務室をミアが訪ねると、シャノンはソファで眠っていた。起きる気配はなく、ミアは彼にそっとマントを掛けて執務室をあとにした。そのマントも翌朝には、ミアの枕元へ綺麗にたたまれ返されていた。

 なんとなくではあるが、ミアはシャノンに避けられているような気がした。おかげで地上調査を難なく終えることができ、すでにレポートの段階だった。

 この土地の気候変化は早い。

 シャノンが夏の特別と言っていただけあって、チョウノスケソウの綿毛は飛んで行ってしまい、立ち枯れた草のなかで苔類が赤く色づいていた。

 おそらく急激に冬が近づいているのだろう。

 運河建設に携わっていた獣人が完成を待たずに早々に家族を連れ、旅立って行くのを見た。そんななか、運河建設が終わったようだった。

 ツンドラを突っ切るように修道院に向かって太い運河ができている。それは周囲を取り囲む城壁のような塀をくぐって敷地内へ入ったあとまた外へ抜けていくのだ。

「あれ、本当に水を引き込むための運河だと思うか」

 ミアの部屋で、レポートの内容について議論していたオセもテラスへ出てくる。

「辺境伯がそう言っているのだから、そうなのだろう。あそこの建物と接しているところに獣人がいつも立っているだろ。あそこから採水するんじゃないか?」

 オセは最初から、あの運河建設が気になっていたようだ。一度、手伝う事を申し出たが丁重に断られたらしい。

「あそこは、炊事場ではない」
「貯水タンクのような場所があるのかな。気になるのか?」

「暗くなったら、見に行ってみよう」

「私もか」

「当たり前だろう。辺境伯から身体の調子が悪いと聞いたが、嘘だろ?」

 転化したことは、シャノンとアルマしか知らない。ヒートの周期がはっきりしないミアは自然とアルファであるオセと一緒に行動することを避けていた。

「嘘ではない」

「なら、どこが悪いのか言ってみろ」

「お前が、夜遅くまでエフレムと交尾してる声が聞こえて、よく眠れないんだよ!」

「交尾!?さすが獣人に肩入れしているだけあって獣バカは、言うことが違うな。それで?」
「――それでって」

「ミアはそれ聞いて、オナニーしてるのか?」

「オナニーってなんだ」

「バブちゃんは、そんなことも知らないのか。こうやって」

 研修期間中、年上の同僚たちがシャワー室でふざけていたことの延長だと思う。分かっているのに腰を背後から抱かれたミアは、驚いて声を上げそうになってしまった。

「や、やめ……」
「いつもの強気な態度はどこ行った」

 ボトムのウエストから滑り込んで来た手にゾッとしたミアはガクッと膝が折れ、しゃがみ込んでしまった。

「なんだよ、泣いてんのかよ」
「泣いてない」

「お前、女みてえだな」

 うなじを舐められ、ミアの身体がビクッと跳ねた。

「――俺、お前なら抱けるぞ」

 カッとしたミアはオセの鳩尾あたりに肘を打ち込んだ。手が緩んだところを這い出したが、足首を掴まれてしまう。

「やめろ!今夜、私が一人であの場所を見て来る。お前は来るな」

 ミアは常に持ち歩いているポシェットから拳銃を取り出した。

「何してるんだ」
「地上では、首席である私がお前の上官だ。このことは、上へ報告する」

 ミアはオセの胸ぐらを掴み、額に銃口を向けた。狼の時とは違って妙に落ち着いている。

「冗談に決まってるだろ。何、マジになってんだよ」

 降参と言わんばかりに、オセが薄ら笑いを浮かべ両手を上げていた。


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