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【6】起爆
【6】起爆……⑨
しおりを挟む「ごめんね、そんな嫌な思い出だったか」
「なぜ、あなたはそうやって勘違いばかりするのですか。私の胸を切り裂いて、中をお見せしたい」
「胸を切り裂いてなんて、怖いこと言わないでッ」
「じわじわと心の底から泉が湧き出て、満タンになって溢れているのです」
「なら、なんで泣いてるの」
「泣いてます?」
ミアが触れた頬は、確かに涙で濡れていた。
「おそらく、私の胸から溢れた泉が目から溢れたのでしょう」
「変なの」
シャノンがぷっと笑って舌を出し、頬に流れる涙を拭った。
「やめてください。辺境伯は、距離感がおかしいのです」
「ハンカチ、持ってないし」
ボトムのポケットをまさぐって、手にしたハンカチを目の前で背後に放るシャノンの姿がおかしくて、ミアは久しぶりに笑ってしまった。
「あの時は僕も、ミアに触れた時のあの感覚が分からなくて父に尋ねたら、『魂の番』と言う言葉を教えてもらった。ただ、ミアはとても賢そうだったからアルファなのは感じていた。纏ってるオーラも雰囲気からしてそうだと思った。性別も第二の性も同性、結ばれるわけがないと思ったけど、諦めきれなくて次の会談のときにホッキョクギツネの写真が載ってる昔のネイチャー雑誌を持って、書庫に忍び込んだんだ。581番ちゃんに渡して、興味を引こうっていう子供じみた作戦だった」
「まんまとその作戦が成功したと」
「だから、上出来って言った」
なんだかぐっと心の距離が近づいたような気がした。ただミアには、引っかかることがある。
「どうしたの、まだ変な顔してる」
「変な顔は元々です」
「そう言う意味ではなくて、何か他に言いたいことがありそう」
「特には」
エフレムとシャノンは『セフレ』らしい。ミアより年が上のシャノンにとって、それは自然なことだとヴィラジーミルが言っていた。
「ミア」
「なぜ、地下で会ったことを知らないふりをしたのですか」
「ーー僕は、『運命の番』だとか『魂の番』なんて言葉では片付けたくなかったんだ。そんな事に引きずられることなく、ミアに僕を見て欲しかった」
本当は一番聞きたかった事ではなかったが、シャノンも彼なりに運命に抗おうとしていたことを知った。
「でも僕は卑怯だから、その宿命を最大限に生かそうと、いま決めたよ」
「はい?」
「ミアが欲しい」
「……」
「この冬、ミアと僕はここで過ごす」
「そんな無茶、言わないでください。私はもうすぐ帰還します」
「帰さない」
「そんなこと……、許されない。夢みたいなこと言わないでください」
ミアだって、それが可能なのであれば地下へは戻りたくない。閉鎖的で、いつも息が詰まりそうだった。
「方法はいくらだってある。ミアにその覚悟があれば」
「その覚悟……?」
「そういえば、ミアは知っているかい。なぜ、アルマがプカルルの元へ急いだか」
「いいえ」
「プカルルの奥さんは、人間だからだ」
「――え?」
「もう六年前になるかな。地上へ派遣されたアルファ女性とプカルルは婚姻関係を結んだ。アルファ同士だから、なかなか子供ができなくてね。流産も何度かして、やっと出産を迎えられた。元気な男の子が産まれたそうだよ」
「嘘……」
「嘘だと思うなら、アメリが落ち着いたころにお祝いに行こう」
ミアは信じられず、瞬きを繰り返した。
アメリと言う名前には聞き覚えがあった。地上派遣で近年、最後に命を落とした女性の名前だ。高所から海へ転落した事故死。死体は上がったものの腐敗がひどく、地下で引き取りを拒否され地上へ埋葬された。
地上派遣で命を落とした者の石碑が首都にあり、その最後にアメリの名は刻まれている。着任式前に皆で石碑の前で黙祷を捧げるセレモニーがあり、ミアもそれに参列したから名前は鮮明に記憶していた。
「ミアにその覚悟があるなら、協力しよう」
「その対価は」
「対価なんて言わないで。僕のことを好きになって、離れられなくするだけだから」
ミアの髪をひと束すくって、シャノンが唇を寄せる。伏し目がちなまつ毛は相変らず銀色で、あの地下で出会った青年が本当にシャノンなのか、いまだ信じられなかった。
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