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【7】オッドアイ

【7】オッドアイ……③

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「君は優しい子だなって思たんだ」
「え……」

「僕の目を避けて修道院を出るなら、いくらだって出口はあっただろうに。わざわざ執務室から見える場所を選んだってことは、僕にチャンスをくれたんだろう」
「チャンス……」

「『死の扉』へ行くためのドアの鍵が見当たらないんだ」

「僕が盗んだとでも?」

「そうは言ってない。君は誰かに頼まれたのだろう。たとえば、オセとか」

 ホーランドロップ種が誰かの指示なく自らの意思で、こんな大それた事できるわけがない。

「オセ様は何も」

 その名前を口にしたエフレムは、明らかに動揺していた。


「オセ様は何も関係ありません」
「なら君は、関係あるんだね」


 埒が明かなかった。エフレムがオセをかばうたび、ますます彼が何かを仕掛けようとしていることが濃厚になる。

「そのマントでは君には丈が短くて寒いだろう。僕のマントを代わりに持って行きなさい」

 シャノンは自分が身に着けていたマントを肩から外して渡した。

「嫌です。僕はこの辺境伯の香りのするマントが欲しいのです」
「君は欲しがりさんだね。その割に、不器用で困った子だよ」

「え……」

「オセが来てからと言うもの、僕に見向きもしなかったじゃない。彼のためにうまく立ち回るのであれば、前みたいに僕のことも構ってくれたら騙されてあげたのに。ーー好きになったんだろ、オセが」

「……」

「君が好きなのは人間だ。それに君は、僕の獣の血を受け入れられるはずがない」

 震えが止まらないエフレムは、シャノンの目を見ようとしない。愛玩動物として生まれたホーランドロップ種は、様々な面で野生から派生している獣人よりも鈍い。いつも会うときは人間の姿をしていたシャノンから、獣の匂いを感じ取れなかったのだろう。

「君が本気ならオセと再び会えるように、時間はかかるかもしれないが僕が何とかするよ」

 垂れた耳をさらに垂らしながらエフレムはため息を吐き、ミアのマントを外した。

「マリア様は辺境伯の獣の姿を見ても、平気なのですか」
「喜んでくれるよ」

「……僕は鍵を持っていません」

「オセが持っているんだね」

 握手をしようと差し出した手にミアのマントを押し付けたエフレムは、シャノンのマントを受け取らなかった。

「こんな寒い土地、ほんと大嫌い」
「そうだったのか」

「本当に嫌いです」

「気づいてあげられなくて、ごめんね」

「辺境伯、さっきのこと約束してください」
「え?」

「オセ様のこと――。自分だけ幸せになろうなんて、思わないでくださいね」

 タッと走り出したエフレムを見送る間もなく、ミアに贈ったマントを握りしめたシャノンは修道院内へ急いで戻り、獣の姿になって何度も鋼の扉に体当たりをした。鍵があればこんな事はしたくなかったが、オセを探し出して改めて問答するよりも手っ取り早いと考えたからだ。
 
 もしかしたらミアは、ここにいないかもしれない。ただの勘、としか言いようがなかった。

 そして、鋼の扉がやっと開いたかと思った瞬間、あの、いまだかつて経験したことのない揺れに見舞われたのだった。


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