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【9】花火と金平糖
【9】花火と金平糖……㉗
しおりを挟む夜の営みは朝方まで、終わりなく続いた。
シャノンが身体をきれいに洗ってくれ、眠ったのは未明の時間。ぼんやりと目が覚めてから制服を合わせていない話をしたら、「見てあげるから着てごらん」とシャノンに言われた。
(あれはもう、制服好きだとしか思えない……)
制服自体は着任式で着たもので問題なかったのだが、その姿に喜んだシャノンにまた抱かれてしまった。
彼はその後、意気揚々と会談へ出かけて行った。
今日はゆっくり休むといい、と言われミアが再び目を覚ましたのは昼過ぎーー。
「なにこれ」
ボサボサの髪のまま、むくりと起き上がったミアは自分の裸体を見て、あきれ顔で笑ってしまった。身体中にシャノンがつけたキスマークがたくさん残っている。何個あるか数えていたら途中で気が遠くなりそうになってやめ、デュベイに包まった。
無意識でシャノンの赤ちゃんを産みたい、と言っていたことに赤面し、ミアはベッドの中へ潜り込む。
「こう言う瞬間って、何なのだろう」
ミアの中でコトンと、何かが腑に落ちる音が聞こえたような気がした。
時に憑き物が落ちるかのように、全く別の結論に至ってしまう事がある。それまで難しいだろうと思っていたことが目の前の霧が晴れるように「どうにかなるだろう」と根拠もないのに強い自信をもってーー。
(地上へ残ろう……!)
一緒にいるのが当たり前で、なぜ離れる必要があるのか。
「シャナが帰ってきたら伝えよう」
あんなにグチグチと悩んでいたのが、馬鹿らしくなるほど清々しい気分だった。もう番になることを焦らなくていいのだ。
窓を開け、ミアは部屋にあるバスルームへ向かった。
髪を洗い、良く拭き上げてから開け放った窓辺に座った。冷たい風で髪を乾かしながらネイチャー雑誌を眺め、ミアは地上へ残ることをシャノンに伝えたらどんな顔をするか、想像しながら笑みを漏らしていた。
シャノンが言うように、こちらから人間のしている事を正すことはできる。地上回帰に向けて、自分の経験が生かせる何かがあるかもしれない。
ーー何よりシャノンの赤ちゃんを産みたい。
ミアはそっと腹へ手を当て、外の街並みを眺めていた。
「そうだ。刃物屋にナイフを取りに行かないと」
地下へ戻らないなら、髪を切る必要はない。何よりシャノンがミアの髪を気に入っている。しかし、良く研いでおいて欲しいとまで頼んでしまったから、取りに行かなくてはならない。「髪を切るためにナイフを注文した」なんてことはシャノンに言えるわけがなかった。
刃物屋は目と鼻の先。
こそっと今のうちに出掛けてしまおうと、ミアは窓から下を覗き込んだ。建物には藤のつるが張っている。そこを伝って行けば、問題なさそうだった。
ベッドから降りた瞬間、膝がガクッと折れてしまう。腰も痛くて思わず摩ってしまったが、それも心地が良かった。
「あれ?」
靴を取りに行こうと入口へ向かった。キーケースのところに、シャノンがいつも持って出る鍵がかかったままだ。彼が部屋を出るとき、バタバタとしていた。遅刻すると言って資料が入ったカバンを持ち、帽子を被って急いで出て行った。
ドアに手をかけると思った通り、鍵が開いている。
「ちょっとだから、行ってくるか」
シャノンに指輪のお礼もしたい。
ミアは部屋履きからブーツへ替え、昨日と同じようにマントを羽織ってフードを目深にかぶる。そして部屋へ鍵をかけ、階段を下りて行った。
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