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【10】奪還
【10】奪還……⑧
しおりを挟む『死の扉』が閉まるまでの時間は、あと60分。
怪しいのは、あの木箱しかなかった。それぞれ、蓋がしっかりと釘打ちされている。ミアはポシェットの上から拳銃に触れ、残りの弾数とシャノンが閉じ込められていそうな箱を数えていた。
(弾を込めている間に取り押さえられるな……、きっと)
先ほどの荷物検査で、拳銃に弾が込められていないことも確認されている。そんな事をしていたら、隣に立つヒロナカに気付かれるのは間違いない。
と、ふと疑問が湧いてくる。
ヒロナカはミアと背格好にあまり違いはない。が、あえて言うなら彼の方が背が高い。
シャノンがミアとヒロナカを間違えるなんて事があるのだろうか。身長が違う、肌の匂いだって地下と地上にいたヒロナカとミアでは同じはずがない。それなのに鼻の利くシャノンが気づかない、なんてことがあるのだろうか。と、なるとシャノンはあえて捕まったー-。
(なぜ……)
その理由は指輪に込められたシャノンの想い。彼は『何があっても、どこにいても迎えに行くって言う約束の指輪』と言っていた。
頑固なミアが罪を認めないのは分かっていたのだろう。そんなミアを解放するにはこの方法しかなかった、と考えるのは自惚れ過ぎだろうか。
「私なんかのために……」
エレベーターの到着を知らせる電子音が聞こえ、厳重に警備されるなか同僚たちが乗り込んで行く。少し先を歩き出したヒロナカはミアの手を握りしめたままだ。
気づかれないよう指輪をつけたミアは弾の入っていない拳銃を取り出し、ヒロナカの手を握り返して彼の背中に回した。そして、もう片方の腕で肩を押さえ込み、こめかみに拳銃を当てる。
「……ッ」
「辺境伯が、どの木箱にいるか教えてください」
エレベーターに乗り込んだ同僚が気づき、慌てて各々の銃を準備していた。が、ヒロナカは警備の人間も含め、銃をしまうよう指示を出している。
「ミアに殺されるなんて、なんて素敵なことでしょう。願ってもない」
「なら、これでは」
「……やめなさい、ミア!」
ヒロナカを突き放したミアは、自らのこめかみに銃を向けた。
「近づかないでください。これで、私の脳は研究できなくなりますね。それにドクターの指示に従っていない者が、私を打ち抜くつもりのようですよ。標本としても失敗作になりそうですね。あなたは、失敗ばかりだ」
同僚たちがヒロナカの指示に従わず、ミアに銃口を向けている。
「教えてくださらないのなら、頭を打ち抜きますよ。――本気です」
ミアは口角を釣り上げて微笑み、ヒロナカを見つめた。彼にとっては、自らの死よりもミアが脳や身体に損傷を受ける方が耐えられないようだった。
「ミア、銃をおろしなさい」
「木箱を教えてくだ……」
心臓がドクンと脈打ち、ガクッと膝から力が抜けてしまった。
「ミア……?」
ミア自身も何が起こったのかわからなかった。手から滑り落ちた拳銃はヒロナカが蹴り、手の届かないところへ行ってしまった。
「なんです、この匂いは」
あの洞窟でした、蜂蜜に集められた花の蜜ような甘い匂いが香り立つ。
「ミア、ーー君はオメガなのか」
口と鼻を覆ったヒロナカが、目を見開き呆然としていた。
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