獣人辺境伯と白い花嫁~転化オメガは地上の楽園で愛でられる~

佐藤紗良

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【13】千夜一夜

【13】千夜一夜……②

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「例の取り引きに、シャナと行くようにとアメリが」
「だから僕が言ったじゃないか。前みたいなことが起こったら困る、一緒に行くよ」

 靴を脱がせ、子供たちをベッドへ寝かせようとした。が、揃えて置かれていない靴がルカは気になるようでジッと見つめている。好きにさせてみると三人の靴を円に並べ、ルカが「みんなであそんだ」と嬉しそうに笑っていた。

「ルカはご飯、食べましたか」
「果物ばっかり食べてたよ。子供三人連れてどこかに入るのもと思って、ピクニックしてきたんだ。ソフィとレフは肉しか食べないし、ミアがいつもどうやってバランス良く食べさせてるのか、不思議で仕方ない」
「特別なことは何もしていませんよ」

「それにね、ソフィとレフは芝そりに夢中なのに、ルカだけ雲を眺めてるんだ」

「ふふ。だからみんな、お日様の匂いがするのですね。シャナ、知ってますか?」
「何?」

「ソフィは大きくなったらアルマ様の研究室に入りたいんですって」

 ミアがベッドへ入ると、シャノンも子供たちを挟んで向かい側へ入ってソフィの背中をトントンと優しく打っていた。

「ソフィは女の子だから、一人で首都に住まわせるのは心配だ」
「まだ、ずっと先の話ですよ」

 しばらくすると、いつも寝つきの悪いルカが外でたっぷり雲を眺めたせいか静かに寝息をたてはじめる。シャノンとミアはベッドをそっと抜け出し、戻って来たアメリとプカルルに子守りをお願いした。

「子供たちが寝ている間に戻れると思います」
「夕飯までゆっくりしてきたら?私たちは時間あるから」

「でも」

「三つ子のお世話で二人きりになる時間がないんだから、デートしてらっしゃいよ。あの玉は持った?」

 アメリに耳打ちされ、ミアは慌ててポシェットを取りに行く。その中には結婚式以来、大切に取ってあったプカルル夫妻から貰った変化の玉が入っていた。

「ミア、行こう」
「はい」

 おやつにレフの好きなクッキーを焼いてあることを伝え、ミアはシャノンに手を握られて部屋を出た。子供が産まれるまでは当たり前だったのに、こんな風に手を繋ぐのは久しぶりだった。

「ミアのそのシュッとした顔、懐かしい」

「な、な、何を言ってるのです」

 取り引き場所は、シャノンを通して前回の会議のときに決めていた。何ブロックか先まで歩き、路地へ入る。あの鉱物屋があるエリアで、ミアが主人に直接交渉して、その建物の一部を貸してもらったのだ。

「こんなところ、良く見つけたね」
「ええ。さすがに先方もこちら側と取引していることがバレると立場的にまずいと思うので、接触はしません。長く役に立ってもらいたいので」

 ミアは扉の外から鉱物屋を覗き込むと片眼鏡をつけた孔雀獣人の主人がこちらを見て、小さく頷いていた。それは人間が来たことのサインだった。

 鉱物屋と隣の建物のあいだの小さな袋小路。

「1、2、3……」

 鉱物屋の壁の石を軽く打ちながら数をかぞえ、十八個目で音が変わった。しゃがみ込んで、左右にずらしながらその石を抜き取る。

「昔のスパイ映画みたい」

「そういう訓練をされているのです、私達は」

 そこには小さく折り畳まれた何枚もの手書きのリストがあった。地下ではすべてをAIが管理していてデータにアクセスすれば当然、記録が残ってしまう。だから情報を持ち出すとなるとアナログになってしまうのだ。空中ディスプレイを開けば簡単に得られるであろうこの情報だって、自分の足で収集したに違いない。

「すごい数だ」
「不明者リストは、こちら側にあるのですか」

「家族から届けがあった者は記録してある。ただ、身寄りのない者に関しては特定が難しい」

「そうですか。帰って照合してみましょう」

 そのリスト以外に小さな紙切れもあった。昨日の晩、ミアが入れた紙かと思い手に取るとそこには「ありがとう」と書かれていた。

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