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遭逢⑩

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 それから、彼女とはとても仲良くなりました。

 ゼミでは『付き合ってるんじゃないか』と言われていましたが、あくまで友達。

 彼女とはスイーツを食べに行ったり、買い物に付き合ってもらったりと楽しく過ごしていました。お義母さんの姿は大学四年の中頃にはすっかり見なくなり、彼女は『テスト』に初めて合格したのだと後に語っています。

 その日はゼミの飲み会があり、帰るという彼女を引っ張って行き、大盛り上がりで解散となりました。

 彼女の就職先はメガバンク。

 わたくしは憧れのまゆずみさんの記事がよく載っている有名経済雑誌の編集部と契約しました。契約と言ってもひと原稿いくらといった感じなので総合職を受けておけば良かったと少しの後悔もあり、生活できないようなら何年かして試験を受けようと考えていました。


「あーちゃん、あーちゃん」
「琴里ちゃん、飲み過ぎ」

「だって今日、あーちゃんがやっと飲み会に来てくれたんだもん。東雲しののめゼミへようこそ」

「もう卒業だけど」

「あーたゃん、大好きだよぉ」

「何言ってるの。しっかり歩いて」

 彼女は烏龍茶で酔ったのでしょうか。刷毛で色を塗り重ねるように頬を赤め、可愛い反応をしています。

「私、あーちゃんのこと大好きだもん。優しいし部屋の掃除してくれるし、作ってくれるご飯は不味いけど」
「料理は苦手なの」

 男子生徒ばかりのゼミで、気心知れた女友達ができたような気分でした。

 KKブログを書いているのがわたくしだと知っているのは、教授と彼女だけでしたし、お義母さんからは誕生日プレゼントをもらったりと良好な関係を築いていました。

 なまりがでないように東京人のふりをして、安い木造ボロアパートに住み始めた四年前。高校卒業とともに東京行きの新幹線のプラットホームに立ったあの時のわたくしは不安でいっぱいで、こんな充実した日々が訪れることを想像していませんでした。
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