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告白④
しおりを挟むうららかな六月の昼下がり。勉強会を全て終えたわたくしは、教会の控え室でマリアベールをまとっていました。ふわっとしたドレスは長身のわたくしには似合わず、レースをふんだんに使った身体の線に沿ったマーメイドスタイルのドレスをセミオーダーしました。
このドレスを着るために、エステにも行きました。
世界中の幸せがわたくしの手中にあるような、ふっくらと柔らかなアイボリーのブーケを控え室の鏡の前へ置き、タバコを一本とってカルティエのガスライターを手にしました。
「一本だけ、煙草を吸ってきてもいいですか?」
「ドレスの裾が汚れるといけないので、灰皿をお持ちしますよ」
「いえ、裏庭で吸ってきます」
最近ではタバコを吸う人を非国民のような目で見る人もいます。口から発癌性物質をゴジラのように吐き出しているのだから、仕方ありません。
ドレスとベールの裾を片手に持って、裏口へ続く廊下を歩きます。
「今まで育ててくれてありがとうございました」とお決まりの挨拶は昨夜のうちに済ませていました。母親は席につき、父親は礼拝堂の扉の前でソワソワと花嫁がやって来るのを待っている頃です。新婦がバージンロードを歩き始めるまであと三十分――。
木製の裏口の扉を開けると今朝まで降っていた雨のせいか、コモンタイムがいつもよりも青々と存在を主張していました。
メガバンクの行員として世間の荒波に揉まれ、大学の頃より少しだけたくましくなった、けど童顔はそのままの王子様とわたくし、蒲地 琴里は結婚します! と浮かれつつ、知った紫煙の匂いに飛び石ではなくコモンタイムを踏むようにして、驚かせようと足音を消して近づきました。
オードリー・ヘップバーンのように綺麗に着飾ったわたくしが裏庭に突然現れたら、彼女はどんな顔をするでしょう。その顔を想像するとワクワクが止まりませんでした。
「……いまさら、何を言ってるの」
それは喧嘩をした時に聞く彼女の低い声でした。携帯電話で話しているのか、他に誰かいるのか、わたくしのところからは見えません。
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