追放王子は辺境の番犬によしよしされて愛を知る。

まめ

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12 ロキ


 日が経つにつれ、リンは空から降ってくる前のことをぽつりぽつりと話してくれるようになった。
 水底から浮かび上がるあぶくのように、リンの話は断片的な思い出が多かった。 
  
 この国のまんなかに王都がある。そこには王様が住む大きなお城があって、その周りには多くの貴族が住んでいて、それはそれは華やかな街なのだそうだ。と、これは爺ちゃんから聞いた話。
 
 リンは星じゃなくて、その王都に住んでいたらしい。
 少年のように小さな体は、小さい頃に病気をしたせいだと言う。
 そのせいで周りに迷惑をかけてしまったと悲しそうに語るけど、それでもオレはリンが大切に育てられたと思ってる。
 やさしいって言うのは禁句らしいからもう言わないけど、リンはやさしい。そのやさしさを教えてくれた人は、きっとリンのことを待っているんじゃないかな。
 
 本音を言えばここにずっといてほしい。
 でも、オレはリンの望むようにしてやりたいんだ。それでまたひとりになったとしても――
 
 ◇◇◇
 
「おはよう、リン。今日はなにする?」
「ああ、今日はロキの仕事についていくつもりだ」
「また?飽きないね。オレずっと斧振ってるだけだよ?」 
「森の中は空気が美味しいし、知らない草や虫に興味がある」
 
 パンと牛乳の簡単な朝メシを済ませると、リンはいそいそと白シャツ黒ズボンを身につけた。
 専用の肩掛けカバンには、物置から発掘したお気に入りの植物図鑑。大きな麦わら帽子に長い髪を収め、出かける気満々だ。
 
「リン、今日は風呂はどうする?」 
「もちろん入るぞー!」
 
 オレは話をしながら、必要なものを作業袋に放り込んだ。仕事の道具に昼メシのパンに風呂用品……
 
「じゃ行こうか」
 
 オレが屈むと、当たり前のようにリンが背中に上ってくる。ぎゅっとオレの首に両腕を回して肩にあごを乗せれば、出発準備完了。
 
「行け行けー! ロキ、もっと速くー!」
 
 辺境の森をオレは疾走した。
 背中のリンは、ケラケラ笑いながらオレにしがみついている。
 たまに魔獣がいるが、そんなものはこの足で蹴飛ばしてしまえばいい。
 リンに危害を加える全てのものが、オレの敵なのだから。
 

  
 森の木々が赤や黄色に色づき、季節は秋から冬に移り変わりつつあった。
 コーン。コーン。
 斧の音だけが響く中、リンはきれいな落ち葉を集めたり、珍しい植物を小さなスコップで掘り起こしたりと、森を満喫していた。
 
 一日の終わり、遊びすぎて泥んこになった彼をおぶって、河原の風呂に向かう。
 夕焼けがリンの白い肌を赤く照らしていた。
 まとめ髪の後れ毛がふわふわと風に揺れている。
 
「ロキ、手を貸せ」 
「うん、足元気をつけて」
 
 ちゃぽん――
 いつもリンは風呂に入るとき、オレに背を向けて上に乗り、くたりと体重をかけてくる。
 しかし、今日のリンはいつもと逆向き、オレと向かい合うように風呂に入ってきた。
 今までじっと見ないように気をつけてきた、彼の淡い胸の頂きやちんちんが、どんどん目の前に近づいてくる。
 オレは心の中で「うわぁぁぁぁっ!見えてますぅぅぅ!」って叫んだ。もちろん声には出してない。
 
 リンは胸と胸を合わせるように乗りかかると、両腕をオレの太い首に回して体を密着させた。彼の顔が今までにないくらい近くにある。吐息が耳をかすめる。白く柔らかい肌が、オレの浅黒い肌に重なる。
 なにが起きているんだ……。オレは混乱しながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
 
「ロキ、驚いたのか?心臓の音がこっちにまで伝わってくるぞ」 
「……う、うん、なんで今日はこっち向き?」 
「たまにはいいかと思ってな。イヤか?」 
「いやじゃないけど、オレドキドキして死んでしまうかもしれない」 
「あはっ!おまえがそんな簡単に死ぬわけがないだろう」
 
 リンは面白そうに笑うと、足でばしゃばしゃと水面を叩いた。
 
 まだ風呂に入って間もないのに、オレの頭はすでにのぼせつつあった。ここは地獄か天国か。
 ぷつ――オレの鼻の穴から、いきなり真っ赤な血が噴き出した。
 風呂の湯が真っ赤に染まり、リンの白い肌に点々と血の赤が飛ぶ。
 
「ごめんっ!鼻血が出た。せっかくお風呂に入ったのにリンが汚れるー!」 
「よしよし、気にすることはないぞ。もう少しこうさせてくれ」
 
 あわあわと動揺するオレの気も知らず、リンはオレに抱き着いたまま、じっとお湯につかっていた。 
 その神妙な様子を不思議に感じたが、オレのちんちんが意に反して立ち上がってしまったことで、それどころではなくなった。
 気づかれたくない。
 オレが性的にリンを見ないからこそ、この暮らしは成り立っているというのに――そういう目で見ないようにしてるのに。 
 それなのに、リンはオレの大きくなってしまったちんちんに目ざとく気がついて「ほぉ……」と言った。
 もうオレには理解不能だー!
 
「……リン、いったいなにがしたいの?」 
「私が、ロキをどう思っているかが知りたかった」
 
 そう言ってざばぁと立ち上がる。リンのちんちんもゆるく立ち上がっていた。
 
「そういうことなのだ、ロキ。わかったか」 
「……わかんない、です」
 
 オレは頭をかきむしった。なんだこれ、難しすぎるだろ。
 リンは真っ直ぐにオレを見つめた。
 そのとき、これは冗談なんかじゃないって、ようやく気づいた。

  
「なあ、ロキ。以前私が愛がわからないって言ったとき、まだその時期じゃないだけだって言ってくれたろ」 
「うん。……えっ、それって……」 
「ああ、私はおまえを愛しているのだと、思う……」
 
 なんて返せばいいのだろう。
 オレはこの場にふさわしい言葉が思い浮かばなかった。
 大事に守っていこうと思っていたリンが、ただの番犬のオレを、愛しているだなんて――
 好きだよ。何物にも代えがたいくらいリンのことが好きだ。でも、それは口に出してはいけない言葉。だって、だってオレは。……ただの農奴だ。
  
 たまらずリンの手をひいて、自分の胸に抱え込んだ。ばしゃっと大きな水音がした。
 重なる胸から伝わるリンの鼓動は、とても大きくて、速くて。さらっと口にしたくせに、ほんとはこんなに緊張してたのか。
 なだめるように、ゆっくりリンの背中を、その下の尻や足、今まで触れたことのない部分を撫でながら、ようやくひとつ言葉が出た。
 
「……オレも、リンが……好き」

 今までにないくらい、オレの声は震えていた。



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