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13 リンフォード
まだ私が小さな子どもだった頃。いつも一緒にいてくれたのは、一匹の黒い犬だった。
父上から贈られた、ふさふさの毛をした黒い仔犬。赤い首輪がとてもよく似合っていた。
私の体調がよいときは庭で共に遊び、病で寝込んだときはベッドの横にずっとついていてくれた。――私の大切な犬。
病弱で成長の遅い私に比べて、その犬はみるみるうちに大きくなった。今思えば、大型犬種だったのだろう。
私が見上げるほど犬が大きくなっても、私たちは一緒に過ごした。
取っ組み合って芝生の上を転がり、抱きついて胸いっぱいにその犬の匂いを吸い込む。大きな舌で私の顔を舐めるのも、べたべたするけどうれしかった。
その犬は全身で私を好きだと伝えてくれた。勢いよくぶんぶん振られる尾も、じゃれてのしかかられるのも、言葉はなくとも全てが私への愛情表現だった。
しかし、その犬は大きくなりすぎた。
じゃれつかれた私が犬の重さに耐えきれず、後ろに転んだとき――そこには花壇のレンガがあった。
頭を強く打ち、意識を失った私が目覚めたとき。私のそばには犬はいなかった。そして、私の記憶から犬の存在が消えていた。
それからずっと、私は原因のわからない喪失感だけを抱えることになった。
そんな昔の記憶が浮かび上がった深夜。私は目から涙が流れるのを止められなかった。
月明かりに浮かぶ隣のベッドで、すやすやと眠るロキを見つめながら、私はあの犬のことを、真っ直ぐに私を慕う目を、あの満たされた日々を思い出していた。
犬の名前は、もうわからない――
◇◇◇
十六で成人を迎えたとき、王族のしきたりとして閨教育を受けることになった。
座学で体の仕組みや性技を学び、実際に大人の女性と肌を合わせることになった。
私の前に立つ女性は艶めかしく煽情的な肢体の持ち主だった。彼女は媚びを含んだねっとりとした目つきで、私の服を脱がせペニスに触れた。鳥肌が立ち、吐き気がこみあげた。
本来なら屹立するだろう刺激を加えられても、私のペニスはぴくりとも反応せず、むしろ萎縮した。
なにか私の体に欠陥があるのかもしれないと思った。
その女性は言った。
「殿下は潔癖な方なのでしょう。今は反応しなくても、好きな女性が出来ればきっと性交をしたくなります。気にすることはありませんよ」
そういうものなのだと思ってきた。
しかし、私がはじめて性的欲求を感じた相手は、女性じゃなくて、男性――ロキだった。
彼の夢を見ると、ペニスが硬くなってしまうのだ。こっそり自分で吐き出すこともあった。
私だけを真っ直ぐに見つめる彼に、あの腕で、あの大きな体で――いやらしいことがされたい。私の虚を満たしてもらいたいのだ。
そして気づいた。
私は人を、抱きたいとは思えない
私は愛する者に、抱かれたいのだと。
これはただの妄想なのか。
確かめてみたいと思った。
心だけならとっくに彼に落ちている。
夕闇の迫る河原、温い湯の中で、私はロキと裸で向かい合った。
動揺する彼に無理やりのように抱きついて、肌を重ね合わせた時、たとえようもない歓喜に満たされた。ペニスが立ち上がり、体の奥が疼いた。
そして、わかった。
私の全てがロキを欲している。
彼を愛しているのだ。彼に愛され、抱かれたいのだ。
私は、私を、認めた。
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