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14 ロキ
あのあと、オレもリンも湯あたりでのぼせてしまい、風呂をあがった。
いや、湯あたりじゃなかったのかもしれない。重なる胸からは、大きく脈を打つリンの鼓動を感じたし、オレもおかしくなりそうだった。
のぼせたとしたら、恋とか愛ってやつにだろう。
ゆっくりと夜の森を歩くオレの背中に、リンはくたんとへばりついていた。
そのとき、夜空から静かな声が降ってきた。
「ロキよ……ずいぶん大きくなったな。ふはっ……」
「ん? 誰?」
「我を忘れるとは失礼な……」
暗闇の中から一羽のカラスが姿を現した。闇より暗いその色は、子どもの頃に遊んだ黒い生き物に似ていた。
「おまえ……まさか、クロ?」
「そんな名前だったかのう」
「クロはカラスだったっけ?」
「我に決まった形などない。あるのは色のみ」
背中でそのやりとりを聞いていたリンが、興味深そうに身を乗り出した。
「ロキ、このカラスは魔物なの?」
「よくわかんないけど、怖いものじゃないよ」
クロはオレの肩に飛び乗ると、大きなくちばしでツンツンとリンの耳をつついた。
「この石の魔力が気になってな。そのえぐいのが欲しいんじゃ」
その耳には、青い石の嵌まった小さなピアスがついていた。
「……これは昔弟にもらったものだ。やってもいいけど、理由を教えてくれるか」
「あのさ、湯冷めするから長い話なら帰ってからにしない?」
なんだかややこしいことになっちまったな。
でも、照れくさくてリンの顔を見られそうになかったから、助かるっちゃ助かる。
オレはクロをわしっと掴むと、小屋まで全力疾走した。
「もっと我を丁寧に扱え。あわわわわ――」
◇◇◇
部屋に入ると、クロは四つ足の猫みたいな生き物に姿を変えた。
「辺境ってこんな生き物がいるのだな。興味深い……」
リンはまじまじとクロを眺めると、細い指でつんつんとつついた。
「お主、我に触れるな!」
「で、クロ。リンのピアスがなんだって?」
「うむ。その石には並々ならぬ執着心がべっとりとこびりついておる。とても旨そうで涎が出るわ」
「これ、ただの宝石じゃなかったのか。魔石かな?」
耳から外したピアスを、リンは手の中でころころと転がした。
「あまり気持ちのよさそうなものじゃないな。リン、大事なものじゃないならクロにあげたら?」
「ずっと昔から身につけていたから、気にもしなかったが、もう私には不要なものだ。おまえにやるから、食べるところを見せてくれ」
リンがクロの鼻先にピアスを差し出すと、口ががばっと開いた。真っ赤な舌が、べろりとピアスを絡めとる。
ガリガリと音を立てて、クロはピアスを嚙み砕いた。
「うむ、美味。美味。なんていやらしい、なんて愚かな味なんじゃ。入っていた魔術紋はあちらに返しておいてやろう」
食べ終わったクロは満足げに鼻の先を舐めると、したり顔でリンに言った。
「お主に対価をやろう」
◇◇◇
オレは思い出した。
すごい昔、森で拾ったきれいな石を磨いていたときに、黒い生き物に話しかけられたことを。
そいつは石をあげると、いきなりガリガリと食べてしまった。
びっくりするオレに、黒い生き物は言った。
「対価をやろう」
オレは同年代の仲間がいなかったから、友だちになってほしいと頼んだんだ。
そして、クロと名付けてしばらく遊んだ後、お別れのときがきた。
「もう遊べないの?」
「さあな」
「クロ、元気でね」
「おまけに、風魔法と❛‰囓✠∅∌쾙§❜をやろう。ロキ、またの」
◇◇◇
「対価だと?私はそんなものはいらぬ」
「欲のないやつじゃ。時に、お主はロキの伴侶なのか?」
「うわぁ、クロ!そんなんじゃないよー。まださっき……ううっ、これからのことはわかんないー!」
あわててオレが否定すると、リンの頬がぷうとふくれた。
「……私とロキは伴侶だ。伴侶に、なりたいのだ」
「ふ、そうか。では対価にお主らの縁をしっかりとつないでやろう」
クロの口が笑うように大きく横に開く。金色の目が妖しく光る。
それと同時に、目の前の空間に赤く輝く光の輪が浮かび上がった。
「ほれ。共に生きたいのなら、その輪を掴むがよい。だが、後戻りは出来んぞ」
リンは、強いまなざしでオレを見上げた。
オレはそれに心を決めて、大きくうなずいた。
炎のようにきらめくその輪を、ふたりで掴む。
熱くはなかった。
体の奥とも違う――深い深い場所でなにかが繋がった感覚があった。
そして、音もなくゆるやかに輪は広がっていき、赤い光でオレたちを包むと、すっと消失した。
クロは満足そうにそれを見届けると、霧のように消えていった。
「またの」
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