追放王子は辺境の番犬によしよしされて愛を知る。

まめ

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16 リンフォード


「またの」
 
 その一言を残して、異形の魔物――クロは姿を消した。
 ロキは友だちと言うが、アレは神に近い存在だと思う。人間とは桁違いの魔力に、まだ鳥肌が立っていた。
 伴侶の縁が何を意味するものかはわからないが、にんまりと細められた金色の瞳は、私たちという玩具を手にして愉しんでいた。盤上の駒を眺めるように。


  
 クロを見送った私たちは、部屋の絨毯の上に座り込んだ。ゆっくり話がしたかった。
 
「リン、さっき好きって伝えたばかりなのに、もう伴侶になっちゃったね」 
「イヤなのか?」 
「ううん、オレ、リンのことまだ少ししか知らないから、いつかいなくなっちゃうんじゃないかって不安だったんだ。だって、リンはお貴族様だろ。一緒に過ごしてればそれくらいはわかるよ。オレなんかでほんとにいいの?」
 
 いつも明るいロキの琥珀の瞳が、少し陰りを帯びて見えた。
 
「私の話をしよう。
 その前に……私は身分など関係なしに、素の自分を見てくれるロキを好きになったのだ。そして、私も、おまえがどんな身分でもかまわない。
 今の私たちは何者でもない。ただのリンとロキだ」 
「……うん」 
「ロキ……私はこの国の王太子だった。王太子とは、次の国王になる人のことだよ。私は国で二番目に高い位にいたのだ」 
「は。……そんな。リンは王様になるはずだったの?」

 ロキの目が大きく見開かれる。当然のことだろう。
 その瞳の中に、身分に対する媚も怖れもないことに、私は安堵した。
 
「ああ、そうだ。しかし、それは辺境に飛ばされる前の話。私は王にふさわしくないと判断され、この地に追放されたのだ」 
「追放……? あの光が?」 
「ああ、転移魔法でいきなりここに飛ばされた。両親も周りの貴族も、本当は弟に王になってほしいって思っていたのだ。彼らにとって、私は不要な存在だった」
 
 ロキは唇を噛みしめて、ぽろりと涙をこぼした。
 
「リン、……辛かったね。そんな話、無理にしなくていいよ」 
「いや、スッキリしておきたいのだ。楽しい話ではないが聞くがよい」

 それから私は自分の過去について、ロキにわかるよう説明した。
 それが弟の話になり、婚約者の話になったとき、ロキはぽつりとつぶやいた。
 
「……婚約者。それは伴侶になる人のこと?」 
「ああ、そうだ。ここに来なかったら、きっと彼女と結婚していた」 
「その人のこと好きだった……?」 
「信頼と情はあった。しかし……彼女が好きなのは弟だったのだ。弟も彼女が好きだった」 
「そうなんだ……」 
「今までおまえに事情を話さなかったのは、血のつながった家族へのほんの少しの未練……だろうか。私はそれなりに努力はしていたのだよ。それが無駄だと、自分が不要だと、口に出して認めるのが怖かった……」
 
 ロキの大きな手が私の背中をさすった。
 よしよし、よしよし――
 そのあたたかな手にどれだけ救われてきたかわからない。目が潤むのを感じた。

 
「それにな、私は女性に性欲を覚えることがなかったのだ。王になっても子をなせなかっただろう」 
「ちんちん……。でも、お風呂でリンのちんちん起ってた」 
「ロキだからだ……私の心も体も、ロキだけを愛している。ずっとおまえに抱かれる夢を見ていた」

 私は立ち上がって、勢いよくロキを押し倒した。
 目を丸くしながら、ごろんと床に大の字になった彼は、にっこりと笑うと、私に向かって大きく腕を広げた。
 
「おいでよ、リン」
 
 私がその胸に飛び込むと、ロキは包み込むように体を丸めた。抱え込んだ私の頭、肩から足先までもを、その大きな手で確かめるようにゆっくり撫でた。
 
「強くてかわいいリン、大好きだ。キスしてもいい?」
 
 私がこくりと頷くと、ロキは恐る恐る私の額に触れるだけのキスをした。頬に、あごに、軽く唇で触れると、最後に唇にちゅっと音をたててキスをした。
 
「はい、今日はこれでおしまい」 
「おいっ!もっとしてもいいのだぞっ!服を脱いでもいいのだぞっ!」 
「オレ、リンにキスして死にそうにドキドキしたよ。今すごくうれしいんだ。こういうのは、少しずつ大事に味わいたいんだけど、リンは我慢できない?」 
「う……、我慢してやってもいい。そうだな、急がなくてもいい。私は伴侶だ。ずっとおまえのそばにいる」

 私たちは一つの塊になったまま、じっとお互いの体温を分け合った。
 夜が更けてくると、ロキは部屋にある余分なベッドを片付けはじめた。窓際の私のベッドに自分のベッドをくっけて、残りは部屋の隅に寄せてしまった。

「ほんとは、もう誰もここに戻ってこないってわかってたんだ。ベッドを片付けると、それを認めるみたいで出来なかった……でも、リンがいてくれるって」 
「ああ、私がいる……」
 
 二つ合わせた大きなベッドで、私たちは抱き合ったまま眠った。
 頭を撫でてやると、ロキはうれしそうに「くぅん」と犬の鳴き真似をした。



 
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