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19 ロキ
オレが意識を取り戻したとき、ケトルがしゅんしゅんと湯気をあげる音が聞こえていた。部屋があたたかい。
キッチンのあたりから、リンの気配。
なんかいい匂いがする。おなかすいたな。
重いまぶたを開くと、もう昼間の明るさだった。
キッチンに向かって声をかける。
「リン、おはよう。オレ変な夢でも見たみたい。魔物が襲ってきて戦った夢。怖かったなあ……」
「怖かったのか」
「うん、あれは死を覚悟した。リンが殺られたらどうしようかと思ったよ。夢でよかったー!」
「頑張ったな、ロキ」
にっこり笑顔のリンが、ベッドに近づいてくる。あれ?
「えっ、リンなの?髪が赤い、目も赤いよ?おまけに大きくなってる。あれ?」
「そうだ、私だ。いろいろあっておまえは縮んだのだ。魔物と戦ったのは夢ではない。死体なら、外で雪に埋もれているぞ」
「へっ? あのとき、オレすごい怪我したんだけど。わ!ベッドが大きい!服もダブダブだぁ」
わけのわからぬまま、オレは自分の体をぺたぺた触ってみたが、痛みも傷もない。部屋の床に血の跡すらない。
それより、オレ小さくなってる。ベッドに体が収まっているんだ。
勢いよくベッドから飛び降りると、くらりとめまいがした。慌ててリンが支えてくれる。
「おい、まだ安静にしておけ。傷は癒えても、大量の血液は失ったままだ」
リンの顔がオレの肩あたりにある。無理にかがまなくても距離が近い。
うれしくなって、ぎゅうっと抱きついて一緒にベッドに転がりこんだ。
小さくなったといってもリンよりはまだ一回りデカい。でも、今のオレの体はリンを潰すことはない。もう心配しなくていいんだ。
ぎゅうぎゅうと胸に抱き込むと、リンの手足がオレの体からはみ出た。くふ。おまけに、ジタバタと暴れて抜け出されてしまった。くふふ。
照れながら怒ってるリンがかわいい――
「おまっ、ふざけるのもいい加減にしろっ!」
「リン、冷たいー!何が起きたのか話してよー」
「今、メシ作ってるから待っとけ」
「リンー、なんか口悪くなってないー?」
「黙れ、バカ犬が」
きつい物言いだけど、リンの声も表情も明るくて、なにもオレは失わなかったことに安心した。
自分の体?そんなんかまわないよ。
巨大になりたくてなったわけじゃないんだから。
それから、リンの作ったリゾットを食べながら、オレはあの夜あったことを聞いた。
魔物と戦ったオレが、血まみれでリンを棚から出したこと。うんうん覚えてる。
そのあと、オレが死にかけて、リンが聖魔法を使ったこと。そのあたりから記憶にない。
リンも魔力が枯渇して、ふたりとも死にかけたと聞いたときには、思わず「リンを守るために戦ったのに」と、口に出てしまった。
すると、ゾッとするような笑顔でリンが言った。
「ロキ、おまえが死んだら、私も死ぬからな。その自己犠牲精神やめろ。どれだけ私がおまえのことを愛しているか思い知るがいい」
「ひぅ、わかりました……」
話は続き、なぜかリンがブチ切れて伴侶の縁を引っ張り出して、それでオレが小さくなったあたりで、訳がわからなくなった。
「へ?そこでオレの体が使われたって?」
「対価だと思う。前にクロが言ってたやつ。魔法を使うときって、行使するだけの魔力が必要だろ。あのとき一番効率的だったのが、その巨大な体だったんだろう。
そもそもロキのデカさは規格外なんだよ。
普通はたくさんメシを食っても太るだけで、身長までは伸びない。背は私の二倍くらいあったし、体の厚みは四倍くらいあったろ。
おまえ、小さい頃にクロになにかいじられてないか?」
「うーん、あまり覚えてないんだよ。このまえ会うまで忘れてたくらいだし。子どもだから、早く大きくなりたいとでも言ったのかな」
「大きくなりすぎだな。はっ」
リンが鼻で笑った。
妙に男前になったな。
オレは三日間眠り続けたらしい。
立ち上がって大きく伸びをすると、関節がぼきぼきと音を立てた。手足を動かしてみるが、特におかしいと感じる部分はなかった。
「で、なんでリンの髪や目が赤くなったの?」
「わからん。お前が死にそうになったとき無性に腹が立ってな。無理やり縁の赤い光を掴んだのだが、そのせいだろうか」
「伴侶の縁ってさわれるものなの?」
「ああ、あのときはな」
「へー、リンってすごいね。守るつもりが守られちゃった。ありがとう!」
「いや……うん。ほんとに、おまえが助かってよかった……」
リンの声はかすかに震えていた。
気丈にふるまってはいるけど、きっとすごく怖かったんだ。
申し訳ないよりも先に、オレはうれしいって思ってしまった。今まで拭いきれなかった劣等感は、オレだけのもので、リンはちゃんと対等に見ていてくれたのだ。伴侶として――
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