25 / 32
首都
25 黒髪の獣人
しおりを挟む
徐々に体が回復するにつれ、男性に対する恐怖も、ほんの少しずつではあるが克服しつつあった。
体は相変わらず震えてしまうけれど、目を伏せていれば男性からの治療や手当てもなんとか耐えることができた。
顔を見たり、目を合わせるのはまだ怖かったが、距離さえ取っていれば同じ部屋にいるのも平気になってきた。
今、ぼくは教会の中の一室にいる。
とはいえ、教会の大部分の人間はぼくを疎ましく思っているようで――まるで「早く出ていけ」と言わんばかりの態度だった。しかし、まだ立つことすらできない。
そんな中で、この部屋を守るようにして、外で見張りについてくれているのが、何人かの獣人たちだった。
遠くから、そっと彼らの姿を眺めていると、その中に、あの日ぼくを暴力をふるう司祭から救ってくれた獣人の姿があった。
金色の目。黒い髪、黒い耳、黒いしっぽ。
その色合いは、ネロを思い出させた。
彼はいつも、ぼくが怯えないように、少し距離を取って見守ってくれている。目を合わさず、話しかけて来ることもない。
その一歩おいた心遣いが、何よりありがたかった。
ネロに会いたくてたまらなかった。
ライとレフが帰ってきたら、探してくれるだろうか……
猫は気まぐれと言うが、ネロもどこかに行ってしまったのだろうか。恋人に捨てられたような気分だ。
「ネロに会いたいな」と独り言を漏らしたら、スミが「それはどなたですか?」と聞いてきた。
「ぼくの恋人」と返しておいた。……嘘つきです。
***
――ネロの夢を見ていた。
ふかふかの毛並みを撫でながら、あたたかい胸に抱かれ、いつもみたいにざりざりの舌で頭や顔をいっぱいなめられて、ぼくはうれしくていっぱい泣いた。
もうどこにも行かないでって、離さないでって、体にぎゅっと巻き付いて、ようやく会えた幸せでいっぱいになった。
それなのに――目覚めたら、ぼくを抱きしめていたのは黒髪の獣人だった。
「ひぃっ、いやぁぁぁぁぁ!」
驚いたぼくは、必死で彼から離れようとしたのに、怖くて体が動かなくなってしまった。ひゅーひゅーと息が漏れるだけだった。
彼は傷ついた表情でぼくから体を離すと、ぽつりと「ごめん……」と言った。
――そのとき、部屋のドアを蹴破る勢いで男が乱入してきた。
あの時、ぼくに乱暴した司祭だった。
「神子ぉ!おまえのせいでこの国はめちゃくちゃだ!死んで責任をとれ!」
司祭は、勢いよく短剣を振りかざし、ぼくを刺そうとした。
「周!危ないっ!」
黒髪の彼が、ぼくを守るように前に飛び出す。そして、司祭の持つ短剣で腹を刺された。
それでも、彼はひるむことなく応戦し、司祭を殴り倒した。
床には気を失った司祭と、腹から血を流す黒髪の獣人――彼の体が一回り小さくなり、黒く艶やかな毛並みに覆われ……
そこに倒れていたのは、ネロだった――
「っ、ネロ!ネロ!なんで?なんで獣人に?
ネロ、ねぇ、ネロ、死なないで!ネローーー!」
泣き叫ぶぼくの声で、部屋にかけつけた警備の獣人たちが、司祭を縛り上げた。そして、ネロの腹を布で止血し、応急処置をしてくれた。
ネロは、ぼくの愛しい黒猫は、笑うように顔を歪めて
「がう……」
って言った。
体は相変わらず震えてしまうけれど、目を伏せていれば男性からの治療や手当てもなんとか耐えることができた。
顔を見たり、目を合わせるのはまだ怖かったが、距離さえ取っていれば同じ部屋にいるのも平気になってきた。
今、ぼくは教会の中の一室にいる。
とはいえ、教会の大部分の人間はぼくを疎ましく思っているようで――まるで「早く出ていけ」と言わんばかりの態度だった。しかし、まだ立つことすらできない。
そんな中で、この部屋を守るようにして、外で見張りについてくれているのが、何人かの獣人たちだった。
遠くから、そっと彼らの姿を眺めていると、その中に、あの日ぼくを暴力をふるう司祭から救ってくれた獣人の姿があった。
金色の目。黒い髪、黒い耳、黒いしっぽ。
その色合いは、ネロを思い出させた。
彼はいつも、ぼくが怯えないように、少し距離を取って見守ってくれている。目を合わさず、話しかけて来ることもない。
その一歩おいた心遣いが、何よりありがたかった。
ネロに会いたくてたまらなかった。
ライとレフが帰ってきたら、探してくれるだろうか……
猫は気まぐれと言うが、ネロもどこかに行ってしまったのだろうか。恋人に捨てられたような気分だ。
「ネロに会いたいな」と独り言を漏らしたら、スミが「それはどなたですか?」と聞いてきた。
「ぼくの恋人」と返しておいた。……嘘つきです。
***
――ネロの夢を見ていた。
ふかふかの毛並みを撫でながら、あたたかい胸に抱かれ、いつもみたいにざりざりの舌で頭や顔をいっぱいなめられて、ぼくはうれしくていっぱい泣いた。
もうどこにも行かないでって、離さないでって、体にぎゅっと巻き付いて、ようやく会えた幸せでいっぱいになった。
それなのに――目覚めたら、ぼくを抱きしめていたのは黒髪の獣人だった。
「ひぃっ、いやぁぁぁぁぁ!」
驚いたぼくは、必死で彼から離れようとしたのに、怖くて体が動かなくなってしまった。ひゅーひゅーと息が漏れるだけだった。
彼は傷ついた表情でぼくから体を離すと、ぽつりと「ごめん……」と言った。
――そのとき、部屋のドアを蹴破る勢いで男が乱入してきた。
あの時、ぼくに乱暴した司祭だった。
「神子ぉ!おまえのせいでこの国はめちゃくちゃだ!死んで責任をとれ!」
司祭は、勢いよく短剣を振りかざし、ぼくを刺そうとした。
「周!危ないっ!」
黒髪の彼が、ぼくを守るように前に飛び出す。そして、司祭の持つ短剣で腹を刺された。
それでも、彼はひるむことなく応戦し、司祭を殴り倒した。
床には気を失った司祭と、腹から血を流す黒髪の獣人――彼の体が一回り小さくなり、黒く艶やかな毛並みに覆われ……
そこに倒れていたのは、ネロだった――
「っ、ネロ!ネロ!なんで?なんで獣人に?
ネロ、ねぇ、ネロ、死なないで!ネローーー!」
泣き叫ぶぼくの声で、部屋にかけつけた警備の獣人たちが、司祭を縛り上げた。そして、ネロの腹を布で止血し、応急処置をしてくれた。
ネロは、ぼくの愛しい黒猫は、笑うように顔を歪めて
「がう……」
って言った。
70
あなたにおすすめの小説
姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました
天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。
そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。
はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。
優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。
「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。
佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。
病み墜ちした騎士を救う方法
無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。
死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。
死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。
どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……?
※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です
強面龍人おじさんのツガイになりました。
いんげん
BL
ひょんな感じで、異世界の番の元にやってきた主人公。
番は、やくざの組長みたいな着物の男だった。
勘違いが爆誕しながら、まったり過ごしていたが、何やら妖しい展開に。
強面攻めが、受けに授乳します。
【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる
古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる