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第二章 魔界統一 編
58話 戦国の世から泰平の世へ
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ただ、それがいつまでも続くとなると金吾も滅入ってしまう。
謁見後、金吾は久しぶりに自室で寛いでいたのだが、ファルティスも強引に付いてきて、労いの酌をしてくれていた。ただ、その仏頂面で注いでくれる酒は、とてつもなく不味いものでもあった。金吾も渋い面で諭す。
「ラーダマーヤが快く臣従してくれたんだ。もう少し喜んだらどうだ?」
「……」
「お前の言う通り、これでまた一歩、統一が近づいた。順調ではないか」
「……」
「ラーダマーヤの力はお前の政権に必要なものだ。丁重に扱うんだぞ」
「……」
「はぁ……。嫉妬の性は面倒臭いなぁ……」
「し、嫉妬じゃない!」
やっと返答したファルティスだったが、彼女の性は金吾への疑いを否定出来ず。
「金吾はどう思ってるの?」
「は?」
「ラーダマーヤがあんなに金吾を好いてるなんておかしい。向こうに行ってる時、彼女と何かあったんじゃない?」
「なぁーにを言っとるんだ、お前は!?」
金吾、大呆れ。国家の大事を進めているというのに、くだらない感情でそれを拗らせるような真似はするなと嗜めた。ただ、彼がそう思ってしまうのは幼い頃から政治の世界に身を置いて、思春期の恋愛をしてこなかったからかもしれない。それに、魔族の性を軽視するわけにもいかなかった。
金吾はファルティスに身を寄せる。
「俺にとってこの世界で最も大切なのはお前だ。今の俺があるのはお前のお陰であり、このオカヤマを作れたのもお前が魔王だからこそ。俺にとってお前はなくてはならない存在だ」
「金吾……」
次いで、優しく抱き締めた。
「魔王であるお前は他人に嫉妬する必要はない。心配する必要すらないんだ。あらゆる事柄に動じず、大樹のようにどっしり構えていろ。あらゆる苦難に対して、王が悠然と構えている。その姿を見て民は安寧を覚えるものなのだ」
「うん……」
「大丈夫、俺はお前の傍から離れない」
「金吾!」
そして、ファルティスもまた己の性に従い彼を愛おしそうに抱き締めるのであった。締められた金吾が堪らず嘆息してしまうほどに。
主人の機嫌取らなければならないのは、どこの世界でも必須のようだ。
彼女の機嫌が直ったところで、改めて酒を嗜む。金吾はファルティスに注がれた一杯を一気に飲み干すと、やっと頬を緩められた。尤も、問題はまだまだ山積みである。
「さて、残った魔王はあとは三人か……。どうしたものかな」
「また金吾がお願いに出向くの?」
「これ以上オカヤマを留守にするのはなぁ……。俺もゆっくりしたいし、ラナも文句を垂れるだろうし……。何より、ヴァルサルドルムとラーダマーヤが揉め事を起こさないとも限らない。この間まで敵対していた間柄だ。ここでの生活に馴れるまで、俺が傍で目を光らせておかないとな」
本当ならそれは魔王の役目なのだが、今のファルティスには荷が重い。彼女が敵手だった彼らから本物の忠誠心を得るには、何十年、何百年と掛かることだろう。
取り敢えず、今はオカヤマに腰を据えるべきか。ファルティスもそれには賛成だ。
「それじゃ、しばらくはゆっくりしようよ。オカヤマ征伐からずっと慌しかったし、金吾も疲れたでしょう? それに色々教えてもらいたいこともあるしね」
「色々?」
「政治とか、統治とか……。私も皆に認められるような立派な魔王になりたい。金吾に頼ってばかりじゃ駄目。私も貴方を助けられるようになりたいの」
「そうか。そうだな」
彼女の心遣いを金吾は快く受け取った。嫉妬深い彼女の性であるが、彼を助けたいというその純真さもまた彼女の性によるものなのだから。
そしてその純真さに天も感動したのか、朗報が舞い込んでくる。ルドラーンが慌しくやってきた。
「金吾、急ぎの知らせだ」
「今は悪い知らせを聞く気分じゃない」
「残りの三魔王の一人、ネトレイダーが臣従を願い出てきた」
「なにぃ!?」
その報告に、堪らず立ち上がってしまう金吾。持っていた杯を放り捨て、手を叩くほどの喜びぶりだ。
「何と賢い奴だ! 時流を見極めている。気に入った! 滅茶苦茶気に入った! 歓迎する旨を伝えろ」
ファルティスに敵対していた六人の魔王のうち、一人は討ち滅ぼされ、三人は降った。これでファルティスの勢力が大勢を占めたことになる。もう下手に出る必要はない。
「残りの二人の魔王はもう俺が赴く必要もない。使者を送って勧告する。その際の使者団にはヴァルサルドルム、ラーダマーヤ、ネトレイダーらの配下も加えろ。三魔王がファルティスに屈した証を見せれば、それで十分な威圧になるはずだ!」
更に金吾は喜び足りないのか、座っていたファルティスの両脇を抱え持ち上げると、そのままクルクル回り出すことまでし始める。始めは戸惑っていた彼女も、やがて彼と同じ笑みを浮かべた。
「我が養父、太閤秀吉も家康が頭を下げた時はこれほどの喜びだったのだろう。天下は最早定まったようなものだ」
太閤秀吉が天下統一を目指す上で最大の障壁であったのが徳川家康であり、その家康が臣従したことによって、太閤の天下は決定的なものとなった。正に、今のファルティスはそれを再現している。
「ファルティス、これで魔界はお前のものだ」
異界からの勇者の才知とこの世で最も優しい魔族の器量が、長らく続いていた乱世に終止符を打つ。
魔界は戦国の世から泰平の世へと移り変わるのだ。
謁見後、金吾は久しぶりに自室で寛いでいたのだが、ファルティスも強引に付いてきて、労いの酌をしてくれていた。ただ、その仏頂面で注いでくれる酒は、とてつもなく不味いものでもあった。金吾も渋い面で諭す。
「ラーダマーヤが快く臣従してくれたんだ。もう少し喜んだらどうだ?」
「……」
「お前の言う通り、これでまた一歩、統一が近づいた。順調ではないか」
「……」
「ラーダマーヤの力はお前の政権に必要なものだ。丁重に扱うんだぞ」
「……」
「はぁ……。嫉妬の性は面倒臭いなぁ……」
「し、嫉妬じゃない!」
やっと返答したファルティスだったが、彼女の性は金吾への疑いを否定出来ず。
「金吾はどう思ってるの?」
「は?」
「ラーダマーヤがあんなに金吾を好いてるなんておかしい。向こうに行ってる時、彼女と何かあったんじゃない?」
「なぁーにを言っとるんだ、お前は!?」
金吾、大呆れ。国家の大事を進めているというのに、くだらない感情でそれを拗らせるような真似はするなと嗜めた。ただ、彼がそう思ってしまうのは幼い頃から政治の世界に身を置いて、思春期の恋愛をしてこなかったからかもしれない。それに、魔族の性を軽視するわけにもいかなかった。
金吾はファルティスに身を寄せる。
「俺にとってこの世界で最も大切なのはお前だ。今の俺があるのはお前のお陰であり、このオカヤマを作れたのもお前が魔王だからこそ。俺にとってお前はなくてはならない存在だ」
「金吾……」
次いで、優しく抱き締めた。
「魔王であるお前は他人に嫉妬する必要はない。心配する必要すらないんだ。あらゆる事柄に動じず、大樹のようにどっしり構えていろ。あらゆる苦難に対して、王が悠然と構えている。その姿を見て民は安寧を覚えるものなのだ」
「うん……」
「大丈夫、俺はお前の傍から離れない」
「金吾!」
そして、ファルティスもまた己の性に従い彼を愛おしそうに抱き締めるのであった。締められた金吾が堪らず嘆息してしまうほどに。
主人の機嫌取らなければならないのは、どこの世界でも必須のようだ。
彼女の機嫌が直ったところで、改めて酒を嗜む。金吾はファルティスに注がれた一杯を一気に飲み干すと、やっと頬を緩められた。尤も、問題はまだまだ山積みである。
「さて、残った魔王はあとは三人か……。どうしたものかな」
「また金吾がお願いに出向くの?」
「これ以上オカヤマを留守にするのはなぁ……。俺もゆっくりしたいし、ラナも文句を垂れるだろうし……。何より、ヴァルサルドルムとラーダマーヤが揉め事を起こさないとも限らない。この間まで敵対していた間柄だ。ここでの生活に馴れるまで、俺が傍で目を光らせておかないとな」
本当ならそれは魔王の役目なのだが、今のファルティスには荷が重い。彼女が敵手だった彼らから本物の忠誠心を得るには、何十年、何百年と掛かることだろう。
取り敢えず、今はオカヤマに腰を据えるべきか。ファルティスもそれには賛成だ。
「それじゃ、しばらくはゆっくりしようよ。オカヤマ征伐からずっと慌しかったし、金吾も疲れたでしょう? それに色々教えてもらいたいこともあるしね」
「色々?」
「政治とか、統治とか……。私も皆に認められるような立派な魔王になりたい。金吾に頼ってばかりじゃ駄目。私も貴方を助けられるようになりたいの」
「そうか。そうだな」
彼女の心遣いを金吾は快く受け取った。嫉妬深い彼女の性であるが、彼を助けたいというその純真さもまた彼女の性によるものなのだから。
そしてその純真さに天も感動したのか、朗報が舞い込んでくる。ルドラーンが慌しくやってきた。
「金吾、急ぎの知らせだ」
「今は悪い知らせを聞く気分じゃない」
「残りの三魔王の一人、ネトレイダーが臣従を願い出てきた」
「なにぃ!?」
その報告に、堪らず立ち上がってしまう金吾。持っていた杯を放り捨て、手を叩くほどの喜びぶりだ。
「何と賢い奴だ! 時流を見極めている。気に入った! 滅茶苦茶気に入った! 歓迎する旨を伝えろ」
ファルティスに敵対していた六人の魔王のうち、一人は討ち滅ぼされ、三人は降った。これでファルティスの勢力が大勢を占めたことになる。もう下手に出る必要はない。
「残りの二人の魔王はもう俺が赴く必要もない。使者を送って勧告する。その際の使者団にはヴァルサルドルム、ラーダマーヤ、ネトレイダーらの配下も加えろ。三魔王がファルティスに屈した証を見せれば、それで十分な威圧になるはずだ!」
更に金吾は喜び足りないのか、座っていたファルティスの両脇を抱え持ち上げると、そのままクルクル回り出すことまでし始める。始めは戸惑っていた彼女も、やがて彼と同じ笑みを浮かべた。
「我が養父、太閤秀吉も家康が頭を下げた時はこれほどの喜びだったのだろう。天下は最早定まったようなものだ」
太閤秀吉が天下統一を目指す上で最大の障壁であったのが徳川家康であり、その家康が臣従したことによって、太閤の天下は決定的なものとなった。正に、今のファルティスはそれを再現している。
「ファルティス、これで魔界はお前のものだ」
異界からの勇者の才知とこの世で最も優しい魔族の器量が、長らく続いていた乱世に終止符を打つ。
魔界は戦国の世から泰平の世へと移り変わるのだ。
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