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第一話
しおりを挟むこの国に暮らす人なら誰でも名前だけは知っているであろう港町ヨコハマ。
古くから国際港として栄え今では海外の客船がひっきりなしに寄港する客船ターミナル、おびただしい数のコンテナが到着する貿易の玄関口、いくつもの移民街が点在するエスニックな地域、埋め立て地の再開発で近未来的なビルが建ち並ぶ観光地と色とりどりの顔を見せる。
しかしその本質は港を行き交う合法・非合法を問わない人とモノが複雑なモザイクを形作る欲望の街。
そんなヨコハマを守るべく自治体警察では特例中の特例として独立した市警察本部が設立されたのが80年前。
僕はそのヨコハマ市警で警察官として生きることを望み、その願いを叶え続けるためにここにいる。
「カズマ、聞いてるよな。15時にヤマシタの【ローライズ】な。頼んだぞ?」
そう言って僕の右の尻を撫でて喫煙所から出て行ったのは生活安全課の桐生一太刑事だ。
ヨコハマ市警の伝統で階級による媚びへつらいはナシということになっているので、僕より年上の巡査部長は気安い態度でいつも僕に厄介を押し付けてくる。
「分かってますよ。”厚着”してったほうがいいんですよね?」
任せるよ、と振り返りもせずにヒラヒラと手を振って歩み去っていく桐生。
”厚着”というのは隠語で拳銃を携帯することを指す。
【ローライズ】というクラブで違法薬物の取引が行われているという内偵情報をもとに今日の15時にガサをかけることは分署内ネットワークの行動予定を見て事前に知っている。
本来、管理課の人員である僕は現場に出向く必要などまったくない。
でも、このみなと分署は配属部署の違いはあっても全員がフルタスクで職務執行にあたることをモットーとしている。
多くの人手が必要なガサ入れには部署の垣根を越えて捜査員を増強する。
管理課総務係長というキャリア官僚の初任ポジションとしては穏当であるはずの役職にある僕についても分け隔てなくそのルールは適用される。
僕は、そんなみなと分署のムードを心底気に入っている。
【ローライズ】は古くは隣市にある同盟国の軍事基地の駐留兵がたむろするダンスクラブであったが最近の不景気のあおりを受けて大陸系の商人に経営が渡った。
それ以降、半島や大陸経由で流入する違法薬物の取引の現場であることが公然の秘密とされていたが今まで尻尾を掴むことはできなかった。
それを桐生巡査部長が違法スレスレの内偵捜査で摘発に足りるだけの確証が得られたということだった。
もとより真っ黒に近いグレーで叩けばいくらでも埃が出てくるはずのハコだが、経営権を握った大陸系の商人は新興ビジネスで地元の商工会に食い込み下手に手を出だすと巻き込まれるヨコハマの名士が少なくない。
その政治的な条件をクリアするだけの”シンプル”な確証を得たとの桐生巡査部長の内偵結果が今回のガサ入れを実行する決断をみなと分署長にさせたのだった。
桐生一太。28歳。巡査部長。
一見して警察官とは思えない真っ黒に日焼けサロンで焼いた肌と入念なエクササイズで鍛え上げた隆々としたボディ。
ゴツい指輪をはめてバッドボーイ系のファッションで身を固めている。
背丈はそれほど高くないがいかにも屈強そうなイカツいオーラを放っている不良くずれのように見えて、巡査拝命から順調に昇進し今はみなと分署生活安全課の刑事職だ。
【ローライズ】のような若者がたむろするクラブの内偵にはうってつけの人物とは言えるだろう。
僕がみなと分署に配属されたときには既に生活安全課の若手の主力として精力的に職務に励んでいた。
僕がみなと分署に通い始めてからそれほど日が立たないある休日のこと。
署内のジムでたまたまワークアウトを行っている桐生と二人だけの時間ができた。
どうだ新人?と当たり障りのない会話をしながらそれぞれのマシンで汗をかく。
どちらから言うともなく示し合わせたようにエクササイズを終えると向かう先は二人ともシャワールームであることは当然だった。
中途半端な距離をとるのも不自然なので隣り合ったシャワーブースでそれぞれ汗を洗い流してく。
日焼けサロンで焼き込んだ桐生の黒く艶を放つ体を水滴が滑り落ちていく。
対照的に基本的に内勤である僕の体は雪国育ちのように白く、ジムでエクササイズをしているといっても健康維持レベルのものなのでもとから細い体は未だに成長期を迎える前の少年のようなか細さ。
「おまえ、現場で足手まといにならないようにもうちょっと鍛えたほうがいいぞ」
ニヤニヤしながら桐生が言う。
「これでもけっこうヤってるんですけどね」
シャンプーの泡を洗い流しながら僕は適当にあしらう。
「見てみろ、このシックスパック」
たしかに桐生の腹筋はきれいに割れている。
その下の茂みから流れ落ちる水滴は桐生のシンボルを伝って排水溝へと落ちていく。
「おまえ、タダで見やがったな」
見せつけてきたのはそっちだろう、と言うかどうかの隙に桐生がグっと顔を近づけてくる。
「お代になにをもらってやろうか」
僕の奥二重の切れ長の目と桐生のくっきりとした彫りの深い二重瞼が吸い寄せられるように近づく。
そこまで近づけば自然と唇が重なる。
「握ってくれ」
唇をいったん離した桐生が僕の手を取りシンボルへ導く。
そっと手を添えると桐生のシンボルはふっくらとした重みをたたえ微かに脈打っていた。
「これでチャラですからね」
そう念押しして手のひらをゆっくり閉じながらちからを籠めていく。
僕に握られているせいで下向きになっている桐生のシンボルは、いまやシャワーで温められた血流が駆け巡りパンパンになりつつあるとともに、その状態ならあるべき位置に向かって反り返ろうとグイグイと僕の手を押し返す。
「苦しそうですね?」
桐生のシンボルに絡めた指に力を籠めながら聞く。
真っ白で細長い僕の指だが幼いころから楽器をやっていたおかげで見た目以上に握力は強い。
強く握れば握るほど桐生のシンボルはびくびくと脈打ち上へ上へとヘソめがけて反り返ろうとする。
桐生のゴツい手が僕の尻を鷲掴みにする。
ふーっふーっと荒い息をつきながら桐生の唇がまた僕の唇をなぶる。
だけど僕は桐生のシンボルをしっかり握り込んだまま下向きに押さえつけ続ける。
桐生の手が僕のシンボルに伸びようとしたそのとき、署内放送で管轄下に緊急配備命令が達されたことを知らせるサイレンが鳴り響く。
「おっと、こうしてる場合じゃないな」
シャワーを止めた桐生が額にかかる髪についた雫を払いのけながら現職の表情に一変する。
「先いくわ。おまえもオペルームに詰めるんだろ?」
僕も流しっぱなしだったシャワーを止める。
さっきまで桐生のシンボルを握っていた僕の右手には、シャワーで流れ落ちなかった桐生の雫がへばりついていた。
それ以来、幾度となく現場をともにし、分署の同僚として親交を深めてきた桐生の肝いりの事案が今回の【ローライズ】摘発だった。
タバコを吸い殻入れに落として喫煙所を後にする。
直属の上司である管理課長はデスクにいるだろう。
カタチばかりの拳銃携帯許可と口頭での応援要請の許可をとってから公用車で現場に向かおう。
晩メシまでには終わらせたい。
僕は拳銃用のホルスターを装着するためにジャケットを脱ぎ、ネクタイを心持ち緩めた。
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