貴族令嬢はプロポーズが嫌なので溺愛王子と仲良くしようと思います!

朱之ユク

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スカーレットは困っている

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「スカーレット嬢! どうか私と結婚してください!」

 舞踏会にて憧れの女性にプロポーズをするという、男ならば誰もが憧れるシチュエーションは女の私にとっては鬱陶しいとしか言いようがない。

 理由は簡単。
 
 何度も何度もプロポーズをされていると鬱陶しくなってくるからだ。

 ほら見て、まわりの人間が私たちの方を向いて騒いでいるじゃない。こういう集団はいずれ結婚しろ、というとんでもなくはた迷惑なコールをしだす。

 今みたいにね。

「申し訳ありませんが、諸事情により結婚は受け付けておりません」
 
 ネイビー学園主催の舞踏会で私はいきなりのプロポーズを上手く躱すことに精一杯になっていた。

「どうして? スカーレット嬢。もう一度考えてください」

 そんな必要はない。なぜならこれは熟考の末のお断りなのだ。

 あなたみたいな男に上から目線でそんなことを言われる筋合いなんてどこにもなかった。

「スカーレット嬢。何度でも言うがあなたはもう16。結婚するには適齢期ではありませんか。そろそろ結婚しないと行き遅れと言われてしまいますよ」
 
 何度でも言うが私は結婚しない。

 大体、あなたは私とほとんど会話したことすらないのに、どうして結婚できると考えているのだろうか?

 この国は貴族制を保っているとはいえ、すでに形だけのものとなっており、婚姻は自由恋愛により行われる。親が結婚相手を見つけることは無いこともないが、基本は行き遅れてしまった娘、息子に適当な婚約者を貢ぐだけだ。

 そんなご時世に好きでもない相手からのプロポーズを受け付けると思っている男が居るなんてそちらの方が驚きである。

「大体私の何が嫌なのですか? 私はこれでも公爵家の人間。王家との接点もありますし、お金も、権力も、何もかもを持っている。そんな俺と結婚しないなんて正直に言ってみる目がありません」

 そんなプロポーズをしてくるあなたと結婚する女は見る目がありません。

 先ほどから余計なことを言わないように黙っていたら、何故か相手が行けると思ったのか調子に乗ってぺらぺらと喋ってくる。

 ウザいです。

「あの、先ほどから私に執着していますが、どうして私にプロポーズをしようと思ったんですか? 私の顔目当ての人間なんて結婚できません」

 こんなことを自分で思うのはどうかと思うが、私はこれでもだいぶ顔が良い方だ。幼いころから家族、友達、クラスメイト。あらゆる人間から羨望の眼差しを向けられれば嫌でも気づいてしまう。
 
 この年齢になってからは男からの面倒くさいプロポーズがたくさん出てきたから余計に意識してしまった。

 どうせこの男も私の顔と体目当てなんだろう。もしそうだとしたら適当にそれを理由に断ろうと思う。

「そんなもの顔以外に何があると思っていたんだ? 女などもとより顔と体しか求められていなかろう」

 しかし、想像していたものと違う答えが真正面から飛んできた。

「は?」

 絶句とはこのことだ。

「失礼ですが。このご時世、女をバカにする発言は慎んだ方がよろしいかと。国王陛下が平等命令を出したばかりではありませんか」

「平等命令? あんなもの陛下がとち狂っただけです。女は元から男より劣った存在。その証拠に歴史上の偉人はほとんど男ではありませんか。歴史がすべてを証明しています。女など子供の産むための道具に過ぎないと」

 クソ野郎が。

 どうしてこんな男ばかりが私に告白をしてくるんだろうか?

 この前もそうだった。

 顔はイケメン。実家も金持ち。身長も高い。

 スペックだけ見ると最上位の男も、私にプロポーズしてきたときに、堂々と公衆の面前で「夜の頻度は1日五回がいい」と言い放ってきたのだ。

 一日に五回も相手していられるか、バッカじゃないの!

 この国の男はどいつもこいつも女が男のために尽くすのが当然と考えているバカばっかりだ。

 その考えを持っていない男は私が知る限り、国王陛下とあのお方しかいない。

 もとより私の結婚はすでに決まっている。それを公表していないだけのこと。

 こんな男とは結婚してあげる理由がなかった。

「何度でも言う。私と結婚してくれ!」

「何度でも言います。あなたとは結婚いたしません」

 その言葉を聞いた相手はショックを受けたような表情で唖然としている。そして、激情に駆られてしまった。

「貴様! この俺がわざわざ頭を下げてプロポーズをしてやっているというのに、どうしてそこまでなめ腐った対応ができるのだ! この俺の立場を理解していないのか? 貴様のような貴族令嬢をこの俺の公爵家の家系に取り込んでやると言っているんだ!」

 はぁ。

 私って上から目線の男って嫌い。どうしてこんな男が揃いも揃ってプロポーズしてくるのかしら?

 挙句の果てにはこの男、剣を抜き去って、私に切りかかってきているじゃない。面倒くさい。

「自分のものにならないくらいなら、いっそのこと殺してしまえ。そんな風に考えていたのですね?」

 避けるのは簡単。

 女だろうが一直前上に振りかざされる剣など、横にずれるだけで避けれる。

 だけど、今だけは他の者の助けを得るのもいいか。

 鋭い閃光が走る。

 見にくい男の細い剣筋が、綺麗な男の太い剣筋に阻まれた。

「そこまでだ。先ほどから聞いていたら、貴様はバカみたいな男じゃないか」

 まるで光が差し込んできたかのようにさっそうと一人の美男子が入り込んできた。
 
 いや、実際に光が入り込んできている。
 
 今の余波で近くのガラスが割れていた。

「お前……いや、あなた様は」

「そうだ。僕こそがこの国の第二王子グレイ・ネイビーだ。剣を向けるな。無礼であるぞ」

 その一言で先ほどからしつこいプロポーズをしてきた男は怖気づいて走ってその場に経たたり込んでしまった。

「無事だったかい?」

「はい。ありがとうございます、殿下」

「はっはっは。その言葉は君に向けたものじゃないよ、スカーレット」

「?」

「スカーレットみたいな強い女性に剣を向けたんだ。相手の男がどんな目にあわされるか知ったもんじゃない」

 まるで私が屈強な戦士であるかのような言い方だ。

 失礼な。私だってボコボコにしたりしない。

 せいぜい相手をハチの巣にしてやるだけだ。

「私は別にそこまで……」

「何言っているんだ? 僕のことを投げ飛ばしたことをもう忘れたのかい?」

 忘れているわけないでしょう?
 
 あの時は不敬罪で捕まりそうになったんだから。

「そうだ。そろそろあの事をみんなに公表しても良いころだろう?」

 あの事。

 それだけで私には何を言っているのか理解できた。

「もちろんでございます」

 グレイは頷いて、今だ私たちのことを見ている生徒に向けて大声で言い放った。

「これよりこの場に宣戦布告する。スカーレット嬢はこの僕の婚約者となった。これよりスカーレット嬢に婚約の申し込みをするものは全員まとめて僕が相手してやるよ」

 後日、学校内で私とグレイ殿下が婚約したという噂が流れたのは当然のことだった。
 
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