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再会しましょう
しおりを挟む迎えた週末、金曜日。
なんだかドキドキとしながら、早足で急ぐ帰路。
引っ越してきてから、初めての感覚だった。
目の前を黒色が横切る、かと思ったら、ぼくの方にふよふよ歩んできて、肩にまとわりつくように寄り添った。
「にゃあ」
「ユウレイ! お前、迎えにきたのか?」
黒猫のユウレイ。
毎日一緒にごはんを食べているけれど、今日は特別、楽しみなのかもしれないな。
だって作り置きのおかずの開放日でもあるのだし。みんなにも会えるし。
だし煮大根、根菜のきんぴら、さつまいもの甘露煮……
冷蔵庫の中のおかずを思い浮かべながら、黒猫とともにまっすぐに帰る。
「あっ」
玄関扉の前には、すでにみんなが集っていた。
「おかえりなさい」
なんだか嬉しいな。
同じく、再会を楽しみに待ってくれていたのかなって。
「ただいまです。みなさん、今週もお仕事、お疲れさまです」
「お疲れさまでーす」
みんなで軽く会釈をした。
面白いし、ちょっぴり照れくさい。
「ねぇねぇ学生も頑張ってるんですよっ!」
「あ、そうだね。雨宮さん、一週間、大学での勉強お疲れさま」
「はーい」
雨宮さんはにこにことピースサインをしてみせた。
「じゃーん。さらにダブルピース」
「はいはい」
やっぱり不思議ちゃんって感じだ。
泉さんが苦笑しながら、はしゃいでいる雨宮さんの肩をポンポンと叩いて、ずり落ちかけた彼女のマフラーを直してあげている。
くしゅん、と神谷さんが妙に可愛げのあるくしゃみをした。
「中に入りましょうか。狭いところですがどうぞ……」
「おじゃましまーす」
やっとあたたかいところに行ける! と思ったみんなの黒猫耳がぶんぶん揺れているが、めちゃくちゃ愉快だが、ごめん、玄関はまだ寒いからね。
帰宅直後、うちの玄関は寒いんだ。
あ、期待して入室した黒猫たちの耳が伏せた……。
「リビングに行って、コタツつけてもらっていいですよ」
「わあい!」
「机の上に飴とみかんもありますから、どうぞ」
「みかんってネコ科の僕たちが食べても大丈夫なのかな?」
「人間ですので平気でしょう」
神谷さんの軽口にひるまず軽い返事をして、魚屋の大吾さんから「わはは! ほれ」と渡された大袋を受け取る。
この人、雰囲気による絡み酒に泣き上戸に笑い上戸か……忙しいな。
「あ、鰆だ。今回は旬のものですね」
「おう! なんだぁ、魚に詳しいな陸くん」
前の鯛は、素晴らしかったものの、いわゆる時期外れだった。魚屋さんなのに? って不思議に思ってたんだ。
「地元は三重の港町なんですよ」
「そうかい、そいつはいいな! あそこの魚は新鮮で、うちの店でもよく取り扱ってら。じゃあ半端なものは食わせらんねーな?」
「海のものに関してはいいの食べて育ちましたね」
「わはは! 前回の鯛も美味かったろう? 季節ものじゃあなかったんだがなぁ、一等上等なやつを持ってったから。ほら、ユウレイに会えて『めでたい』ってなぁ!」
なるほど、そういう理由だったのか。
僕が目を丸くしていると、大吾さんはまた豪快に笑って、鼻の下をぐいっと指でこすった。
「前回は猫用のカニカマでしたけど、今日はちゃんといい肉持ってきたので……」
ジム帰りらしい厚人くんからも、袋を受け取る。
帰り道に実家に寄ってきてくれたそうだ。
「うわ! 牛肉。牛脂もある。厚人くん、ありがとう」
どう料理しようかな、と唇をぺろっと舐める。……無意識に。
「あ、猫っぽい」と大吾さんと厚人くんふたりに指摘された。
ぼくたちの定型句になりそうだな、猫っぽい、って。
小さく笑う。
「ありがとうございます。二人も、ほら中に入って」
「邪魔するぜ。おー寒かった」
「家主よりも先に入るわけにはいかないんで」
「あー、厚人くんそういうタイプか……律儀だしえらいんだけどさ。風邪引かないでね」
一人だけ頑なに動かないと思ったら、体育会系の彼らしい理由だった。
しょうがないのでぼくが先に入り、靴を脱いでから彼を手招きすると、一礼してから玄関に入って、音を出さないように扉を閉める。
「鍵かけました」と連絡も忘れない。
えらいね。
ぼくたちがリビングに向かうと、一足早く上がり込んでいた女子たちと神谷さんはコタツで寛ぎ、きゃいきゃいと話し始めていた。
いつの間にやらぼくの肩から降りていた黒猫は、コタツの上で温まりながら、大あくびをしてみせる。
小腹が空いているらしく、机の上の飴やみかんが減っていく。
さあ、黒猫たちのお腹を満たす夜ごはんを作ろうか。
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