★黒猫ユウレイ集会

黒杉くろん

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再会しましょう

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迎えた週末、金曜日。
なんだかドキドキとしながら、早足で急ぐ帰路。
引っ越してきてから、初めての感覚だった。

目の前を黒色が横切る、かと思ったら、ぼくの方にふよふよ歩んできて、肩にまとわりつくように寄り添った。

「にゃあ」
「ユウレイ!  お前、迎えにきたのか?」

黒猫のユウレイ。
毎日一緒にごはんを食べているけれど、今日は特別、楽しみなのかもしれないな。
だって作り置きのおかずの開放日でもあるのだし。みんなにも会えるし。


だし煮大根、根菜のきんぴら、さつまいもの甘露煮……

冷蔵庫の中のおかずを思い浮かべながら、黒猫とともにまっすぐに帰る。


「あっ」

玄関扉の前には、すでにみんなが集っていた。

「おかえりなさい」

なんだか嬉しいな。
同じく、再会を楽しみに待ってくれていたのかなって。

「ただいまです。みなさん、今週もお仕事、お疲れさまです」
「お疲れさまでーす」

みんなで軽く会釈をした。
面白いし、ちょっぴり照れくさい。

「ねぇねぇ学生も頑張ってるんですよっ!」
「あ、そうだね。雨宮さん、一週間、大学での勉強お疲れさま」
「はーい」

雨宮さんはにこにことピースサインをしてみせた。

「じゃーん。さらにダブルピース」
「はいはい」

やっぱり不思議ちゃんって感じだ。
泉さんが苦笑しながら、はしゃいでいる雨宮さんの肩をポンポンと叩いて、ずり落ちかけた彼女のマフラーを直してあげている。

くしゅん、と神谷さんが妙に可愛げのあるくしゃみをした。


「中に入りましょうか。狭いところですがどうぞ……」
「おじゃましまーす」

やっとあたたかいところに行ける!  と思ったみんなの黒猫耳がぶんぶん揺れているが、めちゃくちゃ愉快だが、ごめん、玄関はまだ寒いからね。
帰宅直後、うちの玄関は寒いんだ。

あ、期待して入室した黒猫たちの耳が伏せた……。

「リビングに行って、コタツつけてもらっていいですよ」
「わあい!」
「机の上に飴とみかんもありますから、どうぞ」
「みかんってネコ科の僕たちが食べても大丈夫なのかな?」
「人間ですので平気でしょう」

神谷さんの軽口にひるまず軽い返事をして、魚屋の大吾さんから「わはは!  ほれ」と渡された大袋を受け取る。

この人、雰囲気による絡み酒に泣き上戸に笑い上戸か……忙しいな。


「あ、鰆だ。今回は旬のものですね」
「おう!  なんだぁ、魚に詳しいな陸くん」

前の鯛は、素晴らしかったものの、いわゆる時期外れだった。魚屋さんなのに?  って不思議に思ってたんだ。

「地元は三重の港町なんですよ」
「そうかい、そいつはいいな!  あそこの魚は新鮮で、うちの店でもよく取り扱ってら。じゃあ半端なものは食わせらんねーな?」
「海のものに関してはいいの食べて育ちましたね」
「わはは!  前回の鯛も美味かったろう?  季節ものじゃあなかったんだがなぁ、一等上等なやつを持ってったから。ほら、ユウレイに会えて『めでたい』ってなぁ!」

なるほど、そういう理由だったのか。

僕が目を丸くしていると、大吾さんはまた豪快に笑って、鼻の下をぐいっと指でこすった。


「前回は猫用のカニカマでしたけど、今日はちゃんといい肉持ってきたので……」

ジム帰りらしい厚人くんからも、袋を受け取る。
帰り道に実家に寄ってきてくれたそうだ。

「うわ!  牛肉。牛脂もある。厚人くん、ありがとう」

どう料理しようかな、と唇をぺろっと舐める。……無意識に。
「あ、猫っぽい」と大吾さんと厚人くんふたりに指摘された。

ぼくたちの定型句になりそうだな、猫っぽい、って。
小さく笑う。

「ありがとうございます。二人も、ほら中に入って」
「邪魔するぜ。おー寒かった」
「家主よりも先に入るわけにはいかないんで」
「あー、厚人くんそういうタイプか……律儀だしえらいんだけどさ。風邪引かないでね」

一人だけ頑なに動かないと思ったら、体育会系の彼らしい理由だった。
しょうがないのでぼくが先に入り、靴を脱いでから彼を手招きすると、一礼してから玄関に入って、音を出さないように扉を閉める。
「鍵かけました」と連絡も忘れない。
えらいね。


ぼくたちがリビングに向かうと、一足早く上がり込んでいた女子たちと神谷さんはコタツで寛ぎ、きゃいきゃいと話し始めていた。

いつの間にやらぼくの肩から降りていた黒猫は、コタツの上で温まりながら、大あくびをしてみせる。


小腹が空いているらしく、机の上の飴やみかんが減っていく。

さあ、黒猫たちのお腹を満たす夜ごはんを作ろうか。
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