兄が届けてくれたのは

くすのき伶

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お父さんに連れられて

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「ご両親の離婚の話はお兄さんから聞いていました。昨日ハルさんが話してくれたとき、初めて知りましたって態度をとってすみません」


「いえ、それは別に。兄は僕を探していたんですか?それと、大学生の頃に兄は僕の何を話していたんですか?」


「お兄さんは探そうとしてた、と言ったほうが正しいかな。お兄さんは高校1年の時にお父さんと一緒に家を出ましたよね」


「はい」


「それ、お父さんが原因だったんです。お兄さんはそのことを大学生のときに僕に話してくれました」



タカが小さく深呼吸をする。



「ハルさん、今から僕が話すことについて決して自分を責めないで下さいね。ハルさんは悪くないですから」


「?……はい」


ハルは一瞬タカのほうを見て、すぐに目線を海に戻した。


「ハルさん、子供の頃は感じる力が今よりものすごく強かったそうです。僕は昔から目だけでしたけど、ハルさんの場合はいろんな方法で感じとっていました。お兄さん曰く、それは匂いだったり、音だったり、人の思考を読めたり」


「……」


「何か覚えていますか?小学生の頃とか」


「え……何、というと……?」


「ハルさんが小学生の高学年くらいだったそうです。お父さんは、休日にハルさんとお兄さんを近くのデパートの催事に連れて行こうとしました。その途中、職場にちょっと用があって寄り道したそうです。ハルさんとお兄さんを連れて」


「……デパート」


タカは、視線を一瞬ハルに向けた。


「職場には、ちょうどお父さんの上司がいました。お父さんはハルさんとお兄さんを紹介して、軽く世間話をしてその場を離れる予定でした。でもその時に……」


「……」


「ハルさんがその上司の方に、ある女の子の話をしたんです」


「……」


「その女の子というのは、上司の方の亡くなった娘さんのことで」


「え……」


「ハルさんはその女の子のことを話し出したそうです」




タカは、ハルの兄から聞いた当時の状況を詳しく説明した。

ハルは、上司の亡くなった女の子が視えており、着ている洋服や髪型をぴたりと言い当てた。

それを聞いた上司はひどく困惑し、それはハルの父も同じだった。

その女の子は泣きながらハルにこううったえかけていた。


"もうすぐママがこっちに来ちゃう、パパ止めて" 
"ママを助けて、ママを助けて"


ハルはそのことを上司に伝えたのだった。







そしてその数日後、上司の妻は病に倒れた。







「それ以降、お父さんはいろいろあって会社にいづらくなってしまったんです。相手が会社の上司ということも影響したのかもしれません」


ハルは、そのときのことを全く覚えていなかった。


「え、それって僕のせいで……」
「違います」


「え、いや、どう考えても僕のせいじゃないですか」
「違います。ハルさんは小学生だったんですよ。視えたことを言わない方がいいかだなんて、判断できる年齢じゃないです」


「でも……」
「はっきり視えていたのなら尚更です。ハルさんは "女の子が言ってる、泣きながらママのこと言ってる"ってしきりに言っていたそうです。ハルさんは泣いている女の子が目の前にいて、その子に頼まれて上司の方に伝えた。それだけのことです」



「……」



「でもお父さんは、それ以降ハルさんにどう接していいか分からなくなってしまったそうです。それまでにも、ハルさんが普通の子供と少し違うことは気づいていたそうですけど、その上司とのことがきっかけで確信に変わって……」


「……」


「そうして、お父さんはハルさんを避けるようになりました。それが原因でお母さんともよく喧嘩になってしまったそうです。お母さんは、お父さんの露骨な態度の変化でハルさんが傷つくのを防ぎたかったんです」






「え……じゃあ子供の頃よく親が喧嘩していたのって」



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