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8.目指すのは

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何かが違う。

今日の朝は何かが違う。

アセナが思ったのはそんなことだった。

だが、何が違うのか分からない。

一旦、その感覚のズレを頭の隅に追いやり、リリアとの実習訓練へと入った。

リリアの持つ古びた本に、アセナが興味を示したため、リリアは笑う。

「ふふ、興味ある?」リリアがアセナに告げると、アセナは輝いたきれいな笑顔で大きく頷いた。

リリアが教える魔法をアセナは好んだ。

何処か華やかなその魔法は、アセナの心を掴んだから。

リリアは手を本に翳した。

ぶつぶつと、呪文を唱える。

「っ!!」

アセナの理解が出来なかった文字が、何故か分かるようになっていた。

少々辛いようで、アセナは少しよろめく。

「大丈夫?」リリアは、アセナに聞いた。

「平気です。」アセナはそう答える。

「世界一のドラゴーネを、ドラグーンを目指すならこれくらいは頑張って見て。」リリアは微笑んだ。

アセナが目指すのは世界一じゃない。

叔父のような絆を大事にするドラゴーネだ。

だが、それを知るのは、アセナと叔父と、セルスだけ。

アセナは誤魔化すように微笑んだだけだった。

竜は主を持ってからは、主の得た呪文を使い成長する、といわれている。

そのためか、アセナが呪文を唱えるたび、キルアは翼をファサファサと揺らしていた。



昼。

リラとアセナが話をしていた。

ばさり。

と、リラの教科書が舞った。

アセナの目に、リリアに教えてもらった魔法の呪文がちら、と見える。

「あ、これ今日やったよ。」

アセナは嬉しそうに言う。

本当?というようにリラは目を見開いた。

「できたの?」リラは聞く。

「うん。ちょっと、難しかったけどね。」えへへ、とアセナは笑いながら言った。

(ちょっと、って。セルスならわかるけど。)

アセナが出来た、と言った魔法はクラスAの上位メンバーが習う魔法であった。

クラスBから上がったばかりのリラには出来ない魔法。

「じゃあ、こっちは?」リラは聞く。

「そっちの方が簡単だった!」アセナはそう答える。

「セルスにも勝てるかもしれない!世界一のドラゴーネになれるよ!」リラはかなり興奮したように言った。

アセナは複雑そうに微笑んだ。

「どうしたの?」いつもと違うアセナの反応に、リラはアセナの顔を覗き込みながら聞いた。

「なんでもないよ。ちょっと、考え事。じゃあね!」アセナは、リラにそう誤魔化すように告げて、逃げるようにその場を去っていった。

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