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14.推薦

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「今日は、俺の家に来てもいいけど?」

セルスはアセナが試験を頑張った祝いに、アセナを家へと呼んだ。

アセナは、セルスの自宅に訪れ、ソファーにちょこんと、座っていた。

ソファーに顔をポスリ、と埋める。

「セルスの匂い……お日様のような香りね。」アセナは、そう呟いた。

「追い出すぞ、変態。」

「嫌!!」

アセナは、ちら、とセルスを見て、言う。

セルスの薄く筋肉のついた腕が、アセナの腕を優しく掴んだ。

セルスはその手をゆっくりと重ねて、アセナの隣に座った。

なあ、とセルスはアセナに呼びかけた。

「なあに?」アセナはこてり、と首を傾げて聞き返す。

セルスの体が近く、アセナはドキドキしているのか、頬が朱に染まっていた。

「お前、俺が居なくなったらどうする?」セルスはそう聞いて、アセナの返事を待った。

「……仕方ないよ。…永遠に側にいられるわけじゃない。……だって、セルスと私の目指す場所は違う。目指す場所が違うなら、当然、行くべき所も違う。……セルスと離れるのは、辛いけど…大好きだから。大好きだから、離れることを選ぶの。」アセナは言った。

「俺は、分からない。………お前の大好きは、忘れられる程度なんだろ!」怒ったようにセルスは叫んだ。

アセナにセルスの言った言葉が突き刺さった。

(どうせ……忘れられる?どうしてそんなことを言うの?……貴方に何が分かるの?私のこの気持ちを知らない貴方に!)

すぐ側にいて、この手が触れ合っていても、アセナの気持ちは伝わらない。

「セルスには分かんないでしょ!」アセナも叫ぶ。

アセナはセルスの手を離し、ソファーから立ち上がる。

「あぁ。分からない。」

セルスはアセナをジッと見て、言った。

「どうして、そうやって、すぐに手を離すのよ!どうして、面倒くさくなったら諦めようとするのよ!」アセナの口調が変わり、大人っぽい雰囲気でセルスを見つめ、言った。

(私は届けようとしただけ。真っ直ぐに、自分の気持ちを。それさえも、貴方には届かなかったの?)

射るようなアセナの目がセルスと合った。

「それはお前だろ!?」

セルスの言葉にアセナの頭を冷やしていく。

「大好きって言いながら、どこに行ってもいいんだろ!その程度の気持ちで大好きなんて言うな。」

アセナは、セルスのその言葉に悲しそうに目を伏せた。

大好きだから。

何処に行っても想っている自信があるから。

アセナはそう思っていたからこそ、セルスに言ったのだ。

だが、それの気持ちはセルスに伝わることが無かった。

すれ違い、二人の距離はどんどん離れていく。

それがアセナにはわかった。

そのとき。

セルスにアセナは押し倒された。

驚きに目を見張ったアセナの唇に柔らかいモノが押し付けられる。

柔らかいソレは唇。

セルスの唇だった。

「大好きっていうのは、なにがなんでも離したくない気持ちなんだよ。アセナの大好きは大好きっていえない。」

セルスの言葉に、アセナは再び悲しそうな顔をした。

大好きのカタチは人それぞれだ。

もう少し大人であればそれがわかっただろう。

だが、二人はまだまだ子供だった。

だから、大好きのカタチに気付かない。

「逃げてるのは、貴方の方よ。……セルスなんて、何処にでも行って仕舞えばいい。」

アセナは、そう言うとするり、とセルスの手から逃れ。

そして。

部屋から外へ出て行った。

アセナは走った。

涙が流れては落ち、落ちていけば涙は流れた。

(大好きなのは、変わらない。無邪気に装って、鈍感でいようとして。それでも、私は変えられなかった。それでもいい、と肯定してくれたのは貴方だった。だから、という訳じゃないけれど、私は貴方が大好き。……だから、私の気持ちを否定しないで?貴方を好きな気持ちは誰にも負けないの。だから……)

「この気持ちが貴方に全部筒抜けになってしまえばいいのに。」

アセナの呟いた言葉は夜の闇に消えていった。
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