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出会い、動揺、単純脳

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「確認しろ。これに勝ったら俺がこの国の代表だ。そうだな?」
「ああ。認めよう。私の力が君の力に敗北した時、それ即ち君の勝ちだ」
一万の客が囲う喧しい闘技場のど真ん中に二人の能力者が挨拶を交わす姿を俺はボーッと眺めていた。
何で今更こんな戦いを見せられてるんだ?師匠の戦いなんてもう見飽きてる。凄い戦いはこの外でもっとあったろうに。
勝者は世界を動かす代表となり全ての権限を持つ。敗者はただの一般人だ。そう聞けば確かに世紀の一戦かもしれない。でもそんな試合嫌という程見てきた俺に、もう大した緊張感も感情も沸き立たない。
師匠はこの試合で全てを教える、って、最後だ、って言っていたけど、何の意味があるのやら。
能力どころか相手の力さえ全てを奪い取り、それを全て力として利用する師匠の能力。それは間違いなく最強で、誰かが敵う筈のないものだ。
最強の力には誰も敵いやしない。何人、どれだけの戦力を集めようが、そんな最も強い力を倒すのは不可能だ。
可能であるならばそれを超える最上の能力を持つ者、たったそれだけだ。それだけ……。
そう、そして、幾億と存在するこの世界に師匠を超す最上の能力を持った者は見つかった。
この時の俺は確かに全てを知った。
会場内に帯びていた凄まじい熱気は一瞬にして静かに冷めた。
そんな光景に目を疑った俺は至って平常心ではいられなかった。
最強とは容易く最強に破れて……。負けた責任は全て背負わなければいけないという事、俺が師匠を頼りきっていたという事実、目指すモノの単純さ。それをその場の光景と共に脳裏に焼き付けた。
試合分数約三分、あんなにもあっさりと、師匠は負けた。
相手の力が何だったのかは、気にしていなかったし、覚えていない。
「師匠!!」
俺は一目散に客席を飛び出し横たわる師匠を上から覗いた。
「分かっただろう、これがお前の生きる世界だ」
「……あんな相手になんで」
「私より強かった、それだけだ」
「俺が……昔に……あんなことをしなければ」
「昔の私が頼りなかっただけだ」
「何故今日、この日に限ってこんなものを俺に……。まさか最初から分かって……」
「考えすぎだ。次はお前だ。私はお前を望んでいる」
正に晴天の霹靂。ただの日常だった、はずの今日は、人生の岐路として刻まれる大切な日になった。
「お前がこの世界を変えるんだ。望むままに。能力があるか否か?この世は力が全てだよ」
師匠はそう言うけれど力は能力という言葉に変換されるんだと俺は思う。





「あ、あの!私と……」
「え、あ、はい」
唐突ですね。皆様こんにちはお元気してるでしょうか、僕は元気です。え?いや誰かと聞かれても……ただのしがない高校生ですよ。現状をお伝えしましょう。……まあ、最初の一言でお察し着くと思いますが、この僕……、へへ、自分で言うの恥ずかしいな。あれ?俺ウザくね?
人通りの少ない閑散とした屋上付近の階段廊下で美少女のもじもじと恥じらう姿が俺の目に映る。
最初は新種の詐欺師かと思ったけど、赤らめた頬と仕草を見るになんか違うっぽい。多分おそらく間違いないと思いたい。
「私と……」
……随分と溜めるなぁ。それだけ緊張しているという事なんだろうけど。
ちらちらと揺れる毛先の揃った黒い前髪の奥から碧く済んだ猫の様に鋭く大きい瞳が上目遣いでこちらを見ている。
……小さいな、百四十センチくらいか?この小動物、間違えた、この子、なんだろう無性に弄りたくなる。
「私と!!」
ッ長いよ!!間が耐えられないよ!
華奢な身体つきと整った顔で迫られるのは凄い嬉しいけど、間!!マ!!ドラマ張りに溜めるやん。
「私を……」
を?ちょっと形変えて来たね。文章が頭で定まったのかな?
「私を!」
「……はい」
「下僕にしてください!」
ん?!?
「げぼっ……ええ?げっぼっ!?げっぼ!?ぼぼぼ?」
どの角度から飛んできた!?『付き合う』の上位互換という事でいい?いや、違うなぁ。
当然驚きを隠せる筈はなく、寡黙キャラを突き通していた高校生活が吹き飛んだぞ。体まで入れてリアクションを取ってしまった。
「あ、す、すみません、急に……」
「い、いや、いいよ、いや良くないけど。って、なんで?初対面だよね?君みたいな美少女が何故?」
「び、美少女なんて」
そこだけ反応すんな。引っかかる所もっと他にあるだろ。
「つまりどういう事?SMプレイでも希望してんの?」
「え?あっいや……そう言う事ではなくて……」
ボンッ!と顔をゆでだこの様に赤く染め上げて恥じらいを見せる姿は可愛いけども!!
「じゃあ、どういう意味合いで言ったんだよ……」
ここから愛の告白というシチュエーションが、なんてあり得る訳ないよな。さらば俺の青春。……いや、もう考えるのは止そう。……嫌な予感がする。
「私を貴方のお傍に」
「ごめん、遠回しな言い方じゃ分かんないんだわ」
聞かなければ良いものを……。
「……パートナーにして、欲しいんです……」
……ほれみろボケが。予想は完全にどんぴしゃりだった。
「私は昔から……」
昔、それを言うのなら分かって欲しい気持ちもあるんだが……。まあ、俺の気持ちははっきり言って決まっている。
「ごめん、無理だ」
無慈悲かもしれない、冷淡にあしらって、彼女の気分を害したかもしれない。……でもパートナーになって痛い思いをするよりか断然ましだろう?
「え?」
そ、そんな切ない顔で見つめられても困るなぁ!!一瞬笑みが零れたけど多分幻だ。
「それじゃあ行くよ」
「ま、待ってください」
なんと言われようが俺がカーテンの様に容易く靡く事はあり得ない。彼女の視線から体を背け階段を下る。ちょっとカッコよくない?俺。
「雷斗様!!」
さ、さま!?主従関係が明確だ!だがそんな事言われても振り向かないぞ。
「う、うう……」
どれだけ泣いても結果は同じだという事を学んで欲しい。俺じゃ……駄目なんだよ。どいつもこいつも強さを求めてるくせになんで無能力の俺なんだよ。自分の価値観ばっかり……っと、やばいやばい落ち着け。
「雷斗様は代表になるべきお方なんですよ。私がそこまで導きますから!」
自分じゃなく、俺を?何言ってるんだ?こいつ。どいつもこいつも自分の事しか頭にないってのに……。
「私は貴方のお傍でのお慕いを中学一年生の頃から望んでおりました」
……中一?何でその時期だ?
「中二じゃなくて?」
ふとした疑問に階段の途中で足を止め、俺は少女の方へ体を向けた。
「いえ、私は貴方様が転校したての時からずっと思い馳せておりました」
「お、思い馳せるとは……」
「あああ!いえ!それは烏滸がましいですよね。と、取り敢えず私は貴方のパートナーになるためにここに来ました!」
いや、それで良いんだって。人生のパートナーになるために来て欲しかったんだって。
「お前は俺の事知ってるんだよな?」
「全て!」
全て!大きく出たなぁ。
「じゃあ、あの事件も知ってるんだよな」
「……二年の時ですよね」
「ああ」
「でもあれは雷斗様は一切悪くないですよね?」
なんでそんな純粋な眼差しで俺の方を見れる?なんでそんな、俺が悪くないなんて言えるんだよ。……人を殺してるんだぞ?
……やめだ、テンションが下がる。ここを去ろう。
「いや、俺以外悪くないんだよ。分かってるだろ?いや、お前に当たっても仕様がないよな。あれこれ聞いて、悪かった。もう行くわ」
「え……まだお話の途中で」
「ごめん、俺はもう代表は目指してないんだよ。生徒会戦挙に出るつもりもパートナーになるつもりもないんだ」
「貴方様が……何故……」
彼女は全身の力を失ったようにズルッと膝から頽れた。正に脱帽と言う感じだろう。
「……」
二度目はない。俺は体の向きを戻して、自分の教室へ足を進めた。
パートナーなんてクソみたいな制度が無けりゃ俺だって代表を目指していたよ……。





ふう……遠いわっ!
デカすぎるんだよ、この高校。収容人数1万以上の学校となればそりゃあ校舎の大きさも敷地内の範囲も桁違いだわな。ザ・マンモス校。
歩いて十五分、やっとこさ教室に着いたわけだが、もうなんか疲労困憊といった感じだ。
何故こんな大きさの高校が出来たかだって?全然興味ないだろうけど教えてあげよう。代表の希望、それだけだ。強ぇや奴を集めて教育すべき、強ぇ奴と戦いてぇ!らしい。ドラゴンボ〇ルかよ。
反対しようにも代表が強すぎて勝てんし仕様がない。
教室のドアが自動で開くと涼しい風がフワッと俺を迎え入れた。クラスメイトとおはようの挨拶を交わし、自分の席に着いた。
「おはようございます」
ここで隣の子とまた挨拶を交わす……ん?こんな声だったっけ?あれ?可笑しいな、既聴感が。
「雷斗様」
あれれ?おっかしいなぁ。転校生かな?ややっ、んんー?よく見ると知ってる顔だなぁ。
「なーんでここに居んだよ」
「おはようございます」
「ああ、おはよう。じゃなくて!お前クラスどこ?」
「一組です」
最強じゃねえかこの野郎。俺と真逆のクラスやん?強さランキング一位のクラスとゴミの比較なんて誰が嬉しいんだよ。
「嫌味か?」
「え?」
そんなつもりはない様子だ。にしても何をしに?自然に怪訝な顔つきになってしまう。
「先程の会話の続きしましょう」
あんなに恥じらってたのに急にめっちゃぐいぐい来るやん。高校デビュー並みやん。
「嫌だよ」
「では独り言を」
メンタル鋼かよ。
「私は折羽千鶴……十七歳です」
……独り言なんだよね?漫画の冒頭に入るナレーションみたいな感じ??そう言う感じなん?
「雷斗様とパートナーになるために五年間生きてきました」
ううん、過った人生の使い方……。いや、なんやかんや聞いちゃっている自分がいる!
「私はストーカーをして更に雷斗様の優しさに触れました」
しれっと犯罪犯してなかった?今。
「雷斗様の凄さを語るには一日は必要でしょう……」
何この子、崇拝者なん?
「語りましょう」
やめなさいよ、そう叫びたかった、ただ抑えろ俺。独り言だ、独り言…………、じゃねえだろどう考えても。
「雷斗様の考え、尊敬ランキングで一位なんですよね。しかも幾万とある選択肢の中からなんですよ?」
何を馬鹿な……、俺の考えなんて気持ちなんて、不正解だったのに。いや待て、何その怪しいランキング。
「今の雷斗様はそれを否定しますが、私は肯定します。それを正しいと、その生き方が幸せを呼び込むと、誰になんと言われようが私はそう考えます。雷斗様がそう思わずとも私はその考えに惚れ、付いていくと……決めました」
……その考えが誰かを。
「誰かを?」
え?何で心読まれてんの?
「誰かを傷つけた?ありえません。あの事件だってあなたは誰も傷つけなかった、むしろ悪でさえ救おうとした」
そして足元を掬われた。
「それは雷斗様が一人だったからです」
なんで会話してんだよ。
「どちらかが百パーセント悪いなんて事はほぼない。何かきっかけがあって理由があって……、誰かが親が友人が見て見ぬ振りをしているから悪が蔓延る、雷斗様はずっとそう言っていましたよね。敵であれ何であれ優しさを見せて、慕われることもたたありました」
半分以上は失敗だ。
「雷斗様が一人だからですよ。こんな素晴らしい人に全ての責任を押し付けている、そんな状態で全員を救えるとは思いません。人にも限度があります。でも私が貴方を支えます。そうすれば必ず上手くいくはずです!」
言い切ったなぁ。何?相方立候補選手権ですか?
「そうです!」
そうなんだ、いやマジでナチュラルに会話すんのマジでやめろや。
「どうですか?私」
私かわいい?みたいな言い方すんのやめろ。ってか完全にこっち向いてるじゃねえか。俺も視線が勝手に折羽を追ってるじゃねえか。
「戦いたくないのならば私が全てを屠ります。苦しいのならば何をしてでも雷斗様を支えましょう、守りましょう」
「なんでそこまで……」
ふと気づくと口から出ていた言葉。それに対して折羽は
「そりゃあ私の一番大好きな人ですから!」
そう満面の笑みで答えた。
「俺の考えは人を殺すよ、間違ってる」
「いいえ、貴方は人をを世界を救います。人を傷つける人を私が尊敬するとでも?このssランクの私が見誤るとでも?」
ふふん、とドヤって胸を張る姿もなかなか可愛らしいけども。
「誰とでも、何とでも平等な態度で、見方で、味方で……。悪だから、善だから?人にはどうあれ理由がある。そんなことを関係なしに救う、貴方様が素敵ですよ?」
正直心は動揺している、俺はどうしたらいいのか、代表者になりたい気持ちは確かにある。でもそれ以上に過去がそれを拒み続ける。
「……無理だ」
「いいえ、出来ます……」
「そろそろ授業始まるぞ」
「構いません」
「隣の席の人の気持ち!!」
「ふふ。ほら、人の気持ちを慮る……。優しい人ですね」
「みんなやってる、当然の事だ」
「いいえ、誰もは出来ません、皆さま結局行きつくところ自己中ですからね。こういう小さなところで本当の気遣いが出来る人は優しいのですよ」
「過大評価だ。さ、行った行った」
結局自分の気持ちに正直に生きることは出来ないんだよ。どれだけ人を助けようと試みても、あの悲しい顔が……頭を過るんだ……。
俺は折羽の背中を押し、教室から追い出す。揺らぐ気持ちに蓋をするように。
「私は諦めませんよ、待ってますからね!!」
釘を指すように捨て台詞を吐いてやっと教室から去っていった。
「ようし、授業はじめっぞー」
それと入れ違いで先生がナイスタイミングで入ってくる、よしこれで切り替えが出来そうだ。と思った。
思ってたのに。
なんで今日に限ってこの授業なんだよ……。

『生徒会戦挙 パートナー制度とは?」

デジタル板書に先生は大きな字でそう題をつけた。
「はい、神森、生徒会戦挙とは?」
しかも俺使命かよ、全員グルなんじゃないかと疑いたくなる。
「生徒会戦挙は一年に一度開かれる能力最強者、つまり生徒会八名を決める大会です。能力を使ったガチンコ勝負をトーナメント方式で行い、優勝者から生徒会長、準優勝者、副会長、書記、会計、と役職が付いきます。更に生徒会長になった者は代表への挑戦権も獲得出来ますね。更に更にその挑戦権は政府のトーナメントを無視して使用出来る為、誰にも邪魔されず代表と戦う事が出来ます」
話は脱線するが、その挑戦権を持っていない者だと、まず政府の門番から全てを倒していかないといけない。体力も全て削られるし、やってらんないよな。ま、ほぼ政府の犬、しかも一番手にやられてんだけどな。歴代生徒会長になって代表に勝った奴なんて一人もいない。というか勝負にすらならない。良いように弄ばれてんな。
それでも馬鹿みたいに挑戦者が生徒会戦挙に募るのは凄ぇ良い職に就けるからだ。俺には関係ない話だけど。
……そう言えば最近の生徒会長が代表と戦ってる姿は見ないが、はてさて。
「流石は知識だけある男だ」
地味にディスられた?
「よし、座っちゃ駄目だぞ」
え?座っていいよの流れじゃないの?
「パートナー制度とは何でしょう」
それを教えるのが教師の仕事じゃないのかよ、まあ、いいや。
「代表が決めた、相棒制度ですね。一人だと出来ないことも二人だと可能だよ、支え合おうよ、的な適当な意味合いから作られた制度で、代表者になりたいものは相棒と共に挑むこと。生徒会戦挙やその他、争いごとでも同様」
「はい、ありがとう、ちょっと灰汁が入ってたけど、まあ、神森だししょうがないよね、座っていいよ」
しょうがないってなんだよ。先生僕一応優等生なんですけど。
これでやっとこさ座れた。後の話は先生全部喋ってた、絶対俺に喋らす意味なかったよな?
「はい、今日はここまで、各自自習するように」
今日は昼までの授業だ、さて帰ろう、とっとと帰ろう。ストーカーにばれる前に帰……「帰りましょう、雷斗様ー」
早えよ。犯罪者。
「また今度な」
「え!今度なら良いんですか?」
「ああ。百年後な」
「はい!!!車椅子で向います」
やばい、この人未来見据えてるわ。
「っと、普通に用事があるので行きますね!ではまた明日!お元気で!」
「ああ」
びゅーんと去っていく。ここ来た意味なんだよ。用事あるんじゃねえか。
まあ結果オーライか。これが続くようなら不登校も考えなくもないけど。
なんかどっと疲れた気がする……。早めに帰りたいけれど家が歩いて一時間の距離だ。のんびり帰るか……。
方針を決め、敷地を十五分歩けばやっと学校から抜け出せた。そこからビル&商業地帯を歩いて、人ごみに流され、大分家へと近づいてきた。
やっぱり学校から離れると先程の活気は閑散へと変わる。まあ、学校が中心の都市だ、そこに何でもあり人が集まるのは当然だな。
「おお、優等生君。ちょっと顔貸してくれる?」
そして人がいない所に変な奴が現れるのも自然の摂理だ。
身長百八十センチの大柄な外国を両サイドに添えて真ん中に居座る百四十センチのちっさいおっさん。
ちっさ!え?隣が高いとめっちゃ小さく見えるよ?やめたほうがいいよその陣形。
「何か用ですか?」
「ああ?」
な、なんか気に障ること言ったか?くいッとサングラスを持ち上げて、眉間にしわを寄せている。やっぱ小さいな、なんかスケールも小さい。迫力なさすぎだろ、子犬の方がまだあるよ?
「お前……」
「はい?」
「俺が誰だか分かるかぁ?」
いやだからふんぞり返って自分を大きく見せてもちっちゃいのよ。マスコットなのよ。
「いえ、存じ上げません」
「なんだっ!……そうかぁ」
なんで悲しんでんだよ。もっと高圧的に来いよ。なんか悪者みたいじゃん、俺。
「まあ、いい、ちょっと来い」
「……」
「何黙ってんだよ?お前無能力だろうが、能力者のいう事は……?」
「……絶対です」
「よくわかってるじゃねえか」
世の中そう言う事だ。
小さいヤーさんに従い、付いて行く、いや違う、隣の巨体に警戒をして付いて行くのだ。
おっと、これはなんだ。隊列を崩すことなく背中を向けて歩く三人だが、小さいのを挟んで巨体同士が手をつなぎ合ってるぞ。どんな反応するのが正解?いや嬉しそうに頬赤らめんなや。真ん中気まずっ。
出来てる奴らは放っておこう、見て見ぬ振りが一番良い。チラチラと手を繋ぐ姿が見えて萎えているとピタッとヤーさんは足を止めた。
うおっと、着いたのか?どこだここ……。
そして連れてこられたのは裏の空き地だった。想像ついたわな。
はあ……。
………………は?

「すいませんんんんん、私達に力を貸してくれないでしょうかぁあ!!!」

……は?
「……は?」
待て待て待て待て、状況の、じょの字もわからん。俺達が路地裏へ入った途端に土下座でこの様子だ。は?
……は?
何度でも言わせて欲しい。……は?
「いや、なんでこんな回りくどいやり方?」
「こうでもしないと話を聞いてもらえないと思って」
「このやり方で話聞いてもらえるって思うお前らの思考回路何?」
いつの間にか立場が逆転してしまった。にしても何故ここまで必死にせがむんだろうか。
「で、何のつもりなんだ?ってか本当に誰?」
「わ、私は高校二年、三十組、最底辺であります!!」
「なにその自己紹介」
「いえ。兄貴は」
急な上下関係は何なの?流行ってんの?
「兄貴は最底辺の男のくせに……二十組までクラスを上げていますよね?」
「のくせに?喧嘩売ってる?」
「め、滅相もございません」
「俺の事はどうでもいいから、率直に用事を言えよ」
「は、はい。私達を助けて欲しいんです」
「内容を言えって言ってんだよ」
「は、はい!!えと……、私らは写真サークルを行っている者でして」
「何?モデル?」
「いえ間に合ってます」
死にたい。
「私達の他にもう一つ同じようなサークルがあるのですが、そいつらがお遊びでやっている私らのサークルを許さないと、いちゃもん付けてきまして……」
「お遊びでやってるのか?」
「確かに本気度は違うと思います。私らは趣味の延長線上であって楽しければいいのです。ですが、そんなふざけた理由は許さないと」
「理不尽な話だな」
「でしょう?それで、私らのモデルをしてくれる女の子がいるのですが……」
「その女の子を引き渡せと?」
「……はい」
「……可愛いのか?」
「……モチです」
「もてはやされてる?」
「すんごい」
「なるほど。サークルの姫と言うわけか……」
「い、いやまあ、否定はしませんが……。本当に写真を撮る時に絵になる人なんですよ」
「それで?その人を取られたくないなら決闘しろって?」
「はい……チーム戦で、五対五。戦闘練習用の茂みエリアのアリーナを貸し切ったらしく……」
「今日?」
「はい」
「随分とギリギリに頼んできたってことは、他の宛は全部外れたってことか」
「流石、仰る通りで……」
「まあ、能力者共が報酬なしに聞くとは思えないし、何となく分かる。……折羽に言われた?」
「……?いえ、私のサークルの一人に同じ中学の奴がいまして」
キョトンとした顔を見せているのが演技なのかどうかは定かではないが、見た限り折羽の画策ではないみたいだな。
「調子に乗ってた時の事を知っていた、って事か……」
「……ど、どうでしょうか」
「む……」
無理、即座にその言葉を言うつもりだったのに。助けて、と言われた時から決めてた筈なんだが。
『貴方は人を世界を救います』か。あいつの言葉が頭にポッと浮かび上がって、詳らかに内容まで聞いて。何やってんだろうな、俺は。
……本当に俺のやってるい事は間違っていないんだろうか。あのやり方は甘さじゃないのか?また爪が甘くなったら……?
ああ、うざい、頭の葛藤が俺の心を揺らがせる。……もういいや。

『私は貴方を肯定します……』

……はあ。
一回だけ、もう一回だけだ。アイツがあそこまで言うんなら。
「やってやるよ」
「……え?」
「なんで、お願いした本人が驚いてんだよ」
「い、いえだって、本当に聞き入れてくださるとは思わなくて……」
「まあ、なんだ、気まぐれだ……。どうするんだ?そんなキョトンとして、呆けてる時間はないんだろ?」
「は、はい!ありがとうございます!!本当にありがとうございます」
「言っとくけど、勝てる保証はないし、勝った後に面倒ごとになろうが俺に責任を押し付けるのはやめてくれよ」
「大丈夫です!!」
「言ったな?」
釘を差してから徒歩で学校へ戻る事になった。いや、戻るの面倒くさっ!!ここからまた一時間かけるかと思うと萎える。やっぱ辞めとけばよかったか?






「よく見つけたな、ぷっ……」

アリーナに到着してどこにでも良そうなちょっと調子乗ってる学生の典型的奴から半笑いで言葉を貰った。
なんで笑っているかは大体予想は付くな。俺の入ったチームより能力者レベルが高くて余裕綽々と言った感じだろう。舐めてかかってくれるならそれに越したことはない。
「あははははは!!無能力の優等生じゃん!!何が出来んだよ!!」
俺ってそんな有名だっけ?誰からも声なんて掛けられなかったけど……?あ、嫌われてるわ、これ。
笑い転げて手を地面をだんだんと打ち付ける、こいつは何者なんだ?
「兄貴……こいつがリーダーです……」
「なるほど」
耳元でそう相槌を俺に送ってくる。どいつもこいつも簡単に俺の気持ちを汲み取るんじゃない。
「早速始めるぞ?ルールは簡単だ、五対五で全滅したら負けだ」
「ああ、わかってる」
「けっ。ため口とかゴミかよ。碌な活動もせず呆けてばっか。力もない奴らが調子に乗ってるんだよなぁ。ずたずたにしてやるよ……。優等生、お前もそっち側に立ったんだから分かってるよな?」
おー。こわーい。
「あの女だって俺らとやった方が幸せなんだよ!!」
「あの子の意思を聞いたのか!?」
「あいつはお前らにそう言わされてる筈だ!!」
「俺達が脅迫でもしてるってのか!?」
「そうだ!全部お前らが悪いんだ!!雑魚が粋がるから、あいつにはもっといい場所が「いや、長えよ。もういい?」」
流石に埒が明かなそうだったから割って入ってみるが両者共に気持ちのぶつかりようが凄い。二人ともが言いたいことだけ言って聞く耳持たないなら、結局水掛け論だろ。……こりゃどっちもどっちだな。
「勝負すりゃ分かることだろ」
「ふっ、優等生良いことを言う」
「だろ?早くやりましょうや」
面倒ないざこざを俺のカリスマ性で仲裁した後、ちっちゃいのにつられ茂みの中へ身を隠す。
「あれ?他の奴らは?」
「もう既にスタンバイオッケーな状態です」
ってことはこの森の中に潜んでるわけか。なれた足取りで多分仲間の元へと向かっているのだろう。
「あれ?さっきの巨体は?」
「あ、あの人たちは雇いました」
「は?どゆこと?」
「いえ、演技基部の二人で、私の小遣いで……雇いました」
「どんな金の使い道だよ。いや、その金で雇えよ、仲間」
「はぁっ!!」
「その手があったか!みたいな顔やめろ」
普通に馬鹿じゃん、勝てんの?急に不安漂わせるのやめてよ。
練習用の方が普通のアリーナよりでかいんだよな。人がしっかり一万以上は入るだろう、故に迷子者も多数とか。色んな都市伝説も広まっている訳だが。
「着きましたぜ兄貴」
「ん?」
到着と言われても何の変化もないただ森の中から森の中に移動しただけだな。
「お!連れて来られたんですね!!」
「これで一人力だな!」
何その例え。ただの一人分の戦力じゃねえか。期待してないって事でいい?
「良かったっス。じゃあ、やりますか……」
どいつもこいつもパッとしないな……、全員黒髪、白地に何かのキャラクターがデザインされている半袖Tシャツにジーパン。個性を頂戴!見分けられる個性を!!
「えっと、こいつが……カイロス和田……」
急な特別感!名前の特別感!いや、あってないのよ、顔と名前に個性の差が凄すぎる!
「で、こっちが平田で、新井で」
こっちの二人はぶっちゃけ知らん、わからん、どうでもいい。
「カイロスと平田が無能力でして」
カイロス無能力かい!名前以外無が過ぎないか!?
とまあ、適当に自己紹介を終えた所で、もう二人の持っている能力ってのが気になる、出来れば相手の力も知っておきたいところ。
「あ、言い忘れてましたけど」
「ん?何」
「俺、引き立て役なんで、皆の存在感が目立っちゃいますね」
「……つまり?」
「俺の能力は周りを引き立てる役でしてね。貴方たちの存在感がいつもより何倍にも跳ね上がってるわけですわ」
「ほう、とういと?」
「居場所もろバレですわ」
「もっと早く言えよ!!ぼけ!」
「す、すんません!」
相手に位置がばれて、こっちは全くの無力とか……。勝ち目を教えろ!!
「糸中……だっけ!?どれ!!」
「おれおれ!」
な、何こいつ圧すご、めっちゃぐいぐい来るやん。Tシャツに平仮名でノーフューチャーって書いてあるけど将来大丈夫?
「お前の能力は?」
「dランクの観察眼だぜ!相手の位置を明確に正確に見て判断することが出来るぜ!!」
おお、見かけによらず割と使える能力だな。
「今敵の位置は?」
「んー?そこの木の後ろだぜ!!」
ゾワッと背筋が凍る。
「早く言え!!」
得意げな顔で指差すな。やってやったぜ、じゃないんだよな!!
取り敢えず、後ろへと下がって距離を取ろうと試みるが、周りは全く動かない。
「え?早く言った方が良かった?」
「のんきに会話してないで全員距離取れや!やられるぞ!?」
「えー、敵とあって戦おうぜ!」
よし、わかった、こいつら馬鹿だ。勝つ気あんのか?
「ここは俺達に任せるっす!!」
「お前誰!!」
「カイロスっす」
「お前がカイロスかい!!」
無能力が踏ん張った所で、秒も持たない事は小学生でも分かってる。
「「「「うわぁっ!」」」」
ほらね?
って、四人やられてるやないかい!!
取り敢えず俺だけは身を隠すことに成功した。ちっちゃいのが倒れてくれたおかげで悪目立ちする事はなくなったみたいだ。結果オーライだな。
「ふん、雑魚が!優等生ももう諦めて出て来いよ。焼け石に水だぜ?」
「まあ、良いじゃないですか、先輩。取り敢えずこいつらウザいんでもっと痛めつけましょうや」
「お、良いこと言うなぁ、お前は。今までの苛立ちはお前らのせいでもあるしなぁ……」
「おらっ!!」
倒れている四人に向け殴る蹴るなどの暴行を永遠と繰り返す。こいつらやべえな。今夜のニュースのトピックだな。
「ぐうっ!……くっ」
良くここまで耐えている。能力者というだけで人並み以上の力を持っているのに、歯を食いしばって気絶はしないという強い意思をみせるふざけていた男達。
それほど本気だって事なんだろうな。頼られるのは嫌いじゃない……。それが本気で助けを求めている人であればあるほど。
「こいつら全然気絶しねえなぁ」
「だったらお前のサイコキネシスで半殺しにしたら?」
「おお!いいね!少しはスッキリするかも!!」
どこまでいっても、変わらない奴は変わらないな。
「ふん!」と、リーダーの男は木の幹に向けて手を差し出し多分エスパーか波動かを送っている。違ったらウケるんだけど。プルプルと痙攣する程に腕へ力を込め、やっとの重いで木を宙に浮かした。どんだけ時間かかんだよ。
「よし、行くぜ!」
「やっちゃってください!!」
ふわふわと動き出した木は男の腕に合わせて動き、右腕を天高く上げた時には男が木を持ち上げている様に見えた。ちなみにに十センチくらいの新樹だ。可愛いレベルのサイコキネシスだな。いや、普通に持て。
ただ、それを投げ飛ばした後の勢いは甘くは見てはいけない、多分刺されば人を貫通する程の力は持っている。
……。
人に当たれば、な。
「……そこら辺にしとけよ。阿保共が」
「あ?」
「せ、先輩!」
「なんだよ?今ムカついてんだよ、無能力の勉強馬鹿が調子に乗った事を言ったもんだからさぁ」
「い、いや、前前」
「は?何が言いたいんだよ。木ならちゃんと奴に突き刺さって……!?」
男共は口をぽっかり開けて驚いている様子だが、そんな驚くほどの事は何もない。ただ、俺が飛んでくる木を掴んだ、それだけだ。
「いつの間に……何で」
「何故って?」
「なんでお前如きが俺の能力を阻止している!!」
「いやいや、お前らが俺の力を見誤っただけだろ?それとも何か?無能力者に止められるのがそんなに許せないか?」
「ゆ、ゆ、許せるわけねえだろ!!」
「先輩やっちゃいますか!こいつ!」
「ああ、ボコボコにしてやれ!!」
「「「「かしこま」」」」」
了承の仕方が若いな。っと、言っている場合ではない様で、敵さんのリーダーを後ろで念力に集中させ、手前から後輩達が迫ってくる。
「やっちまえ!俺の兵士!!」
後輩aはそう言うとボロボロの錆びた兵士二体を戦闘に繰り出し、汚れた剣で俺に斬りかかる。
「うおっと」
その剣を両サイドから振り容赦なく腹部を抉ろうとしたから、当たる前に刃を二つとも手套で折った後、兵士の兜をポコッと殴れば戦意喪失だ。
え、弱っ。逆に俺が驚いちゃったよ。
「そんな、僕の兵士ちゃんが……芽衣子……由香……」
名前のセンスどうなってんだよ。
「次は誰だ?」
「調子に乗んなっ!!背後、取られてるぜ?」
「誰が?」
「!?」
鼻で笑いさえできる余裕がここにある。背後にいるなんてこと能力使わなくても気配でバレバレなんだよな。
後ろから剣を振りかざす男だが首を傾けるだけで回避出来た。大雑把な敵の振りは好き放題の隙しか見せず、どこへ打ち込んでも急所になりそうだったため、取り敢えず肩に拳を一つ入れた。
「うぐあっ!!」
地面に倒れ、肩を抑え痛がる姿、これは大袈裟だろ、リアクション芸人の域に達してるよ。
「なんだ、イキってた割にこの程度かよ?」
「なんで、無能力のくせに……いや、能力に目覚めたか!?」
「俺は生粋の無能力者だよ」
「じゃあ何故……」
「能力に囚われてるお前らには分かんないだろうよ」
あと、三人。
「はんっ、雑魚がやられただけの事、俺のスピードについてこられるかな」
そう言いながらなんで俺の目の前で反復横跳びし始めるんだこいつ。
「ふ、当てられるか?お前に!お前みたいなゴミに!」
まあ、こいつは放っておいて……、周囲を見渡し状況を確認すると、まだやってるサイコキネシス、あと、倒れた二人に敵が一人何かをやってるな……。
傷が、癒えてる?回復系の能力か、ちょっと厄介だ。
「すまん、お前どけ」
「うぷっ!」
取り敢えず目の前の鬱陶しい反復横跳び野郎の足元を掬い上げ、地面に尻餅をつけさせる。
「な、私のスピードが!!」
「見え見えだ……。Sランクのスピード知ってるか?」
「い、いや……」
「ほぼ瞬間移動だぞ、あれ。チートな。お前もそこ目指して頑張れよ」
「あ、ありがとう」
なんで礼を言われてんだ、俺は。
「こ、これで直しますからね!!」
一人の少年は治癒に専念しているが、俺がもう真後ろにいることを分かっていない様だな。
「なっ!今反復横跳びさんと戦ってた筈なのに!!」
アイツのあだ名まんまやん。
「悪いな」
俺は首に一つ手套を入れ優しそうな少年を地面に寝かせた。
「っと、これであと一人、これでまあこいつらとか俺にああだこうだ、言えたもんだな」
「何を勝った気になっている!!お、お前はここで俺にやられるんだよ!そしてあの子は俺のものになるんだ!!」
「お前の方がまじめで、強いからか?」
「ああ、そうだ……俺は強い、あいつらの様なゴミとは違う……」
「じゃあさ」
「なんだ」

「俺がお前を倒したら全部俺の言う通りにしろよ?」

「な……」
リーダーは流石に驚きが隠せない様子だ。随分距離が離れていた相手が急に後ろから現れたんだからな。
「何故、瞬間移動など……」
「してないよ」
「じゃあ何が……」
「疑問ばっかだなお前ら、自分で少しは考えろ、世の中、社会だけが全てじゃないんだぞ?」
さあ、足に力を込めて。

……じゃあな」

「ま……っ!!」
突き刺す様な蹴りを背面に繰り出すとリーダーは何の抵抗も出来ず、諸に受け失神をした。
まさか、アリーナの端から端まで吹っ飛んでいくとは思わなかったけど……。なんか、手加減下手になったか?俺。
「ま、これで俺達の勝ちだな?」
「あ、兄貴ぃ!!ありがとうございますううう!!」
「うえわっ、くっつくなよ!!」
それは女の子だけにして!!
「あんなに強いなんて!!」
「あいつらが弱いだけだ、Sランクの奴らには勝てない」
「にしても何故そんな強さを?」
「分からんけど、色々あるんだよ」
「はあ……」
その理解していない顔のままいてくれ。
「お、まえ……勝った気でいるだろ……」
あれ?もう戻ってきたのか、リーダーさん。
「チッ!余裕そうな顔して、むかつくぜ……」
疲労困憊で体も発声もままならない状態でさえ、嫌味を言いに来たのか?
「何か言いたいことでもあるのか?」
「お前が悪いんだからな……」
「?」
「お前がでしゃばりさえしなければこんな事をするつもりはなかったんだからな!!!」
俺はまた何かをやらかしたのか?嫌な空気の流れを感じる。人の気配……。

「っけ、情けねえなぁ。ま、俺らが呼び出されたって事は察しは付いていたがな」

先程の雑魚とは違う。肝の座った感じで警戒を怠らずも圧倒的な自信と余裕。C以上の能力を持っているってことだな。
にしてもそんな奴が何故……。
「し、知ってるか、お前ら……。ここは木の中だ……。誰が見てると思う?」
成程、最初から勝ち以外の選択肢を残していないわけだ。男は同じく五人、そしてその後ろに怯えた女の子が一人。十中八九、こいつらが争奪している子だ。
勝ったらそのまま自分のものに、負けても他の奴らに力を借りて、無理矢理でも俺らから了承を得る、か。
「お前ら今からこいつがどうなるか分かるかなぁ?」
ゲラゲラと笑いながら男共は女の子を囲んで体に触れる。
「う、うう……」
少女の辛そうな声……に、やっぱ思い出す、あの時だって俺がいなけりゃあんな大事にはなってない。悲しい顔をさせてない……。見なくて済んだんだ。
……やっぱ駄目だ。俺は間違ってるよ、折羽。俺がでしゃばればでしゃばる程、誰かが傷つくんだ。そしてそれを打開する術が俺にはないんだよ。
戦おうと、倒そうと何度も意気込んでも体が付いてこない。見ているだけは嫌なはずなのに、まだどうにか出来ると思っているのに、なんでこうも上手くいかないんだ。

「それはですね……」



「雷斗様を支える人がいないからですよ?」


その言葉と共に現れた少女は一つニコッと笑って俺を見た。
「折羽……千鶴……」
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