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過去 逃亡 エゴイスト

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思い出す、鮮明に。
あのトラウマが……。
赤く燃える夕日が目に映ると俺の手首から鮮やかな赤色の生暖かい液体がドロドロと流れてきていた。
「……相応しくない」
俺へ憎悪を抱き睥睨する。初めてみた相方の顔だった。なんでそんな辛そうに……。
俺は液体を伝い原拠を知った。
「あ……」
声が出なかった。
突き出した短刀が流血をしている。否、相方の胸部を抉り、そこから血液が溢れ出している。
俺が……。俺がやったのか……、
……うあ……。
「あ……、ああ…………………………あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
空に向かって吠えど叫べどそれは虚無であった。
記憶が……欠如していた。突如として理性を失い、百といる敵を掃滅し……大好きな相方にまで手を掛けた。
何でこんなことになったんだろう。
「貴方が全部悪いのよ?」
上から目線でそう嫌味たらしく言うのは相方の姉弟子、大島薫だった。
いや……だ、もう思い出したくない。こんなに鮮明に……なんで全部がリフレインするんだよ……。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
俺は頭を抱えて叫んだ。

「雷斗様!!」

一目散に駆け寄ろうと試みる千鶴だが、百の敵が行く手を阻む。
「邪魔ですっ!!!」
怒りに身を任せ銃弾を撃つも謎に攻撃は一切効かず、悪戦苦闘を強いられている。苦しそうな顔にいくつもの怪我。
もう、やめてくれ……。もう俺を放っておいてくれ、諦めてくれ、千鶴まで失ったら俺は本当に。
……くっ!!!
千鶴に重なってあいつの面影が映る……。なんで……、引き戻されるあの時に。俺が強ければこんなことには……。

「雷斗様。私は大丈夫ですよ」

!?

千鶴はいつの間にか俺の手を優しく包んでいた。
怪我は?していない……。いつもの可愛い千鶴だ……。
ふと周りを確認すると半分以上の者は地面に倒れている。俺は今何を……。現実?過去……。ぐちゃぐちゃになっている。
「私はここにいますよ?」
「千鶴……」
「はい!千鶴です!!雷斗様」
「?」
「私は負けません」
「……」
「そのために、努力をしてきたのですから。私は雷斗様を一生かけて守ります、迷惑もかけたくないです。……雷斗様は何の為に力を使いますか?逃げる為、ですか?」
逃げるために力を……?
違う。
「知っていますよ。雷斗様はあの事件以来、更に努力してきたじゃないですか」
「そう、俺はあの事件の二の舞にならない様に力をつけた」
「もう二度と過ちを犯さない為に」
「ああ」
俺は今何をしてた?また同じことを繰り返そうとしてただけだ。何してんだよ。
そうならない為に過去から逃げていた。なのに千鶴とはパートナーを組んで……クソみたいにどっちつかずで、馬鹿か俺は。
「ここで過去に負けてちゃまた俺は全てを失うだけだ。……悪い千鶴」
「いいえ、私が雷斗様の支えになりたいだけですから!!」
そっか。
こいつは自分のしたいことをしてるだけだ。
俺はどうしたい……か。そんなの前から決まってらぁ。
「大島」
「んー?」
「邪魔だからどっか行ってくれ」
もっと力を加えるか。

「駄目だ!雷斗!!力を抑えろ!!」

師匠……俺が力を蓄えただけで良く気づくな……。でも、これを出来なきゃ代表どころか生徒会長にさえ勝てねえよ。
千鶴がいてくれて本当に良かった。つくづく思う。
「きゃはっ!人殺しが何イキってんだか!!」
「アンタも同じようなもんだろ」
「お前は死ぬべきだッ!」
なんでこいつが怒るんだよ、いっつもいっつも、俺達は何もしていないのに目の敵にして、結局戦闘に入るんだ。
相変わらずと言えば相変わらずだな。
右拳を一撃放てば二十発の拳が広範囲に渡って押し寄せてくる。蹴りも同様。これで格闘技を何度も制覇しているというのになんの不満だよ。
それに加え五十の敵か。
「千鶴、俺にやらせてくれないか?」
「雷斗様がお手を汚す事は」
「俺の力を見ててくれ」
「……わかりました」
物分かりが良いな。コクっと一つ頷いてくれた。
「さて、やろうか」
「何かっこつけてんだよ。過去にやらかしたくせに」
「そうしない様に今ここにいるんだよ」
「だったら見せてみなっ!!」
言われなくてもそのつもりだ。
五十の敵が一斉に能力を馬鹿の様に使い、攻め入ってくる。そしていつも通り後ろから傍観する大島。
「お前、俺にやられるのが怖いの?」
「相手にする価値もないわ」
といいつつ俺達にボコされて泣いたくせに。
前回戦った時と同様、Dランクの奴らがぞろぞろと。
「あんたこそ。あーんな弱音はいてうわんうわん泣いてたくせに、戦えんの?」
「あの時と一緒だと思うなよ?」
「はは!虚言だね」
俺はポケットに忍ばせていた短刀を出し、その勢いのまま腕を横に振るって体を一回転させた。
「そんなゴミで多勢に無勢がひっくり返ると思ってるとか、ウケるんです、けど……?」
「周りよく見てみろよ?」
「……え?」
「流石……」
「加減が下手になってるな……」
「?」
「いつも抑えてた力を開放してるんだよ。いつもの制御をほんの少しだけ緩め、ほんの少し力を入れた、なんて本人は思っているだろうが、この有様だ」
師匠は大島以外の敵が音もなく地面でお寝んねしている様子を横目に見ながらそう話した。
やり過ぎたか?
「……あいつはまた人を殺すぞ?」
「いえ、私がそうはさせませんよ」
千鶴は自信ありげに即答した。
「はは、任せたよ」
「勿論です」
「さて後はあんただけだな、大島さん」
「なっ、なな!!」
「何?怯えてんの?」
「くそ!人殺しが!!」
「やられるのが嫌なら逃げろよ?自分から踏み込んどいて逃げる奴ほど間抜けな奴はいないけどな」
「うるさいっ!!」
いつもの様に拳が飛んでくる、何の成長もしてない、それどころか、雑魚くなったんじゃないのか?
「嘘……。なんで当たらないのよ……」
「攻撃がワンパターンなんだよ。優勝して能力に奢って、努力もしない、なんも変わらないな」
「くうっ!!」
拳を全て回避し、近づいた俺に四肢を抑えられ、動きを封じられたこいつにもうやれる事はない。つまり、あの時の様にはいかせない……。
……なのになんだ?引っかかる。なんであの時俺達はこんな奴らに苦戦した?そして今も……こんなに弱いなら。
「雷斗、お終いだ」
「師匠。なんで止めるんだよ」
「悪いね雷斗君!やられるわけにはいかないんだよ」
「!?」
消えた!?
地面に体を押し付け捕まえていた筈の奴が最初から存在が無かったかの様に消えた。
…………。
ああ、そうか。何とか理解が出来た。良い様にされてたのか、俺は。
「久しぶりですね、楓さん」
「ご名答、こんな荒れた挨拶になっちゃってすまないね、雷斗君」
多木 楓たき かえで。師匠の二人目のパートナー。千鶴と似た様なもんだな。相手の能力をコピーし、五割の力で発揮する。劣化だろ、と言う奴がいるが、この人の凄いところは一度使った能力は何度も使えるという事。そして幾つも重ねて使用できるという点だ。
「いえ、でもなんでこんなことを?」
ってまあ聞かずとも予想は付く。
「まあ、君の師匠がね。雷斗君のトラウマを克服させたいとかでね。一か八かだったんだけど」
「なんとか、なりましたね。でもいつの間に幻覚なんて使えるように?」
「え?私はそんなこと……」
「え?じゃあ、一体何が……。昔いた場所に俺は」
「ああ、それはね?君を助ける為に可愛い子が試練をしてくれたんだよ」
……頭イッたか?
「?は、はぁ……」
なんだか嬉しそうにそう言う楓さんだが、完全に脳味噌に妖精さんが出現してるわ。うん、そうだね、それ以上追及しちゃいけないって心も言っているし従おう。
「雷斗、よくやったな」
「いっつも大雑把だよな……」
「なんか言ったか?」
「いえ、一デシベルも出しておりません」
「ならよし。だが、少し気にかかる点がある。お前、手加減出来ていないだろ?」
「あ、そう言えば、下手になったなって思ったけど」
「そうか、感情は?」
「いつもよりか良く昂るかも」
「そうか……」
そんな事を聞いてなんだって言うんだ?深刻そうな面持ちで師匠らしくもないが。
「ま、努力を惜しむなよ」
「え?師匠が稽古してくれるんじゃないの?」
「私情でな。終わったらまたつけてやるさ」
「ええ」
嵐の様に来て嵐の様に去っていく師匠には唐突過ぎて言葉も出ん。
なんか上手くしてやられた様な気がするが、師匠の場合いつもそんな感じだし、それで失敗した試しがないからなぁ。良しとしよう。反抗しても頭潰されるし、死ななかっただけよし!!
そして後残すは……。
「千鶴」
「はい」
「ごめんな、変なことに巻き込んじゃって」
「いいえ?私は雷斗様といると決めたので」
いやぁ、良い子だよ、変質者だけど。人はそれだけで判断しちゃいけないね。
「それで改まってどうしたんですか?」
千鶴の体はびくびくと怯え、どうやら警戒している様だ。
「いや、さ」
改めて言うとなると緊張するな……。千鶴が俺の所へ誘いに来た時もそうだったのかな。早くしろとか申し訳ない事を思ってしまった。
「……俺とパートナーになってくれないか」
いや、ある意味告白だよ。青春かよ。
千鶴が拒否するわけがないと思いながらも恐る恐る表情を確認してみると、ぱあ!と顔全体を明るくし嬉々としていた。あ、これ絶対大丈夫な奴だわ。
メンタル元に戻った。
「喜んで!!」
ほらな?
「努力してきて良かったです!」と、千鶴は満面の笑みを向けてくる。
くう!笑顔が眩しすぎて直視できないぃいい!!
「いや、ありがとうな」
「こちらこそ!では早速戦挙の登録に!」
「え?」
気、早。
「ちょま「善は急げですよ!!」」
手を引いて強引に俺の体を動かす、余程嬉しかったんだろうな。え?怪力過ぎるんだけど、プロテイン飲んでる?
まあ、これが俺のパートナーって事だよな。タヨリニナルナァ……。





これにて一段階は終幕。及第点ですね。
ではまたですね、ますたー?
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