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再び

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有刺鉄線を張り巡らせた柵。その奥に見えるのは半壊したトタン屋根を錆びれた鉄骨が支えている幾つかの横長な建物。
所謂工場地帯ってやつか。規模は小さめ、随分年季が入っている。住宅地からそれなりに離れた場所にあるため、人もそうそう見かけない。
「ここ、で、あってるんだよね?」
「ああ」
「では早速乗り込みますか?」
血気盛んかよ。
「まあ、もう少し周りの様子を……「あらぁ?お客さんかしら?」」
「そんな余裕は無いようだねぇー」
図太い声とは裏腹に妖艶な美女の口調。そんな異端な存在の方へ顔をやる。
……サーカスとミュージカルを擬人化させた化け物ですか?
白塗りのメイクに、やり過ぎと思う程塗りたくった真っ赤な口紅と紫色のアイライナー。バッサバサに伸ばしたチャームポイント、つけまつげ。頬のチークは可愛くピンク♪ってなんでそこだけしっかり女やってんだ。
黄色を主にしたゴージャスなドレスを七色に光る鋭利な刺が包み込む。外敵から中身を守っているみたいだ。
何だこの人。ファッションショーにでも出る気か?いや、イカれてるよ。
その奇抜なセンスには驚いた。
「あらぁ?その顔、可愛いわねぇ。食べちゃいたいわぁ」
身の毛もよだつわ。
「駄目だよ!私が食べるんだから!!!」
「何対抗してんだよ。誰にも食べられないからね?」
「では私が!!」
なんでこんな立候補者いるんだよ。
「お話は置いておいて……貴方方、冬至ちゃんとボスが言ってた子達かしらぁ?」
「多分な」
「へえ、わざわざ出向いてくれるなんて私勃起しちゃうわぁ」
「言葉をオブラートに包みなさいよ」
「ああ、駄目駄目、濡れちゃう」
いや、違う。
「私ねぇ?警備隊長だから、悪さする子は捉えるのが仕事なのよ」
「言いたいことは分かる」
「そうねぇ。痛い目見たい?」
「見たくはないが、先に進むなら……」
「あらぁ、戦闘がお望みなのねぇ、で・も・残念ね、すぐ終わっちゃうわぁ」
後ろから百以上の加勢。これまた面倒くさいな。
「さてやりますか」
「ううん、雷斗君は先に行っていいよ?」
「え?いや、道が全部敵兵で塞がれてんだよ」
「道は開けるものだよ!雷斗君!!」
「何を……」
美衣は前に一歩出た。そして掌を相手に向ける。
すると掌から水が優しく宙に浮遊し現れた。
水系の能力か。
水は美衣の手の動きに連動し形を作る。
「龍?」
「うん!カッコいいでしょ!?」
「まあ……」
随分と余裕のまま、龍を象った水を背中においた。全長約十メートルはある龍。壮観だがこいつはこいつで化物だな。
「ほら行って」
美衣が右腕で優しく龍を誘導し敵へと送る。
敵へと衝突するまでの時間約一秒。
……まじか。
こいつ、千鶴より強い?
ここにいる皆が美衣の力に圧倒され釘付けとなっていた。
龍は敵と衝突する、それと同時に龍は弾け水は敵を全てのみ込んだ。
「あ、あんた一体何者なのぉ!?」
流石のおかまもびっくり仰天。どうにか回避を行ったのは一人であり、他の奴らは地面に伸びていた。
「うーん!不調だね!!」
「……どこがだよ」
「ささ、早く行ってー?まだ終わってないみたいだからさ」
美衣は気持ちを引き締め、誰も何もないところを一心に見つめていた。
「俺も手伝うぜ!!」
「うーん、一人で十分なんだけどなぁ。面倒なの嫌だし。じゃあ……そのおかまさんを任せて良いかな?」
「ああ!」
これまた少し驚いた、ボスの所まで付いてくるかと思った谷口がここで敵に戦闘意思を見せるなんて。
「任せたぞ、神森。俺じゃあこいつを足止めするくらいで精いっぱいだ」
成程ね、自分の力量をようやっと理解したか。
「ああ、じゃあ二人に任せたよ」
「ねね!」
「なんだよ?」
「今ね?少し後ろにね?厄介な敵がいてね?そいつ倒したらデートして!!」
「いいよ」
「ええ?駄目か……ええ!?いいの!?……ほんとに?」
「ああ」
「え、えへへ、やったぁ」
「倒したらな」
随分と頑張ってくれるみたいだし、こいつがそれで喜ぶなら、まあいいか。そう思ってしまった。可愛さとこの力だしな。
俺達は龍のおかげで破壊された有刺鉄線のバリケードを突破し、奥へと足を進めた。


幾つかの倉庫に入り込み中を漁ったがほぼもぬけの殻だった。
そしてまた一つ倉庫に入ろうと試みた時だった。
「ん?あん時のあんちゃんじゃねえか」
スキンヘッドに鍛え上げられたボディービルダーの様な身体つき。
こいつは俺と冬至とかいう人の戦いを止めた奴か……。
「悪ぃな。足止めさせてもらうぜ?」
トタン屋根に胡坐をかき上から見下ろす男は拳を構えてそう言った。
「雷斗様、ここは私が」
「いいのか?」
「当たり前ですよ。風間さんと雷斗様は先に」
「頼んだぞ」
「……はいっ!!」
千鶴は銃を構え戦闘準備は万端だ。
そして、全ての工場を見つけ終えた後、そいつは立ちふさがった。
「冬至……」
俺はそう一言呟いた。
「おっ、嬉しいねぇ、名前を憶えていてくれるなんてよ。今回はガチでやってくれるんだろうなぁ」
「さあ、どうかな」
「俺を楽しませてくれよ?」

「起きろ」

目を合わせた瞬間、戦闘のゴングは鳴る。能力を武装すると、相手は右腕を硬化させ突っ込んできた。
直ぐにシールドをフル展開させ攻撃が当たる前に確実に防ぐ。
フル展開したシールドは有効だった。相手の硬化させた腕さえも弾き飛ばし、シールドを解除、反動で空いた一瞬の隙に羽を広げスピードを一気に加速と同時に長刀を手に取り相手の腹部へと容赦なく振るう。
……チッ。
しかし長刀は呆気なく折られた。腹部の硬化。
腕が元の姿に戻っているという事は一部のみの硬化を高速で行っているという事だろう。
一度身を引き、長刀だったものを鞘へと戻す。銃弾も変わらず弾かれるだろうな。
単調な攻撃は効かない、か。
「はっはっはっ!楽しいなぁ!おい!」
「……」
「そう思わないかぁ!?」
「全然……」
「じゃあ俺がもっと楽しませてやるよ!!」
男はまたしても直進し拳を打ち込む。
シールドに弾かれることは分かっているだろうに、何度も乱打し蹴りまで突っ込む。
正直無意味だ。シールドに防御力の限界はあっても耐久力の限度はない。
何度か攻撃すればこの男もそれは分かっている筈だが、……何を狙ってんだ?
今の俺が押し負けることは絶対と言っていい程ありえない。
ひし形を男の方へと押す。後ろへ後退させ、俺から距離を遠ざける。
こんな切羽詰まった状況なのにいちいち笑顔なのが癇に障る。
「いいなぁ!お前!!頭が良い、それに戦闘力はもっと良い!!」
「手立てがないなら降参しろよ」
「まさかっ!!」
男はひし形をわざと遠ざけたのか。俺との間合いを広げ、シールドの弱点である範囲。ひし形を集めれば集める程防御力は格段に上がるが、ひし形の範囲は当然狭まる。
ひし形の移動に慣れたとはいえ、この男の速さに戻すスピードは追い付かない。
パリンッ!!
男の拳が俺の近辺を浮遊したひし形を破壊する。
こんなこともあろうかと一割程度のひし形は残しておいたが、歯が立たないな。
「さて、どうするんだぁ?」
男はまたニヤッと笑うのに対し銃を取り出し躊躇なく顔面に向って弾丸を放つ。が、まあ当然腕で防御される。
その間にもう一度距離を取りシールドを展開し直した。
あの固い装甲をどうにかしないと。これじゃあ何時間もかかるぞ。
「いいぜ、いいぜぇ!今まで戦ってきたどいつよりもいいなぁ!!お前は!!」
後ろか。
上手く死角に入る男だが、気配を感知する俺には到底無意味だ。シールドは先に背中へと展開、攻撃をはじく。
うーん、面倒だな。
「さっさと終わらそうか」
「……」

「スロット1」

能力はその言葉に呼応し、俺を光に包み込む。
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