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 AM8:00

 一樹の通う中学校に着いた。人の気配は勿論無く、一樹もいない。どうする? クラクションでも鳴らしてみるか? しかし完全に信じた訳じゃないが、クラクションを鳴らしてその“レギオン”とやらを呼び寄せても不味いな。トロトロと車を走らせながら考えていると

「父さん、あれ」

 一馬が指し示す方を見ると、例の緑がうつ伏せで倒れている。車を止めて動きを見る・・・・動かないな。俺は車載工具のパイプレンチを持ち、一馬にはスコップを持たせて車を降りて見に行ってみる。ジルは車でお留守番だ。

 近づいて見ると、緑の頭が割れ青白い物が零れている・・・・またスプラッターかよ。一馬からスコップを借りて仰向けにしてみる。

 んー、どう見ても特殊メイクとかコスプレって感じじゃ無い。血は勿論脳みそらしきものも青いし。

「こっちにもあるよ」

 曲がり角の先を見て一馬が言う。先を見ると点々と転がっている緑。

「よし、車で行くとエンジンの音で気付かれるかもしれん。歩いて辿ってみよう。一樹かどうか解らんが、少なくともこいつらを倒した何かがいる筈だからな。何か起きたらすぐに車に戻るぞ。周りに注意しろよ」」

「わかった」

 点々と続く緑を辿りながらゆっくりと進む・・・・・・転がっている死体の数が段々増えてきてないか?このまま進んで大丈夫なのか? 恐る恐る進むと

「ゴギン!」とか「ゴシャ!」っていう音と、ギャーギャーと言う声、それに二つの笑い声が聞こえて来た。

 ちょっと待て、

「この笑い声って・・・・」

「一樹だね」

「だよな。もう一つは? 随分太い声だけど」

「さあ? 学校の先生とか?」

 ここからは車を降り歩いて行くと、開けた場所に出る。畑か・・・・・・はあ!?

 畑の中央では頭髪の無い大男と、その半分位の身長の男が小さい緑とデカい緑に囲まれていた。大男は作務衣の様な物を着て、長い棒を持ち筋骨隆々だ。岩石岩男だ。簡単に言い表すなら作務衣を着た〇田島平八だ。小さい男は片手に棒を持っ・・・ってあれ一樹じゃねーか!!

 平八は何かを言いながら力任せに棒を振り回し、周囲にいる緑を大小関係無く吹き飛ばしている。一樹は笑いながら素早い動きでピョンピョン跳ねつつ、手に持つ棒で一匹一匹頭を潰している。

 何やってんだよあいつは? なんでそんなに楽しそうなんだよ? 共闘しているっぽいが、誰だあの平八は? この辺であんなゴツいやつ見た事無いぞ? 通りがかりか? 周囲には50位の緑が転がっている。あれ全部二人でやったのか?

 植え込みに隠れながら近づくと、平八と一樹の会話が聞こえる、

「ガハハハハ! 坊主!楽しいか! これが本物の戦場だ!」

「うん!! 楽しい!! エージェントは悪と闘うんだ!! アハハハハ」

「ガハハハ! エージェントが何かは知らんが楽しいならそれで良し! 沢山楽しむが良い! ほれ! あっちにまだいるぞ! やれるか?」

「うん! だいじょーぶ!」

 そう言った一樹は10m位の距離をひとっ飛びで詰め、小さい緑の頭を割り始める。

 おい平八! 自分の周りに緑がいないからって、何自分は休憩してストレッチなんかやって一樹にやらせてんだよ! 素早く動きながら緑の攻撃を受け、いなし、躱しながら打倒しまくる一樹を平八はニコニコと眺めている。

 周囲には動く緑はいなくなった。畑に立つのは平八と一樹だけ・・・・

「父さん、なんか一樹おかしくない?」

「ああ、おかしい。なんだあの動きは、どう見ても普通じゃない」

「いや、それもそうだけど顔見てよ」

 はぁ? 顔?・・・・・・おいおい目がイっちゃってるよ、あれはヤバい目だよ、瞳の色も変だし。昔TVで見た事がある。肩で息をしながら薄笑いを浮かべる一樹は、人を刺した麻薬中毒者と同じ眼をしていた。なんでそんな眼になってんだよ。こっちを見ているが見えていないのか? 何の反応もしない。ニヤア~と笑みを大きくした一樹はおもむろに平八を見据え、

「おっちゃん!  足りない!! もっとだ!!」

 そう言うが早いか平八に向けて躍りかかる。平八は笑っている.

ゴキャッ!

 と言う音と共に一樹が消えた。平八は棒を振り切った態勢にある。は? 一樹は何処に行った? 隣の畑から「ドパン!」と砂煙が上がりその中から一樹が飛び出してきた。目標は平八の様だ。一樹をあそこまで打ち飛ばしたのか? 見えない速さで? 俺は一馬からスコップを奪い取り平八に向かおうと一歩踏み出したその時

「来るな!!」

 平八が真顔で手の平をこちらに向け俺を止めようとする。

 何言ってやがるこいつは。何があったか知らんが、今ウチの一樹を殴りやがったよな? その棒で!中坊の腕力なんかたかが知れてんだろうが! そんなにゴツイんだからあそこまで飛ばす必要なんかねーだろ? 平八の制止を聞かず2歩、3歩と進む。その間も一樹は平八の周りを高速で動きながら打ち込み続けている。近づいてくる俺に平八は顔を歪ませた。

 ん? 一樹の動きが止まった。近づいて来る俺を見ている。

「おい一樹、お前何やってんだ。この人は誰「いかん!」」

 一樹が俺に向かって突っ込んでくる。手に持つ棒を振りかぶる。おい一樹、その棒って朝持って行った六角棒だよな? なんで俺に向けて振り下ろすんだ? 流石に頭にそれ食らったら確実に俺死「ガギン!」

 俺に振り下ろされた一樹の一撃を平八が止めている。一樹の顔が間近で見れた。なんだよその眼は・・・・瞳孔が開いて白目の部分が真っ赤じゃねぇか、どうしちゃったんだよ一樹よぅ・・・・

 平八が振るう棒を顎に受け吹き飛ぶ一樹。転がりながらも体制を整えこっちを伺っている。平八が俺に話しかける

「ぬしはあの坊主の親か?」

「ああそうだ、あんた誰だ? 何が起きている、なんで一樹はあんなになってんだ!?」

「落ち着け、今坊主はマナの急激な過剰摂取による中毒を起こしているのじゃ」

「はあ?何言ってんだ?」

「マナという物は適量ならば体に害はなく、成長と共に徐々に体内に蓄積、循環されていくものなのじゃ。それによりステータスアップなどの恩恵を受けることができる。しかし短時間の間に急激に多量を摂取すると、外的要因により中毒を引き起こす事があるのじゃ」

 意味が解らない。が、何かの中毒症状を起こしている事だけは解った。聞きたい事は色々あるが、

「それが今の一樹か」

「うむ、そうじゃ。今迄何人も見てきたが、坊主も間違いなくそうじゃ」
「治療法は?」

「ない」

「はあ? 無いじゃねーよ! ふざけんな! 何人も見たんだろ? 今迄どうして来たんだよ!」

「だから落ち着け。治療法は無いがマナ中毒は簡単に解消出来るのじゃ」

「じゃあ早くやれよ! おれがやってもいいぞ!」

「そうか、儂が相手をしようと思ったが自分でやるか? ぬしにできるかのう?」

「勿体ぶってないで早くやり方教えろよ。俺一人で無理ならあそこにいる一馬とやるからよ」

「そうか、では教えよう。何、簡単な事じゃ。あの坊主の動きが止まるまで、坊主の相手をするだけじゃ。」

「・・・・は?」

「だから過剰摂取したマナが抜けきるまで坊主と遊んでやれ。どうじゃ? 簡単じゃろう? そうだな、親と子がぶつかり合って遊ぶのは当たり前の事だしのう。いやいや、出過ぎた真似をする所じゃった。では坊主は親であるぬしに任せて、わしは行こうかのう」

 そう言って歩き出す平八。一樹の相手? いや、普通の一樹なら何ら問題は無いんだが、あの暴走状態の一樹を? 3㎏はある鉄の棒を片手で振り回してるんだぜ? 今の一撃だって平八が止めてくれなかったら、俺は確実に頭を割られていた。ちらりと一馬を見ると、ムリムリムリと言わんばかりに首を横に振る。

 俺だって無理だよ! なんだよあのバーサーカーは! 痛みも感じていないみたいだし。親として情けないが無理ゲー過ぎる。大男は立ち止まりこちらを見ている。

 俺は頭を下げながら

「何も解らないのに、助けてくれようとしていたあんたにデカい口を利いてすまなかった。俺には無理だ。あんたにお願いしたい。一樹を助けてくれ」

 平八は軽くため息をつくと

「いいじゃろう、元から出来るとは思っていなかったしの。それにあの坊主はわしがマナ抜きの相手をした中でも1、2を争う程の実力を持っている。そんじょそこらの者では務まらん。芽吹けば勇者を超えるかもしれん。 ほれ、今度こそこっちには来るんでないぞ。もっと下がって見ておれ。中毒者は動くものに見境なく襲い掛かるからのぅ。余り動くでないぞ。以前戦争中に東ゴールの娘っ子を相手にしたときは――」

「いいから! 後でゆっくり聞くから! 早くやってくれ!」

「・・・・・・そうか? 子供じゃしいまいちやる気が起きないんじゃが、報酬として酒の一樽でもあるとやる気が起きるんじゃがのぅ。」

「解った! 終わったらウチで飲ませるから!」

「そうか? 催促したみたいですまんの。では相手をするとしようかの」

 そう言って平八は一樹に向かって歩いて行った。
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