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1-4 昔話と現状説明
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「大戦が始まってからも獣王アルゴの世話になっていた私たちは、既にサビアル王には何の義理も無いので快く獣王アルゴに協力したわ。
でも大戦開始から約一カ月経った頃、敵軍の中にヒト種以外の種族が混ざる様になったの。カズマ、あなたが河原で見たゴブリン達もその一つよ。」
「なあ、ミカ。ゴブリンって魔族じゃ無いのか?」
「ええ、基本的には同じ魔族なんだけど、最低でも人並みの知能を有する個体を魔族、それ以下は魔物。そんな感じで分類されるわね。
実際人並み以上の知能を持つゴブリンだって魔王軍にいたし。かと言って人並みの知能を持っていても、オークみたいに話が通じないのは魔物とされるわね」
「成程な。会話が成立すれば魔族、成立しなければ魔物。そんな感じだな」
「そうね。でもゴブリンなんか使役できるものではないの。欲望に忠実で、ヒト種の指示なんか聞く筈のない低級の魔物。それが隊列を組んで攻め込んでくるのよ。
それだけじゃない、大戦が始まって半年後には、ゴブリンみたいな小型種だけではなく、オーガヤトロルの中型種やフォレストジャイアントなどの大型種。昆虫や獣の魔物。あらゆる魔物との混成軍になっていたわ。
まあそれは感情の乏しい魔物を相手にするから、ルシアにとっても好都合だったけどね。」
「一緒に闘っているのか?」
「ええ、使役しているって感じでは無かったわ」
「ふーん」
「でも、そんな魔物との混成軍と言えど私やルード、獣王アルゴや側近達の敵では無かった。実際他の種族達にも武や魔導に秀でている者もいる。徐々にサビアル王国は押され始め、約二年かけて街を落とし、砦を落とし、王城を中心にして、王城が目視出来る距離まで全方位から戦線を押し上げたわ。
サビアル王国の歴史は終わり、この全世界を巻き込んだ馬鹿げた戦争も、じきに終わる。誰もがそう思っていた」」
「それは凄いな。周りぐるっとだろ?」
「正確には周り一周では無いけど、王城から何をして来ようと対応できる布陣だったわ。それでもサビアル王国は降伏せずに抵抗を続けた。只抵抗にも波があって、攻めてくるときは本当に津波の様に攻めて来るのだけど、来ない時は全く攻めて来なかった。
軍議の時にそれが話題になり、一定の間隔で王城から溢れるように大群が出てきている事が解った。溢れ出る量が尋常では無い事から、恐らく何かの魔導具で召喚しているのだろうと予測したわ。
そして各種族から代表者を募り、サビアル王城への潜入及び、偵察。状況によってはサビアル王の殺害を行うことになったの。ルシアは22歳になっていたわ。
で、ここからはつい先日、三日前の話よ。選ばれたのはヒト種からは私、ルシア、ルード、ジーク、獣人族からアデルとジゼル、魔族からザックとブランドン、エルフからはヒュー。因みにドワーフ達は武器防具の生産を任されていたから、表立っての戦闘には参加してなかったわ。
それと獣王アルゴは行きたがっていたけど、王自ら行かせる訳にはいかないでしょ? だから代わりに娘のアデルとジゼルを寄越したわ」
「その辺はルードから聞いた通りだな。一人聞いていない名前があったが」
「ええ、ブランドンは重装甲の防御特化型なの、後で出て来るわ。そうして私たちは王城への潜入に成功し、王の間へ辿り着いたの。だけどそこで見た物は、ミイラの様に痩せこけて意思があるかどうかも解らないサビアル王と10年前と全く変わらない容姿をしたカミラだった。」
「カミラって・・・・・・誰だっけ?」
「父さん何言ってるの? 大丈夫? 王様と結婚した人でしょ、カミラって」
・・・・・・ソウデスネ
「その通りよ、カズマは凄いわね。一度聞いた名前を忘れないなんて。タカオも見習いなさいな」
・・・・・・スンマセン
「王の間に集まった私たちは、カミラを問い質したわ。」
「カミラ! 王に何をした! 何故王がこんなになっている!? それに貴様は何者だ!?」
「何よぉ、もう来ちゃったのぉ? 予想より早かったわねぇ。でもぉ、もう殆ど準備は終わってるからぁ、大丈夫ねぇ」
やはりカミラはおかしい。それに誰かに見られている感じもする。全員に目配せをして周囲を囲む様に間合いをとらせる。
「あらぁ? もしかしてぇ、私とやるつもりぃ? まぁそれもいいけどぉ、少しお話しないぃ?」
「話って何の話じゃ」
ルードもカミラの異常さに気付いた様だ。闘気を纏っている。他の皆も戦闘準備を済ませている。
「私がぁ、なんでこんな事おぉ、したとかぁ、ききたくなぁい?」
「そうですか、私も興味がありますのでお願いできますか?」
ヒューは少しでも情報を集めようとしている。まあカミラもそれは解っているだろうが。
「素直な子は好きよぉ。まず私の名前はぁ、カミラじゃなくってぇ、本当の名前は無いのぉ。でもぉ、大体はぁ、破壊神アーリマンって呼ばれているわぁ」
破壊神アーリマン?
「こことは違う世界ぃ、所謂並行世界から来たのぉ」
並行世界? 並行世界って何? 文献で見た事はあるけど、そんな物が本当にあるの? それにさっき感じた視線も強くなっている。ルードとルシアも気付いている様ね。
「並行世界って解るかしらぁ? 説明するぅ?」
「はい、並行世界という言葉自体は文献などに載っているので知っていますが、そこから来たと言う方にお会いするのは初めてなので、宜しければ説明をお願いします」
「いいわよぉ。並行世界と言うのは無限にある未来にぃ一つ一つの結果が異なる世界があるって事なのぉ。例えばそこのあなたぁ? 今後ろ手にナイフを出したわねぇ」
ザックがピクリと反応する。
「ナイフを出した未来ぃ、出さなかった未来ぃ、そこで世界は分岐するのぉ。解るぅ? 誰かが何処かで何かをする度にぃ、する世界ぃしない世界に分岐してぇ新しい世界が作られていくのよぉ。理解できるかしらぁ? 生きとし生けるもの全てにそれは当てはまるのぉ。
どれ位の並行世界があると思うぅ?極端に文明が発達してぇ、星と星を渡って旅が出来る様な世界ぃ。反対にいつまで経っても裸で生活しているようなぁ、文明が遅れた世界ぃ。星の全てが水に覆われた世界ぃ、星の全てが砂に覆われた世界ぃ。数えるのが無駄な位沢山よぉ。
だから私はぁこうやってぇ目についた世界を壊してるのぉ。並行世界のぉ管理者と言う訳ねぇ」
「壊す? 何故こわすのですか?」
「ん~? そうねぇ、間違った方へと進もうとしている世界を正しい方向へぇ、導いているだけよぉ。世界が増えすぎて管理が行き届かなくてぇ、大変なのぉ。あとは只の暇つぶしぃ」
管理者? 世界を管理している者って事?
「壊すとはどういう事じゃ?」 どう壊すのじゃ」
「それはその世界それぞれよぉ。生命を直接根絶やしにする時もあるしぃ、文明を急速に発展させてぇ暴走させたりぃ。今回はぁこの世界と別の並行世界を融合させたらぁどうなるかの実験―」
本気で言っているの? この女は。いえ、女かどうかも解らない。只こいつは危険だと体が警鐘を鳴らす。皆も同じの様だ。
「融合するとどうなると思われますか?」
「ん~そうねぇ・・・・・・はっきり言うと解らないけどぉ、只では済まないわねぇ。同じ位の質量が融合するからぁ・・・・・・どうなるのかしらねぇ? 上手く行けば両方の世界が綺麗に融合してぇ、下手をすれば両方とも消滅って所かしらぁ?」
「そうですか。では次は、定期的に出て来た魔物の波の事をお聞かせ願えますか? あれは確かにこの王城から出てきていました。しかし、明らかに王城の許容量以上の数でした。一体何処からあれ程の軍勢をが出て来たのですか?」
「ん~、それも簡単よぉ。他の並行世界からぁ、そこの生命体を連れてきているだけよぉ。強制的に遺伝子を組み替えてぇ、魔物に変換する召喚陣でねぇ。今回はここの世界の魔物の遺伝子と合成して作りかえたからぁ、馴染みのある魔物だったでしょぉ?」
「待ってください。あなたは他の世界の住人を連れてきて、戦に使っているのですか?」
「そうよぉ。並行世界なんて幾らでもあるからぁ、無限に召喚できるわよぉ。混乱を起こす為にレギオン(軍団)を作るにはぁ、それが一番早いのよぉ」
遺伝子が何かは解らないけど、生命体を魔物に作り替える? 合成獣とかは知っているけど・・・・・・破壊神と言うのは本当なの?
「ヒューよ、もういいじゃろう。こやつはこの世界に、イグナスに危機をもたらしておる。それだけで十分じゃ」
「そうですね。彼女?のやろうとしている事が解った以上、阻止しなければなりませんね」
「あらぁ? もういいのぉ? せっかちな殿方は嫌われるわよぉ? もう一つ面白い話があるのにぃ。ほらぁ、これ見てぇ? 流石王様ねぇ、懐かしい物を持っていたわぁ」
カミラ、いえアーリマンは懐から何かを取り出した。黒い宝玉? ・・・・・・黒? 黒い宝玉!?・・・・・・まさか!?
私あれが何か知っている。禁忌中の禁忌、バジュールの宝玉だ。何故サビアルにある? ヒューとザック、ブランドンも気付いた様だ。
「これが何か知っている人もいるようねぇ。でもぉどう使うかまでは知っているかしらぁ?」
「大体は知っているわ。使用者の意のままに世界を作り替える事が出来る。巨万の富を得ようが世界を亡ぼそうが。でも使用には使用者自信の命を使わなければならないはず」
「そう、大体正解ぃ。でも一つの知らない事と、一つの間違いがあるわぁ」
「それは何?」
「まずぅ知らない事だけどぉ、このバジュールの宝玉は私が作ったって事ぉ」
「作った?」
「そうよぉ。まあ私でもぉそう簡単には作れないんだけどねぇ。何しろ大量の命を凝縮して作るからぁ、数百年に一つって所かしらぁ? 幾つか出来上がった時にぃ、気が向いたら適当な世界に捨てるのぉ。そうしてバジュールの使い道を見て、楽しむって訳ぇ。
面白いわよぉ、どこの世界も殆どの人が自分の欲望の為だけに使うのぉ。まぁそういう輩がいる世界はぁ、欲を叶えた後すぐに壊しちゃうけどねぇ。逆にぃ自分を犠牲にしてまで、人の為に使う子もぉたまぁにいてねぇ。そういう子は、生き返らせたりもするわぁ」
破壊も創造も気分次第って訳ね。
「次に間違いはぁ、」
そう言った途端アーリマンが消えた。いえ、アーリマンを囲む様に立っていた私達、その私の正面にいたブランドンの後ろに立っていた。そしてブランドンの胸からは手が生えていた。アーリマンはブランドンの背中から胸を貫いたのだ。ブランドンの防御を貫くのはルードでも苦労すると言っていた。その鎧を素手で?
「こうやってぇ使用者の命じゃなくてもぉ、他人の命でも発動できるって事かしらぁ。要するに生贄が必要って事ねぇ。でも一人分だから安上がりでしょぉ」
ブランドンは心臓をえぐり出され即死だった様だ。ヒューもそれが解ったのか動こうとしない。
「さてと・・・・・・宝玉よ、この世界と、かの世界を融合させなさい。イスタ・ガナ・ンモダス・ニュール・バジュール」
「ぬうん!!」
ルードがアーリマンに棍を叩きつける。棍は頭に直撃した。頭は卵が割れたみたいになっているのに、アーリマンは微動だにせず笑っている。ルードが下がると同時にルシアが光の剣で斬りかかり、アーリマンの体を袈裟懸けに切り裂いた。更にルシアは連続で突きを放ちアーリマンの体を穴だらけにした後、一旦距離を取った。
頭は割れ、中身が零れて・・・・いない? 空洞になっている? 何故? ルシアに切り裂かれた体も中は空洞の様だ。しかも再生を始め、その速度も速い。
「凄まじい攻撃ねぇ。でもぉこの体は仮初めの器だからぁ、何やっても無駄よぉ」
こいつ、普通に話せるくせに・・・・・・
「普通に話せるんでしょ? そんな話し方してないで普通に話しなさいよ、鬱陶しい」
「・・・・・・あら、そう。じゃあ普通に話すわね。さっきの呪文でバジュールは発動したわ。もう何をしても止められない。私でも止められないわ。両方の世界がどうなるのか楽しみね。
じゃあ私は次の世界に行くわね。巻き添えになるのも嫌だし。
あとはぁ、そうね。融合先の世界から人口の半分をこちらに送り込みましょう。向こうの人口は・・・・・・中々多いわね、約70億ですって。他にも動物がいるでしょうから、半分ずつでも相当数のレギオンが出来そうだわ。それと、両方の世界に私の眷属を何体か置いて行きましょう。振り上げた拳のやり場が必要でしょ?」
そう言ってアーリマン手をかざすと、空間に馬車位の大きさの穴が開いた。転移門? 穴の向こうには青い星が見える。
私とヒュー、ジーク以外の全員はアーリマンに向かって攻撃を仕掛けている。ルシアの聖剣に切り裂かれ、ルードの棍に殴られ、ザックの魔弓に貫かれ、アデルとジゼルの打撃を受ける。しかしアーリマンは、それらを全て無視して空間の穴を広げている。
「だから無駄だって言っているでしょうに。体力を消耗するだけよ? ほら、見えるかしら? これが融合先の世界。チキュウと言うらしいわ。ここよりもかなり進んだ文明だけど、魔法が無い世界よ。人口も飽和状態らしいから、半分くらい間引いても問題無いでしょう。まあ結局は生命体全部なんだけどね。後は魔物に作り替える為こうして・・・・・・」
その言葉を聞いた瞬間、私の体は勝手に動いていた。空間の穴の向こうの世界。そこにいる誰かを守らなくては、と。
私は無我夢中で持っていたマナの宝珠を全て穴の中に投げ込んだわ。マナの宝珠とは神殿などに設置されていて、害悪からその身を守ると言われているの。実際はマナの回復とかに使われるんだけどね。なぜ宝珠を投げ込んだのかは、その時は解らなかったわ。
ただ、今思えばあの時世界が繋がった事により、私のサラニアの鎖はタカオと繋がったのよ。だからそう感じて、あの行動を取ったのだと思う。
その間、アーリマンはみんなの攻撃を受けつつも行動を終わらせこちらを向いた。
「何をやっても無駄だとは思うけど、ご苦労様。これで全ての準備は終わったわ。文明レベルから判断して、向こうには眷属を12体送っておいたわ。こっちは八体よ。あなた達位の強さはあるはずだから、楽しめるんじゃない?
さて、これで全て完了。あなた達はどうする? ここで私の手で死ぬ? 外で仲間と共に死ぬ? それとも向こうの世界に行ってみる?」
「あなたが死ぬと言う選択肢は無いの?」
ルシアが聖剣を構えながらアーリマンの前に立ちふさがった。
でも大戦開始から約一カ月経った頃、敵軍の中にヒト種以外の種族が混ざる様になったの。カズマ、あなたが河原で見たゴブリン達もその一つよ。」
「なあ、ミカ。ゴブリンって魔族じゃ無いのか?」
「ええ、基本的には同じ魔族なんだけど、最低でも人並みの知能を有する個体を魔族、それ以下は魔物。そんな感じで分類されるわね。
実際人並み以上の知能を持つゴブリンだって魔王軍にいたし。かと言って人並みの知能を持っていても、オークみたいに話が通じないのは魔物とされるわね」
「成程な。会話が成立すれば魔族、成立しなければ魔物。そんな感じだな」
「そうね。でもゴブリンなんか使役できるものではないの。欲望に忠実で、ヒト種の指示なんか聞く筈のない低級の魔物。それが隊列を組んで攻め込んでくるのよ。
それだけじゃない、大戦が始まって半年後には、ゴブリンみたいな小型種だけではなく、オーガヤトロルの中型種やフォレストジャイアントなどの大型種。昆虫や獣の魔物。あらゆる魔物との混成軍になっていたわ。
まあそれは感情の乏しい魔物を相手にするから、ルシアにとっても好都合だったけどね。」
「一緒に闘っているのか?」
「ええ、使役しているって感じでは無かったわ」
「ふーん」
「でも、そんな魔物との混成軍と言えど私やルード、獣王アルゴや側近達の敵では無かった。実際他の種族達にも武や魔導に秀でている者もいる。徐々にサビアル王国は押され始め、約二年かけて街を落とし、砦を落とし、王城を中心にして、王城が目視出来る距離まで全方位から戦線を押し上げたわ。
サビアル王国の歴史は終わり、この全世界を巻き込んだ馬鹿げた戦争も、じきに終わる。誰もがそう思っていた」」
「それは凄いな。周りぐるっとだろ?」
「正確には周り一周では無いけど、王城から何をして来ようと対応できる布陣だったわ。それでもサビアル王国は降伏せずに抵抗を続けた。只抵抗にも波があって、攻めてくるときは本当に津波の様に攻めて来るのだけど、来ない時は全く攻めて来なかった。
軍議の時にそれが話題になり、一定の間隔で王城から溢れるように大群が出てきている事が解った。溢れ出る量が尋常では無い事から、恐らく何かの魔導具で召喚しているのだろうと予測したわ。
そして各種族から代表者を募り、サビアル王城への潜入及び、偵察。状況によってはサビアル王の殺害を行うことになったの。ルシアは22歳になっていたわ。
で、ここからはつい先日、三日前の話よ。選ばれたのはヒト種からは私、ルシア、ルード、ジーク、獣人族からアデルとジゼル、魔族からザックとブランドン、エルフからはヒュー。因みにドワーフ達は武器防具の生産を任されていたから、表立っての戦闘には参加してなかったわ。
それと獣王アルゴは行きたがっていたけど、王自ら行かせる訳にはいかないでしょ? だから代わりに娘のアデルとジゼルを寄越したわ」
「その辺はルードから聞いた通りだな。一人聞いていない名前があったが」
「ええ、ブランドンは重装甲の防御特化型なの、後で出て来るわ。そうして私たちは王城への潜入に成功し、王の間へ辿り着いたの。だけどそこで見た物は、ミイラの様に痩せこけて意思があるかどうかも解らないサビアル王と10年前と全く変わらない容姿をしたカミラだった。」
「カミラって・・・・・・誰だっけ?」
「父さん何言ってるの? 大丈夫? 王様と結婚した人でしょ、カミラって」
・・・・・・ソウデスネ
「その通りよ、カズマは凄いわね。一度聞いた名前を忘れないなんて。タカオも見習いなさいな」
・・・・・・スンマセン
「王の間に集まった私たちは、カミラを問い質したわ。」
「カミラ! 王に何をした! 何故王がこんなになっている!? それに貴様は何者だ!?」
「何よぉ、もう来ちゃったのぉ? 予想より早かったわねぇ。でもぉ、もう殆ど準備は終わってるからぁ、大丈夫ねぇ」
やはりカミラはおかしい。それに誰かに見られている感じもする。全員に目配せをして周囲を囲む様に間合いをとらせる。
「あらぁ? もしかしてぇ、私とやるつもりぃ? まぁそれもいいけどぉ、少しお話しないぃ?」
「話って何の話じゃ」
ルードもカミラの異常さに気付いた様だ。闘気を纏っている。他の皆も戦闘準備を済ませている。
「私がぁ、なんでこんな事おぉ、したとかぁ、ききたくなぁい?」
「そうですか、私も興味がありますのでお願いできますか?」
ヒューは少しでも情報を集めようとしている。まあカミラもそれは解っているだろうが。
「素直な子は好きよぉ。まず私の名前はぁ、カミラじゃなくってぇ、本当の名前は無いのぉ。でもぉ、大体はぁ、破壊神アーリマンって呼ばれているわぁ」
破壊神アーリマン?
「こことは違う世界ぃ、所謂並行世界から来たのぉ」
並行世界? 並行世界って何? 文献で見た事はあるけど、そんな物が本当にあるの? それにさっき感じた視線も強くなっている。ルードとルシアも気付いている様ね。
「並行世界って解るかしらぁ? 説明するぅ?」
「はい、並行世界という言葉自体は文献などに載っているので知っていますが、そこから来たと言う方にお会いするのは初めてなので、宜しければ説明をお願いします」
「いいわよぉ。並行世界と言うのは無限にある未来にぃ一つ一つの結果が異なる世界があるって事なのぉ。例えばそこのあなたぁ? 今後ろ手にナイフを出したわねぇ」
ザックがピクリと反応する。
「ナイフを出した未来ぃ、出さなかった未来ぃ、そこで世界は分岐するのぉ。解るぅ? 誰かが何処かで何かをする度にぃ、する世界ぃしない世界に分岐してぇ新しい世界が作られていくのよぉ。理解できるかしらぁ? 生きとし生けるもの全てにそれは当てはまるのぉ。
どれ位の並行世界があると思うぅ?極端に文明が発達してぇ、星と星を渡って旅が出来る様な世界ぃ。反対にいつまで経っても裸で生活しているようなぁ、文明が遅れた世界ぃ。星の全てが水に覆われた世界ぃ、星の全てが砂に覆われた世界ぃ。数えるのが無駄な位沢山よぉ。
だから私はぁこうやってぇ目についた世界を壊してるのぉ。並行世界のぉ管理者と言う訳ねぇ」
「壊す? 何故こわすのですか?」
「ん~? そうねぇ、間違った方へと進もうとしている世界を正しい方向へぇ、導いているだけよぉ。世界が増えすぎて管理が行き届かなくてぇ、大変なのぉ。あとは只の暇つぶしぃ」
管理者? 世界を管理している者って事?
「壊すとはどういう事じゃ?」 どう壊すのじゃ」
「それはその世界それぞれよぉ。生命を直接根絶やしにする時もあるしぃ、文明を急速に発展させてぇ暴走させたりぃ。今回はぁこの世界と別の並行世界を融合させたらぁどうなるかの実験―」
本気で言っているの? この女は。いえ、女かどうかも解らない。只こいつは危険だと体が警鐘を鳴らす。皆も同じの様だ。
「融合するとどうなると思われますか?」
「ん~そうねぇ・・・・・・はっきり言うと解らないけどぉ、只では済まないわねぇ。同じ位の質量が融合するからぁ・・・・・・どうなるのかしらねぇ? 上手く行けば両方の世界が綺麗に融合してぇ、下手をすれば両方とも消滅って所かしらぁ?」
「そうですか。では次は、定期的に出て来た魔物の波の事をお聞かせ願えますか? あれは確かにこの王城から出てきていました。しかし、明らかに王城の許容量以上の数でした。一体何処からあれ程の軍勢をが出て来たのですか?」
「ん~、それも簡単よぉ。他の並行世界からぁ、そこの生命体を連れてきているだけよぉ。強制的に遺伝子を組み替えてぇ、魔物に変換する召喚陣でねぇ。今回はここの世界の魔物の遺伝子と合成して作りかえたからぁ、馴染みのある魔物だったでしょぉ?」
「待ってください。あなたは他の世界の住人を連れてきて、戦に使っているのですか?」
「そうよぉ。並行世界なんて幾らでもあるからぁ、無限に召喚できるわよぉ。混乱を起こす為にレギオン(軍団)を作るにはぁ、それが一番早いのよぉ」
遺伝子が何かは解らないけど、生命体を魔物に作り替える? 合成獣とかは知っているけど・・・・・・破壊神と言うのは本当なの?
「ヒューよ、もういいじゃろう。こやつはこの世界に、イグナスに危機をもたらしておる。それだけで十分じゃ」
「そうですね。彼女?のやろうとしている事が解った以上、阻止しなければなりませんね」
「あらぁ? もういいのぉ? せっかちな殿方は嫌われるわよぉ? もう一つ面白い話があるのにぃ。ほらぁ、これ見てぇ? 流石王様ねぇ、懐かしい物を持っていたわぁ」
カミラ、いえアーリマンは懐から何かを取り出した。黒い宝玉? ・・・・・・黒? 黒い宝玉!?・・・・・・まさか!?
私あれが何か知っている。禁忌中の禁忌、バジュールの宝玉だ。何故サビアルにある? ヒューとザック、ブランドンも気付いた様だ。
「これが何か知っている人もいるようねぇ。でもぉどう使うかまでは知っているかしらぁ?」
「大体は知っているわ。使用者の意のままに世界を作り替える事が出来る。巨万の富を得ようが世界を亡ぼそうが。でも使用には使用者自信の命を使わなければならないはず」
「そう、大体正解ぃ。でも一つの知らない事と、一つの間違いがあるわぁ」
「それは何?」
「まずぅ知らない事だけどぉ、このバジュールの宝玉は私が作ったって事ぉ」
「作った?」
「そうよぉ。まあ私でもぉそう簡単には作れないんだけどねぇ。何しろ大量の命を凝縮して作るからぁ、数百年に一つって所かしらぁ? 幾つか出来上がった時にぃ、気が向いたら適当な世界に捨てるのぉ。そうしてバジュールの使い道を見て、楽しむって訳ぇ。
面白いわよぉ、どこの世界も殆どの人が自分の欲望の為だけに使うのぉ。まぁそういう輩がいる世界はぁ、欲を叶えた後すぐに壊しちゃうけどねぇ。逆にぃ自分を犠牲にしてまで、人の為に使う子もぉたまぁにいてねぇ。そういう子は、生き返らせたりもするわぁ」
破壊も創造も気分次第って訳ね。
「次に間違いはぁ、」
そう言った途端アーリマンが消えた。いえ、アーリマンを囲む様に立っていた私達、その私の正面にいたブランドンの後ろに立っていた。そしてブランドンの胸からは手が生えていた。アーリマンはブランドンの背中から胸を貫いたのだ。ブランドンの防御を貫くのはルードでも苦労すると言っていた。その鎧を素手で?
「こうやってぇ使用者の命じゃなくてもぉ、他人の命でも発動できるって事かしらぁ。要するに生贄が必要って事ねぇ。でも一人分だから安上がりでしょぉ」
ブランドンは心臓をえぐり出され即死だった様だ。ヒューもそれが解ったのか動こうとしない。
「さてと・・・・・・宝玉よ、この世界と、かの世界を融合させなさい。イスタ・ガナ・ンモダス・ニュール・バジュール」
「ぬうん!!」
ルードがアーリマンに棍を叩きつける。棍は頭に直撃した。頭は卵が割れたみたいになっているのに、アーリマンは微動だにせず笑っている。ルードが下がると同時にルシアが光の剣で斬りかかり、アーリマンの体を袈裟懸けに切り裂いた。更にルシアは連続で突きを放ちアーリマンの体を穴だらけにした後、一旦距離を取った。
頭は割れ、中身が零れて・・・・いない? 空洞になっている? 何故? ルシアに切り裂かれた体も中は空洞の様だ。しかも再生を始め、その速度も速い。
「凄まじい攻撃ねぇ。でもぉこの体は仮初めの器だからぁ、何やっても無駄よぉ」
こいつ、普通に話せるくせに・・・・・・
「普通に話せるんでしょ? そんな話し方してないで普通に話しなさいよ、鬱陶しい」
「・・・・・・あら、そう。じゃあ普通に話すわね。さっきの呪文でバジュールは発動したわ。もう何をしても止められない。私でも止められないわ。両方の世界がどうなるのか楽しみね。
じゃあ私は次の世界に行くわね。巻き添えになるのも嫌だし。
あとはぁ、そうね。融合先の世界から人口の半分をこちらに送り込みましょう。向こうの人口は・・・・・・中々多いわね、約70億ですって。他にも動物がいるでしょうから、半分ずつでも相当数のレギオンが出来そうだわ。それと、両方の世界に私の眷属を何体か置いて行きましょう。振り上げた拳のやり場が必要でしょ?」
そう言ってアーリマン手をかざすと、空間に馬車位の大きさの穴が開いた。転移門? 穴の向こうには青い星が見える。
私とヒュー、ジーク以外の全員はアーリマンに向かって攻撃を仕掛けている。ルシアの聖剣に切り裂かれ、ルードの棍に殴られ、ザックの魔弓に貫かれ、アデルとジゼルの打撃を受ける。しかしアーリマンは、それらを全て無視して空間の穴を広げている。
「だから無駄だって言っているでしょうに。体力を消耗するだけよ? ほら、見えるかしら? これが融合先の世界。チキュウと言うらしいわ。ここよりもかなり進んだ文明だけど、魔法が無い世界よ。人口も飽和状態らしいから、半分くらい間引いても問題無いでしょう。まあ結局は生命体全部なんだけどね。後は魔物に作り替える為こうして・・・・・・」
その言葉を聞いた瞬間、私の体は勝手に動いていた。空間の穴の向こうの世界。そこにいる誰かを守らなくては、と。
私は無我夢中で持っていたマナの宝珠を全て穴の中に投げ込んだわ。マナの宝珠とは神殿などに設置されていて、害悪からその身を守ると言われているの。実際はマナの回復とかに使われるんだけどね。なぜ宝珠を投げ込んだのかは、その時は解らなかったわ。
ただ、今思えばあの時世界が繋がった事により、私のサラニアの鎖はタカオと繋がったのよ。だからそう感じて、あの行動を取ったのだと思う。
その間、アーリマンはみんなの攻撃を受けつつも行動を終わらせこちらを向いた。
「何をやっても無駄だとは思うけど、ご苦労様。これで全ての準備は終わったわ。文明レベルから判断して、向こうには眷属を12体送っておいたわ。こっちは八体よ。あなた達位の強さはあるはずだから、楽しめるんじゃない?
さて、これで全て完了。あなた達はどうする? ここで私の手で死ぬ? 外で仲間と共に死ぬ? それとも向こうの世界に行ってみる?」
「あなたが死ぬと言う選択肢は無いの?」
ルシアが聖剣を構えながらアーリマンの前に立ちふさがった。
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