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最終章
2/ 竜のお山へ(後)
しおりを挟む「えっ、まだそんなお年ではない筈です!」
「ああ」
「どうしてでしょうか?」
二人の会話に思わず声が出てしまうリディア。
「リディアちゃん、私たちはもう十分長く生きてきました。普通の……竜族の寿命を全うするまでね」
「でも……レニアーテル様も竜の血を飲まれているのですよね?」
「うふ、リディアちゃん、私のことはレニアって呼んでほしいわ。
ええ、そうね。ダグラス……今の竜王である息子を生んでからね。セルジオと最後まで一緒にいたいと思ったから」
「レ、レニア様。でしたら!」
「レニーとその番よ。今までの竜族の世界では先祖返りの神竜は数百年に一度と言われてきた。儂が生まれる前は三百年以上前であったと思う。ところが孫でレニーは化身として百年の内に生まれて来た。化身が同じ時代に二人いるということは今までなかったのだ。儂の役目は終わった。幸いおまえは私の年齢より早くに番を見つけることが出来た。二人がいる以上この国は安泰だ。我々にもう思い残すことはない。私とレニアーテルは普通の竜族として暮らし命を終えたいのだよ」
「爺様……」
「セルジオ様、でもまだお時間はありますよね?私とレニー様の子を見るまでは待っていただけますよね?その……ひいおじいちゃまとして……」
リディアはまだ器の種が出来て間もないけれど、子供が出来ると分かった以上ひ孫の顔を見て欲しいと思った。
例えその子が黒竜の鱗を持たなかったとしても。
「リディアよ。人族では器が出来るまで数年掛かるであろう。孫の番を見ることができただけでも私たちは幸せだ。
でもそうだな、竜族にとって初めての人族の番だ。ひ孫の顔を見てからでも遅くはないか、なぁレニアーテル?」
「ふふ、そうですね。妖精まで連れて嫁いで来てくれた番ですものね。どんな子が生まれてくれるのか楽しみが出来てしまいましたわ」
そう言ってレニアーテルは優しくリディアの頬を細い指で撫でる。
「ありがとうございま……す」
「リディ……」
肩を震わすリディアをレオナルドが優しく抱き寄せる。
二人の周りをロロとララがパタパタと飛び回った。
「本当に可愛らしい妖精たちだこと」
「ああ、まさか竜の山まで来る妖精がいるとは思わなかったな」
「ええ、妖精は居りますが私たちの事を怖がって姿を見せてくれるとはありませんでしたからね」
『僕たち竜は怖くないの』
『りゅうさんたちスキなのよ~』
「あらまぁ、嬉しい」
「どうじゃお主ら、此処に住まわぬか?」
『えー、それはダメ。リディの傍でなきゃダメ』
『うん、リディのそばがいいのよ~せいれいにおこられちゃうの~』
「あはは、そうか、そうか。なら諦めるしかないか(笑)」
「うふふ、セルジオったら」
先代竜王夫妻が朗な声で笑うと、周りにいた竜たちもピュルルル~と喉を鳴らす。
「爺様、婆様。今日はお逢いできて本当に良かったです」
「ああ、レニー。番を大切にするのだぞ」
「はい、竜の血に誓って」
「うむ」
『レニー、レニー。リディアは、レニーに乗るために来たんだよ』
「あっそうだったわ!」
ロロに言われて最初の目的を思い出した。
「何だ、まだ背に載せてもらってないのか?」
「はい、まだなんです!先ほどのレニア様のように背に乗ってお空を飛びたいのです」
「そうなのね、大丈夫。魔法で落ちないように保護されているからすぐに乗れるわよ」
「えっ、そうなのですか?」
「そうよ、ねっ、レニー?」
「えっ、まあ。ドラフト、鞍を持ってこい」
「はい、殿下」
どうやら練習という程の事はないらしいと知ったリディア。
ワクワクしながらドラフトが馬車からプレゼントされた鞍を持ってくるのを待つ。
「お待たせいたしました」
「まあ、素敵な鞍だとこと!」
「はい、レニー様がお詫びだと言って作ってくださいました」
「お詫び?レニーったら何をしでかしたのかしら?」
「そ、それは……」
「言い難いのね。ふふ、いいわ聞かないでいてあげる。早く変化なさいな、セルジオもね」
「お、おう」「はい」
先王とレオナルドは一瞬光を放ち黒竜と変化する。
「おおー!」
ドラフトが感嘆の声を上げた。
二頭の竜の大きさに圧倒され、妖精たちは驚きリールーの腕の中に飛び込んでしまう。
「何と言ったらいいのでしょう……言葉が出ません」
度胸が据わっているリールーさえも神竜の化身と言われる二頭の黒竜が並ぶ神々しくも美しい姿に言葉を失った。
「ふふ、レニーの竜の姿を見るのは久しぶりだけど、やっぱり若々しいわね。あら!」
レニアーテルが、ハリのあるレニー竜の鱗を撫でるとセルジオ竜が鼻っ面でその手を退けてしまった。
「ふん、儂から見たらまだまだ洟垂れ小僧だ」
「セルジオったら」
レニアーテルが夫の鼻にキスをすると満足そうに目を褒めるセルジオ竜。
どうやら孫とはいえ、自分の番が褒めるのは面白しくないようだ。
リディアはそんな二人を見て微笑ましく思え、孫にまでヤキモチを妬くセルジオを可愛いと思ってしまった。
「リディアちゃん、乗る時はここに足を掛けてこうやって……」
レニアーテルが見本を見せながら乗り方を教えてくれる。
リディアもそれに習い鐙のような部分に足を掛けるが、どうも上手くいかない。
それもその筈、竜人族は女性でも皆、背が高い。
当然足の長さだって違う。
ましてや、以前庭で乗った時とはレニー竜の大きさも違うのだから思うようにはいかないのは仕方がない。
結局またレニーの鼻でお尻を押してもらいようやく背に乗ることが出来たのだった。
「魔法で保護されているから手を離しても落ちる事はない。風も強すぎない程度に感じて気持ちが良いぞ」
セルジオ竜が優しく声を掛けてくれた。
「そうなんですね、セルジオ様。レニーには落ちるかもって脅かされていたので」
「ワハハ、過保護なヤツじゃな」
大きな竜の口を開けて笑う祖父黒竜。
「何を言ってるんだか。爺様の方が私よりずっと過保護でしょう」
「まぁ、まぁ。二人とも似たり寄ったりよ。お互いに苦労するわね、リディアちゃん」
「うふふ、そうですね」
「ヨシ、では少し散歩をするか」
セルジオ竜が先にふわりと浮かぶとその後にレニー竜も続いた。
「うっわ!浮いたわ!」
リディアが驚いている内にあっという間に数十メートルの高さまで上っている。
落ちないと言われていたが、リディアは目の前の手すりをしっかりと握り締めた。
「怖くはないか?」
「だ、だいじょうぶ……」
強がって言ってみたものの、声はわずかに震えているリディア。
「きゃっ、リールーたちがだんだん小さく……」
思い切って下を見てみるとリールーとドラフトが手を振っているの分かった。
「リディアちゃん、どう?」
リディアが少し慣れたところで、並走して飛んでいるレニアーテルが優しく声を掛けてくれる。
「はい、レニア様!最高です♪」
「うふふ、良かったわ」
しばらくすると地に降りていた竜たちも飛び立ち、二頭の竜を囲むように寄って来た。
草原の上を旋回しながら竜たちが飛ぶ
そんな光景を下から見ているリールーとドラフト。
二人からはまるで絵物語の世界のように見えていたのだった。
「綺麗だ、やはり竜族は俺ら獣人族とは違うと思える。こんな光景を見ることが出来るとは。妖精妃殿の護衛になれて良かった……」
「本当ですね、私もリディア様に付いて来なかったら、一生竜の姿を見る事なんてなかったですもの」
『うんうん、僕らも』
『りゅうさんたちきれいだね~』
青空に浮かぶ竜の姿を二人は涙で滲む瞳にしっかりと目に焼き付けて置こうと見つめていたのだった。
初めての空を堪能したリディアたちが降りて来た。
レニーの背から降りたリディアがリールーのもとに走ってきて彼女に抱き付く。
「リールー、私空を飛んだのよ!願いが叶ったわ」
「ええ、良かったですね。リディア様のご勇姿、とても素晴らしかったです」
自分に抱き付き感動で涙を浮かべる主をリールーの優しい手が背を摩る。
その姿を人に戻ったレオナルドとセルジオ、そしてレニアーテルがそんな二人の姿を見守る。
こうしてリディアたちの小旅行は幕を閉じた。
興奮が冷めやらないリディアは馬車の中で喋りっ放しだったが、いつの間にかレオナルドの膝の上で寝てしまう。
砦に帰った四人はそこで一泊し、同行して来ていた騎士たちとともに王都へと帰って行ったのであった。
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