末っ子第三王女は竜王殿下に溺愛される【本編完結】

文字の大きさ
51 / 60
閑話*Ⅲ

猫耳の少女

しおりを挟む
 それから一週間後。

 リディアの希望が通り孤児院への慰問が叶った。

 馬車の中には王妃アメリアと侍女と従者。

 向かいの席にはレオナルドとその膝の上にリディア、両脇にリールーとドラフトが座っていた。



 自分ひとりレオナルドの膝の上にいるのが居たたまれないリディアであったが、周りは気にも留めていない様子で、普通に会話をしている。



「リディちゃんが公務に出てくれるって聞いて嬉しかったのよ♪」

 義母でもある王妃アメリアは超ご機嫌である。

「はい、番である妃は本当はあまり人前に出ないと聞いております。ですが、私は人族です。完全な引き籠りは耐えられません」

 リディアは過剰なまでのレオナルドの愛情を切実に訴えた。

「そうよね~、先代の王妃は竜妃だったから、先祖返りの王のお気持ちに添うことが出来たけど、人族には元々番という概念がないものね。竜の愛情は重たすぎるのも良く分かるわ」

 アメリアは申し訳なさそうにリディアを慰め、その後キッとした目でリディアの肩越しに他人事のような顔をしているレオナルドを睨みつけた。



「母上、だからこうしてリディの気持ちを尊重しているではありませんか」

「ま、それはそうだけど。これからは多少社交の場に出て貰うわよ、いいわね?」

「社交の内容を見極めて、リディを出しても良いと私が納得したらですね。もちろん一人では出せません」

「レニーったら、ホントに過保護」

 レオナルドはぷくりと頬を膨らませるリディアの頬を撫でる。

「仕方ないであろう?私の大事な番だ。以前のように私のいない所で毒を盛られるなどの危害を加えられたらと思うと……私の心臓はいくつあっても足りなくなる」

 レオナルドはリディアの肩に額を付け切なそうに言った。

 それを言われてはリディアも返す言葉がなかった。

 アメリアとリールーはそんなレオナルドの姿を見て、大きくため息を吐くのであった。



 そんな一行を乗せた馬車は、王都の外れにある孤児院へと到着した。

 今日は子供たちに汚されても良いように王家の三人も割とラフな服装をしている。

 全員が馬車を降りると子供たちが駆け寄って来る。

「王妃様ー♪」

 可愛いトラ獣人の男の子がアメリアに抱き付いて来た。

 王妃もまた「元気にしてたかしら」と男の子を抱き上げ頬ずりをしている。

 その光景にリディアは驚いていた。

 オーレア王国でも母や姉たちの慰問について行っていたが、馬車が到着すると子供たちはきちんと並び、声を揃えて挨拶をしていた。

 もちろんその後は自由にふれあいながら遊んでいたのだが。

 子供らしい仕草を受けて入れている王妃の姿に竜族の愛情の深さを感じ、偏見のないこの国に来て本当に良かったとリディアは思った。



 獣人の子供たちは本当に可愛かった。

 最初は自分たちの様に見た目で分かる特徴がないリディアを見て戸惑いを隠せないでいた子供たちも、直ぐにリディアに慣れ纏わりつくように寄って来た。



「ねえ、お姉さんは何でお耳としっぽが無いの?」

「ふふ、私は人族だからよ。みんなみたいに可愛いお耳もしっぽも無くてとても残念だわ」

「ふーん、お耳が欲しかったんだ」

 フサフサの尻尾を揺らしながらキツネ族の男の子が自分の耳を撫でている。



「ならこれ貸してあげる」

「えっ?」

 猫族の少女がそう言いながらリディアの頭に何かを乗せた。

 手で触ってみるとそれは毛皮の手ざわりがする耳の付いたカチューシャだった。

 着けてくれた少女を見る。

 猫である少女の頭には耳は無い。

「わたしもね、お耳が無いの。あったけど切られちゃったの。だから院長先生が作ってくれたの。お姉さん似合うよ、可愛い」

 猫族の少女は笑顔をリディアに向けた。

 「この子は隣国で奴隷として繋がれていたところを助けられたのです。性奴隷とする為に番が見つけられないように耳を切り落とされたのです」

 後ろから院長が小さな声で説明する。

 リディアは無意識に少女の頭に手を伸ばし、根元に少しだけ残る耳を優しく撫でてから、小さな体を抱きしめた。



「そう、お耳が切られて悲しかったね、辛かったね」

 そう言いながら涙を零した。

「うん、痛かったけどもう大丈夫よ。ここはみんな優しいの。ぶつ人もいないからアーリはしあわせなの」

 アーリはそう言いながら小さな手でリディアの涙を拭ってくれた。

 リディアとアーリが微笑み合っていると突然大きな何かに包まれる。

 振り向くとレオナルドが二人合わせて抱きしめてくれていた。

「レニー、苦しいわ」

 泣き笑いをしながらリディアがレオナルドを窘める。

「あは、竜のお兄ちゃんもお耳が無いね」

「そうだな、私は竜だから耳と尾が無い」

 見た目は人族と一緒だとレオナルドは声を上げて笑った。



「リディちゃん、猫耳が良く似合うわ~♪今度作って貰いましょう!」

「お義母様ったら」

 リディアが猫耳カチューシャをアーリに返そうと頭から外した。

 何も分からないまま着けられたので気付かなったが、どう見てもアーリの色とは違う。アーリはサミュエルの番であるオディーヌと同じシャム系猫族なのにつけ耳の色は空色だった。不思議に思い振り返ると院長が微笑んでいる。



――ああ、院長先生の毛で作ってあげたのね。

 そうか、そうか、なら……



「院長先生、私もカチューシャを作ってあげて良いでしょうか?」

「えっ、妖精妃様がですが?」

「はい、アーリの色に合ったお耳を作ってあげたいのです」

「ええ、本当でございますか!今ここには同じ種の猫族がいないので、私の毛で作ったのです。もしお願い出来たらアーリがどれ程喜ぶか」

「はい、毛の持ち主に確認してからとなりますが。多分、いえ、絶対に大丈夫です!」

 リディアはオディーヌの顔を思い浮かべ、絶対に協力してくれる筈と確信していたのであった。



 その後みんなで鬼ごっこをして……

 リディアはへとへとになっていたが、王妃アメリアの体力は半端なかった。

 子供を両脇に抱え院庭を走り回っている姿は、後数年で六十歳になると思えない。流石竜族である。

 レオナルドも腕に縋る子供たちを手加減しながらブンブンと振り回している。子供たちも運動神経は抜群で振り落とされる事なく声を上げて喜んでいた。ドラフトは細い枝でチャンバラごっこをしている。

 そんな彼らをリールーと共にリディアはベンチに座りぼんやりと眺めているのであった。



 日が暮れる前に慰問の一行は孤児院を後にした。

 次回来るときにはアーリに耳付きカチューシャを持って来られるかな?

 リディアはアーリの喜ぶ顔を思い浮かべながらクスリと笑う。



「子供たちは辛い思いをたくさんして来たというのにみんな素直で」

「そうね、この子達のような子を増やさないようにあたくし達も頑張らなければならないわ」

「そうですね、私もお手伝いがしたいです」

「ありがとう、リディちゃん」

 アメリアはリディアの両手を優しく包み込んで目を細めた。

「ところであなた達のお子はどうなの?あのお部屋を使ったのよね、やっと本当の番になれたのでしょう?」

「母上、この様な場所でおやめ下さい」

「あら~みんな知ってるもの。ねっ?」

 澄まして言うアメリアが侍女や侍従の顔を見まわすと、当然とばかりに頷く。



――恥かし過ぎますぅ……

 リディアが真っ赤になって俯くと、レオナルドがその小さな体を抱きしめてきた。



「これから器が出来るように励みますので、ご安心ください」



――レニー、励みますって!そんな事宣言しないで下さい!



 レオナルドの言葉にアメリアは満足気に何度も頷いていた。



 その夜、初めての公務で疲れているリディアに、器を作る為だと言いながらレオナルドが迫ったのは言うまでもない。


**********
※次からは最終章。
 更新は夜7時ちょい過ぎとなります。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

処理中です...