オービタルエリス

jukaito

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第3章 リッター・デア・ヴェーヌス

第29話 決闘はエインヘリアルで

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 パプリアの案内で闘技場に案内される。
 そこは円形の舞台のようであり、ここに立つだけでまるで歴史で語られるような剣闘士になったかのような感覚に陥るだろう。

「ほ、本当にここで戦うのか?」
「ええ、思う存分戦っていいわよ」

 パプリアはニコリと微笑んで言う。しかし、その微笑みには有無を言わさぬ強引さが隠されているような気がした。
 何しろ、ダイチはここまで来たからにはもう後戻りはできないと思いこんでいるのだ。

「よっと!」

 デランはさすがにこの学園の生徒なので、使い慣れているのか自分の庭のようにかろやかにステップを踏んで闘技場の舞台に立つ。

「ダイチ、まさか臆してはいまいな?」
「そんなわけあるか!」

 ダイチはフルートの前で意地を張って強がってみせる。

「うむ! それでこそ妾の未来の旦那じゃ!」
「はは、勝手に言ってろ」

 ダイチは苦笑しながらも舞台に立つ。
 気分は完全に剣闘士だが、それに見合うだけの実力ははっきりいってない。
 しかし、だからといって震えてばかりではいられない。

「さあ、来いよ!」

 デランの一言にダイチは応える。

「おう!」

 ダイチは斬り込む。
 さっきと同じ動き、精一杯の力を込めて踏み込む。

「おうッ!」
――そのつもりだったが、デランは感嘆し、しかし、すぐにそのレーザーブレードを振り落とす。

「チィ!」

 ダイチは歯噛みし、悔しさを全面に押し出す。

「さっきよりもいい動きしやがる! ――だが!」

 今度はデランが斬り込んでくる。
 ダイチはこれを受ける。

「おうわッ!?」
 その力に負けて、後ろに吹っ飛ばされる。

「ぐ……!」

「どうした、もう終わりか?」
「まだまだ!」

 ダイチは立ち上がり、突進する。
 しかし、デランはこれをあっさりとかわして斬撃を見舞う。

「くそッ!」
 ダイチは踏ん張りをきかせて、倒れないように必死に体勢を立て直す。
 そして、反撃!

「フン!」

 デンラはかわして、逆に反撃される。

 ダイチの攻撃、回避、デランの反撃……
 ダイチの攻撃、回避、デランの反撃……
 ダイチの攻撃、回避、デランの反撃……

 それが何度も繰り返される。

「くぅぅ、ダイチ! しっかりせんか!」
 観戦しているフルートは歯がゆいばかりであった。

「どうでしょうか、先生?」

 エドラはパプリアに訊く。
 パプリアはずっとダイチの動きを観察している。この戦技教官がダイチに対してどういう評価を下すのか、エドラは興味津々でこのためにダイチとデランをここまで連れてきたといってもいい。

「一言で言えば猪突猛進ね。技術も何もあったものじゃないわ。ただ一つ及第を上げるとすれば……
――適応速度ね」
「適応速度、ですか?」
「最初の一撃目で彼は吹き飛ばされた。しかし、二撃目には彼は耐えてみせたわ。
一撃目も二撃目も同じだけの力を使ったにも関わらずね。
そして、今もそうよ。
デランとの実力差は圧倒的。その差は簡単には埋まらないわ。下手をしたら一生ね。
でも、彼は少しづつその差を埋めるように彼の力と動きについていこうとしている」

 パプリアが言うのと同時に、ダイチは動く。彼女の発言の正しさを証明するように。

「攻撃する度にその力強さは増し、」
 剣戟を放ち、デランはそれをかわす。

「かわされる度に、その速度は増し、」
 しかし、ダイチはめげずにデランに食らいつくように、追撃をかける。

「反撃を受ける度に、その硬さは増す。
なんて鍛え上げ甲斐のある子なんでしょう!」
 パプリアはうっとりするかのような視線をダイチに送る。当然、ダイチの方は戦いに夢中で気づいていない。

「それが適応速度ですか」
「そうね。是非とも育ててみたい逸材ね」
「それでは、彼を学園の生徒に編入するんですか?」
「それは無理ね」

 パプリアはあっさりと告げる。

「彼、金星人ではないから。まあ留学生っていうのは受け付けてないわけじゃないからそういうのならアリだけど」
「りゅ、う……がく、せい……?」

 ミリアはその言葉にとても魅力的に感じた。

「聞いていたのね、興味があるの?」
「はい、とても!」
「それはいいわね。留学生には試験があるんだけど、受けてみる?」
「………………」

 ミリアは呆然とする。
 憧れていた金星人。その金星人でさえ憧れるワルキューレ・リッターを多く輩出している騎士養成学園の名門エインヘリアルに留学生とはいえ通うことができる。
 それはミリアにとって、不可能だと思いつつ夢にまで見た大チャンスだった。

「是非、お願いします!」

カキン!

 ミリアが懇願した直後に、凄まじい金属音が響き渡る。
 デランの剣戟がダイチの眉間を捉えた音だ。

「しまった」

 あまりにも綺麗に一撃入ってしまったので、デランの方も思わず漏らす。
 吹き飛ばされたダイチは完全に意識を失って起き上がってくることはなかった。



 ぼやけた視界にライトのように妙に明るい光が見える。
 徐々にぼやけが解けていき、視えているものがはっきりする。
 シャンデリアに天井……ホテルに戻ってきたのかと、最初ダイチは思った。

「うぐ!」

 起き上がろうとした時、眉間の方から激痛が走る。

「あいたたたた……」

 その痛みのおかげで、何が起きたのか思い出せてきた。
 デランと学園の闘技場で戦って、まったく歯が立たなくて、それでも精一杯立ち向かっていって、そして眉間に剣戟を綺麗に一撃もらった。
 そこから先の記憶は無い。つまり、あの一撃で意識を失ってここまで運びこまれたということか。

「くそ……!」

 そこまで思い出して、ダイチは悔しくなってきた。
 敵わない相手だとは思っていた。
 しかし、敵わないとわかっていても負けて悔しくないわけがない。
 勝つために頑張って、食らいついて、食い下がった。でも、まるで通じなかった。

「ちくしょう……もっと強くなりてえ……!」
「いい気概だね」
「――!」

 不意にやってきた声に、ダイチは驚き飛び起きた。
 声のした方を見ると、白衣を着た女性がニンマリとした笑顔を向けていた。
 その笑顔はとても不気味だが、それは笑顔に限ったことではなく、この女全体から放たれる雰囲気がそもそも不気味であった。
 銀髪というよりも白髪といってもいいぐらい生気の無い髪が白衣と一体となった上に血色の悪い顔だから保険医というよりも死神といってもいい。

「あ、あんたは……?」
「私はサブリナ・ジャール。このエインヘリアルで女医をやってるわ」
「エインヘリアル、女医……?
ってことは、ここはホテルじゃねえのか?」
「ええ、倒れたあなたをパプリアが担ぎ込んできたのよ」
「ああ、あのヒトか……」

 パプリアの並の男よりもいいガタイなら確かに軽々と持ち運べるだろうなとダイチは思った。

「それで、怪我はもう大丈夫?」
「いや、まだ頭の方がズキズキと……」
「痛むのね?」

 サブリナはニンマリと笑ってダイチに顔を寄せる。
 ダイチは思わずドキリとする。そこからさらに手を額に当ててくるのだから心穏やかにはいられない。

「うむ、骨には異常がないみたいだから湿布を貼ればすぐに治るわね。ん? ちょっと熱が出てきたみたいだけど、風邪?」
「いえ! これは運動のあとの余熱といいますか!」
「ああ、発熱ね。火星人は体温が上がりやすい人種だとは聞いているわよ」
「そ、そんなものです!」

 ダイチは慌ててごまかしたが、それでサブリナは納得してくれたようだ。

「うんうん、それなら健康でよろしい。あれ?」
「な、なんでしょうか?」
「………………」

 サブリナは黙り込んで、ただじっくりとダイチを凝視する。

「あ、あの……?」
 大人の女性に見つめられて、ダイチは戸惑った。

「――あなた、本当に火星人?」

 不意に放たれた問いかけに、ダイチはドキリとした。

「いきなり、何言ってるんですか?」
「いえ、なんていうか前、火星人君を診た時と違うっていうかね……」
「違うってどんなところがですか?」
「なんとなくよ」

 保険医として根拠の無い返答にダイチは拍子抜けする。

「適当なこと言わないでください」
「そうね、ごめんなさい」

 サブリナは意外にも素直に謝る。

「まあ、あなたが火星人だろうが水星人だろうがどうでもいいことだものね」
「どうでもいいことなんですか……」

 実は地球人なんですよって告白したらどんな反応するのか、少し見てみたいとダイチは思った。

「どんなヒトでも治すのが医者ってものだからね」
「え?」

 予想外にまともな答えを受けて、ダイチは面を食らった。

「目が覚めましたわね」

 そこへパプリアがやってくる。さらにデランがバツの悪い顔で続いてやってくる。

「すまねえ」

 ダイチと顔を合わすなり、謝ってくる。

「え……?」
「思いっきりやっちまった……加減とかそういうの苦手だから」
「ああ、別に気にしてねえよ。俺が下手くそだったし、弱かったからこうなっただけだ」
「そう言ってもらえると助かるわ。もし「許さない」とか言ったら私が代わりにデランにバツを与えなくちゃいけないところだったから」
「バツ?」
「そう、バツよ」

 パプリアの何気ない一言に、デランはブルッと震える。それを見てダイチはバツってそんな怖いものなのかって思った。

「でも、その分だとあくまで決闘での負傷ってことでカタがつきそうでよかったわ。容態も良さそうだし」
「治療はもう終わったわよ。打撲程度だからまだ痛みはあるだろうけど一日あればひくだろう」
「は、はあ……ありがとうございます」

 ダイチは眉間に手を当ててみる。まだ多少痛みはあるが、立って歩く分には問題ない程度だ。

「お礼ならいいわよ。他の星のヒトを診る機会はそうそうないからね」

 サブリナはニンマリと笑って、上機嫌に言う。

「ところで、ミリアとフルートは?」

 パプリアについてきたのは、デランだけだった。

「彼女達は今エドラの案内で学園を見回っているわ。あなたも来る?」
「行きます」
「よかった。ミリアはもうすっかり留学生になるって張り切ってたわよ」
「留学生?」
「ああ、ダイチ君は話を聞いてなかったわね」

 学園を案内がてら、パプリアはダイチに留学生について説明してくれる。

「この学園には他の星のヒトを一時的に受け入れる留学生の制度があるわ。
原則、この学園では金星人しか入学できない。しかし、この制度なら他の星のヒトも入れるわ」
「そうだったんですか。それでその留学生に俺はなれるんですか?」
「ええ、編入試験に合格すればね」
「試験?」
「簡単よ。私達教官と戦う実技試験よ」
「そんな実技試験やるんですか?」
「入学試験と同じよ。まあ勝てというのは無茶な話だけど、いい評価を得られれば入学というのがエインヘリアルの決まりよ」
「俺はこの女にボコボコにされたけどな」
「フフ、あれはいい思い出ね」

 ダイチはパプリアにつられて苦笑する。

「楽しかったわよ。粋がっている少年の鼻っ柱をへし折るのは」
「な、いい性格してるだろ?」

 デランは耳打ちする。

「あ、ああ……」

 ダイチはそれしか答えられなかった。

「それでも中々折れないものだから見所はあると思って合格にしたわ」

 パプリアに言われてなんとなく想像はついた。

「まあ、金星でそれだけの気概を持った男も珍しかったしね」
「……え?」

 パプリアに言われたことにダイチは違和感を憶えてしまう。

――ただ金星人の女性と男性では能力に差があるんですよ。

 そして、脳裏をよぎったのはエドラの一言。金星最高の騎士団といわれるワルキューレ・リッターも今のところ四人会っているが、それを証明するかのように全員女性だった。それにこのパプリア教官も女性、さっきの保険医のサブリナも女性。
 よく見ると、行き交う生徒達も全て女子。デランとエドラがいなかったら女子校に迷い込んでしまったのかと思うぐらいだった。

「金星は女性社会なのか」
「ええ、男性なんて小間使いみたいなものよ」
「……デラン、このヒト怖くないか?」
「ああ、怖い。エインヘリアル一な」
「まあ、冗談はともかくとして」
「本当に冗談なんですか?」

 どうにも、パプリアというヒトが掴めない。

「そんなことより、編入試験受けてもらえるかしら?」
「俺が?」
「ああ、どうして私がこんな話をあなたにしたのか気づいていなかったのね」

 つまり、受けてみないかと遠回しに勧誘していたのか。言われてようやくダイチは気づく。

「はい……俺、留学とかそういうこと考えていませんでしたから」
「じゃあ、今から考えてみて」
「え、それは困るんですが……俺達には他に目的がありますし」
「ミリアちゃんは大乗り気よ」

 ダイチは頭を抱える。
 それはミリアにとっては願ってもない大チャンスなのだから、乗り気になるのはわかる。しかし、ダイチ達が金星にやってきた本来の目的はエリスの義手をマイスターに見繕ってもらうことだ。
 当然、義手が出来上がったら本当のエリスの腕やミリアの足の手がかりを求めて天王星に行かなければならない。
 ミリアにとっても当事者で、こんな留学で寄り道している場合じゃないはずなのに。

「ちょっと、ミリアと相談したいと思います」
「前向きに期待してるわ」
「それで、そのミリアはどこに?」
「武器の資料館の方に行ってると思うけど」
「武器……?」
「そこには古今東西いろいろな武器が置かれているのよ」

 パプリアは楽しそうに語る。なんだか危ないヒトに見えてならない。

「ぶ、物騒ですね」
「まあ、あくまで資料としてだけど。ちなみに貸し出しは自由よ」
「やっぱり物騒じゃないですか!」
「まあ、どこの学園にも武器の倉庫ぐらいあるだろ」
「マジで!? 金星ってそんな文化なのか!?」
「ああ、さすがに倉庫があるのはうちと他の養成学園の三校ぐらいだけどね」

 ダイチの基準からしてみるとそれも十分物騒な話だった。

「ダイチ君は興味ある?」
「い、一応……」
「じゃあ、案内してあげるわ」
 パプリアは笑顔でそう言ってくれるが、その爽やかさがサブリナのそれとは別の意味で怖く感じた。



 校舎から一度外を出て、中庭を抜けた先に倉庫はあった。
 倉庫というより博物館。入ったダイチの第一がそれだった。
 そこには剣、槍、弓、銃、盾、鎧、兜……様々な種類の武器と防具が飾られていた。

「……すげえ」

 入ったときには物騒だという先入観は消えていた。
 ダイチ自体、武器が好きというわけではない。というよりも剣や銃を持つことには慣れてきたとはいえ未だ抵抗があった。
 しかし、そこに端正込めて並べ立てられたものに心躍らずにはいられなかった。

(なんていうか、戦いを感じることができるんだよな)

 この高鳴りを無理矢理言葉にしたらそんな感じになった。これでは、エリスのことを注意できないなと自嘲もした。

「おお、ダイチ!」

 奥の方にいたフルートがダイチの姿を見つけて駆け寄ってくる。

「頭が割れたかと思ったがもう大丈夫なのか?」
「ああ、まだちょっと痛むけど」
「それはまことか? むむう」

 フルートは恨めしげな視線をデランに向ける。

「悪かったって、ちゃんと謝っただろ」
「フルート、あのな心配してくれるのは嬉しいけど、あれは決闘だったんだから怪我はつきものなんだよ」
「うむ、決闘に怪我はつきものということぐらい妾も心得ておる。じゃが、それでこの者が憎らしいこととは別じゃ」
「それに関しちゃ俺も反論しないぜ。ただ恨みを晴らしたいならいつでも相手になってやるぜ」
「おう! いつでもと言わず今ここで!」

 フルートが勝手に決闘を申し込もうとしている。

「いい加減にしてくれ」

 いや、今からだと身体がもたないんだが、と、ダイチはさすがに止めに入る。

「なんじゃ、ダイチは悔しくないのか!」
「そりゃ悔しいよ……悔しいから、すぐにリベンジしてやろうと思っておる」
「おお! さすがは妾のダイチじゃ! で、いつ雪辱を果たす? 今か? 明日か? 明後日か?」

 フルートは期待の眼差しを向けてくる。

「そんなにすぐに決められるか」
「俺はいつでもいいけどな」
「まあ、今度は学園の留学生になってからになると思うけどね」

 パプリアは勝手なことを言ってくる。

「あ、あの……俺は留学生になるって決めたわけじゃ、」
「まあ! ダイチさんも留学生になるんですか!?」

 不意に背後からミリアが歓喜の声を上げる。

「お前、いつからそこにいた!?」
「ダイチさんも一緒に受けてくれるなんて心強いですわ! 是非二人で一緒に合格してエインヘリアルの留学生になりましょう!!」
「話聞いてねえな……あのなミリア、俺はまだ留学生になるって決めたわけじゃないんだぞ!」
「ああ、ダイチさんと学園生活なんて夢のようですわ! しかも憧れていた金星の学園! その中でも憧れのエインヘリアルに!!」

 ミリアは恐ろしく興奮気味に瞳を星のように輝かせてダイチへ詰め寄る。

「ちょっと待て、聞き捨てならんぞ! 妾もダイチと学園生活したい!!」
「ああ、うるさい! お前らいい加減に落ち着け!」

 ダイチは癇癪を起こす。

「……ダイチ君も少し落ち着きを持てたらいいと思うわよ」

 パプリアの指摘にダイチは恐縮する。

「そ、そうですか……?」
「まあ、それは留学してからおいおい指導してあげるわ」
「だからまだ決めたわけじゃありませんから」
「俺はお前が留学してくれると助かるんだけどな」

 不意にデランにそう言われてダイチは絶句した。

「……へ?」
「俺の調整にはちょうどいいしな。エドラはエドラで自分の調整からあるしな」
「いや、そういうことじゃなくて……調整? なんのことだ?」
「彼は今ワルキューレ・グラールに向けて調整しているところなんですよ」

「ワルキューレ・グラール?」
 初めて訊く単語だ。

「木星最強の騎士団ワルキューレ・リッターの一員を選定するための闘技大会よ」
「選定するための闘技大会? そんなのがあるのか」

「ええ、デラン君はそのワルキューレ・グラールに選出されているのよ」
「……え?」
 ダイチは一瞬理解が遅れた。

「選出? じゃあ、出場するのか?」
 そして、デランに確認する。

「当然、当たり前だろ! 出るからには優勝だぜ!」
「とまあ、張り切ってるから是非調整相手になって欲しいのよ」
「そ、そいつ凄いことだけどよ。調整って何をすればいいんだ?」
 ワルキューレの凄まじい力は目の当たりにしたばかりに、そのワルキューレになるための大会への調整といわれても全く想像できない。
 大体、そんなことが自分にできるのだろうか。
 不安混じりに訊くダイチへパプリアはあっさりと簡単そうに答える。

「今日みたいに相手すればいいのよ。そうすれば彼も君ももっと伸びるわ」
「…………………」

 それを聞いてダイチは黙り込んだ。
 正直悩ましい提案であった。
 今日みたいにデランが相手してくれるのはありがたいし、少しずつでも確実に強くなれる気がする。
 だけど、そのために留学するとなると話は難しくなる。
 そもそも、自分達はエリスの腕やミリアの足のために金星まで来たし、天王星に向かうという目的がある。その目的に背いてまでここで留学していいのか、迷ってしまう。

「ダイチさん、一度帰りませんか?」
「……ミリア?」

 さっきまで上機嫌に好き放題言っていたミリアが急におとなしめの一言で提案してくる。

「エリスに話したらきっと賛成してくれますよ」
「エリスに?」
「はい」
 ニコリと言うミリアに、迷いが晴れていく。

「ああ、そうだな」

 まずはエリスに相談してみるか。
 エリスにこんなこと提案したら、なんて言うんだろうか。
 賛成するのか、反対するのか。
 あるいは自分も留学させろって言ってくるのか。
 それが一番ありそうだとダイチは思った。
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