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第3章 リッター・デア・ヴェーヌス
第46話 ワルキューレ・グラール開会
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時間はテクニティスフェストが始まる前に遡る。
エリス達と別れた後、ダイチ、ミリア、フルートはコロッセウムに入場する。ワルキューレを決める為の選定の闘技大会――ワルキューレ・グラールを観戦するために。
金星最強の騎士団の一員を決める選定の大会の会場だけあって、質実剛健という言葉が似合う闘技場の外観であり、壁の大理石がやや色あせているが逆にそれが歴史の重みを感じさせる。
そして、これからこのコロッセウムでその騎士の選定をするための激しい戦いが行われるのかと思うと、自分が戦うわけでもないのに身が引き締まる想いがしてくる。
「ほれ、さっさといくぞ!」
フルートに後押しされたことで、気後れが少し和らいだ。
「ダイチさんが出場するわけじゃありませんから」
ミリアは遠慮なく言ってくる。
「あ、ああ、そうだな」
いくら本当のことだからって他にも言い様があるんじゃないかとも思うが、仕方ないと思った。
コロッセウムは見た目から大きいせいか、外周にも様々な施設が揃っている。その為、迷いやすい。
「ちゃんと使いこなせるようにしてください」
「ああ、すまねえ」
会場マップのデータを端末に入れて、目的地まで案内してもらう。ここまでの手順がどうにも要領が掴めなかった。
「こっちだ」
「うむ! では、デランの激励にゆくぞ!」
「なるべく静かにしてろよ。緊張しているんだから刺激しないようにな」
「わかっておるわ!」
フルートは胸をドンと叩く。本当にわかっているのかとダイチは不安になった。
出場選手の控室まで案内してくれる。途中、セキュリティチェックが入ったが、ダイチ達は一応選手関係者ということで、パスを通れた。
チェックを通った先に、控室の扉が立ち並んでいる。
その中から『デラン・フリース』という札を見つける。
「デラン、俺だ」
『ああ、入れ』
扉越しからスピーカーでデランの声が答えてくれ、扉が開く。
「よう、祭りはどうだった?」
デランは緊張しているわけでもなく、陽気に訊いてくる。
「楽しかったぜ。ミリアなんか、屋台のメシ両手に抱えまくってな」
「ああ、目に浮かぶわ」
「とてもおいしかったです」
ミリアはその時食べた料理の味を思い出してうっとりとする。
「そんなに美味かったんなら俺にも土産によこせよ」
「そりゃすまんかった……こいつが全部食っちまった」
「マジかよ……腹ごしらえにちょっとぐらい欲しかったんだが……」
「申し訳ありません。試合が始まる前までに差し入れを持ってきます」
ミリアは部屋を出ようとする。
「いや待て。お前運んでいる最中にまた食うだろ」
ダイチはそれを止める。
「あ、バレましたか」
「バレるわ! っていうか、やっぱり食うつもりだったんか!」
「そりゃ……屋台のお料理はおいしいですから」
「いや、そういうことじゃなくてな……」
ダイチとミリアのやり取りを見て、デランは笑う。
「ああ、なんかお前らのバカな会話聞いてたら、なんかリラックスできたぜ」
「そ、そうか……こいつが好き放題やってるだけなのに……?」
「いいぜ。おかげで俺も好き放題やれそうだからな」
デランは満足げに言って、剣を一振りする。
「へへ!」
「絶好調か」
「ああ、今なら本物のワルキューレ・リッターが出てきても勝てるぜ!」
「それじゃ、安心だ。優勝してワルキューレ・リッターに入れよ」
「ああ!」
デランとダイチは微笑みを交わす。
――まもなくワルキューレ・グラール第一回戦を開始します。選手の皆様は入場門に集合ください!
そんな時、アナウンスが流れる。
「そんじゃ、行くか!」
「頑張ってこいよ」
「ああ!」
デランはそれだけ答えて入場門へ向かっていく。
「さて、私達も急ぎませんと」
「開会式に遅れてしまうからな!」
ダイチ達は観客席へと向かう。
コロッセウムの観客席は広く、何万という観客が埋め尽くし、熱狂に包まれている。
「すげえな!」
「金星中が注目する大会でありますからね」
「しかし、祭りの最中も思ったが、ヒトの数が凄いのう! 見る端からヒト! ヒト! ヒト! じゃな!」
「ああ、まるでオリンピックみたいだ」
「おりんぴっく?」
ミリアとフルートは揃って、首を傾げる。
「地球のことだ。また話すよ」
そう言って、ダイチはコロッセウムの中心に設置され*た武舞台を眼下に見下ろす。
(いや、実際俺は見たこと無いんだよな……ここまですげえのは初めてだ)
そう思うとダイチは何か心の内から湧き上がってくるものがあった。それは周囲のヒト達が当たり前のように持つもの、興奮だ。
こんなに大勢の観客の前で、しかも金星最強の騎士団を選抜する大会で、あんなにも歴史ある立派な武舞台で、友達――デランが戦う。
とても素晴らしく、とても誇らしいことじゃないか。
――選手入場!
そして、友達は武舞台に立つ。
同じように、この大会に優勝し、ワルキューレリッターに選抜されるために集まった養成学園の選抜生徒達、各地の騎士達の中で、彼は一際輝いていた。
「デランとエドラ以外は女か……」
ダイチが言うように燦然と武舞台に並ぶ騎士達は、二人を除いて全て女性であった。
能力に秀でた金星人はみな女という言葉を改めて思い知らされる。ただ、その中で男でありながら、いや男だからこそ強くなろうとするデランは尊敬に値する。
勝って欲しい、優勝して欲しい。応援したいし、しないといけない。その為に自分はここにいるのだから。
――それでは、これより金星皇ヴィーナス・リブル・レイド様の開会の宣言を行います
アナウンスが流れ、コロッセウム中の観客が天覧席を注目する。
そこにヴィーナスはいた。神々しく眩い輝きと、両翼を彩るワルキューレ・リッターの騎士達が並び立ち、ヒトビトはその荘厳な雰囲気にただただ圧倒される。
「ワルキューレ・グラール――それは私、金星皇・ヴィーナスを守護する騎士を選定する大会です。
創世の時代から伝わる七つの武具をそれぞれに担う最も栄誉有る騎士団です。
不幸にも先の大戦でその半数が生命を落とし、長らくその座に着く者は現れず空席でした。
ですが、聖剣【ノートゥング】の担い手アグライア・エストールを筆頭に未来ある若者達の出現し、金星は黎明を迎え、栄華を極めるでありましょう。
此度のワルキューレ・グラールもその一つでありましょう。
皆の戦いによる輝きが、我が金星の未来を明るく照らしましょう。
そして、未だ空席である聖盾【スヴェル】に相応しい担い手・七人目のワルキューレ・リッターが現れるでしょう!」
「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」
「騎士達よ! 【エヴォリシオン】を呼び起こし、力の限り戦い、その輝きを私に見せてください!」
「「「オオオオオオオオオオオオッ!!!」」」
ヴィーナスの綺羅びやかな声に寄って発せられる言葉は、コロッセウムの観客達の熱狂の渦を生んだ。そして、武舞台に立つ騎士達も静かに戦意を高め、熱気の一部となっていた。
そして、選手達は散り、控室に戻る。試合に呼ばれるまでそこで待機となる。
「毎回緊張いたしますね」
ヴィーナスは天藍席に座り、小さく一息つく。
「陛下、何故恐れながら一言物申したいのですが」
アグライアは顔にわずかに不満の色を浮かべる。
「なんでしょうか? 貴方と私の仲ではないですか、遠慮などいりませんよ」
「それでは……――何故私の名前を出したのですか?」
それを聞いて、デメトリアは密かにクスリと笑う。
「いけませんでしたか?」
「いえ、そういうわけではありませんが、わざわざ私を筆頭にすると他の者に示しがつかなくなります」
「私はそうは思いませんが」
と、ミーファが口を挟む。
「別にアグライアが筆頭でも構わない」
さらに、リノスが加わったことで、アグライアは頭を抱えることになった。
「と、他の騎士達の同意も得られましたよ」
ヴィーナスもどことなく得意顔で、それがまた観客達の注目を集める。
「私は認めてなどおりませんが」
ステファーがぼやく。
「アグライア、そうやって皆に認められているのだから誇らしくいればいい。そう不満を漏らすようでは逆にヴィーナス様へ示しがつかないぞ」
「デメトリア卿まで……わかりました。これも一つの誉れとして受け止めます」
騎士の目標であり、尊敬するデメトリアからそう諭されてはアグライアももう反論できなかった。
――これより一回戦を開始致します!
そこへアナウンスが流れる。
「いよいよ、始まりますか」
ヴィーナスは期待の眼差しを武舞台へ向ける。
エリス達と別れた後、ダイチ、ミリア、フルートはコロッセウムに入場する。ワルキューレを決める為の選定の闘技大会――ワルキューレ・グラールを観戦するために。
金星最強の騎士団の一員を決める選定の大会の会場だけあって、質実剛健という言葉が似合う闘技場の外観であり、壁の大理石がやや色あせているが逆にそれが歴史の重みを感じさせる。
そして、これからこのコロッセウムでその騎士の選定をするための激しい戦いが行われるのかと思うと、自分が戦うわけでもないのに身が引き締まる想いがしてくる。
「ほれ、さっさといくぞ!」
フルートに後押しされたことで、気後れが少し和らいだ。
「ダイチさんが出場するわけじゃありませんから」
ミリアは遠慮なく言ってくる。
「あ、ああ、そうだな」
いくら本当のことだからって他にも言い様があるんじゃないかとも思うが、仕方ないと思った。
コロッセウムは見た目から大きいせいか、外周にも様々な施設が揃っている。その為、迷いやすい。
「ちゃんと使いこなせるようにしてください」
「ああ、すまねえ」
会場マップのデータを端末に入れて、目的地まで案内してもらう。ここまでの手順がどうにも要領が掴めなかった。
「こっちだ」
「うむ! では、デランの激励にゆくぞ!」
「なるべく静かにしてろよ。緊張しているんだから刺激しないようにな」
「わかっておるわ!」
フルートは胸をドンと叩く。本当にわかっているのかとダイチは不安になった。
出場選手の控室まで案内してくれる。途中、セキュリティチェックが入ったが、ダイチ達は一応選手関係者ということで、パスを通れた。
チェックを通った先に、控室の扉が立ち並んでいる。
その中から『デラン・フリース』という札を見つける。
「デラン、俺だ」
『ああ、入れ』
扉越しからスピーカーでデランの声が答えてくれ、扉が開く。
「よう、祭りはどうだった?」
デランは緊張しているわけでもなく、陽気に訊いてくる。
「楽しかったぜ。ミリアなんか、屋台のメシ両手に抱えまくってな」
「ああ、目に浮かぶわ」
「とてもおいしかったです」
ミリアはその時食べた料理の味を思い出してうっとりとする。
「そんなに美味かったんなら俺にも土産によこせよ」
「そりゃすまんかった……こいつが全部食っちまった」
「マジかよ……腹ごしらえにちょっとぐらい欲しかったんだが……」
「申し訳ありません。試合が始まる前までに差し入れを持ってきます」
ミリアは部屋を出ようとする。
「いや待て。お前運んでいる最中にまた食うだろ」
ダイチはそれを止める。
「あ、バレましたか」
「バレるわ! っていうか、やっぱり食うつもりだったんか!」
「そりゃ……屋台のお料理はおいしいですから」
「いや、そういうことじゃなくてな……」
ダイチとミリアのやり取りを見て、デランは笑う。
「ああ、なんかお前らのバカな会話聞いてたら、なんかリラックスできたぜ」
「そ、そうか……こいつが好き放題やってるだけなのに……?」
「いいぜ。おかげで俺も好き放題やれそうだからな」
デランは満足げに言って、剣を一振りする。
「へへ!」
「絶好調か」
「ああ、今なら本物のワルキューレ・リッターが出てきても勝てるぜ!」
「それじゃ、安心だ。優勝してワルキューレ・リッターに入れよ」
「ああ!」
デランとダイチは微笑みを交わす。
――まもなくワルキューレ・グラール第一回戦を開始します。選手の皆様は入場門に集合ください!
そんな時、アナウンスが流れる。
「そんじゃ、行くか!」
「頑張ってこいよ」
「ああ!」
デランはそれだけ答えて入場門へ向かっていく。
「さて、私達も急ぎませんと」
「開会式に遅れてしまうからな!」
ダイチ達は観客席へと向かう。
コロッセウムの観客席は広く、何万という観客が埋め尽くし、熱狂に包まれている。
「すげえな!」
「金星中が注目する大会でありますからね」
「しかし、祭りの最中も思ったが、ヒトの数が凄いのう! 見る端からヒト! ヒト! ヒト! じゃな!」
「ああ、まるでオリンピックみたいだ」
「おりんぴっく?」
ミリアとフルートは揃って、首を傾げる。
「地球のことだ。また話すよ」
そう言って、ダイチはコロッセウムの中心に設置され*た武舞台を眼下に見下ろす。
(いや、実際俺は見たこと無いんだよな……ここまですげえのは初めてだ)
そう思うとダイチは何か心の内から湧き上がってくるものがあった。それは周囲のヒト達が当たり前のように持つもの、興奮だ。
こんなに大勢の観客の前で、しかも金星最強の騎士団を選抜する大会で、あんなにも歴史ある立派な武舞台で、友達――デランが戦う。
とても素晴らしく、とても誇らしいことじゃないか。
――選手入場!
そして、友達は武舞台に立つ。
同じように、この大会に優勝し、ワルキューレリッターに選抜されるために集まった養成学園の選抜生徒達、各地の騎士達の中で、彼は一際輝いていた。
「デランとエドラ以外は女か……」
ダイチが言うように燦然と武舞台に並ぶ騎士達は、二人を除いて全て女性であった。
能力に秀でた金星人はみな女という言葉を改めて思い知らされる。ただ、その中で男でありながら、いや男だからこそ強くなろうとするデランは尊敬に値する。
勝って欲しい、優勝して欲しい。応援したいし、しないといけない。その為に自分はここにいるのだから。
――それでは、これより金星皇ヴィーナス・リブル・レイド様の開会の宣言を行います
アナウンスが流れ、コロッセウム中の観客が天覧席を注目する。
そこにヴィーナスはいた。神々しく眩い輝きと、両翼を彩るワルキューレ・リッターの騎士達が並び立ち、ヒトビトはその荘厳な雰囲気にただただ圧倒される。
「ワルキューレ・グラール――それは私、金星皇・ヴィーナスを守護する騎士を選定する大会です。
創世の時代から伝わる七つの武具をそれぞれに担う最も栄誉有る騎士団です。
不幸にも先の大戦でその半数が生命を落とし、長らくその座に着く者は現れず空席でした。
ですが、聖剣【ノートゥング】の担い手アグライア・エストールを筆頭に未来ある若者達の出現し、金星は黎明を迎え、栄華を極めるでありましょう。
此度のワルキューレ・グラールもその一つでありましょう。
皆の戦いによる輝きが、我が金星の未来を明るく照らしましょう。
そして、未だ空席である聖盾【スヴェル】に相応しい担い手・七人目のワルキューレ・リッターが現れるでしょう!」
「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」
「騎士達よ! 【エヴォリシオン】を呼び起こし、力の限り戦い、その輝きを私に見せてください!」
「「「オオオオオオオオオオオオッ!!!」」」
ヴィーナスの綺羅びやかな声に寄って発せられる言葉は、コロッセウムの観客達の熱狂の渦を生んだ。そして、武舞台に立つ騎士達も静かに戦意を高め、熱気の一部となっていた。
そして、選手達は散り、控室に戻る。試合に呼ばれるまでそこで待機となる。
「毎回緊張いたしますね」
ヴィーナスは天藍席に座り、小さく一息つく。
「陛下、何故恐れながら一言物申したいのですが」
アグライアは顔にわずかに不満の色を浮かべる。
「なんでしょうか? 貴方と私の仲ではないですか、遠慮などいりませんよ」
「それでは……――何故私の名前を出したのですか?」
それを聞いて、デメトリアは密かにクスリと笑う。
「いけませんでしたか?」
「いえ、そういうわけではありませんが、わざわざ私を筆頭にすると他の者に示しがつかなくなります」
「私はそうは思いませんが」
と、ミーファが口を挟む。
「別にアグライアが筆頭でも構わない」
さらに、リノスが加わったことで、アグライアは頭を抱えることになった。
「と、他の騎士達の同意も得られましたよ」
ヴィーナスもどことなく得意顔で、それがまた観客達の注目を集める。
「私は認めてなどおりませんが」
ステファーがぼやく。
「アグライア、そうやって皆に認められているのだから誇らしくいればいい。そう不満を漏らすようでは逆にヴィーナス様へ示しがつかないぞ」
「デメトリア卿まで……わかりました。これも一つの誉れとして受け止めます」
騎士の目標であり、尊敬するデメトリアからそう諭されてはアグライアももう反論できなかった。
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