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第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ
第81話 主砲ブロンテカノン
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「ぜ、前方に三百! さ、左舷、右舷に、それぞれ百以上の機影接近です!」
「完全に囲まれましたな!」
大慌てで状況報告するリィータに対して、リピートはパーティのようにはしゃいでる。
「ここまでは狙い通りだな、キャプテン!」
「まあな! そいじゃ、そろそろあれの準備をするか!」
ザイアスは張り切ってカットラスを振り上げる。
本人曰くこうしないと気合が乗らないそうだ。
「ケラウノス!」
神の雷を解き放ち、海賊船の艦首へエネルギーを注がれる。
「さて、準備万端だ!!」
「リピートさん、あれは一体?」
リィータは訊く。
尋常じゃない力強さを誇る雷がザイアスから放出される。そのエネルギー量は、この船に集まってくる機体を一掃できるほどであった。
リピートはニヤリと自分のことのように得意げに答える。
「――あれはこの船の主砲だ!」
-
『ブロンテカノンを発射する! 各機は射線上から退け!』
ザイアスから轟きのごとき号令がかかる。
「ブロンテカノン?」
ダイチにはそれが何なのかわからない。
「この船の主砲のことじゃ」
ただフルートは直感でそれを理解しているようだった。
「キャプテンのケラウノスを最大出力で一点に集中し、撃つ」
『カウントダウン開始! 5! 4!』
リピートがカウントダウンを始め、ダイチは息を呑む。
「3! 2! 1! 0! ブロンテカノン発射!!」
ゴロロロォォォォォォォォォン!!
海賊船の前方に開いた巨大な砲身から雷が撃ち放たされる。
網膜を焼き切るほどの雷光が瞬き、鼓膜を打ち破るほどの雷鳴が轟く。
「……すげえ!」
ダイチは目を瞑ったが、フルートは目を開け、その主砲の威力を全て見届けた。
「なんという威力じゃ……!」
フルートは驚嘆する。
「くう……!」
「これ、しっかりせんかい!」
フルートの叱咤で、ダイチは意識を起こされる。
レーダーを見ると、前方の敵機がほとんど消えている。それがブロンテカノンの威力を物語っていた。
「これで、道は開けたぞ」
「あ……!」
収容所までの防衛網が一時的に崩れ、フルートが言ったように道は開けている。
「いくぞ、ダイチ!」
「ああ! これならいける!」
これはキャプテンが作ってくれた絶好のチャンスだとダイチは理解した。同時に、それがダイチに対する厚意であることも。
『ダイチはん! エリスとミリアの位置は送っておいたで!』
「ああ!」
『二人をよろしく頼むで!』
イクミから収容所のマップが送られ、そこにエリスとミリアの位置を示すマーカーが点滅している。
「おう!」
ダイチはその想いに応え、ヴァ―ランスを飛び立たせる。
『いって、ダイチ!』
マイナの声がする。
『お前ならやれるぞ』
デランが激励の言葉をかける。
「いくぞ!」
フルートの掛け声に応じて、イクミが施してくれた機能を存分に使う。
「ブーストオン!!」
イクミから施されたブースト機能を存分に使って、全速力で収容所へ向かう。
機体の調子は上々。あるいは、イクミが想定していたよりも出力が強いかもしれない。
一度は軌道エレベーターを破壊した恐るべき力をまた発現しかけているのかもしれない。
ただそれでも今はこの力を使って、エリスを助け出す。
それがダイチの紛れもない原動力。このブーストもわけのわからないチカラも全て使いこなして、ブランフェール収容所へ向かう。
(今行くからな! 無事でいろよ!!)
一方のエリスはウィル達と共に火星人を救出しつつ、脱出すべく収容所の外側へ向かっていた。
衛兵達の数と抵抗は先に進むにつれ、激しくなっていく。それには、プライドを傷つけられたゴロン所長の執念が込められていた。
エリスやウィルは奮闘していたが、強奪した武器だけでの戦いと多勢に無勢という状況という大いに苦しめられていた。
「フフ、さてこの状況、どのように覆すのかしらね」
外套の女性は嘲笑する。
「あんたも戦いなさいよ!」
エリスは不満を口にする。
「ここで戦うつもりはないわ。それに、このぐらい切り抜けられないの?」
「――!」
焚きつけるような物言いだ。
しかし、それによってエリスの闘争本能の火はあっさりつく。
「ヒートアップ!!」
エリスの体温が上昇し、熱気となって衛兵達を蹴散らす。
「怯むな! 敵はたかだか数十人の火星人だ!」
衛兵の隊長らしき男が号令をかける。
「てぃぃぃやぁぁぁぁッ!!」
即座にエリスは蹴り飛ばす。
「がはッ!?」
隊長が倒されて、たじろぐ
「たかだか火星人ね」
「ひ!」
隊長をあっさり倒したエリスに衛兵達は一瞬たじろぐ。
「来なさいよ! やられたい奴から!!」
「やらせるか!」
衛兵の中の一人が果敢に挑む。
それを口火に、衛兵達はエリスへ押し寄せる。
エリスはそれに、銃弾をかわし、斬撃をいなし、衛兵の一人一人を流れるように拳と足で倒す。
「本調子になりましたね」
ミリアは嬉し気にその様子を見る。
「いえ、まだまだね」
外套の女性もまたエリスの戦いぶりを見て感想を述べる。
「凄まじく、雄々しい……」
ウィルはその戦いに頼もしさと同時に懐かしさを感じる。
かつての戦争で、共に戦い抜いた若き日の火星皇の姿と重なって見えた。
「奇妙なものだ。姿、形、戦い方さえ違うというのに……」
見間違い、あるいは幻覚だと一笑する。
『ええい、何をてこずっている! さっさと片付けろ!!』
スピーカーからゴロン所長の怒声が響く。
ガタンガタン!
足音で地鳴りが響き渡る。
ソルダやシュヴァリエが続々とやってくる。
『これだけのマシンノイドがいれば、もう抵抗できまい! とらえてファウナ様の目の前で私自らが処刑してやる!!』
どこまでも耳障りな号令であった。
「遠巻きで命令するだけでいい身分ね! 顔出しなさいよ、臆病者!!」
『なんとでもいえ、小娘!! 火星人の戯言などいちいち聞いてられるか!!』
エリスの周囲をソルダとシュヴァリエが取り囲む。
「く……!」
「エリス君、前に出すぎだ!」
「援護をしないと」
ミリアは機関銃を持って、万全でない身体で戦おうとする。
ゴロロロォォォォォォォォォン!!
その時、凄まじい雷光が瞬き、雷鳴が響き渡る。
『なんだ、何が起きた!?』
それは海賊船から放たれた主砲・ブロンテカノンの光と轟音だったが、火星人を捕らえることに躍起になっていたゴロン所長は知る由が無かった。
そこから、さらに放たれた一条の光も。
「あれは……!」
その光を見極めるために見上げたエリスは、何が来たのか悟る。
「ヴァ―ランス! ダイチね!!」
ガシャン!!
次の瞬間に、ヴァ―ランスはブランフェール収容所の広場に降り立つ。
「エリス、無事か!?」
ヴァ―ランスのスピーカーからダイチの声がする。
「見てのとおりよ」
エリスは得意げに答えて、安堵の息づかいがスピーカー越しから伝わってくる。
『な、なななんだ、お前はぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』
ゴロン所長のヒステリックな喚き声が響く。
『お前は邪魔だぁッ!』
ダイチはその声に応じ、ソルダをヴァ―ランスで蹴り飛ばす。
「はは、やるじゃない!」
『こっちは必死なんだよ』
『やれ、ダイチ!』
フルートの声がする。
「フルートも乗ってるんですか」
「フフ、面白い子ね」
外套の女性は楽し気に言う。
『ええい、かかれ! かかれぇッ!!』
ゴロン所長の声が響き、ソルダとシュヴァリエがヴァ―ランスへ襲い掛かる。
『お前等、邪魔だぁぁぁッ!!』
ソルダのサーベルを、ヴァ―ランスのブレードで受ける。
全長に三メートルほどソルダの方が大きいが、パワーの出力では負けていない。
「あいつ、いつの間にあんなに強くなって……」
エリスは感心する。
さらに全長に倍以上の差があるシュヴァリエまで襲い掛かるが、ヴァ―ランスはこれをかわして、ハンドガンで反撃する。
軌道エレベーターでの戦いが経験として活きている、と、ダイチは実感する。
『ええい、何をしている!? 相手はたった一機! しかも、ちっぽけなマシンノイドじゃないか!!』
「そう言うんだったら、あんたが戦いなさいよ!
――あ、そうだ! ダイチ!!」
『なんだ!?』
「こっち来なさい!」
『ああ!?』
エリスの呼びかけに応じて、ダイチはヴァ―ランスをエリスの元へ歩み寄らせる。
「手に乗せなさい!!」
『はあ!?』
ダイチは言われるまま、エリスへ手を差し出す。
エリスはそのヴァ―ランスの手に乗る。
「そのまま、飛ぶ!」
『おおう!』
ダイチはヴァ―ランスを飛ばす。
『逃がすな!! 追え追え追え!!』
ゴロン所長がスピーカーから叫び声を上げ、ソルダとシュヴァリエ達がダイチ達を追いかける。
「楽しませてくれそうね、エリス。それにダイチ……地球のヒト……」
外套の女性はそう囁く。
「――!」
ただ一人、ミリアだけが外套の女性の声を耳にして、その姿を探す。が、既に女性の姿はどこにも無かった。
「何故、ダイチさんが地球のヒトだと?」
ダイチがブランフェール収容所の敷地に飛び込んだ直後に、司令部は困惑していた。
その原因はブロンテカノンの発射であった。
「あれは一体何だ!?」
ギムエルは大いに狼狽する。
ブロンテカノンの発射によって、海賊船の撃沈せんがために展開していたマシンノイドの大部隊が半壊してしまったので、無理からぬ事だ。
『ケラウノスを媒介にして発射された大砲……』
ファウナも驚きを隠せない
「バカな! あのような芸当が出来る海賊など、存在するはずが!!」
ギムエルはテーブルを叩く。
『………………』
『ディバルド、何か知っていることはありませんか?』
『……いえ』
ディバルドは厳かな口調で答える。
『そうですか……
ですが! あのような兵器を撃てる海賊を野放しにしておくわけにはいきません! アルシャールも召集しましょう!』
「お待ちください! まだ我が軍が敗北したわけではありません!!」
『ですが、戦況は不利です。これ以上あなたに任せて悪化させるわけにいきません!』
「かくなる上は、私自ら出ます!」
ギムエルは鬼気迫る形相でファウナへ進言する。
『ギムエル長官自ら、ですか……?』
ファウナは怪訝な顔をする。
これまでの戦況悪化による事態を招いたことで、ギムエル官房長官の能力を測りかねていたからだ。
「はい!」
『任せてよろしいか、ギムエル長官殿』
ディバルドが問う。
「お任せを! これでも、クリュメゾン軍でアルシャール司令と肩を並べた剛腕をご披露いたします!!」
ギムエルの自信満々に答え、司令部を後にする。
『ディバルド、彼はあの調子で大丈夫なのですか?』
『はい。彼も言っていたように実力はアルシャール司令と双璧を成します』
『その割には顔色が優れませんが……』
『敵も強者です。あれほどのケラウノスを扱えるが敵にいるとなると、勝利は容易ではありません』
『そうですか……』
ファウナは目を閉じ、黙考する。
『至急、アルシャール司令を招集。ディバルド近衛騎士団長、総力を挙げて彼らを打倒する準備をいたしましょう』
『……御意に』
「キャプテン、次弾装填は?」
「いや、必要ないだろ。このまま前進して収容所まで向かうぞ」
ザイアスはカットラスを下ろす。
もう一発ブロンテカノンを撃つほどの事態にはもうならないとふんでのことだった。
「凄かったです、あの主砲の威力……!」
リィータは興奮まだ冷めやらぬ様子であった。
「キャプテンによる最大最強クラスのケラウノスだ。ジュピターの大艦隊とだって張り合えるぜ!」
リピートは自分のことのように得意げに言う。
「……そうですね、
ですが、キャプテンは何者なんですか? 前々から只者ではないと思っていましたが……皇族の証であるケラウノスまで……」
「そいつは、俺の口から言えねえな」
リピートは振り向いて、ザイアスの勇姿を見る。
「キャプテンが教えてくれるさ」
「……そうですか」
ピピピピピピピピ
その時、海賊船ボスランボが警報が鳴り響く。
百以上の機体に取り囲まれたときにも鳴らなかったほどのボリュームで発せられている。
「キャプテン、本艦に急速接近する機体が!」
「おいでなすったみたいだぜえ!!」
ザイアスは野獣のような瞳をギラつかせる。
オレンジ色の異形の巨人を思わせるマシンノイドが一直線に飛んでくる。集中砲火を浴びることも構わず。
『データ照合! シュクセシオン、ギムエル・スターファ官房長官の専用機です!!』
リィータは高速でデータ照合して、各員に通達する。
「ああ、俺が迎え撃つ!」
そう言って、ザイアスはマントを翻してブリッジを出る。
「頼んだぜ! キャプテン!!」
「おう!!」
ザイアスは力強く応える。
「完全に囲まれましたな!」
大慌てで状況報告するリィータに対して、リピートはパーティのようにはしゃいでる。
「ここまでは狙い通りだな、キャプテン!」
「まあな! そいじゃ、そろそろあれの準備をするか!」
ザイアスは張り切ってカットラスを振り上げる。
本人曰くこうしないと気合が乗らないそうだ。
「ケラウノス!」
神の雷を解き放ち、海賊船の艦首へエネルギーを注がれる。
「さて、準備万端だ!!」
「リピートさん、あれは一体?」
リィータは訊く。
尋常じゃない力強さを誇る雷がザイアスから放出される。そのエネルギー量は、この船に集まってくる機体を一掃できるほどであった。
リピートはニヤリと自分のことのように得意げに答える。
「――あれはこの船の主砲だ!」
-
『ブロンテカノンを発射する! 各機は射線上から退け!』
ザイアスから轟きのごとき号令がかかる。
「ブロンテカノン?」
ダイチにはそれが何なのかわからない。
「この船の主砲のことじゃ」
ただフルートは直感でそれを理解しているようだった。
「キャプテンのケラウノスを最大出力で一点に集中し、撃つ」
『カウントダウン開始! 5! 4!』
リピートがカウントダウンを始め、ダイチは息を呑む。
「3! 2! 1! 0! ブロンテカノン発射!!」
ゴロロロォォォォォォォォォン!!
海賊船の前方に開いた巨大な砲身から雷が撃ち放たされる。
網膜を焼き切るほどの雷光が瞬き、鼓膜を打ち破るほどの雷鳴が轟く。
「……すげえ!」
ダイチは目を瞑ったが、フルートは目を開け、その主砲の威力を全て見届けた。
「なんという威力じゃ……!」
フルートは驚嘆する。
「くう……!」
「これ、しっかりせんかい!」
フルートの叱咤で、ダイチは意識を起こされる。
レーダーを見ると、前方の敵機がほとんど消えている。それがブロンテカノンの威力を物語っていた。
「これで、道は開けたぞ」
「あ……!」
収容所までの防衛網が一時的に崩れ、フルートが言ったように道は開けている。
「いくぞ、ダイチ!」
「ああ! これならいける!」
これはキャプテンが作ってくれた絶好のチャンスだとダイチは理解した。同時に、それがダイチに対する厚意であることも。
『ダイチはん! エリスとミリアの位置は送っておいたで!』
「ああ!」
『二人をよろしく頼むで!』
イクミから収容所のマップが送られ、そこにエリスとミリアの位置を示すマーカーが点滅している。
「おう!」
ダイチはその想いに応え、ヴァ―ランスを飛び立たせる。
『いって、ダイチ!』
マイナの声がする。
『お前ならやれるぞ』
デランが激励の言葉をかける。
「いくぞ!」
フルートの掛け声に応じて、イクミが施してくれた機能を存分に使う。
「ブーストオン!!」
イクミから施されたブースト機能を存分に使って、全速力で収容所へ向かう。
機体の調子は上々。あるいは、イクミが想定していたよりも出力が強いかもしれない。
一度は軌道エレベーターを破壊した恐るべき力をまた発現しかけているのかもしれない。
ただそれでも今はこの力を使って、エリスを助け出す。
それがダイチの紛れもない原動力。このブーストもわけのわからないチカラも全て使いこなして、ブランフェール収容所へ向かう。
(今行くからな! 無事でいろよ!!)
一方のエリスはウィル達と共に火星人を救出しつつ、脱出すべく収容所の外側へ向かっていた。
衛兵達の数と抵抗は先に進むにつれ、激しくなっていく。それには、プライドを傷つけられたゴロン所長の執念が込められていた。
エリスやウィルは奮闘していたが、強奪した武器だけでの戦いと多勢に無勢という状況という大いに苦しめられていた。
「フフ、さてこの状況、どのように覆すのかしらね」
外套の女性は嘲笑する。
「あんたも戦いなさいよ!」
エリスは不満を口にする。
「ここで戦うつもりはないわ。それに、このぐらい切り抜けられないの?」
「――!」
焚きつけるような物言いだ。
しかし、それによってエリスの闘争本能の火はあっさりつく。
「ヒートアップ!!」
エリスの体温が上昇し、熱気となって衛兵達を蹴散らす。
「怯むな! 敵はたかだか数十人の火星人だ!」
衛兵の隊長らしき男が号令をかける。
「てぃぃぃやぁぁぁぁッ!!」
即座にエリスは蹴り飛ばす。
「がはッ!?」
隊長が倒されて、たじろぐ
「たかだか火星人ね」
「ひ!」
隊長をあっさり倒したエリスに衛兵達は一瞬たじろぐ。
「来なさいよ! やられたい奴から!!」
「やらせるか!」
衛兵の中の一人が果敢に挑む。
それを口火に、衛兵達はエリスへ押し寄せる。
エリスはそれに、銃弾をかわし、斬撃をいなし、衛兵の一人一人を流れるように拳と足で倒す。
「本調子になりましたね」
ミリアは嬉し気にその様子を見る。
「いえ、まだまだね」
外套の女性もまたエリスの戦いぶりを見て感想を述べる。
「凄まじく、雄々しい……」
ウィルはその戦いに頼もしさと同時に懐かしさを感じる。
かつての戦争で、共に戦い抜いた若き日の火星皇の姿と重なって見えた。
「奇妙なものだ。姿、形、戦い方さえ違うというのに……」
見間違い、あるいは幻覚だと一笑する。
『ええい、何をてこずっている! さっさと片付けろ!!』
スピーカーからゴロン所長の怒声が響く。
ガタンガタン!
足音で地鳴りが響き渡る。
ソルダやシュヴァリエが続々とやってくる。
『これだけのマシンノイドがいれば、もう抵抗できまい! とらえてファウナ様の目の前で私自らが処刑してやる!!』
どこまでも耳障りな号令であった。
「遠巻きで命令するだけでいい身分ね! 顔出しなさいよ、臆病者!!」
『なんとでもいえ、小娘!! 火星人の戯言などいちいち聞いてられるか!!』
エリスの周囲をソルダとシュヴァリエが取り囲む。
「く……!」
「エリス君、前に出すぎだ!」
「援護をしないと」
ミリアは機関銃を持って、万全でない身体で戦おうとする。
ゴロロロォォォォォォォォォン!!
その時、凄まじい雷光が瞬き、雷鳴が響き渡る。
『なんだ、何が起きた!?』
それは海賊船から放たれた主砲・ブロンテカノンの光と轟音だったが、火星人を捕らえることに躍起になっていたゴロン所長は知る由が無かった。
そこから、さらに放たれた一条の光も。
「あれは……!」
その光を見極めるために見上げたエリスは、何が来たのか悟る。
「ヴァ―ランス! ダイチね!!」
ガシャン!!
次の瞬間に、ヴァ―ランスはブランフェール収容所の広場に降り立つ。
「エリス、無事か!?」
ヴァ―ランスのスピーカーからダイチの声がする。
「見てのとおりよ」
エリスは得意げに答えて、安堵の息づかいがスピーカー越しから伝わってくる。
『な、なななんだ、お前はぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』
ゴロン所長のヒステリックな喚き声が響く。
『お前は邪魔だぁッ!』
ダイチはその声に応じ、ソルダをヴァ―ランスで蹴り飛ばす。
「はは、やるじゃない!」
『こっちは必死なんだよ』
『やれ、ダイチ!』
フルートの声がする。
「フルートも乗ってるんですか」
「フフ、面白い子ね」
外套の女性は楽し気に言う。
『ええい、かかれ! かかれぇッ!!』
ゴロン所長の声が響き、ソルダとシュヴァリエがヴァ―ランスへ襲い掛かる。
『お前等、邪魔だぁぁぁッ!!』
ソルダのサーベルを、ヴァ―ランスのブレードで受ける。
全長に三メートルほどソルダの方が大きいが、パワーの出力では負けていない。
「あいつ、いつの間にあんなに強くなって……」
エリスは感心する。
さらに全長に倍以上の差があるシュヴァリエまで襲い掛かるが、ヴァ―ランスはこれをかわして、ハンドガンで反撃する。
軌道エレベーターでの戦いが経験として活きている、と、ダイチは実感する。
『ええい、何をしている!? 相手はたった一機! しかも、ちっぽけなマシンノイドじゃないか!!』
「そう言うんだったら、あんたが戦いなさいよ!
――あ、そうだ! ダイチ!!」
『なんだ!?』
「こっち来なさい!」
『ああ!?』
エリスの呼びかけに応じて、ダイチはヴァ―ランスをエリスの元へ歩み寄らせる。
「手に乗せなさい!!」
『はあ!?』
ダイチは言われるまま、エリスへ手を差し出す。
エリスはそのヴァ―ランスの手に乗る。
「そのまま、飛ぶ!」
『おおう!』
ダイチはヴァ―ランスを飛ばす。
『逃がすな!! 追え追え追え!!』
ゴロン所長がスピーカーから叫び声を上げ、ソルダとシュヴァリエ達がダイチ達を追いかける。
「楽しませてくれそうね、エリス。それにダイチ……地球のヒト……」
外套の女性はそう囁く。
「――!」
ただ一人、ミリアだけが外套の女性の声を耳にして、その姿を探す。が、既に女性の姿はどこにも無かった。
「何故、ダイチさんが地球のヒトだと?」
ダイチがブランフェール収容所の敷地に飛び込んだ直後に、司令部は困惑していた。
その原因はブロンテカノンの発射であった。
「あれは一体何だ!?」
ギムエルは大いに狼狽する。
ブロンテカノンの発射によって、海賊船の撃沈せんがために展開していたマシンノイドの大部隊が半壊してしまったので、無理からぬ事だ。
『ケラウノスを媒介にして発射された大砲……』
ファウナも驚きを隠せない
「バカな! あのような芸当が出来る海賊など、存在するはずが!!」
ギムエルはテーブルを叩く。
『………………』
『ディバルド、何か知っていることはありませんか?』
『……いえ』
ディバルドは厳かな口調で答える。
『そうですか……
ですが! あのような兵器を撃てる海賊を野放しにしておくわけにはいきません! アルシャールも召集しましょう!』
「お待ちください! まだ我が軍が敗北したわけではありません!!」
『ですが、戦況は不利です。これ以上あなたに任せて悪化させるわけにいきません!』
「かくなる上は、私自ら出ます!」
ギムエルは鬼気迫る形相でファウナへ進言する。
『ギムエル長官自ら、ですか……?』
ファウナは怪訝な顔をする。
これまでの戦況悪化による事態を招いたことで、ギムエル官房長官の能力を測りかねていたからだ。
「はい!」
『任せてよろしいか、ギムエル長官殿』
ディバルドが問う。
「お任せを! これでも、クリュメゾン軍でアルシャール司令と肩を並べた剛腕をご披露いたします!!」
ギムエルの自信満々に答え、司令部を後にする。
『ディバルド、彼はあの調子で大丈夫なのですか?』
『はい。彼も言っていたように実力はアルシャール司令と双璧を成します』
『その割には顔色が優れませんが……』
『敵も強者です。あれほどのケラウノスを扱えるが敵にいるとなると、勝利は容易ではありません』
『そうですか……』
ファウナは目を閉じ、黙考する。
『至急、アルシャール司令を招集。ディバルド近衛騎士団長、総力を挙げて彼らを打倒する準備をいたしましょう』
『……御意に』
「キャプテン、次弾装填は?」
「いや、必要ないだろ。このまま前進して収容所まで向かうぞ」
ザイアスはカットラスを下ろす。
もう一発ブロンテカノンを撃つほどの事態にはもうならないとふんでのことだった。
「凄かったです、あの主砲の威力……!」
リィータは興奮まだ冷めやらぬ様子であった。
「キャプテンによる最大最強クラスのケラウノスだ。ジュピターの大艦隊とだって張り合えるぜ!」
リピートは自分のことのように得意げに言う。
「……そうですね、
ですが、キャプテンは何者なんですか? 前々から只者ではないと思っていましたが……皇族の証であるケラウノスまで……」
「そいつは、俺の口から言えねえな」
リピートは振り向いて、ザイアスの勇姿を見る。
「キャプテンが教えてくれるさ」
「……そうですか」
ピピピピピピピピ
その時、海賊船ボスランボが警報が鳴り響く。
百以上の機体に取り囲まれたときにも鳴らなかったほどのボリュームで発せられている。
「キャプテン、本艦に急速接近する機体が!」
「おいでなすったみたいだぜえ!!」
ザイアスは野獣のような瞳をギラつかせる。
オレンジ色の異形の巨人を思わせるマシンノイドが一直線に飛んでくる。集中砲火を浴びることも構わず。
『データ照合! シュクセシオン、ギムエル・スターファ官房長官の専用機です!!』
リィータは高速でデータ照合して、各員に通達する。
「ああ、俺が迎え撃つ!」
そう言って、ザイアスはマントを翻してブリッジを出る。
「頼んだぜ! キャプテン!!」
「おう!!」
ザイアスは力強く応える。
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「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
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