まほカン

jukaito

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第19話 決断! 少女の行く手にあるは成功の未来か?(Aパート)

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「あ~、落ち着いてよく聞いて欲しいんだ」
 鯖戸はかなり疲れきった顔だった。
 かなみが知っている限り、彼がこれほど疲れて暗い表情になっているのは初めて見る。
 それだけ今回はこたえたのだろう。
「私は落ち着いているんだけど……」
 あるみはふてくされたように言う。
 明らかに不機嫌顔だが、冷静さを欠いているという風には見えない。ただ、これまでの経験上、あるみが不機嫌というのはいつ火がついて爆弾のようにばくはつするかわからない危険な状態なのは理解している。
 鯖戸の顔が暗いのもそれを知っているからだとかなみは思った。
「例によって、オフィスが潰されたわけだが……」
「はいはい」
 あるみは投げやり気味に答える。
 鯖戸の背後には残骸の山となったオフィスビルがあった。左右のビルには傷一つ付かず、潰されたというより、丁寧に解体されたといった方がいい。
 どうしてこうなったのか、かなみ達にはわからない。
 ただひとつ確実にわかっているのはこれがネガサイドの仕業ということだけ。
「マスコットが光になったとき、君が本気になったことを理解したよ」
「まあ、今となっちゃフルパワーにならなくてもよかったんじゃないかって思うけどね」
「それは君の判断ミスだ。マスコットの魔力放出で居場所がバレてしまったんだからな」
「ああ、そういうことね。迂闊だったわ」
 あるみは苦い顔をする。
「まあ、緊急事態なのは理解できるけど、もうちょっと事前連絡とか欲しかったな」
「戦いの真っ最中に事前連絡とか無理よ」
「わかっていたことだけど……しかし、今回は敵にそれを突かれた」
「はあ、そういったことまで織り込み済みだったのかしら、あいつ……」
「ちょ、ちょっと、二人でどんどん話を進めないで下さい!」
 かなみが我慢しきれず叫ぶ。
「ちゃんと私達にも説明してくれるようにして下さい! 社長、言ったじゃないですか。今まで企業秘密だったことを話してくれるって。あの言葉は嘘だったんですか?」
 まくしたてられたあるみは、難しい顔をする。
 かなみの言い分もわかるし、自分で宣言してしまった手前もある。
「あ~、もうわかったわ!」
 あるみは折れた。



「まずはマスコット達からの話ね」
 あるみはテーブルにマスコット達を並べる。
 彼らは今物言わぬ人形になっている。比喩ではなく文字通りである。
 今彼らから動く気配を感じない。
「あの……説明してくれるのは嬉しいんですけど……」
 かなみはかなり言いづらそうに話を切り出す。
 ここまであえて口に出さなかったが、今疑問をぶつけないとタイミングを失ってしまう気がした。
「なんで、私の部屋でするんですか!?」
「誰の迷惑にもならない場所だと思って」
 あるみは悪びれもせず答える。
「私の迷惑は!?」
 事務所が潰されてしまった今、みんなが腰を落ち着けて話せる場所となると限られてくる。
 人目のつく場所で話すわけにはいかなかったので、距離的にも近かったかなみの部屋で話すことにあるみが、鶴の一声で決めてしまった。
 しかし、問題なのはかなみの部屋が狭いということだ。
 それに勝手に大勢であがられていい気分になれない。何よりもこんな狭くて汚い部屋に全員で上がられて見られる気恥ずかしさが耐え難かった。
「まあ、言うほど狭くないんだからいいじゃない」
「物が無いと部屋ってこんなに広くなるものなのね」
 みあは感心する。
 かなみの部屋は何も無かった。そのおかげで六畳半の空間に無理なく入れた。
 かなみ、翠華、みあ、紫織、あるみ、鯖戸の六人でテーブルを囲っていてもまだ一応余裕はある。
「なんだか落ち着くわね」
「ああ、あなたもいたんですか……」
 電球あたりを浮遊している千歳は気持ちよさそうであった。
「ホント、最近出てこないと思ったら、ずっと寝ていたのね」
「いや、眠くてね。おかげで肝心なところを寝過ごしちゃってたわ」
「まったく何のための非常勤なのかしら……」
 一応、幽霊である彼女には給金は払っても意味が無いので、働かせる必要もないのだが、この会社が気に入った、と本人たっての希望から好きな時に働いてもらうということで非常勤のポジションに落ち着いた。
 わけなのだが、もっぱら彼女は昼も夜も眠りっぱなしである。
 幽霊なのだから、そのまま地の底に眠って欲しいとかなみは思うのだが、中々そうはいかないようだ。
「こういう非常事態に働いてもらわないと意味ないじゃない」
 あるみはすかさず毒を吐く。
「そういう意味の非常勤じゃないと思うんだけどね」
「だったら非常識といってもいいかしらね」
「どうなったら、そうなるのよ? 非常識って言葉は、あなたの方がお似合いでしょうが」
 あるみと千歳が睨み合う。
「まあまあ、どっちも非常識ってことでいいじゃないですか」
 かなみは正直に言う。
 というか、この状況を何とかしたくてたまらず口を出してしまった。
「あんた、勇者ね」
 みあは思わず感心する。というか、呆れていた。
「かなみちゃん、怖いもの知らずなのね」
「なんだったら取り憑いてもいいのよ。幽霊らしく常識的にね」
 かなみは今この場で一番敵に回していけない二人を敵に回してしまったのだ。
「え、あ、あ、の……」
 事の次第に気づいたかなみだが、もう遅かった。
「かなみさん、ご冥福をお祈りします」
「いや、死んでないからね、紫織ちゃん!」
「まあ、今日のところは説明優先だからオシオキはあとにしてあげるわ」
 あるみの珍しくも寛大な処置であった。
「説明に生命を救われる日くるなんて……」
「大げさよ、かなみちゃん。寿命が百年縮むだけなのに」
「それを死ぬっていうんでしょ!」
「まあ、長生きすれば百年縮んだってどうってことないでしょ、ね?」
 割りと本気の目で千歳はあるみの方を見る。
「さあね、そんな先のことはわからないわよ」
 あるみは冗談とも本気ともとれる雰囲気で答える。
 何しろあるみならどんな非常識でも覆してしまうほどの魔法少女だ。百年以上生きてもおかしない。いや、そこまでいくと魔法少女というより魔女なのだが。
 と思ったところでかなみは考えるのをやめた。これ以上は考えるだけでも生命に関わりそうなので。
「話の腰が折れたわね。さっさと説明したかったのに……」
「まあ、ちゃんと説明してくれればそれでいいんですけど」
「ちゃんと説明するわよ。そのためにホワイトボードまで用意したんだから!」
「え!?」
 かなみは素っ頓狂な声を上げる。
「どうしてホワイトボードが!? いつの間に持ちだしたんですか? っていうかそれオフィスにあったやつですか、なんでそれだけ無事なんですか!? そんなことより、そんなもん出したらただでさえ狭い部屋が余計にせまく!?」
 かなみは思いっきりまくし立てたが、もう後の祭り。一瞬の早業で出現したホワイトボードのせいでかなみ達は圧迫され、隅に追いやられる。
「今を遡ること十五年前――」
「十五年……社長は今三十路だから十五歳……」
 まだまともな魔法少女だったころの話かと思う。
「私と仔魔は会社を作った」
「もうそんなに経つのか……」
 意外にも鯖戸は感慨深げに言う。
「いや、じゃじゃ馬だったあの頃のあるみが……昔から全然変わっていないよな」
「変わってないんですか!?」
 この社長にも少女らしく初々しい時期があったのかと思ったのだが、そうでもなかったようだ。そもそもそういう姿も想像できない。
「まあ、しかし君に振り回され続けたことで僕は強くなれたよ」
「はいはい、あなたの思い出話はまた今度ゆっくり聞いてあげるわ。
今はマスコットの説明ね。会社を設立したとき、お金がないし人手もないのよね」
「今とあんまり変わりないじゃない」
「みあちゃん、痛い現実は突きつけないの。
まあ、そんなわけでお金の方はすぐにどうにもならないから……人手だけでもなんとかしたかったわけよ」
「そこでボク達が生まれたわけだ」
「わ、マニィ!?」
 唐突にただのぬいぐるみと化していたマニィが喋り出した。まるで息を吹き返した動物のようだ。
「知り合いの魔法少女に魔力を使って使い魔を生み出すのが得意だったのを思い出してな」
 竜型のマスコット・リリィがあるみの肩に乗って威厳の喋り方で説明する。
「ウシシシ、社長は張り切って俺達をどんどん生んでくれたってわけだ」
「しかし、魔法には得意不得意があるんだ、ハァハァ」
 ウシィとホミィが話を続ける。
「かなみちゃんのように物を壊すのが得意な人もあれば、紫織ちゃんみたいに物をぶっ飛ばすのを得意な人もいるように、逆にそういった戦うことが不得意な人もいるのよ」
 アリィは説明口調が似合っていた。
「幸か不幸か、うちの会社には戦うのが得意な魔法少女ばかり集まったが、」
「世の中には戦うのに向いてない子もいるのよ」
 犬のマスコット・ドギィはこわばった表情で、鳥のマスコット・トリィが優しく、説明する。
「あ、あの……私も戦うのに向いていないと思うのですが……」
 紫織は控えめに言ってみる。
「まあ、社長が戦闘主義だしね。部下が戦いが得意になるのは当たり前だよね」
 ウサギ型のマスコット・ラビィが皮肉めいて言ってみる。
「……………………」
 サル型のマスコット・サキィは相変わらず『見ざる・聞かざる・言わざる』を貫いて説明しようとする気配もなく沈黙を守っている。
「しかし、そんな社長にも不得意なモノはあった。生み出すことだ」
 トラ型のマスコット・トミィはここぞとばかりに大仰に説明する。
「生み出すことは芸術……それは選ばれしモノのみ持ちうる才覚。残念ながら社長にはその才を天から与えられなかった……」
 イノシシ型のマスコット・イシィは芸術家というよりも詩人のように言葉を紡ぐ。
「ええ、何なのこのマスコット大集合!?」
「ここぞとばかりに総登場なのね」
「あれ? でも、マスコットは全部で十二体って話でしたよね?」
 かなみは数えてみる。
 マニィ、リリィ、ウシィ、ホミィ、アリィ、ドギィ、トリィ、ラビィ、サキィ、トミィ、イシィ……全部で十一体。あと一体足りない。
「久しぶりに起きたと思ったらヘビーな状況じゃねえか」
 あるみのリリィとは別の肩に乗ってヘビ型のマスコットが現れる。
「ああ、あんたは乗ると肩が凝るから降りなさい」
 あるみはそっけなく払い落とす。

ズゴン!!

 マスコットのふわふわな見た目にあるまじき鈍い音が鳴る。
「……は?」
 これにはかなみは床が抜けないかと思わず不安になる
「まったく、漬物石ぐらいしか使い道ないくせに」
「嘘こけ。たまに筋トレでダンベル代わりにしやがってよ」
「だ、ダンベル……?」
 翠華はヘビィを持ち上げようとする。
「お、重い……」
 しかし、両手を使っても持ち上がらない。
「俺はヘビーだからな」
「そんなの乗せてたら、肩凝りどころじゃない気がしますが」
「まあ、細かいことは抜きよ。説明が進まないでしょ」
「は、はい……」
「ともかく、この十二体のマスコットを私は会社の人材不足を解消するために創りだしたのよ」
「じゃあ、社長がマニィ達のお母さんってことなんですか?」
「まあ、そうなるわね。大メシ食らいで世話の掛かる子供達ばっかり抱えて母さん悲しいよ」
 あるみはわざとらしく涙を拭う仕草をする。
「言ってくれるぜ、もっと馬鹿にしてくれてもいいんだぜ、ハァハァ」
「ウシシシ、あるみの魔力効率が悪いからだぜ。もっと魔力を分け与えてくれたら戦いにも役に立つんだがな」
「言ってくれるじゃないの……」
「魔力効率が悪いって、どういうことなんですか?」
「それね。マスコット達は私から魔力を供給を受けて生きているのよ」
「たださっきも言ったけど、あるみ社長はこういった他の物に魔力を与えたり、与えた物を遠隔操作することが苦手なのよ」
 トリィは優しい口調で手厳しく言う。
「しかも、それが十二体だからね。どれだけの魔力を使うか、計算するだけでも気が遠くなるよ」
 マニィは呆れた口調で言う。
「んで、結局どれだけの魔力を使ってるわけ?」
「ざっと、かなみちゃん五人分ぐらいかしら」
 気が遠くなるって言ってたのに案外速いんだ、と、密かにかなみは思った。
「はあ!? こいつのバカ魔力の五倍あるわけ!?」
「嘘です、私のたった五倍なわけないですよ! 百倍あっても足りないくらいですよ」
「かなみちゃん……私の過大評価してくれるのは嬉しいんだけど」
「はい、だって社長は化け物ですから」
「あんたも自分が十分化け物だってこと十分自覚した方がいいわよ」
「かなみさん、口は災いの元よ」
 翠華もこれにはさすがに呆れるしか無かった。しかし、同時に不憫で可愛いとも思っていた。
「かなみちゃんの魔力量はともかく、何度も言ってるけどこいつらへ魔力を送るのは私は苦手なのよね。
人間、向き不向きがあるみたいだけど。おかげで私が十の魔力を送ってもこいつらは六ぐらいしか受け取らないのよ」
「それって多いんですか? 少ないんですか?」
 いまいち基準がつかめていないかなみであった。
 自分達しか魔法少女がいないせいだ。クラスの平均がわかなければテストで五十点とったとしてもそれが高いのか低いのかわからないのと同じ事だ。
「私が知ってた魔法少女は十送ったら十受け取るようにできていたわ」
「無駄がないんですね」
「そうなのよ。それを十二体もやっていたんだから神業もいいところよ」
「どうして十二体もマスコットを出そうと思ったんですか?」
 十とか八とかもっと少なくしてもよかったんじゃないか、と思ってかなみは訊いた。
「なんとなくよ。ただその数字が気に入ってるだけよ」
「なんとなく、ですか……」
「魔法において、その感情が重要なんだ。なんとなく気に入ってるから、なんとなく好きだから、なんとなくこうしたいといった直感が一番自分に馴染むことがある。
だから、あるみはその直感を特に大事にしているんだ」
 鯖戸があるみの「なんとなく」についてフォローする。
 あるみがいると彼はいつもこういった役割をとる。今聞いた十五年以上の長い付き合いが自然とそうさせるのだろう。
「ようするに本能で動くのが一番いいってことね、まるで動物じゃない」
「そういうことね。動物っていうのはちょっといただけない表現だけど」
「みあちゃん、遠慮がないからね」
 かなみは苦笑いする。みあの本音がいつ、あるみの導火線に火をつけるが気が気でいられない。
「でも、十二体に魔力を送り続けるなんて相当な負担じゃありませんか?」
「相当な負担よ。マニィが言ったでしょ、気が遠くなるぐらいの量だって」
「私の五倍……」
 かなみはボソリと呟く。それが本当に気が遠くなるのか、かなみには疑問であった。
「おかげで私はいつもガス欠状態で困ってるのよね」
「あ、あれでガス欠なんですか……?」
 かなみは思い出しただけでも身震いする。
 ミサイルを空中で一瞬分解したり、かなみ達三人を相手にして遊んだり、神殺砲を受け止めて片手の火傷程度に済ませたり、無数の魔法弾を撃ちだしてボロボロにされたこともあった。
 あれが全部マスコット達に魔力を送ってガス欠状態での芸当だなんてとても思えない。
 燃料満タンでエンジン全開じゃないか。というのがかなみの正直な想いだ。
「それだけ彼女の魔力の総量は桁違いってことだ」
 マニィの言っていることが全てを物語っているということだ。
「桁違いにもほどがあります」
 あまりにも凄すぎてかなみにはそう返すことしか出来なかった。
(でもね、かなみちゃん。あなたにも届く境地なのよ。私とあなたの総量の差はたった十倍しかないのだから)



「昨日の夜は大騒動だったみたいね」
 同級生の佐伯里英さえきりえにそう言われてかなみは肩を震わせる。
「そ、そうみたいね」
「何が大騒動だったんだ?」
 新井貴子あらいたかこが呑気に言う。
「知らないの? 昨日ね、街のビルの取り壊しがいきなり始まったみたいなのよ」
「へえ」
「そういうことになってるのね、あの騒動……」
 かなみは密かに呟く。
 昨日の巨大ロボットがミサイル撃ったり、ビーム撃って来たりしてビルが立ち並ぶ町並みが瓦礫の山脈と化してしまった。尋常じゃない騒ぎになるかと思ったらその程度のことで処理されていることに薄ら寒さを感じる
「すごかったのよ。私、朝通るんだけど、本当にビルとか全部無くなっちゃってたんだよ」
「へえ、それは見てみたいな」
「そ、そうね……」
 正直言うとかなみはあまり見たいとは思わなかった。
 昨晩、ネガサイドが巨大ロボットがあれだけ大暴れした悪夢といってもいい出来事を思い出したくないからだ。
「ねえ、どうして取り壊しが始まったか聞いてない?」
「え、街の再開発計画とかって聞いてるけど。全部壊すのはさすがにやりすぎよね」
 それにしても数々の高層ビルが倒壊してしまったあの大惨事がたったこれだけしか伝わっていない。
「ええ、あれはやりすぎよ」
 しかも、再開発計画という触れ込みで情報が出回っている。
 何かとんでもない情報操作がかかっているとしか思えない。単純な悪事よりもこういった芸当ができることにネガサイドの恐ろしさがあるのかもしれない、と、かなみは思う。
「と、ところで……」

グウ~~

 腹の虫が鳴り出す。
「今日のお昼、どうしようか?」
 それはともかくとして当面のかなみの最も恐るべき敵は、借金と空腹であった。
「私はお弁当だけど、貴子ちゃんは?」
「あたしもだ。学食は量は少ないからね」
「貴子ちゃん、いつもいっぱい食べるよね。そんなに食べたら太るよ」
「太る……」
 今のかなみには少し想像のつかないことであった。
「私、最近食べ過ぎちゃってて、体重計乗るのが怖くて」
「あたしはそういうの乗ったことないよ」
「いいわね、悩みが無さそうで」
 里絵は羨ましそうに言う。
「かなみちゃんもそうだよね」
「え、私?」
 ここでかなみは自分に振られるとは思わなかった。
「かなみちゃんもなんだか痩せてきたよね」
「え、ええ、そ、そうかな?」
「いや、かなみの場合、痩せたというよりやつれたって感じだよな」
「……う!」
 相変わらず貴子はよく気がつくと思った。
「テスト勉強が大変だったのか?」
「え、ええ、まあね。貴子より絶対いい点とってる自信があるわ」
「貴子ちゃんより点数が高くても自慢にはならないと思うけど」
「酷いな、二人とも!」
「ごめんごめん。で、お昼はどうする?」
「私と貴子ちゃんは弁当だよ」
「う……じゃあ、私だけ学食か……」
 かなみは立ち上がる。
「いってらっしゃーい」
「いってきまーす」
 かなみは気だるげに答える。
 友達に嘘をついている。そう思うと自然と気が重くなって同時に足取りも重くなってしまう。
「友達付き合いというのは大変だね」
 肩に乗ったマニィがぼやく。
「うるさい、黙ってなさい」
「最近、お金にも余裕が出来てきたんだから少しぐらい贅沢してもいいと思うんだけど」
「学食が贅沢ってちょっと情けない話だけど……」
「上を見たらキリがないよ」
「かといって、下ばっかみていられないのよね……」
「君も相当な意地っぱりだね」
「意地がないとやっていけないでしょ、魔法少女は」
 それを聞いたマニィは心なしか安堵しているようにも見えた。



 放課後、帰り道で友達と別れたかなみはため息をついた。
「……帰りたくない」
「おかしな話だな。いつも早く帰りたいとぼやいているのに」
「それは会社にいる時の話でしょ」
 そう言いながらぼやいてアパートの階段を上がる。
 すれ違いざまにドギィがかけていった。それを見るやいなや、空を見上げる。するとトリィの姿があった。
 それで憂鬱な気分が増しながらも部屋の扉を開ける。
「おかえりなさい」
 出迎えてくれる声があった。
 これはこちらに移り住んでから初めてのことであった。
 ただ、それは求めていた両親のものではなかった。
「ただいま。今日の仕事はなんですか、社長?」
 もう部屋に我が物顔で居座っているあるみを見る。
 まわりでマスコット達がせわしなく動き回っている。おそらく働いているのだろう。
 ラビィは隅っこでパソコンをカタカタと打ち込んでいる。イシィは何やらテーブルで彫り物をしている。トニィは自分の身の丈以上もあるプリントの書類を見上げながら目を通している。サキィとヘビィは置き物のようにじっとしている。
「仕事といってもねえ、あんまりやってほしいことはないんだけどね」
 あるみは書類に目を通して、判を押す。一体何の承認をしたのだろうか。
「じゃあ、ゆっくりさせてもらいますね」
「ここはあんたの家なんだから、遠慮することないわよ」
「一体、誰のせいですか?」
「ネガサイドのせいよ」
「う……」
 確かにその通りだ。
 ネガサイドがオフィスビルを取り壊しさえしなければ、こうしてなくなったオフィスの代わりにかなみの部屋を使うことはなかった。
 原因を作ったのはネガサイド。責任はネガサイドにある。
 だけど、何故オフィスの代わりがかなみの部屋なのだろうか。
 かなみの怒りのそこにあった。
「でも、どうして私の部屋を使うんですか? もっと広い場所にすればよかったんじゃないですか?」
「うーん、ホテルだとお金かかるし……」
「家賃、払ってもらえるんですよね?」
「え?」
「え? じゃないですよ。まさか、このままタダで部屋を使うつもりだったんですか!?」
 かなみとしてはこのまま居座るのであれば、数日後の決済でアパートの家賃を払ってもらおうかと思っていた。いや、全額はさすがに無理だと思ったが、せめて折半ぐらいはしてくれないと割に合わない。
「あははは」
「笑ってごまかさないで下さい!」
 あるみがこういう態度をとるときは、まったく考えていなかったということだとかなみはわかっている。
 意外なところでこの人はごまかし方がヘタなのだ。
「ほら、今はお金が必要なときだから」
「私も必要なときなんです。今も、これからも、ですよ」
「かなみちゃん……とりあえずご飯代ぐらいはもつわ」
「その提案はとても魅力的なんですが……」
 渋るかなみに対して、あるみは小銭入れを取り出してジャリジャリと音を立てる。
「三時のおやつ付き」

ガシィ!

 あるみから差し出された小銭をかなみは握り締める。
「とりあえず、空腹で苦しむことはなくなったわけだね」
 マニィは呆れたように言う。
「でも、ですね。あんまり、外には出ないでくださいよ。昨日もおすそわけに来たお兄ちゃんがビックリしたんですから」
「ああ、あのシチュー。美味しかったわね」
「あの後、お姉さんなのかって聞かれたんですから」
「あははは、家族みたいなものだからいいじゃない」
「いいえ、お母さんですって答えて納得してもらいました」
「――私ってそんな歳に見えるのかしら?」
 あるみの声には確かな怒気があった。
 正直言って、あるみはかなみのような中学生の娘を持った母親にまったく見えない。とても三十歳には見えない十代の若々しさで満ちているせいだ。
「今度会った時、訂正しておきます」
「あの子も大変よね」
「え……?」
 あるみは何気なく呟いたつもりだったが、かなみには彼を心配しているように見えた。
 あるみが他人を心配するのは珍しい。それが一度会っただけの人ともなると尚更だ。
「かなみちゃん、仕事よ」
「さっき、仕事は無いって言ったじゃないですか」
「仕事は急に舞い込んでくるものよ」
 そう言って、あるみはかなみに書類を渡す。
「これは?」
「来羽からあるモノを受け取ってきて。これを見せればわかるわ」
「来羽さんから?」
「早く行って来てね」
 あるみは急かす。
「わかりました」
 来羽……会いたくないというわけではない。
 むしろ、来羽なら何か自分に相応しい未来を教えてくれるかもしれない。
 未来……自分達はこれからどうなるのだろうか。オフィスビルが無くなってこれまでのようにやっていけるのか。
「社長……」
「何かしら?」
「これからどうなるのでしょうか?」
「これから、ね……さきのことはわからないけど、対策は考えないとね」
「対策?」
「あのオフィスビルには結界があったのよ。ネガサイドの連中に居場所をバレないようにね」
「結界?」
 それは初耳だった。
 だが、それがあったから今までオフィスにネガサイドからの襲撃を受けなかったということで納得がいった。
「それなのに、バレた」
「……それは、どういうことなんでしょうか?」
 それを聞いて、かなみは背筋に寒いものを感じた。
「わからないわ」
 あるみはそれだけ答えた。



 釈然としないまま、かなみは来羽のオフィスに行ってみた。
「いらっしゃい、かなみちゃん。よく来たわね」
 来羽は笑顔で出迎えてくれた。
 正直言うと来羽と会ったことは数える程しかない。なのに、何故彼女はこれほど温かい笑顔を自分に向けてくれるのか、カナミの疑問はつきない。
「お茶がいい? それとも、コーヒーの方が好き?」
「あ、いえ、結構ですよ。そんなお構いなく」
「遠慮しなくてもいいのよ。自分の家みたいにくつろいでくれていいわ」
「あ……」
 かなみは思わず苦笑いする。
 自分の家は今くつろげる場所では無くなっているからだ。
「お茶でお願いします」
 そう言われて、来羽は即座に温かいお茶を出す。
「私がどっちを選ぶのか、視たんですか?」
 来羽は未来を見る魔法が使える。
 だから、今こうしている自分と来羽の姿をあらかじめてみたいのかもしれない。
「いいえ、ただわかっていただけよ」
「わかっていた?」
 かなみは疑問に思った。
 来羽はどうしてここまで自分のことをわかっていて、その上で大切に思ってくれるのだろうか。
「かなみちゃん、苦いのは苦手そうだから」
「うちの社長のせいですよ……」
「ああ、あるみは泥のように濃い物がすきだからね」
「苦すぎますよ」
「まあ、あるみは大人になれないからそのぐらいしか背伸びが出来ないのよ」
「え……大人になれないって?」
 来羽は何気なく言ったつもりだったが、かなみにはとても重要に聞こえた。
 あるみは大人になれない……一体どういうことなのだろうか。
 かなみからしてみれば、あるみは十分立派な大人だ。ただ少しばかり若々しいだけの三十歳。三十歳で大人だけど魔法少女はやっている。ただそれだけの話のはずなのに……。
「ああ、かなみちゃんは知らなかったのね」
「知らなかったって何のことですか? だってあるみさんは三十歳で大人なんですよ」
「年齢の話じゃないのよ。あるみは魔法少女だからね」
「言ってる意味がわかりません……」
「そうね、例えば……かなみちゃんにとっての魔法少女、モチーフはアニメでも漫画でもいいから想像してみて」
「あ、はい」
 かなみは頭の中で想像してみる。
 小さかった頃、よく見ていたアニメを思い出す。
 魔法で素敵な衣装に変身する少女。
 困った人を魔法で助ける可愛い少女。
 悪の組織に勇敢に戦う強い少女。
 記憶の中の様々な少女が混ざり合って、やがて漠然とはしているが一人の魔法少女のイメージがなんとなく思い浮かぶ。
「その魔法少女はお酒を飲むかしら?」
「いいえ、飲みません」
「たばこは吸う?」
「いいえ、吸いません」
「どうして?」
「そ、それは……」
 かなみは答えに戸惑った。
「普通に考えたら、魔法少女は十歳程度だからよね?」
「は、はい、そうです」
 そうだった。色々な魔法少女を想像してはみたもののみんな自分と同じくらい、もしくはそれよりも幼かった。つまりは未成年なのだから、酒を飲むこともたばこを吸うこともありえないのだ。
「でも、あるみは三十歳。魔法少女としてはありえない年齢なのよ」
「それは来羽さんだって同じじゃないですか?」
「そうね。あるみほどじゃないけど、魔法は扱えるわ。
――でも、あるみは魔法少女なのよ」
「……意味がわかりません」
 かなみにとってはどっちも同じように見えてしまう。
「あなたが思うような魔法少女にあるみはなろうとしている。
酒もタバコもしない。
恋はすれども結婚はしない。
だから、あるみは強いのよ」
 来羽は誇らしげに我が事のように語る。
「……私にはわかりません」
 しかし、かなみにはその言葉の意味がわからなかった。
 何故なら、かなみには酒もタバコも、そして結婚も全部大人という想像もできない世界であったからだ。
「いずれわかるときが、くるわ」
 来羽はそう言って、コーヒーを飲み干す。
「ところで、今日は何の用で来てくれたの? お茶を飲みに来ただけってわけじゃないでしょ?」
「あ、いえ、はい。社長からこれを渡すようにと言われまして」
 かなみは書類を来羽に渡す。
「これは……」
 来羽はそれに目を通すと、険しい顔つきになる。
「事態は急を要するってわけね」
 そう言った来羽の目は虹色に輝いた。
 この目は、魔法で未来が視ているときになるものだ。数限りない未来の映像が一瞬のうちに視ているせいで、網膜に焼き付けられ、混ざり合い、それが目が虹色に輝くことになる。
 その目をとても綺麗だとかなみは思った。しかし、同時にその目はかなみを不安にさせた。
 未来が良いモノとは必ずしも限らない。当然、悪いモノだってありうる。
 しかも、来羽は魔法を使う前に急を要するといった不吉なことを呟いた。それがかなみの不安を助長させた。
「ふう……」
 来羽はそっと目を閉じて、眼鏡をかけ直す。
「何が視たんですか?」
「さあ……それは言えないわね」
 来羽は答えること無く、書類にペンを走らせる。
 それはとてつもなく速く、まるで魔法を使っているようであった。
「来羽さん、速いですね!?」
「一応、書記官の資格持ちなのよ」
「書記官……?」
「まあ、こういった筆記ができる人のことよ」
 なんだか違うような気がした。
 そうこうしているうちに、来羽は次々と書類をめくっていく。
 それはもう冊子と呼べるものになっていた。
「はい、これをあるみに渡して」
「え、あ、はい……」
 かなみは言われるまま、冊子を受け取る。
 そこにはびっしりと文字が書かれており、読もうとするだけで目眩を起こしそうであった。
「これは未来ですか?」
「ええ……読みたければ読んでもいいのよ」
「それって私が読んだ未来もみたんですか?」
 未来は無数にある。
 かなみがこの書類を読んだ未来、読まずにあるみに渡した未来、そして、読みもせずあるみにも渡さなかった未来……たったそれだけ考えて目眩を起こしそうになる。
 それらを全て書いたというなら、この量にも納得がいく。
 恐るべきはこれを僅かな内に書き上げてしまったことだ。それも魔法の内なのだろうか。
 来羽の凄さを改めて実感した。だけど、読む気にはなれなかった。量もさることながら、それで未来が決まってしまって自分の力ではどうしようもなくなるのではないかという不安があった。
「ええ、もちろん。数ページ読んで目眩がして、諦めた未来は見えたわ」
 来羽は何の悪気もなく言う。
「あ、あの、そう言われると読みたくなるんですが……」
「大丈夫よ、かなみちゃんには絶対読み切れないから……小説一冊だって読んだことないでしょ?」
 来羽はニコリと笑って毒を吐く
「あ、あの……なんで私が小説読んだこと無いって知ってるんですか!?」
「かなみちゃんのことで、私が知らないことは無いわ」
 来羽は自然と言う。
 そう極めて自然に。かっこつけることもなく、気取ることもなく、あくまで自然であった。
 だから余計に伝わる。その言葉に嘘偽りがないことを。
 しかし、それは同時に寒気が走る発言であった。
「それはどういうことなんでしょうか?」
「そのままの意味よ」
「……意味がわかりません」
 かなみはため息をつく。
 なんだか、この人。そこはかとなく話が通じない感じがする。
「帰ります」
「またゆっくりしていってね」
「はい、今度ゆっくりしてきます」
 ゆっくり話し合える日がくるのだろうか。
 それも来羽はちゃんと未来を視た上で言ったのだろうか。
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