まほカン

jukaito

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第34話 再会! 福音が告げる来訪者は母親 (Bパート)

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 駅のホームで一時間ほど待っていたけど来る気配がまったくない。
 時折、電車がやってきてそれに乗っているのでは、と期待を寄せるがそれがことごとく空振りしている。
「はあ~」
 そのうち立ちっぱなしに疲れてきて、ホームにあったベンチに腰を下ろす。
「本当に来るの?」
 そんな弱音にも似た問いかけをマニィにした。
「彼女は嘘をつかない」
「隠し事は多いみたいだけど」
「それは仕方がないんだよ。話したらまずいこともあるんだ、君のためを考えてあえてそうしている」
「私のため、ね……四億の借金を背負わせることも?」
「………………」
 マニィは黙り込む。
「それも話したらまずいことね」
 かなみはそこまで教えてくれないと判断してそう毒づく。
「母さん、どうしていなくちゃったのかしら……?」
 あの日のことを思い出してみる。
 年中仕事で出張しているせいで、家を空けがちな父と母。そんな二人が揃って久しぶりに帰ってくるはずの日だった。
 今にして思うと自分はそれを楽しみにしていた。いつ帰ってきて土産をくれたり、海外の話をしてくれるのか、そんな期待に胸を弾ませていた。
 その期待は見事に裏切られた。
 いきなり見知らぬ黒服の男達が踏み込んできた。
 そして、両親は借金していて娘の自分にも返済義務があるから払えと一方的に言い放ってきた。
 どうして自分が払わなくちゃならないのか、親はどうして払えないのかと聞き返したら、

――両親は消息不明なんだ。

 と返された。
 それで目の前が真っ白になった気がする。
 捨てられた、そんな言葉が脳裏をよぎる。
「私に面倒事を押し付けたのかしら……?」
 そんな恨み言を人知れず何度も呟いた。
 でも、両親を恨んでいるのかと言うと、それもまた微妙だった。
 こうして、駅で母が現れるのを待っていると改めて考えさせられる。
 恨んでいるから恨み言の一つでも言ってやろう。そんな想いにならない。
 ただただ教えてほしいのだ。
 どうして借金を押し付けて消えてしまったのか。父さんはどうしているのか。もう帰ってくることはないのか。
「母さん……かあさん……」
「はぁい」
「――!?」
 かなみは飛び上がるようにベンチから立ち上がった。
「………………」
 息が止まりそうになる。
 今、声が聞こえた。
 目蓋が重い。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
 もしかしてさっきの声も夢だったかもしれない。
 そして今、目の前に立っているのも夢かもしれない。
「本当は会うつもりなんてなかったのにねぇ」
 母、結城涼美は間延びした声でぼやく。
 にこやかな微笑みとおっとりした喋り方は間違いなく母のそれであった。
 腰のまで伸びた鮮やかな金色の髪とグラビアでも通じる豊満な身体つきも相変わらずだ。
「母さん……」
「はぁい、何かしらぁ?」
「……………」
 言葉が出てこなかった。何から話し始めたらいいかわからなかった。
「とりあえず、これは夢ね」
「なんで、そうなるのよぉ?」
「夢の中の母さんだったら口答えしないと思うんだけど」
「それは現実だからよぉ。まさか娘に夢扱いされるなんて、母さん悲しいわぁ」
 涼美はわざとらしくため息をつく。
「誰のせいでそうなったと思ってるの、白々しい」
「母さん、ちょっとだけ後悔してるわぁ……いえ、これも罰だと甘んじて受けるわ」
「罰? 罰ってどういうことよ?」
 涼美はそう問いかけられて、またため息をつく。
「母さんにも事情があるのよぉ」
「だから、その事情が何なのか教えてって言ってるのよ」
「……知りたいのぉ」
「当たり前じゃない」
「そうよねぇ……」
 涼美はまたため息をつく。
「まず何から話したらいいかしら……?」
 涼美は頬に手をついて考え込む。
 その様子にかなみは安堵する。少なくとも話してくれなかったり、煙にまかれたりすることはないのだ、と。
「そうねぇ……
――私、魔法少女なのぉ」
「……え?」
「――私、魔法少女なのぉ」
 キョトンとしたかなみに涼美はもう一度告白する。
「一回言えばわかるわ!」
「え、そうなのぉ、もうちょっと驚くと思ったのに」
「なんとなく、そんな気がしてたから……でも、母さん、その歳で魔法少女って恥ずかしくないの?」
「そう言われるとぉ、ちょっと恥ずかしいわねぇ……」
「恥ずかしいならやめてよ」
「かなみは恥ずかしくないのぉ?」
「う……」
 かなみは言葉をつまらせる。
 そんな反撃が来るとは思わなかったけど、改めて考えると……恥ずかしい。
 何度も何度も変身して戦っていて感覚が麻痺仕掛けているけど……やっぱり恥ずかしい。
「母さん、動画よく見てるけどぉ。すごく似合ってるわよぉ」
「あ、あれ、見てるの!?」
 途端、かなみは顔を真っ赤にする。
 身内から見ていると言われた時、なんとも言えない恥ずかしがこみ上げる。帰ったら即座に削除の進言をせねば、とかなみは決意する。
「顔を赤くしてるかなみも可愛いわよぉ」
「ちゃ、茶化さないで!」
「いえ、私は真面目に可愛いと思ってるわよぉ」
「それが茶化してるって言うのよ!」
「困ったわねぇ、どうやったらわかってもらえるのかしらぁ?」
「じゃあ、母さんも変身してみてよ」
「ああ、それはできないわねぇ」」
「どうして? 魔法少女なんでしょ?」
「恥ずかしいからぁ」
「………………」
 かなみは目を細める。
「ああ、かなみがどうしてもっていうならぁ……」
「もういいわ!」
 かなみはそっぽ向く。
「それより早く教えて……」
「何をぉ?」
「何もかも!」
「そうね……私が魔法少女で、あるみちゃんや来葉ちゃんとはお友達なのよぉ」
「やっぱり」
 そんな気がしていた。
 そのため、そう言われても驚きはそこまでなかった。
「あらぁ、もっと驚くと思ったのにぃ」
「そんな気がしてたから」
「あるみちゃんはおしゃべりだからねぇ」
「おしゃべりだけど肝心なことはなかなか話してくれないわ」
「まあぁ、この歳になってくると色々秘密とか出来るのよぉ」
「じゃあ、母さんは教えてよ」
「強引ねぇ、ちょっとあるみちゃんに似てきたんじゃなぁい?」
「……そ、そう?」
「うん、ちょっと強引で図々しいところなんかがぁ」
「母さんに似ないでよかったってちょっとだけ思ったわ」
「そう言われると母さん、ちょっと悲しいわ。しくしく……」
「って泣かないでよ」
「だって、本当に悲しいから」
「だからって大人が泣かないでよ」
「あはは、母さん泣き虫だから、その分かなみは強いのよね」
「私、強くなんかないから」
「そんなことないわぁ」
 涼美はそう言ってかなみを抱きしめる。
「か、母さん……」
「強いかなみが私は好きよぉ」
「だったら、どうして……」
 かなみは絞り出すように続けて言った。
「私を置いてったの?」
「しょうがなかったのよぉ」
「あの人が……私達を見捨てたから……」
 あの人……なんとなく、それは父のことを言っているのだとかなみは察した。
「見捨てたって、父さんが?」
「ええぇ……あんなに愛してたのにぃ……」
「私、父さんに会ったわ」
「それはどこで?」
 涼美はかなみの顔に覗き込む。
 これまでのにこやかで呑気な雰囲気が一気に消え失せた。
 その瞳で見つめられると母であることを忘れて恐怖で身が凍えるような感覚に襲われる。
「こ、この前の出張で……」
「そうね、この前だったら……もうそこにはいないわよね、手がかりも残っていないわね」
「手がかり……母さん、それはどういうことなの?」
「ん?」
 涼美はもう元のおっとりしたいつもの母の姿に戻っていた。
「母さんは父さんがどこにいるのかわかるの」
「知ってたらぁ、訊いてないわぁ」
「……母さんは父さんを探してるの?」
「ええぇ、そうよぉ」
 涼美は話してくれる。
「実はねぇ…借金はねぇ、父さんが押し付けたものなのよぉ」
「はあ!?」
 衝撃の告白にかなみは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「だから、私は父さんの行方を追ってるの」
「ど、どういうこと? 父さん、そんな借金してたわけ?」
 かなみは涼美の肩を掴んで問いただす。
 これまで散々苦しめられた借金の原因だ。是が非でも知りたい。
 それに父が残した言葉が気になる。

――言えば……俺の生命が無いからな……

 その言葉の意味を母なら知っている気がする。
「父さんはねぇ……」
 間延びした口調で、次の言葉を言いかけた時。涼美はかなみを引き離して次の言葉を告げなかった。
「か、母さん!?」
「――敵よ」
 ホームが揺れた。
 身体が飛び上がらんばかりの激しい揺れだ。というか、本当に身体が浮いた。
「きゃッ!?」
 かなみは床に倒れ込みかけた。
 そこを涼美が抱き止める。
「だいじょーぶ?」
「う、うん」
 そう答えて、涼美を見ると足がしっかり床についていた。
 そこから一切揺れたりしないぐらい力強さを感じさせる。
「これはただの地震じゃないわね」
「ええ、でもこれだけの地震を起こすとなるとちょっとやそっとの怪人じゃないわね」

ズゴォォォォォン!!

 また大きく動く。
「あー!?」
 そのはずみで取り出しかけたコインがチリンチリンと階段の下に転がっていく。
「かなみのどぉじ」
「うわん、言わないで!」
 かなみは慌てて取りに行く。
「さぁて、それじゃひさぁしぶりにぃ、はりきってぇいきましょう」

チリンチリン

 涼美が指を立てると鈴が鳴る。
「鈴と福音の奏者・魔法少女スズミ降誕!」
 輝く黄金の衣装を纏い、腰まで伸びた髪がハープの弦のように揺らめく。

チリン

 澄んだ音色の鈴が響き渡り、カコンとヒールの音を立ててホームに降り立つ。
「――これは新顔ですかな」
 しかし、それをドスンドスンといったけたたましい足音がかき消す。
「いいえ、古顔よ。そういうあなたこそ新顔かしら?」
「いかにも!」
 岩のように丸い鋼鉄の身体が重石のようにずしりと大地を踏みしめて名乗りを上げる。
「我が名は震将しんしょう。決して揺らがぬ不動の怪人!」
「不動ってまた大きく出たわね」
「本当に動かんからな、ふうん!」
 震将は一歩踏みしめる。
「大言壮語はしないよ」
「動いてもらうわよぉ、ゴールドぉエヴァン!」
 スズミは巨大な黄金の鈴を出現させ、震将にぶつける。

ゴチリン!

 鈍い音が鈴の澄んだ音に消える。
「ききませんな」
「あらぁ? 本当に動かないわねぇ」
 スズミは感心する。
「不動の名は伊達ではないのだ。ぬぅん!」
 震将はその場から一歩も動かず、衝撃波を飛ばしてくる。

ゴワシャンッ!!

 衝撃波が駆け抜けただけでガラスが割れていく。
「なんてぇ、近所迷惑なのかしらぁ」
「迷惑をかけるために生まれてきたようなものですからな」
「そんな悲しいこと言われるとぉ、母さん悲しくなってくるわぁ」
「あなたに母親になってもらった記憶にございませんが」
「だそうよぁ、かなみ」
「私に振らないでッ!」
 コインを持ってやってきたかなみは言い返す。
「む、二人目がいたか」
「最初からいたわよ! こうなったら巻き気味にいくわ!」
「尺が足りないからね」
 マニィがそう言うやいなや、かなみはコインを舞い上げる。
「マジカルワークス!」
 一瞬の光の後に黄色の魔法少女が現れる。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上」
「おおぉ、生カナミねぇ」
「生とか言わないで! っていうか、母さん本当に魔法少女だったのね!?」
「だからぁ、そう言ったじゃないのぉ」
「その歳でその格好って恥ずかしくないの?」
「これでもぉ、かなみと同じくらい恥ずかしいのよぉ……特にぃ、今日は娘と一緒だからぁ、だぷるぱんちなのよねぇ」
「もう後ろに引っ込んでてよ」
「そうも言ってられないよぉ」
 スズミはそう言って震将を見つめる。
「あれ、強敵だから
――それにもう一人いるみたいねぇ」
「ファイアッ!」
 急に空から火の玉降り注ぐ。
「わわッ!?」
 カナミは慌ててそれを魔法弾で迎撃する。
「よぉく、俺様の熱血火の玉を撃ち落としたな。褒めてつかわす」
 キセルをくわえ、袴を着たトカゲの怪人が現れる。
「なんなのよ、あんたは!?」
「俺様か? 俺様は人呼んで灼熱の獣将・ファザードだ!」
「ああ、また面倒なやつがきたわ」
 カナミはため息をつきたくなる。
「これじゃ、母さん後ろに引っ込むわけにいかないでしょ?」
 カナミは頭を抱えそうになる。
 できれば母親にこういった魔法少女の衣装で戦うなんてこと、恥ずかしくてやめさせたいのに。
 状況はそうもいってられない。
 二体の怪人。それもかなり強い。
 気配でわかる。
 震将は大地を揺るがす衝撃をあっさりと放ってくる。しかもまだまだ余力を感じる。
 ファザードは火の玉を撃ちだしてくる。魔法弾で撃ち落とすことができたけど、それが奴の力の全てとは思えない。
「うふふ」
 不意にこの緊迫した状況の中でスズミが笑い出す。
「どうしたの?」
「楽しくなってきたと思って」
「楽しい、なんで?」
「娘と一緒になって魔法少女やってるのが」
「わ、私は恥ずかしいんだけど……!」
「恥ずかしくてもぉ、楽しいからぁいいのよねぇ」
「ああ! 母さんと話が通じない!」
「私は楽しいお話してると思うわよぉ」
「もう何言ってるの! なんでもいいから! 母さんはあっち任せていい?」
「まかせてぇ~」
 スズミは親指を立てて言う。
 実にノリノリである。ここまで活き活きしている母を見た記憶が無い。
「カナミも気をつけてねぇ」
「母さんこそ!」
 そう言い返して、カナミはファザードと相対する。
「別れはすんだか?」
「誰が別れるって?」
 そんなつもりは毛頭無かった。
「この世とのお別れに決まってるだろうがぁッ!」
 ファザードは口から火の玉を出してくる。カナミはそれを魔法弾が迎撃する。
「火慣らしはすんだか?」
「ひならし、って何よ?」
「これから燃えるにきまってるだろうがぁッ!!」
 ファザードは巨大な炎を吐き出してくる。
「わわぁッ!」
 カナミは魔法のビームを撃つ。

ブオオオオン!!

 しかし、炎を相殺することはできず、ビームと衝突した炎は周囲に燃え広がる。
「火の海地獄だぜッ!」
「なんてことしてくれたのよッ!」
「俺は燃やして燃やす熱血火の玉だぜッ!」
「なんてはた迷惑なやつなのッ! 火事になったら私に請求が来るのよ!」
「それもまた地獄ってやつだな、ははははッ!!」
「むかつくッ!」
「それもう一発ッ!」
「させるかってのよ!」
 カナミは放たれる炎に向かってステッキをかざす。
「プラマイゼロ・イレイザー!」
 放たれた魔法弾が炎を包み込み、そのまま消滅させてしまう。
「なぬッ!」
「成功だね、このところ深夜に特訓してきた甲斐があったね」
「当然、これで請求書は回避してやるんだから!」
「何か切実なものを感じるが、そんなもの灰にしてやればいいぜぇッ!」
「私だって燃やして灰にしたいわよッ!」
 カナミはついつい今あったばかりの敵に本音を漏らす。
「おう! なんだかわからないが、いい熱血を感じたぜ!」
「じゃあ、倒されなさい」
「やなこった! それごと燃やして燃やすだけだぜ!」
「そうはさせないってのよッ!」
「させないって言ったな、そうはさせるのが俺なんだよぉッ!!」
 ファザードはさっきよりも大きな炎を吐き出してくる。
「プラマイゼロ・イレイザー!」
 カナミは撃ち返す。
 魔法弾が再び炎を包み込み、消滅させる。さっきと同じ結果だ。
「しかし、めげないぞ!」
 ファザードは炎を連射してくる。
「わ、わわあッ!?」
 カナミは慌てて炎から逃げる。
 駅のホームが火の海というに相応しいほどに炎が燃え広がる。
「見たところ、その魔法は連射に向いていないようだなッ! 一発撃ったら息切れってのは情けない話だな、はははッ!」
「笑うな! これすっごく集中いるんだから!」
「連射はできない……痛いところをいきなりついてくるな、あの怪人、案外頭いいかもね」
「だからってこのままいいようにさせないわ!」
 魔法弾で炎を迎撃する。
 しかし、炎は爆散しても勢いは衰えることなく周囲に飛び散ってどんどん燃え広がっていく。
「ごほ、ごほッ!」
 カナミは咳き込む。
 炎をそのまま吸い込んだかのように胸が熱くなる。
 普通の人間だったら間違いなく焼死体と化しているような燃え具合だ。
「暑苦しいし、息苦しい……」
 カナミは苦しみながら辺りを見回す。
 炎、炎、そのまた炎が視界を埋め尽くす灼熱地獄。
 敵はおろか母の姿すら確認できない。
 こんな状態で攻撃されたらひとたまりもない。
 何もかもが炎に飲み込まれた中でうかつに攻撃できない。
(どうしたら……どうしたら……?)
 カナミが戸惑っていると、頭上から炎が降りてくる。
「――ッ!?」
 それに気づいた時はもう遅かった。
 避けられない。直撃する。
 炎に焼かれて死ぬかもしれない。
 なんとか魔力で防御にまわして凌がないと! 
 カナミは急なピンチに無い頭を振り絞って、迫りくる炎に対して覚悟を決めた。
「ハッピーコールウィンド!」

チリンチリン

 鈴の音が聞こえる。
 それとともに、風が巻き起こり、炎を全て消し去っていく。
「危なかったわねぇ~」
 今にも倒れそうなカナミをスズミが抱きとめる。
「母さん?」
「ああ、これが母さんの魔法なの」

チリンチリン

 二つの巨大な鈴を慣らしてスズミは堂々と言う。
「てめえ、邪魔するんじゃねえッ!」
 ファザードが火を吹いてくる。
「そんな炎なら扇風機でも消せるわ」
 スズミは二つの鈴を放り投げ、空中で激突させる。

チリィィィィィィィン!

 鐘のような重厚な鈴音が響き渡る。
 しかし、カナミには見えた。
 音によって生まれた空気の震えが、波になって炎をかき消していく様を。
「まあぁ、涼風ぐらいにはなったわねぇ」
 風でなびいた髪を優雅になでて、そう言った。
「ば、バカな……なんつうデタラメな超振動だ……」
 ファザードは驚愕している。
「ふうん~、相性が良いみたいねぇ、私達」
 スズミはニコリと笑う。
 その笑みに薄ら寒いものを感じた。
 その証拠にファザードは震えている。恐怖しているのだ。
「相性がいい、だと……? 馬鹿げた事言うなぁぁぁぁッ!?」
 ファザードは吠える。
 吠えて口から炎を吐き出す。
「えいっ!」
 スズミは可愛らしいかけ声で鈴を投げ込む。

ゴチリン!

 豪快な衝撃音と澄み切った鈴音がその炎をかき消す。
「チィィィィィィ、ちきしょうぉぉぉぉぉッ!!」
 ファザードは再び吠える。
「カナミ、一つお願いぃ」
「え、な、何?」
「あっちのほぉ~、ちょっとだけ時間稼いでぇ」
 カナミがスズミの言う「あっちの方」を見ると、衝撃波が迫っていることを知る。
「えぇぇぇッ!」
 慌ててカナミは魔法弾を撃って相殺する。
「……忘れられていると思って好機だと判断したが」
「あんた、何気にせこいわね」
「戦略家といってほしいものだね」
「一緒の意味じゃないの?」
「脳細胞がメルヘンで出ているものの発言だね」
「何がメルヘンよ! こちとら借金って現実と戦ってばかりなんだから!」
「借金? それは私以上に手強いのか?」
「百倍は手強いわね。あんたに十万円以上の値打ちがあるなら別だけど」
「これは笑止な。私の開発には一体どれほどの費用がかかっているのか、想像ができるか?」
「知らないわよ、想像したくもないし」
「単細胞であったか、想像力もないとは……」
「うるさいわね」
「あ~カナミぃ~、相手してくれてありがとぉ~」
 不意に背中の方からスズミがそう言ってきた。
「え?」
 その言葉の意味を理解する前に鈴の音が鳴り響いた。

チリィィィィィィィン!!

 それとともに震将の足が崩れる。
 何が起こったか、よくわからない。
 ただカナミの目には、この鈴のせいでダメージ受けている、そんな印象を受けた。
「な、何故だ……? こんな……!?」
 震将の方も自分の身に何が起きているのか理解できていない様子だった。
「岩にも音波はきくみたいねぇ」
「お、おんぱ、だと……?」
「そ~、この鈴の音よぉ」
 スズミは鈴をチリンチリンと得意気に鳴らす。
「いくら固い岩でもぉ~、音波振動をぉ、与え続けたらどんどん脆くなっていくのよぉ」
「そ、そんな……たったそれだけで私がこんなにも簡単に……!」
「す、凄い……」
 カナミは素直に簡単の声を漏らす。
 あるみや来葉の友達ということはさっき聞かされたが、それなら相当な実力の魔法少女だと思っていた。
 でも、こうして手強い怪人を余裕で圧倒しているところを見ると自分の母親が魔法少女だから恥ずかしいとかそういった気持ちは失せて、誇らしささえ込み上げてくる。
「母さん、強いのね……」
「フフ、こうみえもて母さんはやる時はやるのよぉ」
 間延びした口調だと少し説得力が欠けているけど、二人の怪人を圧倒しているその姿はまさに「やる時にはやる」魔法少女の凄味であった。
「だからぁ~」
 スズミはニコリと微笑む。
「今度はぁ、カナミちゃんが強いところを見せて欲しいなぁ」
「……わかったわ」
 母はずるい。
 そんな風に言われたら強くなったことを証明しなければならない、と頑張るしか無いじゃないか。
「ジャンバリック・ファミリアッ!」
 カナミは鈴を飛ばす。
「わぁ~かわいいぁ~」
「いっけぇ~ッ!!」
 鈴は震将に向かってありたけの魔法弾を一斉発射する。
「うおぉぉぉッ!?」
 魔法弾を浴びた震将は揺らぐ。
「神殺砲! ボーナスキャノン発射!!」
 カナミは振り向いて、大砲をファザードに向かって発射する。
「ぐわあおッ!?」
 ファザードは砲弾に飲み込まれる。
「どう?」
 カナミは誇らしげに母に向かって胸を張る。
「凄いじゃないぃーかなみ。成長しているわねぇ」
「母さんほどじゃないけどね」
「そりゃ簡単に追い抜かれたらぁ~母さんの立場がないっていうじゃないぃ」
 カナミとスズミは微笑みを交わす。
「さぁてぇーそれじゃぁー私達で軽く蹴散らしていきましょーか」
「うん!」
 カナミはステッキを、スズミは鈴を構える。
「ふざけるなぁぁぁぁッ!!」
 ファザードは立ち上がり吠える。
「あの攻撃を受けてもまだ立ち上がれるのはさすがだね」
 マニィは感心する。
「まあ、でもこれから倒されるのにはかわりないか」
 スズミは鈴を打ち鳴らす。
「これが福音よ。あなた達にとっては騒音でしかないみたいだけど」
「これが騒音だと? そんな優しものでは……ぐおおおおッ!!」
 鈴の音波によって、震将の身体にヒビが入り、ファザードは悲鳴を上げる。
 しかし、カナミはこれを聞いても影響はまったくない。それどころか心地よい鈴の音に感じる。おそらく、怪人と魔法少女とでは感じ方に違いがあるのかもしれない。
 でも、今はそのことを考えている余裕はない。
 これはスズミが作ってくれたチャンスなのだから、必ずものにしなければならない。そんな想いがカナミを駆り立てたからだ。
「神殺砲! ボーナスキャノン!!」
 カナミは大砲を発射する。
「こんなもので俺が倒せると――」
「思ってるからやるのよッ!」
「ぶぶああああッ!?」
 砲弾を浴びて、ファザードは悲鳴を上げる。
「……ま、まだだッ!」
 それでもファザードは倒れない。
「そぉう? でもぉ、それもぉ終わりなのよねぇ」
 スズミは鈴を勢い良く振り下ろして、ファザードを押しつぶす。
「ぶぎゃあッ!?」
 それが彼の断末魔になった。
「む、むごい……」
「敵に情け容赦かけてたら生き残れないわよぉ」
 そう言ってスズミは震将の方を向く。
 まるで「次はお前だ」と言わんばかりの言い様に、カナミは処刑宣告という言葉が脳裏をよぎった。
「一つ聞きたい、お前は何者だ?」
「魔法少女よ。いくつ歳を重ねても子供が出来ても心はそのままだから」
 スズミはそう言って鈴を衝突させる。
「あ、これは友達の受け売りだったわね」

ゴチリン!!

 豪快な衝突音が一瞬響き、荘厳な神音が震将を襲う。
「こ、こんなことが……わ、我はカリウス様から首都壊滅に承って、ここまでやってきて……こうも簡単に……!」
 震将の身体が崩れ落ちる。
「しゅ、首都壊滅……?」
「うーん~、これは大変なタイミングで帰ってきちゃったわねぇ……あ、でも、来葉ちゃんはそういうこと知ってて私を呼んだのかしらぁ?」
 変身を解いた涼美は首を傾げる。
「え、来葉さん? 来葉さんに呼ばれたの、母さん?」
「ええ、仕事の依頼があるとかで……」
「そ、それ、絶対ハメられたのよ……」
 未来が視える来葉が呼んだのだからそう言った意図があるに違いない。
「って、母さん、仕事? 仕事ってどんな仕事してるの?」
「色々よぉ、治療とかぁボディガードとかぁ……父さんがぁ借金押し付けてきちゃったからぁ……」
「借金? 父さんが何したっていうの?」
「――最低最悪の所業よ」
 涼美から返ってきたのは間延びした口調が消え、ドスの利いた低い声だった。それに思わず、かなみは全身に寒気が走った。
「口にだすのもためらわれるぐらい……まあ、とにかく、そのせいであなたも私も借金を背負うことになったのよ」
「え、えぇ、そうなのね」
 かなみは恐怖のあまり、それ以上聞く気になれなかった。
 なんていうか、殺されるかもしれない。と、実の母からにわかに感じ取ったのがその理由だ。
「……父さん、一体何したっていうの……? あれ? 母さんも借金してるの?」
「えぇ……本当は私が全額肩代わりするつもりだったんだけどぉ……手が回らなくてぇいくつかぁ、かなみの方に回っちゃってぇ……」
「母さんが肩代わり……それじゃ母さんはいくら今借金してるの?」
「これぇ、借金の証文~」
 涼美は胸元から一枚の紙を出してかなみに見せる。
「………………」
 それを見て、かなみを絶句した。
「母さん、これを返すために今まで帰ってこなかったの?」
「えぇ……日本より外国の方が一攫千金のチャンスがあるのよねぇ……特に私みたいな魔法少女がぁ、非合法で稼ぐにはねぇ」
「ひ、非合法って……」
 そんなこと言ったら、かなみも似たようなものだと思った。
 特に労働基準法とかいうものを無視している辺りが。しかし、今聞く限り涼美の方が遥かにやばい雰囲気を感じた。法律に触れる以上に生命の危険に晒されているような、そんな危険があるように思える。
「そんなわけだからぁ……中々帰れなくて、その……ごめんなさいね、かなみ」
 涼美は頭を下げる。
「え、えぇ……」
「本当はぁ、会うのが怖かったのよぉ……母さん、殺されても仕方ないくらい~、あなたのこと放って置いたからぁ……」
 涼美の声が震えているように感じる。
 母のこんな姿を見るのは初めてだ。
「ば、ばか……母さんはバカよ」
「かなみ……?」
「殺されてもとか、そんなこと思うわけないじゃない」
「でもぉ、母さんのこと恨んでるしょ~?」
「恨んでなんかない!」
「かなみ……」
 涼美は娘の名前を呼んで抱きしめる。
「か、母さん……?」
 急なことでかなみは赤面する。
「ありがとうねぇ~かなみは私の誇りよ」
「そ、そんな母さんだって、凄いじゃない……私なんかよりずっと苦労して……それなのに、こうして……
――会いに来てくれた」
「………………」
 涼美はそれを聞いてかなみをより強く抱きしめた。
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