まほカン

jukaito

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第55話 降誕! 善悪の神秘を少女は目撃する (Bパート)

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「ついたわ」
 あるみが足を止めた先に谷間があった。
 そこが地図に存外に書かれていた目的地だった。
「……ここは」
 かなみは息を呑んだ。
 谷は深く、谷底は見えない。そういったことに対してではない。谷へと霧のような魔力が流れ込んでいく様だった。
 まるで川の水が流れていって、水たまりから池になっていくようだ。
「何かが起きようとしている……」
「そうよ、きっと素敵なことよ。条件が整わないと中々起きないものだからね」
「条件?」
「天候、環境、時期……そのほかにも色々合わさるとこういう現象が起きるのよ」
 あるみがそう言うと、谷間は魔力の池がどんどん溜まっていく。
 何かが生まれる。そう予感できて、それに期待に胸を膨らませている自分がいる。
「………何が起きるんですか?」
「すぐにわかるわ。もっとも、それに吸い寄せられてきたのは私達だけじゃないみたいだけど」
「――!」
 あるみの一言で、こちらにやってくる気配を感じ取る。
「ヨロズ!」
 かなみは即座にコインを取り出す。「変身だ」と決断するまでにわずかばかりの時間もいらなかった。
「マジカルワークス!」
 かなみに便乗して、あるみも萌実も変身する。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「白銀の女神、魔法少女アルミ降臨!」
「暴虐と命運の銃士、魔法少女モモミ降誕!」
 黄、白、桃の三人三色の魔法少女が現れる。
「……カナミか」
 ヨロズはカナミにだけ興味を示す。
 モモミはそんなヨロズに対して意に介されていないことが面白くなかった。
「あんた、なんでここに!?」
「ここへ来いと言われただけだ。見届けろと、奴は言った」
 ヨロズは恐ろしく穏やかな面持ちで言う。
 以前相対した時は闘争本能剥き出しだっただけに、そのギャップは激しくまるで別人のようだ。
 というよりも、本当にあのヨロズなのだろうかと、カナミは疑問を抱き、その不気味さに恐怖すらこみあげてきた。
「……本当にあんた、ヨロズなの?」
「俺はヨロズ」
 ヨロズはあくまでも穏やかにそれだけ答える。
 そして、谷にたまった魔力の池へと歩み寄る。
「妙な真似しようとしたらどうなるかわかってるわよね?」
 アルミは釘をさすように言う。というよりも、遠回しにそれ以上近づいたらただじゃおかないと言っているようなものだ。
「………………」
 ヨロズはそれを察したのか、もとよりそれ以上近づくつもりがなかったのか、歩みを止める。
「………………」
「………………」
 全員沈黙する。
 一時休戦。そういった雰囲気がそこはかとなく流れる。
「ほら、ついたわよ」
 そうこうしているうちに、チトセ、ミア、スイカ、シオリがやってくる。これで七人の魔法少女が合流したことになる。
「こ、ここはいったい……?」
 スイカ達も自然と谷に溜まった魔力の池へ目を向ける。
「あいつもいるみたいだけど」
 ミアはそれに惹かれるよりも前にヨロズの存在に気づき、警戒を払う。
「戦う気はないって言っていたけど」
「そうみたいね」
 チトセとアルミが言葉を交わす。年長者同士のやり取りだけに何やら含みというか頼もしさを感じさせる。
 七人の魔法少女が一斉に一か所に集まる。いかにヨロズが強い怪人であっても、下手な行動に出れないはずだ。しかし、肝心のヨロズは下手な、どころか一切の戦意すらみせない。
 いっそ仕掛けてきた方が、対処しやすくて助かるとさえ思える。
「社長?」
 たまらず、カナミはアルミへ問いかける。
「あいつの目的が何なのか知ってるんですか?」
「多分、私達と一緒よ」
「一緒?」
 そもそも、カナミはここに来た目的すら知らない。それなのに自分達と目的は一緒といわれても困惑するしかない。
「見なさい」
 アルミに促されて、谷を見る。
 すると谷に溜まって魔力の池が上へ、空へと吹き上げていく。少しずつ勢いを増し、やがて間欠泉のように上がっていく。
「な、何が起きてるの……!?」
 戸惑うカナミ達に対して、ヨロズは静かに佇み、ただ成り行きを見守っているだけだ。
 谷に池のように溜まった魔力が残らず空へと舞い上がる。その空を見上げると、その魔力が塊となって、一つの小さな太陽のように輝きを放つ球になっていく。

ピカッ!

 その球が弾けたかのように、光り輝く。
 カナミ達は一瞬だけだが、フラッシュをたかれたかのように目を伏せてしまう。
 そして、次に目を開けた瞬間、あれだけ大きく一つの小さな太陽とさえ思えた球が消え、二つの野球ボールのように小さくなった球がひらひらと舞い降りてくる。
 一つの白い球は、カナミのもとへ。
 一つの黒い球は、ヨロズのもとへ。
「これは……」
 カナミの白い球はを手に取ってみる。
 温かみを感じる。白く光る様とその温かさは電球のようであった。だが、それはコロコロとまるで小動物のように動いている。

パサ!

 その球から天使を思わせる白い羽が卵の殻を突き破るように生えてくる。
「え?」
 やがて球は光ととともに小人の形となってカナミの手のひらに立つ。
「えぇッ!?」
 足まで伸びた長い金色の紙、砂金のようにつぶら眩い瞳。そして天使の羽。
「……妖精」
 その見た目は、まさしくおとぎ話で伝え聞く妖精であった。
「妖精の子供ね。カナミちゃんが気に入ったみたいね」
 アルミはそう言う。
「なんで私が?」
「さあ、その妖精に聞いてみなさい」
「私のことを気に入ったの?」
 カナミは素直に妖精に聞く。そのあまりの素直さにチトセはクスリと笑う。
「コクン」
 妖精はただ頷くだけ。言葉を話さず、表情もない。本当に生まれたての赤ん坊のようだ。
 ただ、カナミの言っていることははっきりとはいかないまでもわかるような感じはする。
「……これじゃ答えられないか」
 カナミは困り果てる。
「か、カナミさんの魅力に引き寄せられたとか」
 スイカは照れながら言ってみる。
「いや、あんたの貧乏くささにでしょ」
 ミアがからかい混じりに言う。
「なんでよ!?」
「そのかっこいいところとか」
「シオリちゃん……」
 シオリの素直な一言に照れる。
「「ナイナイ」」
 ミアとモモミはすかさず同時に言う。双子のように息が合っていた。
「ひどい!」
 でも、結局のところ、妖精が何故自分を選んでくれたのかわからない。
(二つの球のうち、白い方が私に……それと)
 もう一つの黒い球の方の存在を思い出す。
 その黒い球はヨロズのもとへ舞い降りた。
「………………」
 ヨロズは無言で肩の上に乗っかったそれに目を向けている。
 それとは、さっきまで黒い球だった蝙蝠の羽を生やしたハムスターのような容貌をしたものであった。
 二匹の妖精が互いを見つめ合う。
「双子の妖精ね」
 その二匹の様子を見てアルミはそう言う。
「この子とあの子は双子なんですか?」
 双子というほど、白い羽の妖精と蝙蝠の羽の妖精は似つかない。むしろ正反対にさえ見える。
「同じ場所、同じ時で生まれ、同じ魔力を分かち合って生まれたんだからね。一方がかなみちゃんに、一方がヨロズに分かれるとは思わなかったけど」
「向こうがヨロズを気に入ったってこと?」
 カナミは二匹の妖精を交互に見やる。
 自分が気に入られたのもわからないが、ヨロズが気に入られたのもわからない。
 なんで怪人のヨロズの方へ行ったのか。
「……目的は果たした」
 ヨロズは蝙蝠の羽の妖精を連れて歩き去ろうとしている。
「ま、待ちなさい!」
 カナミは呼び止める。
「……なんだ?」
 ヨロズは足を止める。ただカナミの方へは振り向かない。
「あんたの目的はなんだったの!?」
「――こいつだ」
 ヨロズは妖精を指して言う。
「妖精?」
「あの女がここに来れば、新しい力を授けられると言われただけだ」
「あの女……いろか、ね」
「………………」
 あるみの問いかけに、ヨロズは答えない。おそらくそれは沈黙の肯定だろう。
「これが俺の目の前にやってきたとき、悟った。このオプスこそ俺の新しい力だと」
 ヨロズは蝙蝠の羽の妖精をオプスと名付けて呼ぶ。
「新しい、力?」
 カナミは手元の天使の羽の妖精を見る。
 新しい力。妖精はどういうものかわからない。この妖精は力を授けてくれる存在なのかもしれない。そう思えるだけの神秘を放っているような気がする。
「お前にも力は授けられた、これで対等だ」
「私にも?」
「お前とは、決着をつけなければならない」
 ここで、初めてヨロズは闘志を見せる。
 静かだが、内に溜められた身の毛もよだつ闘争心、その片鱗。それをわずかに感じただけでも、この怪人の牙は一切さび付いておらず、むしろ研ぎ澄まされていることがわかる。
(今度戦ったら、負けるかも……)
 以前、勝利した事実さえも忘れ、敗北の恐れを抱かせられる。
「だが、今はそのときではない。あの女はそう言っていた」
 ヨロズはそう言って、去ろうとしている。
「………………」
「止めないんですか?」
 黙って見送ろうとしているアルミに対して、カナミは訊く。
「止める、どうして?」
「だって、妖精が連れ去られて」
「あの妖精は彼を選んだ。それだけのことよ」
「それだけって……」
「そんなに言うんだったら、あんたが戦って手に入れなさい」
「え……?」
 アルミの非情ともいえる通告に、カナミは一歩退く。
「怖いなら無理に戦わなくていいわよ」
「で、でも……」
「彼が言ったでしょ、決着をつけるのは今じゃないって。そのときまでに勇気と覚悟を蓄えておけば、それでいいのよ」
 アルミはカナミの肩に手をかけて、優しく促す。
「はい……」
 本音を言うと戦うのは怖い。
 アルミが言うとおり、無理に戦わないで済むのならそれでいいのかとさえ思える。

「お前とは、決着をつけなければならない。だが、今はそのときではない。あの女はそう言っていた」
「決着をつけるのは今じゃないって。そのときまでに勇気と覚悟を蓄えておけば、それでいいのよ」

 ヨロズとアルミの言葉を反芻し、カナミはかき集めた勇気と覚悟を消していく。
 今は黙って見送ろう。そう決めた時だった。
「――待ちなさい!」
 モモミが銃を向け、引きとめる。
「……なんだ?」
「私と戦いなさい!」
 その一言に、ヨロズは振り返る。
「いいだろう」
 モモミはニィッと瞳をギラつかせる。
「な、なんで!?」
 これにカナミ達は戸惑った。
「それがモモミの意思なのね」
 アルミだけは何故か納得したようだった。
 モモミは両手に銃を構える。
「さあ、いくわよ!」
 地を蹴って、飛び上がる。

バンバンバンバンバン!!

 銃弾を雨あられのように降り注がせる。
 しかし、ヨロズはそれを全て受けても平然としている。
「まるで壁に撃ってるみたいね!」
 モモミは毒づくが、苦い顔をしているようにもカナミは見えた。
「――!」
 ヨロズは腕を払う。
 熊のように逞しい腕から嵐の暴風が生み出される。
 モモミは放った銃弾ごと吹き飛ばされる。
「チィ!」
 舌打ちし、木の幹へ着地し、蹴る。
 文字通り風を切る勢いでヨロズに接近し、至近距離から銃弾を食らわせる。
「ぐッ!」
 横腹を撃ち抜かれたヨロズはよろめく。
「案外脆いじゃない!」
 モモミはそこへ集中的に銃弾を叩き込む。
 十発ぐらいまではカナミは見えたが、おそらくその十倍の数は実際放っているだろう。それを隙を見せないために立て続けに撃つ。
(あんなのを、あの距離で撃たれたらいくらヨロズでも……)
 そう思ったが、すぐにその認識は改めさせられることになる。
 何しろ、あのヨロズは神殺砲を受けても倒せなかった怪人なのだから。
「――!」
 闇雲に撃ち抜いた横腹へ撃ち続けていたモモミは異変に気付く。

――銃弾が横腹で止まっている。本来ならば、腹をえぐり身体を貫いていくはずなのに。

(止まっているんじゃない、止められている!)
 モモミは即座にその場から離れようと跳ぶ。
「――フン!」
 それを察知したヨロズは横腹に止めていた銃弾を弾き返す。
 ダメージを与えられたのは最初の一発だけ。あとから加えた追撃は全てヨロズの強靭な身体が受け止める。先程、モモミはヨロズの身体を壁みたいだと言ったが、壁よりも性質が悪い能力をヨロズは持っていた。
 壁ならば弾を即座に跳ね返してくれるが、ヨロズの身体は好きなタイミングで跳ね返せるのだ。
 モモミがチャンスだと思い、横腹へと叩き込んだ数百発、いや、千発にも及ぶ銃弾が一斉に炸裂する。
 密集した千発がそれぞれ重なり、弾け、無秩序の軌道を描き、モモミの身体を何発も当てる。
「く……!」
 腕と右腹に当たり、血が流れる。
「運が悪いわね、私」
 モモミは自分自身に悪態をつく。
「終わりか……」
 ヨロズはその様子に興味なさそうに言う。
「まだよ!」
 モモミは吠え、二挺の銃口をかざす。
「デビルバレル!」
 拳銃の銃身がモモミの腕よりも長くなる。
 そこから放たれるのは魔力の砲弾。
「こういうのはセンス悪いから嫌いなんだけどね、ファイアッ!」
 そう誰かに向けて、二挺の拳銃から砲弾を放つ。
「ぬうッ!」
 ヨロズは砲弾を右手で受け止め、払う。
 そこから二発目の砲弾が襲い掛かる。それを左手で払う。
「これで両手を使ったわね」
 モモミはニヤリと笑い、二挺の拳銃を構え、追撃の砲弾を放つ。

ドゴォォン!!

 ヨロズの腹に砲弾が直撃し、大きく仰け反る
「ヨロズにあそこまで!」
 カナミは驚愕する。
 かつて自分と引き分けたモモミが、かつて自分を苦しめて辛勝したヨロズを圧している。
「だけど、あの程度で勝てるのならカナミちゃんはあそこまで苦戦しなかったわ」
 アルミがそう言うように、ヨロズは倒れず持ち直す。
 そこへ妖精のオプスがヨロズの頭上をヒラヒラと飛ぶ。ヨロズが言っていたように力を授けるかのように。
「お前が俺に力を?」
 ヨロズはオプスへ問いかけると、オプスは呼応するかのように黒い光の球体となってオプスの背中へ舞い降りる。
「――!」
 そして、ヨロズは羽を宿す。オプスと同じ黒い蝙蝠の羽を。
「あれが、新しい力!?」
 まさしくそう見えた。
 雄々しく、禍々しい、怪人の新しい力。
 羽を振りかざし、強大な魔力の暴風を巻き起こす。
 さらにそこから羽で飛び上がり、瞬きする間もなくモモミの懐まで急接近する。
「モモミにあそこまで接近するなんて!」
 かつて戦ったことがあるからこそわかる。
 モモミは決して懐まで接近を許さない。今までの戦いだって自分から接近することはあったが、それは細心の注意を払った上での行動で、相手からの接近を一切させなかった。
 それがあんなにも簡単に無防備に接近を許すなんて。

――新しい力を授けられると言われただけだ。

 その授けられた力がこれなのか。
 カナミがそう思った瞬間、ヨロズはモモミを剛腕で突き飛ばす。
 飛ばされたモモミは谷へと落ちる。
「モモミ!」
 カナミは叫ぶが、谷から返事はこない。
「凄い力、私の糸も振り払われるかもしれないわね」
 チトセも感心する。人形は鳥肌を立てたり、汗はかいたりしないが、人間だったらきっとそうなっていただろう。
「……いい力だ」
 ヨロズはそれだけ言って飛び去っていく。
「とんでもない力ね、あれが妖精なの?」
 ミアがアルミへ訊く。
「ええ、そうよ。まあ、あれだけの力をいきなり引き出すのはさすがに滅多にないけど」
「そもそも、私達は妖精を初めてみますしね」
「妖精が生まれること自体、現代の日本じゃ稀なことよ。大抵生まれるのは怪人の方だから」
 アルミの返答はカナミ達に衝撃をもたらした。
「か、怪人はこうやって生まれるんですか? 今の妖精と同じみたいに?」
「ええ、もし怪人が生まれるようなことがあったら私達で倒すことになったけど」
「妖精が生まれたから倒すことはなくなった、ですか?」
 カナミは手元の天使の羽の妖精を指して訊く。
「ええ、まさか双子ってことになるなんてさすがの来葉にも全部見通せなかったみたいだけどね」
 アルミはぼやく。
「今はモモミの無事を確かめましょう。彼女も私達の大事な仲間だから」
 アルミがそう言って、谷を見る。
 大事な仲間。アルミはそう言った。
 みんな、「あんな奴が……」と否定する気持ちが個人差はあれど少なからずあった。だけど、少なくともカナミだけはさっきアルミの言葉が胸に残っていた。

――いつ敵になるか、わからないねえ……それって、――いつ味方に回るかもわからないってことでもあるのよね?

 心のどこかで、同じ会社、同じ仕事をしている。だから、仲間とも味方とも呼べるようになるかもしれない。そう思えてならなかった。
「モモミ……」
 今だけは心配していたかった。



「さすがに悪運が強いわね」
 アルミは感心するように言った。
 チトセの魔法糸をロープ代わりにして谷へと降りた。すると谷底に流れている川にモモミがいた。流されることなく岩場に引っかかっていた。
「カナミちゃん、引き上げて」
「ええ、なんで私が!?」
「やりたそうな顔してたから」
「してません!」
 カナミは意地になって言い返す。だけど、社長命令とあっては逆らえない。
 カナミはモモミを川から引き上げる。
 モモミは完全に気を失っていて、何の抵抗もないため、楽だった。
 ただ、モモミの意識を完全に絶つほどの攻撃をあのヨロズは放ったということに他ならない。
(もし、私が戦っていたら……)
 そう考えると、自然と今のモモミと同じ結果になったとしか思えない。
 ただでさえ強かったヨロズが妖精の力を得て、さらに増した。
 『勝てないかもしれない』から『勝てない』に変わった。それだけは確実だ。
「モモミ?」
「………………」
 モモミへ呼びかけてみるが、反応は無い。しかし、息はしているし、致命的なダメージを負った様子は無い。腕やアバラが骨折しているのは確実だが。
 どういうわけかモモミは悪運が強いみたいだから生命に別状はなかったが、これがもし自分だったら……もし、運の悪い自分だったら……。
 嫌な想像ばかりがよぎる。



『魔力の吹き溜まりの発生箇所の調査。結果は二匹のつがいの妖精の誕生。
一匹は、ネガサイドの怪人が連れて行き、もう一匹は……』
 帰りのワゴン車で鯖戸はパソコンで報告書を作成していく。
 そんなことをしているせいで、運転はあるみが担当している。

ギュィィィィグェェェェェェェビュォォォォォォン!!

 これはワゴン車が放つ擬音なのか、少女達が悲鳴なのかわからない。
 少なくともそれだけ荒っぽい運転だったのは確かだ。
 そんな中で平然とキーボードをタイプしている鯖戸は器用というか、どういうバランス感覚をしているのか。魔法以上に不思議なことであった。
「カナミちゃんのもとにやってきた」
 画面が見えず、運転に専念しているだけのはずのあるみが続きを口にする。
 これから書く文章を見抜いているのか、それとも、魔法で盗み見ているのか。まあ、鯖戸にとってはどちらでもいいことだった。
「何故ヨロズを選んだんだろうね?」
「さあ、答えは神のみぞ知る、妖精のみぞ知るってね。
ただ、二つに生まれたものは相反する性質を持つんじゃないかしら?
磁石のS極とN極、少年と少女、左手と右手、黒と白、光と闇……そういう具合にね」
「それが君の見解?」
「そうね。そういうことは報告書に書かなくていいわよ」
「君の口述筆記は軒並み不評だからね」
「不評って、誰に?」
「さあ、誰にだろうね」
 鯖戸は不敵な笑みを浮かべて答える。
(す、すごくなごんでいる会話してるけど……)
(あの女、ハンドルがずっとギュインギュインしてるわよね!? なんだって平気なのよ!?)
(き、きっと、鯖戸さんも魔法少女なんですよ!!)
 後ろのかなみ達は心の声で阿鼻叫喚であった。
 そんな苦しむかなみに対して、天使の羽の妖精はただ興味津々に眺めている。
「あと、そうそう、ヨロズの方にいった妖精はオプスと名付けたそうだけど、こっちはなんて名付けたの?」
「そりゃ、オプスなんだから、こっちはリュミィって名前にしたわ」
「どんな対抗だよ?」
 それも報告書に追記しておくか、と鯖戸は思った。
「あ、あとそれと事務所で一人留守番している来葉に、何か埋め合わせを用意しておかないとあとが怖いぞ」
「あ……」
 すっかり忘れていたあるみは顔が珍しく引きつらせる。
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