まほカン

jukaito

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第66話 慰霊! 生命の行く末を少女は視る (Aパート)

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 月に雲がかかり、灯りのない暗闇。おまけに辺りはまるで人気の無い墓場。
 不気味なことこの上ない場所に一人の少女が無防備に出歩いている。
 霧まで立ち込めていよいよもって、出る雰囲気が充満してくる。
 墓場で出るといったら奴等しかいない。

バシャン!

 地を割くような勢いで奴等は地の底から上がってくる。
「ひぃ!」
 少女は短い悲鳴を上げる。

バシャバシャバシャ!

 それに端を発して、次々と上がってくる。
 文字通りの地の底から蘇るも与えられたのは腐った身体。
 生きる身体を求めて、少女に食らいつくべく取り囲んでいく。



『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?』
 最高級のサウンドスピーカーから少女の悲鳴が響き渡る。

ガクガクガクブルブルブル

 そんな効果音が聞こえてきそうなほど画面を見つめながら、かなみは震えていた。
「こんなもので怖がられるなんてね……」
 みあは呑気にポップコーンをつまみながら映画を観る。
 「家が映画館になる」がキャッチフレーズのホームシアターセットによる大画面と最高画質で映し出される臨場感はまさに映画館そのものの迫力を再現してくれている。はずなのだが、その映画が問題であった。
 ホラー映画『ゴーストゾンビ』。
 B級映画と名高い本作なのだけど、みあから見ると退屈そのもので「B級どころかC級よ」と宣言したいくらいであった。
 何しろ、物語はとあるアメリカの田舎町で突然墓場から現れたゾンビに次々と街の人が消されていくというごくありふれたものだったからだ。
 その上、セットは本格的なもののそのありふれた物語とちゃっちな見せ方でみあにとっては次にどう怖がらせ、どう驚かせるかモロバレなのである。
(顔のドアップで怖がらせてから、大勢でノロノロとした動きでどんどん囲っていく。ああ、もうイライラする見せ方ね!)
 一人だったら絶対に観ようとは思わない映画なのだけど、これで一つ試したいことがあった。
――こんな映画でもかなみは怖がるものなのか。
 いつも通り、夕食で釣り上げて映画を観る。
「それでみあちゃん、これなんて映画?」
 かなみが訊くと、みあは上映が始まった直後に答える。
「ゴーストゾンビってホラー映画よ」
「ほらーえいが?」
「そ、ホラー映画
「――帰るわ」
 嫌がるかなみを抑えつける。
「私もかなみさんと映画が見たいです」
 同伴した紫織のこの一言が決め手になって、かなみは覚悟を決めてみることになった。
 結果は見ての通りだ。
 クッションを抱えて、ガクガクブルブル震えている。
「………………」
 紫織の方はポカンと口を開けている。
「あんたは怖くないの?」
 みあは紫織に訊く。
「ええ、怖いことは怖いんですが……この前戦った怪人に比べたら、全然……」
「あぁ、そういうことね」
 みあは納得する。
 三次選考試験の時に戦ったヘヴルという怪人。今思い出しても震えが止まらなくなるほど圧倒的な力を持っていた。
 あんな怪人が叩きつけてきた恐怖に比べたら、こんなホラー映画なんてちゃっちに映っても仕方がない。
「って、あんたもあの怪人に比べたらこんなの大した事ないんじゃないの!?」
「え、怪人?」
 みあは未だにガクブル震えているかなみへ訊く。
「ほら、地下で戦った怪人。あれに比べたらあんなの全然大した事ないじゃないの?」
 身も蓋も無いが映画は作り物で、怪人は本物。迫力なんて比べ物にならない。
 なのに、かなみはこのゾンビの方を明らかに怖がっている。
「だって、怪人は怪人。ゾンビはゾンビよ。比べ物になるわけないじゃない」
「あ~……」
 みあは呆れながらも納得する。
 どうやら、かなみの中でお化けやゾンビは別格のようだった。
『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 映画の中の少女とかなみの悲鳴が同調する。
「……なんていうか、幸せね」
 みあはそうコメントする。
 映画の方はその後、ゾンビに追い詰められた少女は絶体絶命の最中、街を開拓して創ったご先祖様の加護に守られながら街を脱出。
「これで2に続くってわけね……」
 最後にみあはそうぼやいた。



「次の仕事で墓地に行ってもらうよ」
「――は?」
 突然、鯖戸から言い渡された辞令に、かなみは呆然とする。
「墓地に行ってもらうよ」
「二度も言わなくていいわよ!!」
 かなみは部長席をバンと叩く
「墓地ってどういうこと!? 墓地ってお墓ってことでしょ!?」
「うん、まあ墓地はお墓だね」
 鯖戸は苦笑しながら答える。
 かなみの切羽詰まった表情が余程面白いらしい。
「お墓ってことは出るってこと?」
「その調査だよ」
 かなみは回れ右する。
「――帰るわ」
「いや、帰ったら減給だよ」
 背中を向けたかなみはビクッと震える。
 冗談みたいなやり取りなのに、当のかなみは本気である。
「は、話だけでも聞こうじゃないの……」
「近頃、墓地に出るという噂があってね」
「で、出るって何?」
「――幽霊よ!」
 いきなり千歳がかなみの前に躍り出て驚かす。
「キャァァァァァァッ!!」
 幽霊という単語に驚いたのか、千歳に驚いたのか、恐怖にまみれた悲鳴を思いっきり上げる。
「あははは、かなみちゃんの驚きっぷりをみると驚かし甲斐があるわね」
 千歳は笑う。
「千歳さん、おどかさないでください!」
「いやねえ、久しぶりの幽霊話に私の出番かと思って」
「ないないないない! ありませんから、千歳さんの出番はありませんから!」
「仲間に会える機会かもしれないからね。かなみちゃん、一緒に行きましょう」
「嫌です! 行くんなら、千歳さん一人で行ってください!!」
「それだと報酬は千歳さん一人になるけどいいのかな?」
 鯖戸が問う。
「いいですよ。千歳さんなら適任じゃないですか!」
「かなみちゃんと一緒じゃないと道に迷いそうだから連れていってよ」
「だそうだ」
「だそうだ、じゃないわよ! だったら、マニィを貸します! マニィのナビだったら迷わず行けますよ!」
「ボクはかなみから離れられないよ」
 マニィは言う。
「あるみ社長の言伝でね。仕事とはいえ、かなみの側を離れることはできないんだよ」
「社長の言伝って……そんなの破っちゃってもいいんじゃないの?」
「それは無理だよ。マスコットにとって造物主の命令って君達が思っているより重いんだよ」
「うぅ……」
 いつになく真面目にそう言われては、かなみは納得するしかない。



 かなみと千歳はお寺の裏側にある墓地にやってきた。マニィのナビで迷うことなく。
「うーん、この雰囲気なんだか落ち着くわね」
 千歳は思いっきり伸びをする。
「やっぱり、幽霊だから墓地は落ち着くんですか?」
「さあ、なんででしょうね。幽霊といっても私は墓地に住んでいたわけじゃないから」
「それじゃ、どこに住んでたんですか?」
「色々なところよ。それこそ全国津々浦々ね。時間はたっぷりあったから」
「千歳さん、いくつなんですか?」
「数えてないわね。かなみちゃんは十四でしょ?」
「はい」
「若いわね、私の昔を思い出すわ」
「その発言……おばあちゃんみたいですね」
「私はそんなに歳じゃないわよ」
「それじゃ、私の母さんとどっちが年上なんですか?」
「かなみちゃんのお母さんって確か三十二だったわよね。私の方が年上かしらね」
 千歳は何故か自慢げに答える。
「やっぱりそうですよね」
「幽霊になってからの分も歳を数えたらね。幽霊になる前だったら私の方が若いわよ」
「そういう数え方ってありなんですか?」
「うーん、ありでいいでしょ」
 千歳はニコリと笑って答える。
 そんな会話をしながら、墓地を見回ってみる。
「なんか出てきそう、って感じでもないわね」
 かなみはそんな感想を漏らす。
 昼下がりのお墓というのは、不気味というより清楚な雰囲気が漂っているように感じる。
 仮に幽霊が本当にいたとしてもこの墓地に幽霊なんて出てこない。なんて一般の人は言いそうではあった。
 もっとも、幽霊ならば現にここにちゃんといるのだが。
「うーん、そうでもないわよ」
 幽霊の千歳の一言に、かなみはビクッと震える。
「ええ!? い、いいい、いるの!?」
「ほら、あそこに」
 千歳が指差した方には一つの墓石があった。
「いないじゃないんですか……」
 かなみには霊感が無いから見えない。なんてことはない。
 幽霊の時の千歳はちゃんと見えた。
 幽霊というのは魔力の塊みたいなものだから、魔法少女でなくても魔法を扱える素質のある人間だったら見ることはできる。と、あるみは言っていた。
 かなみには何も見えないのだから、そこには幽霊はいないということになるはずなのだけど、千歳はいると断言している。
「だって、幽霊は土の下に眠ってるものだからね」
「え、そういうものなの?」
「こんにちは、幽霊さん。出てきてくださらない?」
 千歳はいきなり呼びかける。
「ち、千歳さん! 出てきたらどうするんですか!?」
「出て来て欲しいのだからいいじゃない」
 狼狽するかなみへ千歳は面白そうに答える。
「ほら出てきたわよ」
「……え?」
 かなみは恐る恐る振り返る。
「こんにちは♪」
 二十代半ばくらいの若い女性の幽霊が墓石の上に乗っかっていた。彼女はニコリ笑って手を振っている。
「きゃぁぁぁぁぁぁ、でたぁぁぁぁぁぁッ!?」
 かなみは悲鳴を上げる。
「なんか呼ばれた気がしたから出てみたら、私が見える人が来てるなんてね」
「私も幽霊だからね」
 千歳は魔法人形から幽体離脱して、自分が幽霊であることをアピールする。
「ああ、仲間だったのね!」
「ゆ、幽霊が二人……!」
 かなみは幽霊になった千歳にも怯える。
「私は千歳というわ。あなたは?」
「私は星崎香澄(ほしざきかすみ)。交通事故で死んだみたいなんだけど、その時のことはよく憶えていないのよ」
「へえ、そうなの。私は死んだのは大分昔なのよ」
「それじゃ、先輩ってことになるのね
「あなたはいつから幽霊に……?」
「うーん、憶えていないのよ。……年を数えるのをやめちゃったのよ、なんか面倒になって」
「そうなの。幽霊になるとそういうことに関心を持たなくなるわよね、わかるわ」
「まさか、幽霊の仲間に会えるなんてね。あら、そっちの娘は幽体離脱しないの?」
「で、出来ないわよ! 私は生きてる人間なんだから!!」
 かなみは震えながら反論する。
「え、そうなの。それでも、私が見えるんだ?」
「かなみちゃんは素質があるのよ」
 千歳が言う。
「ふうん、かなみっていうのね。よろしくね」
 香澄は手を差し出す。
「は、はい……よろしくお願いします!」
 かなみは慌てて一礼する。
「可愛い」
 香澄はクスリと笑う。
「かなみちゃんは幽霊がとても苦手なのよ」
「あら、そうなの。それならおどかしがいがあるわね」
「ちょ、やめてください!」
「うらめしや」
 香澄は棒読みで定番の台詞を言う。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 それだけでかなみは悲鳴を上げる。
「なんだか今回叫んでばっかりね、かなみちゃん」
「だ、だって、お墓とか幽霊とか今回ホラーテイストじゃないですか!?」。
「ほのぼのしていると思うんだけどね。ほら香澄さんだって優しそうよ」
「で、でも、幽霊ですよ、ホラーじゃないですか!!」
「こんな陽気な昼下がりのどこにホラーがあるっていうのよ?」
「昼下がりに出てくる幽霊が言わないでください!」
 かなみは香澄へ反論する。
「滅茶苦茶な言い分ね。パニックってるからそれもしょうがないわね、フフフ」
「かなみちゃんはそういうものなのよ」
「でも、幽霊を見える人なんて初めてだから久しぶりに人と話せて楽しいわ」
「ゆっくりお話ししましょう」
 同じ幽霊ということで千歳と香澄は意気投合する。
「ああ、怖い……」
 かなみはこの仕事を引き受けたことを心底後悔する。
「私達、この墓地に幽霊が出るっていうから調査に来たのよ」
 談笑する中、千歳は目的を切り出す。
「ふうん、その幽霊っていうのが私ってわけね?」
「それがね、どうにも墓石を壊したり、木札を倒したりとかしているみたいなのよ。あなたってそういうことしなさそうなんだけど」
「あ~、それ無理無理。私はね」
 香澄は墓石に手を伸ばす。
「すり、ぬけた……!?」
 その手は墓石に触れることなくすり抜けた。
「この通り、幽霊だから何も触れないのよ」
「まあ、幽霊ですからね」
「そうとも限らないわよ」
 千歳は木札を手でゆさゆさと揺らす。
「ほら、このとおり」
「この人は特別なので」
「特別な幽霊よ!」
 千歳は得意げに言う。
「特殊というか異常というか……」
「かなみちゃん、聞こえてるわよ」
 かなみはビクッと震える。
「まあ、それだったら香澄さんは幽霊であっても調査対象の幽霊ではないということになるわね」
「と、ということは……つまり、ということでどういうことなんですか!?」
「かなみちゃん、動揺するのはわかるけど、わかっているのにはぐらかすのはよくないわよ」
 千歳に注意されて、かなみは息を呑む。
 それは覚悟を決める仕草。意を決して、かなみは自分の推測を言う。
「――もう一人幽霊がいる、ということですか?」
「うん、私もそう思うよ」
「………………」
 かなみは絶句する。
「どうしましょう!? 幽霊がもう一人いるなんて!?」
「落ち着きなさい。ここにはもう二人いるんだから、今さら一人増えようが二人増えようが大した違いないでしょ!」
「全然違いますって!! 幽霊が二人ってことは二倍! 三人ってことは三倍です!」
「何が三倍なのよ?」
「怖さです!!」
「アハハハハハハハ!!」
 このやり取りに香澄は爆笑する。
「こんなに笑ったのは久しぶりよ!」
「香澄、何か心当たりはないの?」
「うーん……私、夜は結構寝てるから」
「夜中に寝る幽霊って……」
 かなみは呆れる。
「幽霊は夜中に現れるって決まってるのにね」
 白昼堂々と出てくる幽霊である千歳がそんなことを言ってもまったく説得力がない。
「調査書によるとその幽霊は夜に現れるそうですよ」
 かなみは受け取った調査書を読み上げる。
「うーん、まったく心当たりがないわね……そもそも、ここには全然人が来ないものね。来るとしたら……あ!」
 香澄は何かに気づき、かなみ達はその視線を追う。
「こんにちは」
 みあと同じくらいの小学生の女の子であった。
 彼女はペコリとかなみに挨拶する。普通の女の子なので香澄や千歳は見えてない。
「こんにちは」
 かなみは挨拶を返す。
「あの子ぐらいよ」
「あの子、あなたの子供?」
「まさか~」
 香澄は手を振って否定する。
「私、結婚してないからね。恋人ならいたんだけど……」
「ふうん」
 などとかなみの頭上で幽霊達はやり取りしているが、当然かなみにしか聞こえていない。
「何しに来たの?」
「おばあちゃんにあいにきたの」
 そう言われて合点がいった。
 そもそもここはお墓なんだから、お墓参りに来たというのは当たり前の返答だ。
 仕事でやってきているかなみや千歳の方が特殊なのだ。
「この子、毎日来るのよ。この子、相当なおばあちゃん子みたいでね。私もついつい相手しちゃうのよ」
「相手?」
 女の子は奥の方の墓石の前に立つ。
「おばあちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
 いつの間にか、墓石の上に座り込んだ香澄が答える。
「きょうね、がっこうでさんすうのじゅぎょうがあったんだよ」
「算数ねえ」
「九九の三のだんがむずかしかったの」
「三ね、私も言えるかしらね」
「さんいちがさん、さんにがさん、さざんがきゅう、さんしじゅうに、さんごじゅうご、さんろくじゅう、じゅう、じゅう……」
「十八よ」
「じゅうはち! おばあちゃん、ものしりだね」
「年の功というものよ」
 香澄は得意げに答える。
「あれ……会話している?」
 かなみは不思議に思った。
 みたところ、女の子は普通で幽霊が見えてないと思っていたのだが。
「うーん、ちょっと違うわね」
 千歳は言う。
「女の子は幽霊は見えてないわ。でも、声ぐらいは聞こえてそうね」
「声……」
「その声の方も曖昧みたいね。そこに何かいるってことは感じられてるみたいだけど」
「そうなのね。それをおばあちゃんって感じてるのね」
 かなみと千歳は納得する。
 やがて、ひとしきり女の子が話し終わって「じゃあね」と手を振りながら帰る。
「フフフ、可愛いわね」
「あの子、毎日来るの?」
 千歳が訊く。
「ええ、学校がある日はね。あの子、相当なおばあちゃん子だったみたいでね」
「で、そのおばあちゃんは?」
「……ここに眠っているわ」
 香澄は自分の座っている墓石の下を指す。
「えぇ、ここにも幽霊が!?」
 かなみは恐れおののく。
「そんなわけないじゃない。多分とっくに成仏しているわよ」
「ほお……」
「まあ、大抵はそうよね。幽霊なんてそう滅多に会えるものじゃないわよ」
「私はしょっちゅう会っているような気がするけど」
 かなみはぼやく。
「え……?」
 千歳は首を傾げる。
 とぼけているのか、気づいていないのか、その仕草だけではわからない。



 お寺の境内でかなみは座り込む。
「結局、何もありませんでしたね」
 ひとしきり墓地を見回った結果をそんな風にぼやく。
「いや、香澄さんがいたわよね」
「幽霊なんていませんでしたよ……」
 かなみは遠い目をして答える。
「かなみちゃん、現実逃避したい気持ちはわかるけど……」
 千歳は憐れむように言う。
「現実逃避なんてしていません! 今もこうしてどうやって借金返そうか考えています!!」
「あ~それが現実逃避というのよ」
「なんでですか!?」
「借金返済という叶わない夢を追いかける、かわいそうなかなみちゃん」
「同情しないでください!!」
「とまあ、かなみちゃんをからかうのはやめて。……少し真面目な話をしましょうか」
「え、はい……」
 千歳の突然の切り替わりにかなみは騒ぐのを止める。
「かなみちゃん、幽霊ってどうしてできると思う?」
「え……どうしてできるかって言われても……」
 かなみは顎に手を当て、考える。
「死んで、成仏が出来ないときですか……?」
「まあ大体そんな感じね。でも、成仏が出来ない時ってどんな時が考えられるかしら?」
「うーん……未練とかですか」
「正解よ。普通死んだら身体と魂は切り離される。
魂を失った身体は朽ち果てて、
身体を失った魂は消え果てる。魂の行き先は私も知らないわ。
あの世というものが本当にあるのか。天国へ行けるか、地獄へ行けるか……」
「千歳さんは何でも知ってると思ってました」
 そんな風に知らないことがあるのが、かなみには不思議に思えた。
「私だって、元は人だからね。知らないことは世の中にはまだまだたくさんあるのよ。
でも、幽霊の成り立ちは知っている。ま、私も幽霊になってからわかったことなんだけどね」
「わかりたくないことです」
 かなみは本音を言う。
「そうね。かなみちゃんはわかなくてもいいわ。でも、知っておいて欲しいわね」
 千歳の言葉に、かなみはブルッと震える。
 しかし、これは聞かなればならないことだとは理解した。
「教えてください」
「うんうん、いいこね」
 千歳は満足げに笑う。
「あるみも言っていたけど、幽霊というのは純粋な魂だけの状態なのよ。魂というのは高密度な魔力の塊のようなものよ。
魔力には意思が宿ることがあり、魔法を扱える者だったらその魂を操ることができるわ。
――この私みたいにね」
「それじゃ、香澄さんは魔法が扱えるんですか?」
「ああ、それは多分無いわね。あの場合は未練という感情が強くて魂が消えることなくとどまっているものだわ」
「そうなんですか……」
「若くして亡くなった人にはよくあることなのよ。未練というか無念というかね、そういう感情が魔法になって魂と身体を離れることなくこの世に留まっている。逆に老人にはそういうことは少ないわね、十分生きて満足する事が多いからかしらね」
「あの香澄さんも、未練や無念を抱えているってことですか?」
「……断言はできないわ。単に強い魔力を持っていてそれが魂をこの世に繋ぎとめているだけかもしれないし」
「うーん、わかりません」
 少し会話をしただけだが、そんな未練や無念といった感情が感じられなかった。
「千歳さんはどっちなんですか?」
 ふと、かなみは気になって千歳に訊いた。
「さあ、どっちだったかしらね。私の場合、魔法を扱えたから魂を扱う術を知っていたといってもいいから」
「それじゃ、未練があって成仏できなかったってわけじゃないんですか?」
「それはわからないわね、フフフ」
 千歳ははぐらかすように笑う。
「……でも、幽霊になってよかったとは思うわよ」
「え?」
「だって、こうしてかなみちゃんとお話ししていると楽しいのだからね。他の娘達も可愛いし」
「千歳さん……」
 千歳にそう言われて、かなみは嬉しく思う。
 そんな話をしているうちに、夕日は落ち始める。
「香澄さんの話だと、墓を荒らす幽霊は夜に出るみたいですけど」
「……帰っていいですか?」
「駄目よ、もし墓荒らしとかだったらどうするのよ?」
「千歳さんが何とかしてください! 第一、墓荒らしってなんですか?」
「墓を荒らす人のことよ」
「それぐらい知ってます! 何が目的で墓を荒らすのかってことですよ!
幽霊が化けて出るかもしれないし、呪われるかもしれないですし、言いことなんて何もないじゃないですか!」
「まあ、かなみちゃんからしてみるとそうかもしれないわね。
昔のお墓って、生前大事にしていたものを一緒に棺に入れたりしたことがあったのよ。特に王族なんてそうね。死んでも宝物なんてあの世にもっていけないのにね」
「なんだか、千歳さんが毒づくのって珍しいですね」
「あらそう? 私って、かなみちゃんからみて相当いい娘に見えるようね」
「いい娘?」
「そこで首を傾げない。そういう歳にみえないのもわかるけど、こう見えても結構若いつもりよ」
「………………」
 かなみはコメントに困る。
 そんな話をしつつ、夜が更け始める。
「出てきませんね」
「まあ、今夜は現れるとは限らないからね」
「いつまでこうして張り付いてたらいいんですか」
「草木が眠る丑三つ時……」
 マニィが答える。
「幽霊がでやすい不吉な時間ね」
「ぞくり……それって、何時ですか?」
「午前二時よ」
「そんなに起きていられませんよ」
「大丈夫、かなみが眠らないように魔法の言葉があるよ。『一度でも寝たら減給』だそうだ」
「えぇぇーーッ!?」
「私とマニィは見張りってことね。何日でも起きていられるからね」
「そうだね」
「なんて監視なのよ……っていうか、千歳さん眠らなくても平気なんですか」
「ええ、幽霊に睡眠は必要ないからね。それでも、たまに生きてるときのクセで眠っちゃうことはあるわね」
「香澄さんもそのクセなんですかね?」
「でしょうね」
 今頃、その香澄は墓の下で眠っているのだろうか。
 墓の下に幽霊が眠っている。なんだか当たり前のような気がする話だけど、本当のことなのでなんともいえない心境になる。
「かなみちゃんも幽霊になってみる?」
「えぇ!?」
「楽しい幽霊生活があなたを待ってるわよ」
「いくら待っていても、送りませんから!!」
「人間いつかは死ぬんだから、幽霊になるのなんて遅いか早いかの問題でしょ」
「私、死んでも幽霊にならずにちゃんと成仏しますよ!」
「あらそう、それは健全ね」
「え……?」
 あっさり引き下がった千歳に、かなみは呆然とする。
「あら?」
「どうかしましたか?」
「私の糸に引っかかったわ。この反応は、件の幽霊よ」
「えぇ……私、ここにいていいですか?」
 かなみは身震いして弱音を吐く。
「駄目よ、行くのよ」
 千歳はかなみを学生服の襟を掴んで、無理矢理引っ張っていく。
「いやぁぁぁぁぁぁッ!!」
 かなみの悲鳴はまさしくホラー映画のヒロインのそれであった。
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