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第84話 出演! 三人の怪人の標的は少女と怪人 (Aパート)
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月明かりが届かない夜の森に三つの影が蠢いていた。
「――何故ですかね?」
一羽が疑問を投げかける。
「わからない、一体何があったんだ?」
一匹が困惑を口にする。
「理不尽この上ない!!」
一頭が憤りを見せる。
一羽は空から、一匹は川から、そして、一頭は岩の上からそれぞれ顔を合わせる。
それぞれがこの場に人間がいたら、怪物だと恐れ戦き逃げ出す形相をしている。
それもそのはず彼らは悪の秘密結社ネガサイドの怪人だった。彼らは文字通り人知れず集まり、とある一件に対して、疑問、困惑、憤りをぶつけたのだ。
「最高役員十二席・ヘヴルは彼が死んだから我々に十二席の座に座るチャンスが巡ってきたのではないですか?」
一羽は七色に輝く大きな羽根をまた疑問を投げる。
「それなのに、それなのに、どうしてヘヴルは健在で、十二席の座に再びついているんだ?」
カジキのような先がとがった頭をした怪人は広げて、困惑を見せる。
「わからない! ヘヴルが健在なら俺達は何のために十二席の試験を受けたというのだ!!」
豹の一頭は足元の岩を足で割って、憤りを顕わにする。
「「「我々は十二席の座に座れるのか?」」」
三つの感情を渦巻き、混沌と化す森。
しかし、つまるところこの答えがわからない疑問に集約される。
三人の怪人は、姿形は違えど功名心が高く野望がある。
最高役員の十二席の座につき、日本の怪人達を意のままに操る。そして、ゆくゆくネガサイド日本局の局長の座も……。
「何故、何故でしょうか……?」
「理不尽なことこの上ない」
「ならばどうするか!」
最後に一頭は一石を投じる。
「「「我々はなんとしてでも十二席の座につく!」」」
最終的には三人揃って野望を声に出す。
「そのためにどうするか?」
「どうしたらいいか?」
「方法は一つしかあるまい!」
豹の頭を持つ怪人を野心を示す。
それはあくまで発端に過ぎなかった。
やがて、三人の怪人の目には同じ野心の色が浮かんでくる。
「戦う!」
七色の羽根を持つ怪人から疑問が消える。
「戦う!」
カジキの頭を持つ怪人から困惑が消える。
「戦う!!!」
豹の頭を持つ怪人から憤りがさらに大きくなる。
「「「戦う!!」」」
三人の怪人の雄叫びが夜の森に木霊する。
「空を統べる空孔」
「水を統べる水剣」
「地を統べる地豹」
夜の森で空・水・地の三怪人が魔法少女にも怪人にも知れず、誓いを立てる。
「お願い、お願い……今月、これが最後なのよ……!」
オフィスでかなみは祈りの念を送って、とあるお菓子の包装をめくる。
『ブロンズ』
とそこには銅色で書かれていた。
ガクッとかなみは肩を落とす。
「またブロンズか……」
「相変わらず運が悪いね」
マニィが呆れたように言う。
「今月はこれで最後だったのに……」
お菓子とはいえ、少ない家計から捻りだして買っているのだからもうちょっとサービスしてくれてもいいのにと思わずにはいられない。
『フェアリー☆フルーツチョコビスケット』
それがかなみが買ってきたお菓子の名前で、パッケージには今放送している大人気アニメ『魔法妖精フェアリー☆ガールズ』のメインキャラ三人が描かれている。
このお菓子には特製変身ブローチへのプレゼント応募券がついていて、かなみはそれを目当てに少ない給料をやりくりして買っている。
応募券には『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『プラチナ』の四種類があり、それぞれ得点が設定されている。
『ブロンズ』は一点
『シルバー』は三点
『ゴールド』は五点
『プラチナ』は十点
そういう内訳になっていて、合計で十点集めることでようやくプレゼントへ応募することができる。
「これで『ブロンズ』が四枚だね……」
不運なことにかなみは四連続で『ブロンズ』を引いてしまっていた。プレゼントへの応募にまで半分にも到達していない。
「いつになったら応募できるのやら……」
かなみはぼやく。
『魔法妖精フェアリー☆ガールズ』
三人の女子中学生が妖精の国から王女の候補になる人間を探してやってきた風、水、土の妖精と出会い、マジカル☆フェアリーに変身して、闇の国の悪魔と戦う王道の魔法少女アニメ。
しかし、三人の中から一人だけが妖精の国の王女「フェアリープリンセス」に選ばれて、女王「フェアリークイーン」から何でも一つだけ願いを叶えてもらえる。そのため、三人は共に戦う仲間でありながら、「フェアリープリンセス」の座を争うライバルでもあるというのがこの作品の肝であった。
みあの父親が経営しているアガルタ玩具がスポンサーになっていたので、みあに見せられてかなみもすっかり好きになってしまった。
特に、三人の女子中学生のうちの一人である「フェアリーソイル」にかなみはすっかり感情移入してしまっていた。
三人にはそれぞれ「フェアリープリンセス」になって叶えたい願いがあるのだけど、「フェアリーソイル」の願いは「家族みんなが幸せになる」ことだった。「フェアリーソイル」こと原地黄唯は、病弱な弟がいてその入院費と治療費のせいでとても貧乏で苦労している。その設定がかなみにとって他人事とは思えずついつい応援するようになってしまっていた。
「がんばれ、黄唯ちゃん! がんばれ、フェアリーソイル!!」
感情移入するあまり画面の前で声を張り上げてしまうこともあるほどだ。
一緒に見ていたみあは「はずかしいからもう一緒に観ない……」と漏らしたほどの熱の入れようだった。
そんなわけで、かなみはフェアリーソイルの変身ブローチを手に入れるために、『フェアリー☆フルーツチョコビスケット』を買って応募券を集めているのだけど。
結果は『ブロンズ』の四点だけ。
ものの見事に運が無い。
「ところで、みあちゃんの方はどうなの!?」
かなみはみあの方を睨む
「あ~あたしね~」
実はみあも買っていた。
その結果は『ゴールド』。
「え~、ちょっとなんでええええええッ!?」
かなみは世の無常を嘆く。
「これで十点入ったから応募できるわ」
みあは前に買って手に入れていた『シルバー』二個と合わせて十一点。プレゼントの応募に必要な十点を満たしている。
「でも、一点あふれるからもったいないような……」
「なんて贅沢なことを!」
かなみは文句を漏らす。
「っていうか、みあちゃんの会社がスポンサーなんだから、そういうの貰ってるんじゃないの!?」
「はあ!? そんな卑怯なことするわけないでしょ!!」
「え……?」
みあの思ってみなかった返答に、かなみは面を食らう。
てっきり、玩具会社の社長令嬢なんだからそういう権限で凄いグッズをいっぱい貰っているのかと思っていた。
「だって、みあちゃんの会社はスポンサーなんだから」
「それはそれ、これはこれよ。っていうか、あれは親父の会社だからあたしには関係ないし!」
「そうだったんだ。てっきり、みあちゃんはお金持ちで」
「あんた、そういうイメージであたしを見てたのね……!」
みあはジト目でかなみを睨む。
「だ、だって、みあちゃんの部屋そういう玩具や人形がいっぱいあるから、いっぱいもらってるからと思ったのよ」
「あれ多分親父の私物だから」
「ええ!?」
意外な事実だった。
「親父って、ああいう商品とかみるとポケットマネーから出して買うようにしているのよ。
気に入った商品はたとえ自分の会社の商品であろうと、自分の財布から出す、ってね。あと、自分自身もファンなんだからファンなら店で見かけたグッズは買うべきだとも言ってたわね」
「なるほどねえ、それがみあちゃんに受け継がれているわけか」
かなみは納得すると、みあはムッとする。
「そんなんじゃないわよ! ただ、ちょっと、その通りだと思っただけで……!
こらー! したり顔でわかったような感じになってるんじゃないわよ!!」
みあは腕をブンブン振って意義を申し立てる。かなみにとってはそれが愛おしくてたまらない。
「まったく、あの親父と同じ考え方だなんて冗談じゃないわ!」
「親子は似るものだって言うじゃない」
「その言い方だと、かなみ、あんたもあのお母さんに似てくるんじゃないの」
「え、母さん?」
思ってもみなかった反撃が飛んできた。
「いやいや、それはないと思うわよ」
「そうかしらね。あんたのその能天気なところ、似てるわよ」
「え、そ、そう!? 母さんほどじゃないと思うんだけど! っていうか、私能天気じゃないんだけど!?」
「あ~、そういう自覚ないところか……」
みあは呆れたように言う。
「みあちゃんが私をどう見てるかも気になるところね」
今度はかなみがジト目になる。
「お二人は本当に仲が良いですね」
傍から見ていた紫織は羨ましそうに言う。
「ところで、みあちゃん応募するの?」
かなみはあわよくば自分にくれないだろうか、と下心をもって訊く。
「ん、まあね」
みあはあっさりと答える。
「ちょっと、サンプル見てみたけど中々出来がいいみたいなのよね。あれは手に入れておきたいものだと思ったけど……どうしたの、そんなに睨んで」
「だって、みあちゃんサンプルって」
「う……!」
みあは「しまった!」と思った。
「みあちゃん、やっぱりスポンサー特権でそういうのもらってるのね!」
かなみは恨めしそうに言う。
「ち、違うわよ! ちょっと商品チェックのときに見ただけだから!! もらったんじゃないわよ!!」
「ふーん、そうよね。みあちゃんはちゃんとしたファンだものね」
「その顔、信用してないわね!」
「だって、みあちゃんはスポンサーなんだし!」
「それは親父の会社でしょ!」
二人は言い争いを始める。
紫織はそわそわして成り行きを見守る。
バタン
そこへ翠華がダンボール箱を持ってやってくる。
「二人とも何を争ってるの?」
翠華が訊く。
「かなみにいちゃもんつけられてるの!」
「いちゃもんじゃないけど、みあちゃんがマジカル☆フェアリーのブローチのサンプルみたことあるって」
「え、マジカル☆フェアリーのブローチ!?」
翠華はそこに食いつく。
「あ~、こいつもか」
みあは面倒そうに言う。
「みあちゃん、変身ブローチのサンプルみたって本当なの!?」
「みたわよ! 商品チェックのときに!!」
みあはうんざり気味に答える。
「ど、どんな感じだったの!?」
「出来は良かったわ!」
「そう、出来は良かったのね……」
翠華は納得して、グッと握り拳を込める。
絶対手に入れてやる、という気概を感じられる。
「翠華さんもマジカル☆フェアリー、みてるんですか?」
「え、ええ……」
魔法少女に恋をする翠華としては当然のことなんだけど、かなみにとっては思ってもみなかったことだ。
「私も見てるんです! 私、フェアリーソイルが大好きなんです!」
「そ、そうなの……」
「翠華さん、誰が一番好きなんですか!?」
「わ、私は……フェアリーフラワーが好きよ」
翠華は一瞬の逡巡の後に答える。
フェアリーフラワー、三人のフェアリーガールズの中で特に中心にいることが多く、物語の始まりも彼女を中心に据えて描かれている。
フラワーの名前の通り、花びらのようなヒラヒラとしたピンクのコスチュームは可愛らしく、悪魔との戦いでも可憐に舞う。
「フラワーも可愛いですよね!」
「ええ、そうね。ソイルもかなみさんに似てていいと思う」
「そうですか! 実を言いますとソイルの黄唯ちゃんは他人に思えなくてですね、ついつい応援しちゃうんですよ~」
「た、たしかにそうね……」
翠華は苦笑する。
「まあ、あんたの方が借金している分、悲惨だけどね」
みあは辛らつな一言を投げ入れる。
貧乏で苦学生の黄唯と借金しつつ仕事しているかなみ。確かにどちらが悲惨かというと、かなみの方な気がする。
「みあちゃん! ひどい!」
とはいっても、かなみとしては受け入れがたい事実だった。
「でも、翠華さんはフェアリーアクアに似てますよね」
「え!? そ、そう!?」
翠華は驚く。
かなみが似ているといったフェアリーアクアは、水の妖精と言われていて爽やかな青を基調にした衣装で凛々しい印象がある。
「私、青神優水みたいに優等生じゃないんだけど」
青神優水というのはフェアリーアクアの正体である。成績優秀でスポーツ万能、学園の生徒会長に立候補するほどの優等生で、男子にも女子にも人気がある。
同じ青い魔法少女でも似ても似つかない、と、翠華は思っている。
「そんなことありませんよ! 翠華さんは生徒会長にも頼りにされてる優等生じゃありませんか!!」
「あ、あれは会長のヒイキみたいなもので……」
「優秀じゃなければヒイキなんてしませんよ!」
かなみは力説する。
かなみにそこまで言われて、翠華は戸惑うものの内心喜びで舞い上がりそうだった。
「まあ、あながち似てないわけじゃないわね」
意外にもみあも同意する。
「み、みあちゃんまで……!」
「まあ、あたしには関係ないけどね」
みあはそう言いながら、翠華が持ってきたダンボールへ視線を向ける。
「んで、それは何なの?」
みあが訊くと、翠華も思い出したように答える。
「これ、みあちゃん宛の荷物よ」
「あ~いつものやつか~」
オフィスにはたまにみあ宛に玩具が届く。
それはアガルタ玩具のサンプルで、みあはそれらを品評して所感をレポートとして提出することになっている。
「今回は何なのかしらね」
そうぼやきながら、ダンボール箱を開ける。
「え……」
みあは小さめの驚きの声を漏らす。
『フェアリーガールズ・変身ブローチ』のサンプルであった。
そう、今まさにかなみ達が応募券を集めているプレゼントのサンプルだった。
「なんで、このタイミングで……!」
みあは忌々しげに、ここにはいない父親に対して言う。
「みあちゃん!」
かなみが恨めし気に言ってくる。
やはり、みあはスポンサーの社長令嬢だから普通の人には手に入らないような貴重な物を貰っていたのだお。
「これは違うって言ってるでしょ!」
みあは猛烈に反論する。
「だったら、それは何なの!?」
「これは親父が勝手に送ってきたものよ!! 仕事でやってんの!!」
「まあまあ二人とも、落ち着いて」
翠華が仲裁に入る。
「みあちゃんはいいわね! そうやって応募券集めなくてもサンプルもらえて!」
かなみは完全にふてくされる。
「そんなわけないでしょ! こんなのたまたまの偶然よ!」
「フン、どうだか!!」
「……かなみさんが、こんなに怒るのも珍しいわね」
翠華は弱り果てる。
「でも、本当によくできてるわね」
翠華はみあの机に置かれた変身ブローチを見る。
「ちょっと触ってもいい?」
「とりあえずあたしが見てからよ」
翠華の提案に、みあはすげなく答える。
「私も応募券を集めてるけど、これは欲しいわね……」
普通につけていても可愛いアクセサリーとして使える中々素晴らしい小道具だった。
「翠華さんも応募券を集めてるんですか?」
「ええ、一応ね」
「何点なんですか?」
「きゅ……九点よ」
翠華はそう言って、ブロンズ六枚、シルバー一枚を見せる。
「うわあ、すごいですね!!」
「え、あたしのときと反応、違くない?」
かなみの素直な賞賛に対して、みあは不満を漏らす。
「だって翠華さん、七個も買ってるのよ」
「あ~、そりゃ凄いわ」
みあは納得する。
かなみは四個、みあは三個しかビスケットのお菓子は買っていない。
ビスケットを七個もあるなんて、よほどフェアリーガールズが好きじゃなければ買わないから素直に賞賛できる、という話だろう。
「あと一個買ったら応募できますね! 羨ましいです!」
かなみは目を輝かせる。
そんなかなみに対して、翠華は罪悪感を感じる。
「かなみさん、よければ私の応募券あげるから応募して」
翠華は応募券を差し出す。
「ええ!? そんなの貰えませんよ!! 翠華さんが苦労して集めたもなのなんだから翠華さんが応募してくださいよ!」
「ううん、かなみさんは苦しい家計から絞り出して頑張って集めてるんだから、かなみさんが応募した方がいいわ……それに、かなみさんがブローチをつけたところをみてみたいから」
実のところをいうと後半が本音だった。
きっと自分よりかなみの方がブローチに似合うと思うし、是非つけたところを見てみたいからだった。
「受け取れません!」
「受け取って!」
かなみと翠華の押し付け合いが始まる。
「何このみるにたえない争い……」
みあは呆れる。
そして、この争いの解決法はすぐ思いつく。
「わかったわ。だったら、かなみはこれをつけて」
「え……?」
みあはかなみへ変身ブローチをつける。アニメと同じように学生服のリボンの真ん中に。
「わあ」
翠華は思わず声を漏らす。
「ど、どうですか、翠華さん?」
かなみは恥ずかし気に訊く。
「と、とても似合ってるわ! すごい、フェアリーガールみたい!!」
翠華は興奮気味に絶賛する。
「そ、そうですか……?」
「まあ、たしかに似合ってるわね」
みあは素直にそれを認める。
「て、照れるわね……アハハハ」
「はいはい、それじゃこれは返してね」
みあはブローチを外す。
「どう、満足した?」
「「うん」」
かなみと翠華はそろって満足げに答える。
「それじゃ、私はブローチの所感を書くわ……」
そう言って、みあはレポートを書いていく。
『ブローチをアニメの主人公達と同じ十四歳の女子中学生につけてみたところ、アニメと同じようにつけてもブローチは女子中学生の可憐さを引き立てていた』
そんなことを書いていった。意外にもちゃんと仕事している。
「さて、それじゃブローチは返してもらうわ」
「あ……」
みあはかなみの胸の上に付けたブローチを取り上げる。
「もうちょっとつけていたかったわ……」
かなみは名残惜しそうにブローチを見る。
「やっぱり自分の物にしたいわね」
かなみは自分のデスクにある『ブロンズ』四枚を見つめる。あのブローチの抽選に応募するための点数にはあと六点。気が遠くなる。
「先が長いわね……」
「かなみさん、やっぱり私が」
「いえいえいえ、そんなわけにはいきません!!」
「でも、やっぱりブローチはかなみさんに似合うからつけてほしいのよ」
再び譲り合いが始まる。
「あ~一生やってれば~」
みあは呆れたように言う。もう止める気にもなれない。
「盛り上がってるわね」
あるみがドカッと音を立ててオフィスへ入ってくる。
「社長、お仕事ですか!?」
かなみは飛びつく。
仕事でボーナスが入れば『フェアリー☆フルーツチョコビスケット』が買えて応募券を集められるからだ。
「ええ、かなみちゃんにピッタリのね」
「私にピッタリ?」
「かなみちゃん、『魔法妖精フェアリー☆ガールズ』は知ってる?」
「はい、大好きです!!」
かなみは元気よく答える。
「そっち方面で頼みたいことがあってね」
翌日、かなみとみあはとある喫茶店で待ち合わせした。
「やあ、時間通りだね」
そこへみあの父親、彼方がやってきた。
「一体今日は何の用なの?」
みあは会うなり、不機嫌顔になって訊く。
今日の仕事は、この喫茶店で彼方と待ち合わせすることと『魔法妖精フェアリー☆ガールズ』絡みのこととしか聞いていない。それだけに不満がありつつもどんな仕事なのか期待してしまう。
「ちょっと、フェアリー☆ガールズ絡みでね」
「昨日のブローチと関係あるわけ?」
「いや、あれとは関係ないよ。昨日届いたのも偶然だったし」
「そうだったんですか」
ちなみに、あのブローチはみあがレポートとともに送り返している。もう一度つけてみかった、と、かなみは思い出して惜しむ。
「じゃあ、何なの?」
「このあと、ここである子の取材をすることになっているんだよ」
彼方はあっさり答える。
「ある子って?」
「皆木希奈だよ」
「ええ!?」
かなみは驚き、身を乗り出す。
皆木希奈はフェアリーソイルの声を務めている声優で、ソイルに変身する原地黄唯と同じ十四歳ということで売り出されている。
かなみは声優に詳しくないけど、みあが教えてくれた。
聞かされた時は、へえ、すごいわねとしか思わなかった。会えるなんて夢にも思って無かった。
「声優さんに会えるの!?」
「まあね。向こうからの希望でもあるんだよ」
「向こうからの希望? どうして?」
かなみは訊く。
「それは本人から聞くといいよ」
「会うだけじゃなくてお話もできるんですか?」
「取材が終わってからね」
彼方が答えるなり、喫茶店に少女が一人、大人の女性が二人、入店してくる。
「あの子よ」
みあがかなみへ言う。
あの子――一人の少女が皆木希奈を指していることはすぐにわかった。
「――」
言葉にならない感嘆の声を漏らす。
「あ……」
向こうの方もこちらに気づいたみたいで、目が合った。
少し驚いたような顔をしたけど、それだけで希奈と二人の大人はかなみ達とは少し離れたテーブルに着く。
「喫茶店で取材っていうのも珍しいわね」
みあが言う。
「そうなるように私が頼んでおいたんだけどね」
「スポンサーってすごいんですね」
かなみは素直に感心する。
「特権っていうものがあるからね。お金を出してる側の強みともいう」
「それはちょっと嫌味ったらしいです」
「そうかい」と彼方は肩をすくめて笑ってみせる。
「それであの二人は記者?」
「いや、保護者同伴だから母親だよ」
母親と言われると女性の方はどことなく、希奈と似ているような気がしてきた。
希奈はココアを、母親と記者はコーヒーを、頼むのが聞こえた。
話し声で聞き取れたのはそれぐらい。
あとは記者が質問をして希奈が答えていく。たまに母親が口を挟むけど、険悪な感じはしない。取材といった体裁の硬さはあるもののいい雰囲気で話し合いは進んでいる。
(何を話しているのかしら……?)
かなみは気になって耳をすまそうとするけど、みあは「ダメだ」と諫める。
「盗み聞きは趣味が悪いわよ」
「みあちゃん……」
その時のみあは妙に大人びて見えた。
やがて、話し合いは終わって、記者は席を立ち、勘定してから出て行く。
記者さんの経費なのか、と、かなみは思った。
希奈と母の二人だけになると、希奈はこちらの方に目を向けてくる。そして、すぐ席を立ち、こちらにやってくる。
(こっちに来る!?)
かなみは驚きで固まってしまう。
「お久しぶりです、阿方社長」
「久しぶりだね」
二人は親し気に挨拶する。
「こっちは、娘のみあちゃんと友人のかなみちゃんだよ」
そして、その流れで二人を紹介する。
「声優の皆木希奈です。よろしくね」
そう言って、かなみの対面に座る。
芸能人と会うとなんだか緊張してしまう。それに、希奈はファンでもあるフェアリーソイルの役をやっているのだから尚更だ。
「ゆ、結城かなみです!」
緊張で声が上ずる。
「かなみ、緊張しててみっともないわ……」
みあが呆れて言う。
「しょ、しょうがないじゃない……!」
かなみは言い訳のように言い返す。
「かなみ……?」
希奈はキョトンとする。
「あなた、かなみ、というの?」
「はい、私がかなみだけど何か?」
かなみがそう返すと、希奈は固まるけど、そのうち、落ち着いたように言う。
「ごめんなさい……ちょっと、憧れていた人に似ていて同じ名前だったから、つい反応しちゃって」
そんな言い訳をする。
しかし、かなみにとっては聞き逃すことができないものだった。
「憧れていた人? それって誰のことなの?」
「あ、それは……」
希奈は少し躊躇った後、意を決して答える。
「魔法少女カナミ、って知ってる?」
「――何故ですかね?」
一羽が疑問を投げかける。
「わからない、一体何があったんだ?」
一匹が困惑を口にする。
「理不尽この上ない!!」
一頭が憤りを見せる。
一羽は空から、一匹は川から、そして、一頭は岩の上からそれぞれ顔を合わせる。
それぞれがこの場に人間がいたら、怪物だと恐れ戦き逃げ出す形相をしている。
それもそのはず彼らは悪の秘密結社ネガサイドの怪人だった。彼らは文字通り人知れず集まり、とある一件に対して、疑問、困惑、憤りをぶつけたのだ。
「最高役員十二席・ヘヴルは彼が死んだから我々に十二席の座に座るチャンスが巡ってきたのではないですか?」
一羽は七色に輝く大きな羽根をまた疑問を投げる。
「それなのに、それなのに、どうしてヘヴルは健在で、十二席の座に再びついているんだ?」
カジキのような先がとがった頭をした怪人は広げて、困惑を見せる。
「わからない! ヘヴルが健在なら俺達は何のために十二席の試験を受けたというのだ!!」
豹の一頭は足元の岩を足で割って、憤りを顕わにする。
「「「我々は十二席の座に座れるのか?」」」
三つの感情を渦巻き、混沌と化す森。
しかし、つまるところこの答えがわからない疑問に集約される。
三人の怪人は、姿形は違えど功名心が高く野望がある。
最高役員の十二席の座につき、日本の怪人達を意のままに操る。そして、ゆくゆくネガサイド日本局の局長の座も……。
「何故、何故でしょうか……?」
「理不尽なことこの上ない」
「ならばどうするか!」
最後に一頭は一石を投じる。
「「「我々はなんとしてでも十二席の座につく!」」」
最終的には三人揃って野望を声に出す。
「そのためにどうするか?」
「どうしたらいいか?」
「方法は一つしかあるまい!」
豹の頭を持つ怪人を野心を示す。
それはあくまで発端に過ぎなかった。
やがて、三人の怪人の目には同じ野心の色が浮かんでくる。
「戦う!」
七色の羽根を持つ怪人から疑問が消える。
「戦う!」
カジキの頭を持つ怪人から困惑が消える。
「戦う!!!」
豹の頭を持つ怪人から憤りがさらに大きくなる。
「「「戦う!!」」」
三人の怪人の雄叫びが夜の森に木霊する。
「空を統べる空孔」
「水を統べる水剣」
「地を統べる地豹」
夜の森で空・水・地の三怪人が魔法少女にも怪人にも知れず、誓いを立てる。
「お願い、お願い……今月、これが最後なのよ……!」
オフィスでかなみは祈りの念を送って、とあるお菓子の包装をめくる。
『ブロンズ』
とそこには銅色で書かれていた。
ガクッとかなみは肩を落とす。
「またブロンズか……」
「相変わらず運が悪いね」
マニィが呆れたように言う。
「今月はこれで最後だったのに……」
お菓子とはいえ、少ない家計から捻りだして買っているのだからもうちょっとサービスしてくれてもいいのにと思わずにはいられない。
『フェアリー☆フルーツチョコビスケット』
それがかなみが買ってきたお菓子の名前で、パッケージには今放送している大人気アニメ『魔法妖精フェアリー☆ガールズ』のメインキャラ三人が描かれている。
このお菓子には特製変身ブローチへのプレゼント応募券がついていて、かなみはそれを目当てに少ない給料をやりくりして買っている。
応募券には『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『プラチナ』の四種類があり、それぞれ得点が設定されている。
『ブロンズ』は一点
『シルバー』は三点
『ゴールド』は五点
『プラチナ』は十点
そういう内訳になっていて、合計で十点集めることでようやくプレゼントへ応募することができる。
「これで『ブロンズ』が四枚だね……」
不運なことにかなみは四連続で『ブロンズ』を引いてしまっていた。プレゼントへの応募にまで半分にも到達していない。
「いつになったら応募できるのやら……」
かなみはぼやく。
『魔法妖精フェアリー☆ガールズ』
三人の女子中学生が妖精の国から王女の候補になる人間を探してやってきた風、水、土の妖精と出会い、マジカル☆フェアリーに変身して、闇の国の悪魔と戦う王道の魔法少女アニメ。
しかし、三人の中から一人だけが妖精の国の王女「フェアリープリンセス」に選ばれて、女王「フェアリークイーン」から何でも一つだけ願いを叶えてもらえる。そのため、三人は共に戦う仲間でありながら、「フェアリープリンセス」の座を争うライバルでもあるというのがこの作品の肝であった。
みあの父親が経営しているアガルタ玩具がスポンサーになっていたので、みあに見せられてかなみもすっかり好きになってしまった。
特に、三人の女子中学生のうちの一人である「フェアリーソイル」にかなみはすっかり感情移入してしまっていた。
三人にはそれぞれ「フェアリープリンセス」になって叶えたい願いがあるのだけど、「フェアリーソイル」の願いは「家族みんなが幸せになる」ことだった。「フェアリーソイル」こと原地黄唯は、病弱な弟がいてその入院費と治療費のせいでとても貧乏で苦労している。その設定がかなみにとって他人事とは思えずついつい応援するようになってしまっていた。
「がんばれ、黄唯ちゃん! がんばれ、フェアリーソイル!!」
感情移入するあまり画面の前で声を張り上げてしまうこともあるほどだ。
一緒に見ていたみあは「はずかしいからもう一緒に観ない……」と漏らしたほどの熱の入れようだった。
そんなわけで、かなみはフェアリーソイルの変身ブローチを手に入れるために、『フェアリー☆フルーツチョコビスケット』を買って応募券を集めているのだけど。
結果は『ブロンズ』の四点だけ。
ものの見事に運が無い。
「ところで、みあちゃんの方はどうなの!?」
かなみはみあの方を睨む
「あ~あたしね~」
実はみあも買っていた。
その結果は『ゴールド』。
「え~、ちょっとなんでええええええッ!?」
かなみは世の無常を嘆く。
「これで十点入ったから応募できるわ」
みあは前に買って手に入れていた『シルバー』二個と合わせて十一点。プレゼントの応募に必要な十点を満たしている。
「でも、一点あふれるからもったいないような……」
「なんて贅沢なことを!」
かなみは文句を漏らす。
「っていうか、みあちゃんの会社がスポンサーなんだから、そういうの貰ってるんじゃないの!?」
「はあ!? そんな卑怯なことするわけないでしょ!!」
「え……?」
みあの思ってみなかった返答に、かなみは面を食らう。
てっきり、玩具会社の社長令嬢なんだからそういう権限で凄いグッズをいっぱい貰っているのかと思っていた。
「だって、みあちゃんの会社はスポンサーなんだから」
「それはそれ、これはこれよ。っていうか、あれは親父の会社だからあたしには関係ないし!」
「そうだったんだ。てっきり、みあちゃんはお金持ちで」
「あんた、そういうイメージであたしを見てたのね……!」
みあはジト目でかなみを睨む。
「だ、だって、みあちゃんの部屋そういう玩具や人形がいっぱいあるから、いっぱいもらってるからと思ったのよ」
「あれ多分親父の私物だから」
「ええ!?」
意外な事実だった。
「親父って、ああいう商品とかみるとポケットマネーから出して買うようにしているのよ。
気に入った商品はたとえ自分の会社の商品であろうと、自分の財布から出す、ってね。あと、自分自身もファンなんだからファンなら店で見かけたグッズは買うべきだとも言ってたわね」
「なるほどねえ、それがみあちゃんに受け継がれているわけか」
かなみは納得すると、みあはムッとする。
「そんなんじゃないわよ! ただ、ちょっと、その通りだと思っただけで……!
こらー! したり顔でわかったような感じになってるんじゃないわよ!!」
みあは腕をブンブン振って意義を申し立てる。かなみにとってはそれが愛おしくてたまらない。
「まったく、あの親父と同じ考え方だなんて冗談じゃないわ!」
「親子は似るものだって言うじゃない」
「その言い方だと、かなみ、あんたもあのお母さんに似てくるんじゃないの」
「え、母さん?」
思ってもみなかった反撃が飛んできた。
「いやいや、それはないと思うわよ」
「そうかしらね。あんたのその能天気なところ、似てるわよ」
「え、そ、そう!? 母さんほどじゃないと思うんだけど! っていうか、私能天気じゃないんだけど!?」
「あ~、そういう自覚ないところか……」
みあは呆れたように言う。
「みあちゃんが私をどう見てるかも気になるところね」
今度はかなみがジト目になる。
「お二人は本当に仲が良いですね」
傍から見ていた紫織は羨ましそうに言う。
「ところで、みあちゃん応募するの?」
かなみはあわよくば自分にくれないだろうか、と下心をもって訊く。
「ん、まあね」
みあはあっさりと答える。
「ちょっと、サンプル見てみたけど中々出来がいいみたいなのよね。あれは手に入れておきたいものだと思ったけど……どうしたの、そんなに睨んで」
「だって、みあちゃんサンプルって」
「う……!」
みあは「しまった!」と思った。
「みあちゃん、やっぱりスポンサー特権でそういうのもらってるのね!」
かなみは恨めしそうに言う。
「ち、違うわよ! ちょっと商品チェックのときに見ただけだから!! もらったんじゃないわよ!!」
「ふーん、そうよね。みあちゃんはちゃんとしたファンだものね」
「その顔、信用してないわね!」
「だって、みあちゃんはスポンサーなんだし!」
「それは親父の会社でしょ!」
二人は言い争いを始める。
紫織はそわそわして成り行きを見守る。
バタン
そこへ翠華がダンボール箱を持ってやってくる。
「二人とも何を争ってるの?」
翠華が訊く。
「かなみにいちゃもんつけられてるの!」
「いちゃもんじゃないけど、みあちゃんがマジカル☆フェアリーのブローチのサンプルみたことあるって」
「え、マジカル☆フェアリーのブローチ!?」
翠華はそこに食いつく。
「あ~、こいつもか」
みあは面倒そうに言う。
「みあちゃん、変身ブローチのサンプルみたって本当なの!?」
「みたわよ! 商品チェックのときに!!」
みあはうんざり気味に答える。
「ど、どんな感じだったの!?」
「出来は良かったわ!」
「そう、出来は良かったのね……」
翠華は納得して、グッと握り拳を込める。
絶対手に入れてやる、という気概を感じられる。
「翠華さんもマジカル☆フェアリー、みてるんですか?」
「え、ええ……」
魔法少女に恋をする翠華としては当然のことなんだけど、かなみにとっては思ってもみなかったことだ。
「私も見てるんです! 私、フェアリーソイルが大好きなんです!」
「そ、そうなの……」
「翠華さん、誰が一番好きなんですか!?」
「わ、私は……フェアリーフラワーが好きよ」
翠華は一瞬の逡巡の後に答える。
フェアリーフラワー、三人のフェアリーガールズの中で特に中心にいることが多く、物語の始まりも彼女を中心に据えて描かれている。
フラワーの名前の通り、花びらのようなヒラヒラとしたピンクのコスチュームは可愛らしく、悪魔との戦いでも可憐に舞う。
「フラワーも可愛いですよね!」
「ええ、そうね。ソイルもかなみさんに似てていいと思う」
「そうですか! 実を言いますとソイルの黄唯ちゃんは他人に思えなくてですね、ついつい応援しちゃうんですよ~」
「た、たしかにそうね……」
翠華は苦笑する。
「まあ、あんたの方が借金している分、悲惨だけどね」
みあは辛らつな一言を投げ入れる。
貧乏で苦学生の黄唯と借金しつつ仕事しているかなみ。確かにどちらが悲惨かというと、かなみの方な気がする。
「みあちゃん! ひどい!」
とはいっても、かなみとしては受け入れがたい事実だった。
「でも、翠華さんはフェアリーアクアに似てますよね」
「え!? そ、そう!?」
翠華は驚く。
かなみが似ているといったフェアリーアクアは、水の妖精と言われていて爽やかな青を基調にした衣装で凛々しい印象がある。
「私、青神優水みたいに優等生じゃないんだけど」
青神優水というのはフェアリーアクアの正体である。成績優秀でスポーツ万能、学園の生徒会長に立候補するほどの優等生で、男子にも女子にも人気がある。
同じ青い魔法少女でも似ても似つかない、と、翠華は思っている。
「そんなことありませんよ! 翠華さんは生徒会長にも頼りにされてる優等生じゃありませんか!!」
「あ、あれは会長のヒイキみたいなもので……」
「優秀じゃなければヒイキなんてしませんよ!」
かなみは力説する。
かなみにそこまで言われて、翠華は戸惑うものの内心喜びで舞い上がりそうだった。
「まあ、あながち似てないわけじゃないわね」
意外にもみあも同意する。
「み、みあちゃんまで……!」
「まあ、あたしには関係ないけどね」
みあはそう言いながら、翠華が持ってきたダンボールへ視線を向ける。
「んで、それは何なの?」
みあが訊くと、翠華も思い出したように答える。
「これ、みあちゃん宛の荷物よ」
「あ~いつものやつか~」
オフィスにはたまにみあ宛に玩具が届く。
それはアガルタ玩具のサンプルで、みあはそれらを品評して所感をレポートとして提出することになっている。
「今回は何なのかしらね」
そうぼやきながら、ダンボール箱を開ける。
「え……」
みあは小さめの驚きの声を漏らす。
『フェアリーガールズ・変身ブローチ』のサンプルであった。
そう、今まさにかなみ達が応募券を集めているプレゼントのサンプルだった。
「なんで、このタイミングで……!」
みあは忌々しげに、ここにはいない父親に対して言う。
「みあちゃん!」
かなみが恨めし気に言ってくる。
やはり、みあはスポンサーの社長令嬢だから普通の人には手に入らないような貴重な物を貰っていたのだお。
「これは違うって言ってるでしょ!」
みあは猛烈に反論する。
「だったら、それは何なの!?」
「これは親父が勝手に送ってきたものよ!! 仕事でやってんの!!」
「まあまあ二人とも、落ち着いて」
翠華が仲裁に入る。
「みあちゃんはいいわね! そうやって応募券集めなくてもサンプルもらえて!」
かなみは完全にふてくされる。
「そんなわけないでしょ! こんなのたまたまの偶然よ!」
「フン、どうだか!!」
「……かなみさんが、こんなに怒るのも珍しいわね」
翠華は弱り果てる。
「でも、本当によくできてるわね」
翠華はみあの机に置かれた変身ブローチを見る。
「ちょっと触ってもいい?」
「とりあえずあたしが見てからよ」
翠華の提案に、みあはすげなく答える。
「私も応募券を集めてるけど、これは欲しいわね……」
普通につけていても可愛いアクセサリーとして使える中々素晴らしい小道具だった。
「翠華さんも応募券を集めてるんですか?」
「ええ、一応ね」
「何点なんですか?」
「きゅ……九点よ」
翠華はそう言って、ブロンズ六枚、シルバー一枚を見せる。
「うわあ、すごいですね!!」
「え、あたしのときと反応、違くない?」
かなみの素直な賞賛に対して、みあは不満を漏らす。
「だって翠華さん、七個も買ってるのよ」
「あ~、そりゃ凄いわ」
みあは納得する。
かなみは四個、みあは三個しかビスケットのお菓子は買っていない。
ビスケットを七個もあるなんて、よほどフェアリーガールズが好きじゃなければ買わないから素直に賞賛できる、という話だろう。
「あと一個買ったら応募できますね! 羨ましいです!」
かなみは目を輝かせる。
そんなかなみに対して、翠華は罪悪感を感じる。
「かなみさん、よければ私の応募券あげるから応募して」
翠華は応募券を差し出す。
「ええ!? そんなの貰えませんよ!! 翠華さんが苦労して集めたもなのなんだから翠華さんが応募してくださいよ!」
「ううん、かなみさんは苦しい家計から絞り出して頑張って集めてるんだから、かなみさんが応募した方がいいわ……それに、かなみさんがブローチをつけたところをみてみたいから」
実のところをいうと後半が本音だった。
きっと自分よりかなみの方がブローチに似合うと思うし、是非つけたところを見てみたいからだった。
「受け取れません!」
「受け取って!」
かなみと翠華の押し付け合いが始まる。
「何このみるにたえない争い……」
みあは呆れる。
そして、この争いの解決法はすぐ思いつく。
「わかったわ。だったら、かなみはこれをつけて」
「え……?」
みあはかなみへ変身ブローチをつける。アニメと同じように学生服のリボンの真ん中に。
「わあ」
翠華は思わず声を漏らす。
「ど、どうですか、翠華さん?」
かなみは恥ずかし気に訊く。
「と、とても似合ってるわ! すごい、フェアリーガールみたい!!」
翠華は興奮気味に絶賛する。
「そ、そうですか……?」
「まあ、たしかに似合ってるわね」
みあは素直にそれを認める。
「て、照れるわね……アハハハ」
「はいはい、それじゃこれは返してね」
みあはブローチを外す。
「どう、満足した?」
「「うん」」
かなみと翠華はそろって満足げに答える。
「それじゃ、私はブローチの所感を書くわ……」
そう言って、みあはレポートを書いていく。
『ブローチをアニメの主人公達と同じ十四歳の女子中学生につけてみたところ、アニメと同じようにつけてもブローチは女子中学生の可憐さを引き立てていた』
そんなことを書いていった。意外にもちゃんと仕事している。
「さて、それじゃブローチは返してもらうわ」
「あ……」
みあはかなみの胸の上に付けたブローチを取り上げる。
「もうちょっとつけていたかったわ……」
かなみは名残惜しそうにブローチを見る。
「やっぱり自分の物にしたいわね」
かなみは自分のデスクにある『ブロンズ』四枚を見つめる。あのブローチの抽選に応募するための点数にはあと六点。気が遠くなる。
「先が長いわね……」
「かなみさん、やっぱり私が」
「いえいえいえ、そんなわけにはいきません!!」
「でも、やっぱりブローチはかなみさんに似合うからつけてほしいのよ」
再び譲り合いが始まる。
「あ~一生やってれば~」
みあは呆れたように言う。もう止める気にもなれない。
「盛り上がってるわね」
あるみがドカッと音を立ててオフィスへ入ってくる。
「社長、お仕事ですか!?」
かなみは飛びつく。
仕事でボーナスが入れば『フェアリー☆フルーツチョコビスケット』が買えて応募券を集められるからだ。
「ええ、かなみちゃんにピッタリのね」
「私にピッタリ?」
「かなみちゃん、『魔法妖精フェアリー☆ガールズ』は知ってる?」
「はい、大好きです!!」
かなみは元気よく答える。
「そっち方面で頼みたいことがあってね」
翌日、かなみとみあはとある喫茶店で待ち合わせした。
「やあ、時間通りだね」
そこへみあの父親、彼方がやってきた。
「一体今日は何の用なの?」
みあは会うなり、不機嫌顔になって訊く。
今日の仕事は、この喫茶店で彼方と待ち合わせすることと『魔法妖精フェアリー☆ガールズ』絡みのこととしか聞いていない。それだけに不満がありつつもどんな仕事なのか期待してしまう。
「ちょっと、フェアリー☆ガールズ絡みでね」
「昨日のブローチと関係あるわけ?」
「いや、あれとは関係ないよ。昨日届いたのも偶然だったし」
「そうだったんですか」
ちなみに、あのブローチはみあがレポートとともに送り返している。もう一度つけてみかった、と、かなみは思い出して惜しむ。
「じゃあ、何なの?」
「このあと、ここである子の取材をすることになっているんだよ」
彼方はあっさり答える。
「ある子って?」
「皆木希奈だよ」
「ええ!?」
かなみは驚き、身を乗り出す。
皆木希奈はフェアリーソイルの声を務めている声優で、ソイルに変身する原地黄唯と同じ十四歳ということで売り出されている。
かなみは声優に詳しくないけど、みあが教えてくれた。
聞かされた時は、へえ、すごいわねとしか思わなかった。会えるなんて夢にも思って無かった。
「声優さんに会えるの!?」
「まあね。向こうからの希望でもあるんだよ」
「向こうからの希望? どうして?」
かなみは訊く。
「それは本人から聞くといいよ」
「会うだけじゃなくてお話もできるんですか?」
「取材が終わってからね」
彼方が答えるなり、喫茶店に少女が一人、大人の女性が二人、入店してくる。
「あの子よ」
みあがかなみへ言う。
あの子――一人の少女が皆木希奈を指していることはすぐにわかった。
「――」
言葉にならない感嘆の声を漏らす。
「あ……」
向こうの方もこちらに気づいたみたいで、目が合った。
少し驚いたような顔をしたけど、それだけで希奈と二人の大人はかなみ達とは少し離れたテーブルに着く。
「喫茶店で取材っていうのも珍しいわね」
みあが言う。
「そうなるように私が頼んでおいたんだけどね」
「スポンサーってすごいんですね」
かなみは素直に感心する。
「特権っていうものがあるからね。お金を出してる側の強みともいう」
「それはちょっと嫌味ったらしいです」
「そうかい」と彼方は肩をすくめて笑ってみせる。
「それであの二人は記者?」
「いや、保護者同伴だから母親だよ」
母親と言われると女性の方はどことなく、希奈と似ているような気がしてきた。
希奈はココアを、母親と記者はコーヒーを、頼むのが聞こえた。
話し声で聞き取れたのはそれぐらい。
あとは記者が質問をして希奈が答えていく。たまに母親が口を挟むけど、険悪な感じはしない。取材といった体裁の硬さはあるもののいい雰囲気で話し合いは進んでいる。
(何を話しているのかしら……?)
かなみは気になって耳をすまそうとするけど、みあは「ダメだ」と諫める。
「盗み聞きは趣味が悪いわよ」
「みあちゃん……」
その時のみあは妙に大人びて見えた。
やがて、話し合いは終わって、記者は席を立ち、勘定してから出て行く。
記者さんの経費なのか、と、かなみは思った。
希奈と母の二人だけになると、希奈はこちらの方に目を向けてくる。そして、すぐ席を立ち、こちらにやってくる。
(こっちに来る!?)
かなみは驚きで固まってしまう。
「お久しぶりです、阿方社長」
「久しぶりだね」
二人は親し気に挨拶する。
「こっちは、娘のみあちゃんと友人のかなみちゃんだよ」
そして、その流れで二人を紹介する。
「声優の皆木希奈です。よろしくね」
そう言って、かなみの対面に座る。
芸能人と会うとなんだか緊張してしまう。それに、希奈はファンでもあるフェアリーソイルの役をやっているのだから尚更だ。
「ゆ、結城かなみです!」
緊張で声が上ずる。
「かなみ、緊張しててみっともないわ……」
みあが呆れて言う。
「しょ、しょうがないじゃない……!」
かなみは言い訳のように言い返す。
「かなみ……?」
希奈はキョトンとする。
「あなた、かなみ、というの?」
「はい、私がかなみだけど何か?」
かなみがそう返すと、希奈は固まるけど、そのうち、落ち着いたように言う。
「ごめんなさい……ちょっと、憧れていた人に似ていて同じ名前だったから、つい反応しちゃって」
そんな言い訳をする。
しかし、かなみにとっては聞き逃すことができないものだった。
「憧れていた人? それって誰のことなの?」
「あ、それは……」
希奈は少し躊躇った後、意を決して答える。
「魔法少女カナミ、って知ってる?」
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