まほカン

jukaito

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第115話 義侠! 忘れられない少女の面影を少女に見る (Cパート)

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「あの二人の戦い、凄かったですね」
「ええ、魔法じゃないのが信じられないくらい」
 部屋を出た二人は、ニンジャとカゲの戦いをそう評する。
(それにしても面倒なことに巻き込まれちゃった……)
 翠華は心中でぼやく。
 紫織をやくざの本拠地から助け出すだけでもかなり面倒なのに。
 その上、ここの組長が紫織を昔の想い人の孫娘と勘違いされたり、忍者が出てきたり、もう何が何やらと言いたくなる。
「それでこっちの道で合ってるんでしょうか?」
「……え?」
 翠華は立ち止まる。
「あ、あれ……?」
 キョロキョロ見てあたりを確認してみる。
「………………」
 翠華は汗が凄い勢いで流れる。
 走っているうちに知らない廊下に迷い込んでしまったようだ。
 そうなると、どうやって脱出すればいいのだろうか。いや、脱出できずにやくざに捕らえられてしまう悪い想像ばかりが浮かんでしまう。
「あの、翠華さん……?」
 紫織が不安そうな声で呼びかけてくる。
「大丈夫よ、なんとかなるから……」
 翠華は出来る限り、落ち着いた口調で紫織へ言う。
 内心はなんとかなってほしいと思っていたけど。
「――なんとかならないのも現実じゃがな」
 そんな二人の元へ老人がやってくる。背後に部下らしき柄の悪い男達を従えて。
「く、組長さん……!?」
 紫織がそう言ったことで、翠華も老人を隣町組の組長だと認識する。
「逃げられると困るんじゃがな」
「こ、このまま、ここにいると私が困ります……!」
「ほう、言うな」
 組長は感心したように返す。
「ひ!」
 紫織は翠華の陰に隠れる。
(私の後ろに回られても困るんだけど……)
「そちらのお嬢さんは?」
 そのせいで、組長の矛先が向けられかけた。
「わ、私の先輩です……」
 先に紫織が返答する。
 そのおかげで、翠華も腹をくくる。
「私は翠華です。この子の……紫織ちゃんの先輩です」
「そうか。先輩か、そして、君は紫織ちゃんというのか」
「あ……」
 そう言われて、余計なことを言ってしまったと翠華は思う。
 彼等は紫織の名前すら知らなかったみたいだ。
「先輩というのは、学校の部活かな? それとも別の何かかな?」
「そ、それは……!」
 翠華は誤魔化そうとすると、口をつぐむ。
 組長は睨んできたからだ。
 老人の眼光は鋭く、シワの彫りは闇のように深く感じられた。
 まさしく、やくざの一組をまとめあげる組長の持つ威厳だった。
「わかっている。本町組は常人とは違う組織と繋がりがあることはこちらで掴んでいる。ここまで来れたのなら君はその組織の人間だろう」
 コン、コンと組長は杖をついて、まるで尋問するように翠華へ言う。
「しかし、あの子の孫までその組織に関わりがあるなど、思いもしなかったが」
「あ、あの、私は……」
 紫織は翠華にしがみつきながら、何かを言おうとしている。
「む……」
 組長はその様子を見て、怒りの色を目に浮かべる。
「無理矢理、関わらされているのか? そうなら儂はあいつを決して許すことは出来ない」
「「え?」」
 翠華と紫織は呆気にとられる。
 組長はとてつもない誤解をしてしまった、と。そして、その誤解を解くことはとてつもなく大変だとも悟る。
「お誂え向きに奴もこっちへ攻め込んできている。君達との繋がりを断ち切らせるにはちょうどいい」
「断ち切らせる? どういう意味ですか?」
「君達と組織を繋がらせているのは、本町の奴だろう。つまり、本町を倒せば君達と組織の繋がりは断てる。カタギに戻れるぞ」
「「か、カタギ……?」」
 翠華と紫織はお互い困った顔をして見合わせる。
 自分達はやくざの類《たぐい》を自認するつもりはないけど、カタギの枠組みにくくるものじゃないと思っていたからだ。
 さすがに魔法少女を普通の人というには無理はある、という自覚はあるのだけど。
「そんなわけで、お嬢ちゃん達には大人しく部屋に戻ってもらおう。……いや、ここで儂と奴の決着を見届けてもらおうのも一興か」
「決着を見届けてもらおう、って……勝手なことを言わないでください」
 翠華は言い返す。
「ほう」
 組長は翠華へ感心したように言う。
「この状況で、言葉を返すだけの胆力があるか。そういえば、そちらのお嬢ちゃんもさっきからおどおどしながらも怯えてはいなかった。君達はこういった状況に場慣れしているのかな?」
「あ……」
 組長に言われて気づく。
 そう、この状況なら普通の女の子なら怯えて震えて何も出来ずにうずくまるところ。言い返すどころではない。
「フフ、気の強い女子は嫌いではない。むしろ、好ましく思う」
 しかし、組長には好評だったようだ。
「じゃからこそ、大人しくしてもらいたいものじゃ。手荒なことはしたくない」
「その割にはさらったりして、随分手荒じゃありませんか」
「む……フフ!」
 組長は翠華の返答に笑う。
「その点については謝ろう。そちらのお嬢ちゃんとは話をしたかったところじゃったんじゃ」
 組長にそう言われて、翠華の陰から紫織が顔を出す。
「……勝手なこと、言わないでください」
「む?」
 紫織が放ったか細い一言によって、紫織へ視線が集中する。

ズドン!

 次の瞬間、地鳴りが上がる。
「キャッ!?」
「何事じゃ!?」
「本町組のカチコミです!」
「それはとうに知っておる。まさかこの地震は奴の仕業というわけか!?」
「い、いえ、それは……」
 伝達係の男は返答に困る。
 何が起きているのか、どう伝えればいいのか困惑しているようだった。
「紫織ちゃん」
「はい、感じています」
 その一方で、翠華と紫織は何が起きているのか、察しがついていた。
 地鳴りが響いた方向に魔力を感じる。

ズドン!

 再び地鳴りが上がる。
「こ、これは怪人の仕業です……!?」
 紫織が言う。
「こっちよ、行きましょう!」
 翠華が先導する。
「待ちなさい!」
 組長が制止する。
 しかし、それは聞いてはいられない。

ズドン!

 地鳴りが続く。
「おおお!?」「ぎゃぁぁぁぁッ!?」「なんだこれぇッ!?」
 それにつれて、男達の悲鳴が聞こえてくる。

ドゴォォォォォォン!!

 爆音が鳴り響く。
 というより爆撃でも受けたのかもしれない。
「――!」
 魔力を感じた先へ走ると、そこには壁が崩れていて、空が見える。
「石!?」
 そこには石がそびえ立っていた。
 いや、石よりも巨大な岩と言った方が正しい。
 思わず見上げるほどに立派にそびえ立つ石からは魔力がそびえ立つ。
「……石の怪人ね!」
 翠華の方はいちはやく、それを石の怪人だと認識して、冷静になる。
 怪人だというのならやることは一つ。
「ウシシ、怪人が出てきたんなら仕方がないな」
 ウシィが喋り出す。
 人前に決して出てはいけないマスコットがこうして喋りだしたということは、魔法を使っていいという合図だった。
「紫織ちゃん!」
「は、はい!」
 翠華の呼びかけに紫織は応じる。
「「マジカルワークス!!」」
 二人が放り投げたコインが宙を舞い、光が降り注ぐ。
「青百合の戦士、魔法少女スイカ推参!」
「平和と癒しの使者、魔法少女シオリ登場!」
 青と紫の魔法少女二人が洋館に降り立つ。
「おーい!」
 そんな二人へ呼びかける声に気づく。
「組長さん?」
 本町組の組長とその組の男達がいた。

ズドン!!

 石が動き出して、地鳴りが鳴り響く。
「ズズズズズ!!」
 石の怪人が唸り声を上げる。
 地鳴りによって体勢が崩れる。そこへ石が動き出す。


ズドン!!

 一瞬、石がその巨体を浮き上がらせる。
 それは石の怪人の歩行であった。
 その歩行は周囲を揺り動かすほどの地鳴りを発生させた。

ズズズズ!!

 そして、石は床を、地面をえぐりながら進む。
 標的は本町組の組長と組員の人達だろう。
「美安《びあん》!!」
 スイカはレイピアを魔法で生成して突く。

カキィン!!

 しかし、レイピアは石の硬さに弾かれてしまう。
「か、かたい!?」
 レイピアを持った手がジンジンと痺れる。
 この石は鉄よりも硬い。貫くには一筋縄ではいかない。
「大丈夫ですか、組長さん?」
 一方、シオリは本町組の組長へと駆け寄る。
「おお、お嬢ちゃんか。無事でよかった」
「無事でよかった、は私の台詞です」
「ハハハ、そりゃそうだ。これじゃどっちが助けに来たかわからんな!」
 組長は豪快に笑う。
 シオリはそう言われて、安堵の息をつく。
「しかし、お嬢ちゃんがそうやって変身したのを見るのは、あの時以来か」
 組長は感慨深く言う。
 あの時、紫織の入社試験で立ち会いを務めた時のこと。自然と懐かしく思えてしまう。
 あの時からそれほど日は経っていないというのに。
「そうですね。でも今はそんなことより――」
「わかっておる。あいつをなんとかしてくれ」
「はい!」
 シオリは勇ましく応える。
「マジカルバット!」
 シオリはバットを生成して、石へと振り抜く。

ガキ!!

 しかし、これも弾かれてしまう。
「か、かたい……!」
 バットを持つ手がジンジンと痺れる。
「ズズズズ!」
 地面をえぐって、声から発せられた音と同じ音を立てて、シオリへやってくる。

ピョン!

 次の瞬間にはそんな軽やかな音を立てて、飛び上がる。
 一瞬、太陽を覆い隠すほどの跳躍に、シオリ達は戦慄する。
 スイカのレイピアを弾く硬さ、シオリのバットで殴られても吹っ飛ばない重量。
 そんなものが飛び上がって落下したとしたら、それはもう隕石の落下に等しい。

ドゴォォォォォォン!!

 それは、隕石の落下よろしく洋館から出た庭へ小さなクレーターを作るほどの衝撃を引き起こした。
 巻き起こした爆風によって、シオリやスイカどころか本町組の面々に吹き飛ばされる。
「ズドドドドン!!」
 石の怪人は高らかに嘶く。
「あいたたたた……」
 シオリは痛みを抑えて立ち上がる。
「シオリちゃん、大丈夫?」
 スイカはやってくる。
「はい、大丈夫です。ですが……」
 シオリは不安げに石の怪人を見る。
「私のレイピアも、シオリちゃんのバットも通じなかった」
「はい、あの怪人を倒すためにはそれ以上の強い一撃が必要ですね」
 シオリがそう言うなり、二人の脳裏にまったく同じものが浮かんだ。
「「こんな時に、カナミさんがいたら……」」
 シオリとスイカは隣の魔法少女が自分とまったく同じことを言ったことに気づく。
「フフ、考えることは同じね」
「そ、そうですね……」
「でも、今ここにいない人をアテにしても仕方ないわ」
 スイカは自分にも言い聞かせるように、シオリへ諭す。
「シオリちゃん、あなたが頼りよ」
「え、私ですか?」
「一撃の威力なら私よりシオリちゃんの方があるから、私が引きつけてシオリちゃんが全力で撃ち抜いて」
「は、はい、やってみます!」
「お願いね!」
 スイカはそう言って、石の怪人へと駆け出す。
「ズズズズ!」
 地面を抉って、突き進んでくる。
「ストリッシャーモード!!」
 二刀のレイピアで目にも止まらない連続突きを繰り出す。

パキパキパキ!!

 しかし、石の怪人に対して、石の表面を削ることすらできずに、むしろ、レイピアの刃の方が削れていった。

パキィィィィン!!

 そして、石が砕けるよりも先にレイピアの方が折れて刀身が宙を舞う。
「くッ!」
 スイカは即座に真新しいレイピアを生成して突く。

パキパキパキ!!

 しかし、相変わらず石を削ることさえままならない。
 石の怪人はこちら側を歯牙にもかけていない。
 私が引きつける。
 そう買って出たというのに、その役目を全く果たせていない。
(――だったら!)
 スイカはレイピアを構えて、一瞬力を溜める体勢に入る。
「ノーブル・スティンガー!!」
 今、自分が放てる最高の一撃を放つ。
 夜空を切り裂く流れ星の輝きに似た流麗な一撃が岩山へと突き刺さる。

ガガガガガ!!

 流れ星は山肌を削っていき、直進していく。

ギロリ!

 寒気が走る。
 削れた山肌から眼光が閃いて見えた。
 それは敵意。
 これまで文字通り眼中に無かったスイカに対して、山肌を削ってみせたことで初めて身の危険を感じさせる敵だと認識した瞬間だった。
「こいつがあああああッ!!」
 石の怪人は言葉を介して、咆哮した上で身体を捻らせる。

ゴツン!!

 捻らせたことで突起していた腕のような形をした石に当たり、スイカは吹き飛ばされる。
「キャッ!?」
 飛ばされたスイカは地面を激突する。
「ズズズ、よくもやってくれたなぁッ!?」
 石の怪人が言葉を介して咆哮する。
 先程のスイカの一撃を受けて、開いた穴から声が出る。その穴が口だった。
「おかげで久しぶりに喋ることが出来たけどな! 感謝と憤慨は表裏一体、ワンセットだ!!」
「あなたは……?」
 スイカの問いかけに、石の怪人はギロリとスイカを見る。
「俺は石の怪人ズドン! こうして動くのは久しぶりだな! 石の上にも三年って言葉があるだろ、俺の上に人が乗っていても三年はじっとしていられる性分なんだぜ、俺は!」
 ズドンは上機嫌に自己紹介する。
「石の上にも三年……そんなあなたがどうして急に動いたの!?」
 ズドンは問う。
「身の危険を感じた。カチコミってやつがきたから、俺は動いた」
「カチコミ? 動いた?」
 スイカは思わず、本町組の組長と組員達へ視線を移す。
「久しぶりの人間の来客だったから遊んでやろうかと思った」
「それだけのことで襲ってきたのね?」
「それだけのこと? 人間からしてみればそうでも、俺達怪人からすればそれだけのことで十分暴れる理由になるんだぞ。暴れるのは楽しい、これだけでいいじゃねえか」
 まるで子供の理屈だとスイカは率直に思った。
 しかし、悪の怪人らしいといえばらしいとも思った。
「なるほど、怪人ってそういうものなのね」
「納得が早いな。さすが魔法少女といったところか」
「魔法少女の事も知ってるのね?」
「魔法少女、知ってるぞ。こう見えて俺は耳が良いんでな、噂話はつぶさに聞こえてくる」
「噂話?」
「人間でありながら怪人を打ち倒している魔法少女。是非見てみたいと思っていたし、戦いたいとも思っていた。こんな形で実現するとは思わなかったぞ、嬉しい」
「――私は全然嬉しくありません!」
 ズドンの背後に回っていたシオリの台詞だった。
「ん!?」
「サヨナラホームラン!!」
 ズドンがシオリの存在に気づいた時、シオリはバットを振り抜いていた。

ドォォォン!!

 バットと石の身体が激突し、ズドンの身体が浮き上がる。
「おおぉぉぉぉぉぉッ!?」
 ズドンは驚愕し、口が大きく開く。
「ぐうおおぉぉぉぉぉッ!!」
 そして、歯を食いしばる。

ズドン!!

 ズドンの足が生えて、身体を踏ん張らせる。
「奥の手を使ったのはいつ以来か!? いや、この場合は足か!? 褒めてやるぜ、魔法少女!!」
 その足がそのままシオリを蹴り上げる。
「シオリちゃん!?」
 スイカは蹴り上げられて吹っ飛んだシオリを呼ぶ。

ズゴン!!

 その直後に、ズドンの足に亀裂が入って、ボロボロになる。
「久々に使ったからもうガタがきちまったか。だが、お前を吹っ飛ばすにはこれで十分か!」
 ズドンはニヤリと笑って、スイカへ告げる。
「言ってくれるわね! よくもシオリちゃんを!!」
 スイカはレイピアを両手に携えて、ズドンへ立ち向かう。
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