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第120話 結界! 少女二人の密室騒動劇!? (Bパート)
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「「ハァハァ……」」
たて続けに、魔力を大量消費する魔法をぶちかましたせいで、二人揃って膝をついて息を上げる。
得意の連携攻撃でもまったく通じなかった。その焦燥感も疲労に一役買っている。
おそらく同じことをやっても無駄だろう。
そう考えると、二人はこの結界から出られない。なんて嫌な考えまでよぎってくる。
「さて、結界の破壊が不可能だということがわかったところで、戦ってもらおうか」
「そんなことできるわけないって、言ってるでしょ!?」
カナミは猛反発する。
「だいたい、なんでそんなルールにしたのよ?」
スイカが訊く。
「私とカナミさんを戦わせても何の得にもならないのに……」
「得ならある。――俺が魔法少女同士の戦いを見れる」
「「はあ?」」
テリトリスの返答に、二人揃って面を喰らう。
そのくらい意外なことだった。
「お前達魔法少女は強い。身体から溢れ出る魔力だけでもそれがわかる。強い者同士が戦う試合というものを観てみたい。その気持ちはお前達人間にもわかるはずだ」
「そりゃ、まあ……スポーツの試合とかならわからないでもないけど……」
テリトリスに問われて、カナミは多少同意する。
「それにお前達も戦ってみたいと思ったことはないのか?」
「「え?」」
カナミとスイカは互いの顔を見合わせる。
「私とカナミさんが戦うなんて、そんなこと考えたことないわよ!」
「そうですよ、それに大体スイカさんの方が強いんだから!」
「え……?」
スイカは不思議そうにカナミを見る。
「そんなわけ、ないでしょ、どう考えたって、カナミさんの方が強いでしょ」
「え……?」
今度はカナミが不思議そうにスイカを見る。
「スイカさんの方が強いです」
「カナミさんの方が強いわよ」
「スイカさんが!」
「カナミさんが!」
「スイカさん!!」
「カナミさん!!」
次第に語気がだんだん強くなっていく。
「口論か。ならば戦ってはっきりさせればいい」
テリトリスは提案してくる。
口調は淡々としているものの、こうも執拗だと強い意志を感じずにはいられない。
「あなたの思い通りにはならないわ! 私は絶対にスイカさんと戦わない!!」
「そうよ、必ず抜け出してみせるわ!」
カナミとスイカ、二人揃ってテリトリスへ啖呵を切る。
「ならば、気がすむまで試してみるがいい。気がすんだときには……」
テリトリスはそれを流す。
「スイカさん!」
「わかってるわ」
スイカは壁際に向かって歩く。
そして、壁に向かってレイピアを伸ばす。
コン
壁の一歩ほど手前でレイピアが止まる。
そこに見えない壁があるのをスイカは感じた。
「ここね」
結界が貼られている位置と感触を確かめる。
「あとは……」
スイカは窓へ視線を移す。
「あの窓を割って外に出ようというのなら無駄だ」
テリトリスは忠告する。
「彼の言うとおりだよ」
マニィが言う。
「君達なら高層ビルの最上階でも羽を使えば大丈夫だろうけど、それ以前にこの結界は厄介すぎ、る……」
マニィが全部言う前に、語尾が途切れる。
「マニィ、どうしたの?」
「この結界、魔力の、供給、経路まで、遮断、することが、できる、みた、い、だ……」
そして、徐々に口調が途切れ途切れになっていく。
まるでバッテリーが切れる直前のおもちゃみたいになり、カナミ達は不安になる。
「ウシ、シシ、魔力が無いと、俺達は、動けない、からな……電源が、抜けた、家電、みたいな、もん、だぜ……」
「ウシィ、あなたもどうしたの?」
「もう、すぐ、魔力、が、切れ、るっ、て、わけ、だ……」
「なんとかならないの!?」
カナミはマニィへと訴えかける。
このままだとマニィやウシィが死んでしまう。
マスコットに死というものがあるのかわからないけど、そんな危機感が募る。
「どう、にも、ならない、ね……ひと、まず、自分、達で、なん、とか、する、しかな、い、ね……」
「どうにかって……!」
カナミはステッキを握りしめて、テリトリスを見つめる。
「あいつを倒すしか無いでしょ! 神殺砲!!」
カナミは神殺砲を構える。
「ボーナスキャノン!!」
バァァァァァァァァン!!
しかし、砲弾は結界を破壊することはできなかった。
「バカのひとつ覚えか」
「くうううううッ!!」
テリトリスに煽られて、カナミはムキになってますます神殺砲を撃ち放つ。
「ハァハァハァ……」
カナミは魔力を使い切って、とうとう膝をついてしまう。
「カナミさん、大丈夫?」
「は、はい……」
カナミの返事する声に力がない。
「今なら簡単に勝って、脱出できるぞ」
テリトリスはスイカに提案する。
「簡単に勝って……?」
スイカはテリトリスが何を言っているのに少し時間を要した。
そのくらい、スイカにとってこの状況でカナミと戦うなんてことは思考の埒外だった。
「私は一人で脱出するつもりはないわ。するならカナミさんと二人でよ!」
スイカはテリトリスにレイピアを突きつけて言う。
「いくらやっても壊せないのは、もうわかっているはずだが」
「まだ壊せないと決まったわけじゃないわ」
「ウシシ、……そう、だ、あきら、めるんじゃ、ねえ、ぞ……」
「ウシィ!?」
ウシィがスイカの肩から落ちていく。
スイカはそれをキャッチして、呼びかけてみる。
「ウシィ、大丈夫!?」
しかし、ウシィは返事をしない。それどころかピクリとも動かない。
まるで本当のぬいぐるみになったみたいに。
「マニィ! マニィ!」
それはマニィも同様だった。
ピクリとも動かなくなったマニィに呼びかけてみるものの、まったく反応しない。
「そんな……!」
かなみは途方に暮れる。
こんなことは初めてだった。
いつも当たり前のように側にいて、口を出してくる。
一番身近にいる存在。
それがピクリとも動かなくなったとなると一大事であり、どうしたらいいかわからない。
「なんとかしなくちゃ……!」
カナミは周囲を見渡す。
この結界はとてつもなく強固で、神殺砲を連射してもビクともしなかった。
生半可な攻撃じゃ、結界は壊せない。
いや、それどころか、今の自分やスイカの攻撃じゃ、どうあがいても……。
(そんなはずはない……! まだ残っている魔力でやれることを!!)
カナミは魔力をステッキへと注ぐ。
「ボーナスキャノン・アディション!!」
残ったありったけの魔力を砲弾に換えて撃ち放った。
バァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
砲弾は結界に当たって、大爆発を起こす。
狭い部屋の中だったので、台風並の爆風が巻き起こる。
「あぁ……」
カナミは全身の力が抜けて膝をつく。
残った魔力を全部使ってしまったので変身まで解けてしまった。
「かなみさん、大丈夫!?」
「は、はい……で、でも……」
かなみは顔を上げて、撃った場所を見据える。
爆煙が晴れる。
そして、結果はさっきと同じことだった、と思い知らされる。
「く……!」
かなみは悔しさで歯噛みする。
「無駄だとこれでわかったか?」
テリトリスは言う。
「ま、まだ……!」
かなみは立ち上がろうとする。
しかし、魔力とともに体力も尽きてしまったので力が入らない。
「かなみさん、無理しないで。魔力が回復するまで待って」
「で、でも、グズグズしていたら、マニィが……!」
「焦っても結界は壊せないわ。かなみさんの全力でもダメだったんだから……」
「う……」
スイカにそう言われて、かなみは現実を直視せざるをえない。
「マニィやウシィなら急がなくても大丈夫よ。バッテリー切れみたいになってるから、社長の魔力の充電さえあれば大丈夫なはずよ」
「それは、本当ですか?」
「本当……だけど、多分」
スイカは少し頼りなく答える。
マスコットが動かなくなるのは初めてだから、確信が持てない現れだった。
それでも、今はスイカの発言を信じるしか無かった。
何しろ、もう魔力を使い果たしてしまったのだから、結界を壊す手立ては無い。
「魔力が回復するまで待つしか無いわね」
魔力は体力と同じように時間が経てば回復する。
それは数時間の時もあれば、一晩かかることもある。
もどかしい想いもある。
だけど、今はどうしようもないから、大人しくすることしかできない。
大人しくじっとして、少しでも早く魔力の回復させて、一刻も早く結界を壊す。
「それじゃ、私も」
スイカも変身を解いて、かなみの隣に座る。
「かなみさんの全力でも壊せないとなると、私一人じゃ壊せないわ。かなみさんと一緒に魔力回復しておいた方がいいわ」
「……興ざめだ」
翠華の判断に、テリトリスはそうコメントする。
「二人共、変身を解いて魔法少女でなくなったのなら、もう魔法少女二人による戦いは起こらないということ。俺が観たいものは今ここにない、ということになる」
テリトリスの勝手な物言いに、かなみは苛立ちを募らせる。
「あんたの勝手な理屈に付き合うつもりなんてないから!」
「だが、付き合う他あるまい。それ以外に結界を脱出する方法がないのだから」
「くぅぅ……!」
言い返したいところだったけど、結界を破壊することができないのは事実だから言い返せない。
「まだ他に脱出する方法があるに違いない。そう思っているようだな。だが、その方法が見つからないのであれば、いよいよもってお前達二人が戦うしかない。追い詰められて戦うしかなくなった魔法少女二人が戦う、俺はそういうものが観たい」
「悪趣味ね!」
「人間にとってはな」
「怪人から良い趣味ってことかしら?」
「そうだ」
テリトリスはあっさり肯定する。
「そんな風に言われると、逆に清清しささえ感じるわね」
翠華は皮肉で返す。
「そうか、そう返されたのは初めてだ」
「初めて……今までにもこんなことしてきたの?」
「そうだ。もっとも魔法少女を結界に閉じ込めたのは初めてだ。今回のように『戦って勝った一人だけ出られるようにしてやる』とか、『キスをしたら出す』とか『先に土下座をして懇願した方を出す』とか、そういう設定を変えて楽しんでいた」
「き、キス!?」
「何がそんなに楽しいのよ?」
単語に反応する翠華に対して、かなみは問いかける。
「結界という閉ざされた空間で、難題を押し付けられて苦しむ様が楽しい」
テリトリスは愉快そうに語る。
かなみ達にはその様が理解できなかった。
「……翠華さん、どうしましょう?」
「そ、そうね……とりあえず、結界を壊せたら、すぐに倒しましょう1」
「壊せたら、か」
テリトリスは嘲笑する。
「私達にはできないって言いたいのね」
「そう言っているのだがな。まあ気が済むまでやってみるといい」
テリトリスは立ち上がって部屋の扉を開ける。
「どこに行くの?」
「お前達に戦う気がないのならここにいても仕方がない。戦う気になったらまた戻ってくる」
「そんなときは永遠に来ないわよ」
かなみは言い返す。
「さあ、それはどうかな」
テリトリスはそう言って部屋を出ていく。
それで結界は消えることなく、残り続けていた。
はじめのうちはすぐ戻ってくるものと思って、警戒していたけど、一時間経っても戻ってくる気配がない。
やがて、緊張は徐々に解けていき、気晴らしにしりとりまで始めた。
そうして、夜はすっかり更けてきた。
「今日は月がキレイですね」
かなみは何気なく一言呟く。
「え、えぇ!? そ、そうね!?」
翠華は狼狽する。
「どうしたんですか? どこか具合でも悪いんですか?」
「そ、そんなことないわよ! か、かなみさんこそ大丈夫?」
「私ですか? 私なら大丈夫ですよ、魔力はまだちょっと回復してないみたいですけど……」
「そ、それはよかった……疲れていたなら、いつでも寝ていいわよ」
「そ、そんな! あいつが来たらどうするんですか!?」
もしも寝ている間に、テリトリスが戻ってきて襲われたらひとたまりもない。
もしかしたら、監視カメラかそれに似たような機能が結界にあって今この様子を眺めているかもしれないのだから寝たりなんかしたらまずい。
「大丈夫よ、私が見張っておくから」
「それじゃ、翠華さんはいつ寝るんですか?」
「私なら一日くらい寝なくても大丈夫だから」
「それでしたら、寝ずの番は私の方が慣れていますよ! いつも帰り遅いですし、朝帰りも何度もありますから!」
「あ、朝帰り!? かなみさん、なんてことを!?」
翠華は顔を真赤にして、動揺して問い詰める。
「しつこい怪人と戦ってたら朝になったこととか、遠くに行って朝になったことがあるんですけど……変ですか?」
かなみはその剣幕に圧されつつもたどたどしく答える。なんでここまでまくしたてられるのか。
「怪人と戦ったり……? 遠く行ったり……?」
かなみが言ったことを翠華は理解するうちにつれて、安堵の息をつく。
「そういうことなのね……」
「翠華さん、何か誤解していそうな気がするんですけど……」
「き、気にしなくていいわ! さあ、かなみさん、寝て!」
「ですから、私だけ寝るわけには行かないですよ! 翠華さんこそ疲れてるんじゃないですか? 見張りなら私がやっておきますよ!」
「かなみさんは魔力を使い切ってるから疲れてるでしょ?」
「へ、平気ですよ……! 魔力も、だいぶ回復して、きました、から……」
かなみの返事が急に途切れ途切れになった。
「かなみさん、やっぱり疲れてるんじゃ? 眠いんじゃないの?」
「だ、大丈夫ですよ……」
そう言っているかなみの顔は瞼が重いように見える。
「仕方ないわね……かなみさん、一時間だけ寝ていて、その間見張りをするから、一時間経ったら交代しましょう」
「…………はい」
かなみは少し考えてから、翠華の提案に従う。
「床が固いかもしれないけど……」
「このくらい大丈夫ですよ」
かなみは床に横寝して、すぐに眠りにつく。
「スースー」
寝息が聞こえてくる。
「本当に、疲れていたみたいね……」
そうでなかったらもっと食い下がってきたかもしれない、と、翠華は思った。
一時間とは言ったものの、朝になるまで起こすつもりはなかった。
ゆっくり休んでほしいなと思った。
願わくば一時間で起きないことを祈るばかり。
「それにしても……」
翠華はかなみの寝顔を見る。
「かなみさん……寝顔がものすごく可愛い……」
可愛らしい顔立ちが瞼を閉じられていて、いつもとはまた違った
魅力がある。
口元は少し開いていて、そこから寝息が漏れている。
垂れ下がった髪の毛がまたまるで花びらのように、かなみの可愛らしい顔に添えられている。
一種の芸術作品のようで、翠華はすっかり魅入る。
「ずっと、見ていたい……あ、そうだ、写真をとっておかなくちゃ……」
翠華は携帯電話を取り出して、かなみの寝顔を撮る。
パシャ!
シャッター音がする。
(しまった……!)
この音で、かなみが起きてこないか。
もし起きたとしたら、今のシャッター音をなんて説明すればいいか。
「寝顔を撮っていた」なんて言ったら、ドン引きされるかもしれない。最悪嫌われてしまうかもしれない。
そうなったら、どうしようか、どうしようか……。
「ウー……スー……」
しかし、かなみは呑気なまでに寝息を立てているだけで、起きてくる気配はない。
「はあ~……」
翠華は大きく安堵の息をつく。
起きてこなくてよかった、と心底思う。
それにしても、いつまでも見ていたい寝顔だった。
もう一枚カメラで撮れないものかと思ったけど、今度こそ起きてしまうかもしれないのでやめておいた。
(この写真を宝物にしましょう……プリントして部屋に飾りましょう……)
翠華は心に誓った。
「スースー」
かなみはそんなことを知る由もなく、呑気なまでに寝息を立てている。
(かなみさん、本当にすっかり寝ているわね……朝までずっと眺めていたいわね、フフ、この部屋には二人しかいないから、この寝顔は私だけのもの、なんてね……え、この部屋には二人しかいない……? 部屋、二人!?)
翠華の顔が赤く染まっていく。
(ふた、ふたふたふたふた二人っきり!?)
とんでもないことに気づいてしまった。
今この部屋には、翠華とかなみしかいない。
そして、結界に閉じ込められているせいで密室といっていい。
テリトリスが戻ってくる気配はない。そうなるともう数時間はこの部屋で二人きりで過ごしている。
(怪人とか結界とかのせいでおかしなことになってて気づかなかったけど、私達ずっと二人っきりだった!? ずっと二人きりだった!? しかも、ウシィやマニィも今はいなくて、本当に本当の二人きり!? こんなこと初めてじゃないかしら!?)
頭がクラクラしてきた。
念願だった二人きり、それも密室での状況に、翠華は困惑していた。
困惑するのが、かなみが眠りについたあとで良かったと思う。
こんなにも狼狽した姿をかなみに見られることはなかったのだから。
かなみの前では素敵な先輩でいたいと思う。
もっとも、今のこの状態を見たら、かなみはなんて思うだろうか。
それでも、尊敬してくれるだろうか。
「はあ~」
翠華はため息をつく。
かなみはまさに翠華が思い描く理想の魔法少女で、自分はその理想に近づけているのだろうか、と疑問さえ覚える。
「かなみさん、私今回一緒でいてよかったの?」
翠華は寝ているかなみに問いかける。
もし、自分に結界を壊せる魔法が使えたら、あっさりこんなところから脱出することができるのに。
そうしたら、かなみが魔力を使い果たすことさえなかった。
「私、もっと強くなりたいわね……」
山ごもりして以前よりも強くなった実感はあった。
それでも、まだまだ全然足りない気がする。
かなみは魔法少女として、どんどん強くなっていっている。
それに引き換え、自分はどうか……
「はあ~」
またため息をつく。
今せめてできることは、かなみを守ることだった。
かなみが安心して、眠って、魔力を回復できるように、見守る。
もし、敵がまた来たときは、自分がこの手で……
翠華は棟に決意を宿す。
「かなみさん……」
でも、それまでは、このかなみの寝顔を眺めていたいと思った。
できるだけ、この時間が長く続くように、と願いながら。
翠華の願いが天に届いたのか、何も起きることなく朝日が昇る
窓から光が差し込んできて、それに気がついた。
「もう朝なのね……」
かなみの寝顔を眺めているうちに、あっという間に時間が経っていた。
かなみは相変わらず安心して寝息を立てている。
しかし、このまま起きないんじゃないかと心配する気持ちもこみ上げてくる。
「スースー」
その心配を安心しきってたてている寝息が解消してくれる。
「……まだ起きないのか」
「――!?」
翠華は突然した声に心臓が飛び出すかと思った。
そのぐらい不意を打たれた声だった。
「あなた、いつからそこに!?」
テリトリスだった。
彼が戻ってきたら、かなみを起こすか自分の手で決着をつけるか、その決断が今やってきたのだ。
「つい、今しがた」
テリトリスは悪びれもせず答える。
翠華はまったく気がつかなかった。
テリトリスが気配を消す術に長けていたのか、それとも、寝不足で思っているより注意力が散漫になっていたのか。
「……何しに来たの? 結界を解く気になったの?」
「様子を見に来ただけだ」
「そう言って、寝首をかくなんてことはしないわよね?」
「俺にそんな力はない。俺はこの結界魔法に長けている。逆に言えばそれ以外の魔法はからっきしだ。お前達に危害を加えるような魔法は使えない」
「……そんなにはっきり言っていいの?」
翠華は挑発的な態度でテリトリスへ言う。
「バラしたところでどうにもできないだろ」
「そうでもないわよ。そのうち、仲間が来るのだから」
「仲間? 魔法少女はお前達だけではないのか?」
「ええ、他にも仲間がいるわ。私達が帰ってこないってしったら助けに来てくれるはずよ」
「そうか、それはまずいな。俺は隠れて様子見させてもらうか」
「余裕があるのね。仲間が来ても結界が破られない自信があるっていうのね?」
「そうだ」
テリトリスは自身持ってそう答えて、部屋を出ていく。今度は扉の音を立てて、ごく普通に。
「確かにこの結界は凄いけど、あるみ社長なら難なく打ち破ってくれるはずよ。そうなったら、さぞ驚くでしょうね、フフ」
落ち着いた物腰のテリトリスが驚くところを想像して、思わず笑いがこぼれる。
「社長、いつ来てくれるのかしら?」
ふと、昨晩かなみが言っていたことを思い出す。
『社長ならなんとかできると思うんですけど……なんとかしてくれるんでしょうか?』
かなみの言う通りだと思った。
あるみだったら、このくらいのピンチは自分達のチカラでなんとか切り抜けなさい、と言いかねない。
事実、そろそろ助けが来てもいい頃なんじゃないかと思っても、一向に来る気配が無い。
そうなると自分達だけでなんとかするしかないけど、そのなんとかする方法が思いつかない。
かなみの魔力を使い果たしても、結界は破ることはできなかった。
翠華にしても、かなみと連携して結界の破壊を試みてもダメだった。
携帯電話で外部と連絡を取れないかと確かめてみたけど、この結界は電波をも遮断してしまうのか、圏外になっていた。
とりあえず今のところ打てる手はない。
あとは時間が経つことで、テリトリスの魔力を使い果たして、結界を維持することができなくなることを期待しているのだけど、さっきのやりとりの様子だとまだまだ余裕がありそうな気がする。
(持久戦……もう一晩経ってるけど、もう二、三日くらいかかるのかしらね……)
このビルでの目撃を最後に行方不明になった人達は数日のうちに、このビルのどこかで発見されている。
一日くらいここで閉じ込められても大丈夫だとは思う。
しかし、それが二日三日と続いたら、と、考えたくないけど考えざるをえない。
(水も食べ物もない……どんどん弱っていく一方だわ……本当になんとかしないと……かなみさんのためにも!)
事の深刻さを考えつつ、翠華は真面目に打開策を思案していく。
たて続けに、魔力を大量消費する魔法をぶちかましたせいで、二人揃って膝をついて息を上げる。
得意の連携攻撃でもまったく通じなかった。その焦燥感も疲労に一役買っている。
おそらく同じことをやっても無駄だろう。
そう考えると、二人はこの結界から出られない。なんて嫌な考えまでよぎってくる。
「さて、結界の破壊が不可能だということがわかったところで、戦ってもらおうか」
「そんなことできるわけないって、言ってるでしょ!?」
カナミは猛反発する。
「だいたい、なんでそんなルールにしたのよ?」
スイカが訊く。
「私とカナミさんを戦わせても何の得にもならないのに……」
「得ならある。――俺が魔法少女同士の戦いを見れる」
「「はあ?」」
テリトリスの返答に、二人揃って面を喰らう。
そのくらい意外なことだった。
「お前達魔法少女は強い。身体から溢れ出る魔力だけでもそれがわかる。強い者同士が戦う試合というものを観てみたい。その気持ちはお前達人間にもわかるはずだ」
「そりゃ、まあ……スポーツの試合とかならわからないでもないけど……」
テリトリスに問われて、カナミは多少同意する。
「それにお前達も戦ってみたいと思ったことはないのか?」
「「え?」」
カナミとスイカは互いの顔を見合わせる。
「私とカナミさんが戦うなんて、そんなこと考えたことないわよ!」
「そうですよ、それに大体スイカさんの方が強いんだから!」
「え……?」
スイカは不思議そうにカナミを見る。
「そんなわけ、ないでしょ、どう考えたって、カナミさんの方が強いでしょ」
「え……?」
今度はカナミが不思議そうにスイカを見る。
「スイカさんの方が強いです」
「カナミさんの方が強いわよ」
「スイカさんが!」
「カナミさんが!」
「スイカさん!!」
「カナミさん!!」
次第に語気がだんだん強くなっていく。
「口論か。ならば戦ってはっきりさせればいい」
テリトリスは提案してくる。
口調は淡々としているものの、こうも執拗だと強い意志を感じずにはいられない。
「あなたの思い通りにはならないわ! 私は絶対にスイカさんと戦わない!!」
「そうよ、必ず抜け出してみせるわ!」
カナミとスイカ、二人揃ってテリトリスへ啖呵を切る。
「ならば、気がすむまで試してみるがいい。気がすんだときには……」
テリトリスはそれを流す。
「スイカさん!」
「わかってるわ」
スイカは壁際に向かって歩く。
そして、壁に向かってレイピアを伸ばす。
コン
壁の一歩ほど手前でレイピアが止まる。
そこに見えない壁があるのをスイカは感じた。
「ここね」
結界が貼られている位置と感触を確かめる。
「あとは……」
スイカは窓へ視線を移す。
「あの窓を割って外に出ようというのなら無駄だ」
テリトリスは忠告する。
「彼の言うとおりだよ」
マニィが言う。
「君達なら高層ビルの最上階でも羽を使えば大丈夫だろうけど、それ以前にこの結界は厄介すぎ、る……」
マニィが全部言う前に、語尾が途切れる。
「マニィ、どうしたの?」
「この結界、魔力の、供給、経路まで、遮断、することが、できる、みた、い、だ……」
そして、徐々に口調が途切れ途切れになっていく。
まるでバッテリーが切れる直前のおもちゃみたいになり、カナミ達は不安になる。
「ウシ、シシ、魔力が無いと、俺達は、動けない、からな……電源が、抜けた、家電、みたいな、もん、だぜ……」
「ウシィ、あなたもどうしたの?」
「もう、すぐ、魔力、が、切れ、るっ、て、わけ、だ……」
「なんとかならないの!?」
カナミはマニィへと訴えかける。
このままだとマニィやウシィが死んでしまう。
マスコットに死というものがあるのかわからないけど、そんな危機感が募る。
「どう、にも、ならない、ね……ひと、まず、自分、達で、なん、とか、する、しかな、い、ね……」
「どうにかって……!」
カナミはステッキを握りしめて、テリトリスを見つめる。
「あいつを倒すしか無いでしょ! 神殺砲!!」
カナミは神殺砲を構える。
「ボーナスキャノン!!」
バァァァァァァァァン!!
しかし、砲弾は結界を破壊することはできなかった。
「バカのひとつ覚えか」
「くうううううッ!!」
テリトリスに煽られて、カナミはムキになってますます神殺砲を撃ち放つ。
「ハァハァハァ……」
カナミは魔力を使い切って、とうとう膝をついてしまう。
「カナミさん、大丈夫?」
「は、はい……」
カナミの返事する声に力がない。
「今なら簡単に勝って、脱出できるぞ」
テリトリスはスイカに提案する。
「簡単に勝って……?」
スイカはテリトリスが何を言っているのに少し時間を要した。
そのくらい、スイカにとってこの状況でカナミと戦うなんてことは思考の埒外だった。
「私は一人で脱出するつもりはないわ。するならカナミさんと二人でよ!」
スイカはテリトリスにレイピアを突きつけて言う。
「いくらやっても壊せないのは、もうわかっているはずだが」
「まだ壊せないと決まったわけじゃないわ」
「ウシシ、……そう、だ、あきら、めるんじゃ、ねえ、ぞ……」
「ウシィ!?」
ウシィがスイカの肩から落ちていく。
スイカはそれをキャッチして、呼びかけてみる。
「ウシィ、大丈夫!?」
しかし、ウシィは返事をしない。それどころかピクリとも動かない。
まるで本当のぬいぐるみになったみたいに。
「マニィ! マニィ!」
それはマニィも同様だった。
ピクリとも動かなくなったマニィに呼びかけてみるものの、まったく反応しない。
「そんな……!」
かなみは途方に暮れる。
こんなことは初めてだった。
いつも当たり前のように側にいて、口を出してくる。
一番身近にいる存在。
それがピクリとも動かなくなったとなると一大事であり、どうしたらいいかわからない。
「なんとかしなくちゃ……!」
カナミは周囲を見渡す。
この結界はとてつもなく強固で、神殺砲を連射してもビクともしなかった。
生半可な攻撃じゃ、結界は壊せない。
いや、それどころか、今の自分やスイカの攻撃じゃ、どうあがいても……。
(そんなはずはない……! まだ残っている魔力でやれることを!!)
カナミは魔力をステッキへと注ぐ。
「ボーナスキャノン・アディション!!」
残ったありったけの魔力を砲弾に換えて撃ち放った。
バァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
砲弾は結界に当たって、大爆発を起こす。
狭い部屋の中だったので、台風並の爆風が巻き起こる。
「あぁ……」
カナミは全身の力が抜けて膝をつく。
残った魔力を全部使ってしまったので変身まで解けてしまった。
「かなみさん、大丈夫!?」
「は、はい……で、でも……」
かなみは顔を上げて、撃った場所を見据える。
爆煙が晴れる。
そして、結果はさっきと同じことだった、と思い知らされる。
「く……!」
かなみは悔しさで歯噛みする。
「無駄だとこれでわかったか?」
テリトリスは言う。
「ま、まだ……!」
かなみは立ち上がろうとする。
しかし、魔力とともに体力も尽きてしまったので力が入らない。
「かなみさん、無理しないで。魔力が回復するまで待って」
「で、でも、グズグズしていたら、マニィが……!」
「焦っても結界は壊せないわ。かなみさんの全力でもダメだったんだから……」
「う……」
スイカにそう言われて、かなみは現実を直視せざるをえない。
「マニィやウシィなら急がなくても大丈夫よ。バッテリー切れみたいになってるから、社長の魔力の充電さえあれば大丈夫なはずよ」
「それは、本当ですか?」
「本当……だけど、多分」
スイカは少し頼りなく答える。
マスコットが動かなくなるのは初めてだから、確信が持てない現れだった。
それでも、今はスイカの発言を信じるしか無かった。
何しろ、もう魔力を使い果たしてしまったのだから、結界を壊す手立ては無い。
「魔力が回復するまで待つしか無いわね」
魔力は体力と同じように時間が経てば回復する。
それは数時間の時もあれば、一晩かかることもある。
もどかしい想いもある。
だけど、今はどうしようもないから、大人しくすることしかできない。
大人しくじっとして、少しでも早く魔力の回復させて、一刻も早く結界を壊す。
「それじゃ、私も」
スイカも変身を解いて、かなみの隣に座る。
「かなみさんの全力でも壊せないとなると、私一人じゃ壊せないわ。かなみさんと一緒に魔力回復しておいた方がいいわ」
「……興ざめだ」
翠華の判断に、テリトリスはそうコメントする。
「二人共、変身を解いて魔法少女でなくなったのなら、もう魔法少女二人による戦いは起こらないということ。俺が観たいものは今ここにない、ということになる」
テリトリスの勝手な物言いに、かなみは苛立ちを募らせる。
「あんたの勝手な理屈に付き合うつもりなんてないから!」
「だが、付き合う他あるまい。それ以外に結界を脱出する方法がないのだから」
「くぅぅ……!」
言い返したいところだったけど、結界を破壊することができないのは事実だから言い返せない。
「まだ他に脱出する方法があるに違いない。そう思っているようだな。だが、その方法が見つからないのであれば、いよいよもってお前達二人が戦うしかない。追い詰められて戦うしかなくなった魔法少女二人が戦う、俺はそういうものが観たい」
「悪趣味ね!」
「人間にとってはな」
「怪人から良い趣味ってことかしら?」
「そうだ」
テリトリスはあっさり肯定する。
「そんな風に言われると、逆に清清しささえ感じるわね」
翠華は皮肉で返す。
「そうか、そう返されたのは初めてだ」
「初めて……今までにもこんなことしてきたの?」
「そうだ。もっとも魔法少女を結界に閉じ込めたのは初めてだ。今回のように『戦って勝った一人だけ出られるようにしてやる』とか、『キスをしたら出す』とか『先に土下座をして懇願した方を出す』とか、そういう設定を変えて楽しんでいた」
「き、キス!?」
「何がそんなに楽しいのよ?」
単語に反応する翠華に対して、かなみは問いかける。
「結界という閉ざされた空間で、難題を押し付けられて苦しむ様が楽しい」
テリトリスは愉快そうに語る。
かなみ達にはその様が理解できなかった。
「……翠華さん、どうしましょう?」
「そ、そうね……とりあえず、結界を壊せたら、すぐに倒しましょう1」
「壊せたら、か」
テリトリスは嘲笑する。
「私達にはできないって言いたいのね」
「そう言っているのだがな。まあ気が済むまでやってみるといい」
テリトリスは立ち上がって部屋の扉を開ける。
「どこに行くの?」
「お前達に戦う気がないのならここにいても仕方がない。戦う気になったらまた戻ってくる」
「そんなときは永遠に来ないわよ」
かなみは言い返す。
「さあ、それはどうかな」
テリトリスはそう言って部屋を出ていく。
それで結界は消えることなく、残り続けていた。
はじめのうちはすぐ戻ってくるものと思って、警戒していたけど、一時間経っても戻ってくる気配がない。
やがて、緊張は徐々に解けていき、気晴らしにしりとりまで始めた。
そうして、夜はすっかり更けてきた。
「今日は月がキレイですね」
かなみは何気なく一言呟く。
「え、えぇ!? そ、そうね!?」
翠華は狼狽する。
「どうしたんですか? どこか具合でも悪いんですか?」
「そ、そんなことないわよ! か、かなみさんこそ大丈夫?」
「私ですか? 私なら大丈夫ですよ、魔力はまだちょっと回復してないみたいですけど……」
「そ、それはよかった……疲れていたなら、いつでも寝ていいわよ」
「そ、そんな! あいつが来たらどうするんですか!?」
もしも寝ている間に、テリトリスが戻ってきて襲われたらひとたまりもない。
もしかしたら、監視カメラかそれに似たような機能が結界にあって今この様子を眺めているかもしれないのだから寝たりなんかしたらまずい。
「大丈夫よ、私が見張っておくから」
「それじゃ、翠華さんはいつ寝るんですか?」
「私なら一日くらい寝なくても大丈夫だから」
「それでしたら、寝ずの番は私の方が慣れていますよ! いつも帰り遅いですし、朝帰りも何度もありますから!」
「あ、朝帰り!? かなみさん、なんてことを!?」
翠華は顔を真赤にして、動揺して問い詰める。
「しつこい怪人と戦ってたら朝になったこととか、遠くに行って朝になったことがあるんですけど……変ですか?」
かなみはその剣幕に圧されつつもたどたどしく答える。なんでここまでまくしたてられるのか。
「怪人と戦ったり……? 遠く行ったり……?」
かなみが言ったことを翠華は理解するうちにつれて、安堵の息をつく。
「そういうことなのね……」
「翠華さん、何か誤解していそうな気がするんですけど……」
「き、気にしなくていいわ! さあ、かなみさん、寝て!」
「ですから、私だけ寝るわけには行かないですよ! 翠華さんこそ疲れてるんじゃないですか? 見張りなら私がやっておきますよ!」
「かなみさんは魔力を使い切ってるから疲れてるでしょ?」
「へ、平気ですよ……! 魔力も、だいぶ回復して、きました、から……」
かなみの返事が急に途切れ途切れになった。
「かなみさん、やっぱり疲れてるんじゃ? 眠いんじゃないの?」
「だ、大丈夫ですよ……」
そう言っているかなみの顔は瞼が重いように見える。
「仕方ないわね……かなみさん、一時間だけ寝ていて、その間見張りをするから、一時間経ったら交代しましょう」
「…………はい」
かなみは少し考えてから、翠華の提案に従う。
「床が固いかもしれないけど……」
「このくらい大丈夫ですよ」
かなみは床に横寝して、すぐに眠りにつく。
「スースー」
寝息が聞こえてくる。
「本当に、疲れていたみたいね……」
そうでなかったらもっと食い下がってきたかもしれない、と、翠華は思った。
一時間とは言ったものの、朝になるまで起こすつもりはなかった。
ゆっくり休んでほしいなと思った。
願わくば一時間で起きないことを祈るばかり。
「それにしても……」
翠華はかなみの寝顔を見る。
「かなみさん……寝顔がものすごく可愛い……」
可愛らしい顔立ちが瞼を閉じられていて、いつもとはまた違った
魅力がある。
口元は少し開いていて、そこから寝息が漏れている。
垂れ下がった髪の毛がまたまるで花びらのように、かなみの可愛らしい顔に添えられている。
一種の芸術作品のようで、翠華はすっかり魅入る。
「ずっと、見ていたい……あ、そうだ、写真をとっておかなくちゃ……」
翠華は携帯電話を取り出して、かなみの寝顔を撮る。
パシャ!
シャッター音がする。
(しまった……!)
この音で、かなみが起きてこないか。
もし起きたとしたら、今のシャッター音をなんて説明すればいいか。
「寝顔を撮っていた」なんて言ったら、ドン引きされるかもしれない。最悪嫌われてしまうかもしれない。
そうなったら、どうしようか、どうしようか……。
「ウー……スー……」
しかし、かなみは呑気なまでに寝息を立てているだけで、起きてくる気配はない。
「はあ~……」
翠華は大きく安堵の息をつく。
起きてこなくてよかった、と心底思う。
それにしても、いつまでも見ていたい寝顔だった。
もう一枚カメラで撮れないものかと思ったけど、今度こそ起きてしまうかもしれないのでやめておいた。
(この写真を宝物にしましょう……プリントして部屋に飾りましょう……)
翠華は心に誓った。
「スースー」
かなみはそんなことを知る由もなく、呑気なまでに寝息を立てている。
(かなみさん、本当にすっかり寝ているわね……朝までずっと眺めていたいわね、フフ、この部屋には二人しかいないから、この寝顔は私だけのもの、なんてね……え、この部屋には二人しかいない……? 部屋、二人!?)
翠華の顔が赤く染まっていく。
(ふた、ふたふたふたふた二人っきり!?)
とんでもないことに気づいてしまった。
今この部屋には、翠華とかなみしかいない。
そして、結界に閉じ込められているせいで密室といっていい。
テリトリスが戻ってくる気配はない。そうなるともう数時間はこの部屋で二人きりで過ごしている。
(怪人とか結界とかのせいでおかしなことになってて気づかなかったけど、私達ずっと二人っきりだった!? ずっと二人きりだった!? しかも、ウシィやマニィも今はいなくて、本当に本当の二人きり!? こんなこと初めてじゃないかしら!?)
頭がクラクラしてきた。
念願だった二人きり、それも密室での状況に、翠華は困惑していた。
困惑するのが、かなみが眠りについたあとで良かったと思う。
こんなにも狼狽した姿をかなみに見られることはなかったのだから。
かなみの前では素敵な先輩でいたいと思う。
もっとも、今のこの状態を見たら、かなみはなんて思うだろうか。
それでも、尊敬してくれるだろうか。
「はあ~」
翠華はため息をつく。
かなみはまさに翠華が思い描く理想の魔法少女で、自分はその理想に近づけているのだろうか、と疑問さえ覚える。
「かなみさん、私今回一緒でいてよかったの?」
翠華は寝ているかなみに問いかける。
もし、自分に結界を壊せる魔法が使えたら、あっさりこんなところから脱出することができるのに。
そうしたら、かなみが魔力を使い果たすことさえなかった。
「私、もっと強くなりたいわね……」
山ごもりして以前よりも強くなった実感はあった。
それでも、まだまだ全然足りない気がする。
かなみは魔法少女として、どんどん強くなっていっている。
それに引き換え、自分はどうか……
「はあ~」
またため息をつく。
今せめてできることは、かなみを守ることだった。
かなみが安心して、眠って、魔力を回復できるように、見守る。
もし、敵がまた来たときは、自分がこの手で……
翠華は棟に決意を宿す。
「かなみさん……」
でも、それまでは、このかなみの寝顔を眺めていたいと思った。
できるだけ、この時間が長く続くように、と願いながら。
翠華の願いが天に届いたのか、何も起きることなく朝日が昇る
窓から光が差し込んできて、それに気がついた。
「もう朝なのね……」
かなみの寝顔を眺めているうちに、あっという間に時間が経っていた。
かなみは相変わらず安心して寝息を立てている。
しかし、このまま起きないんじゃないかと心配する気持ちもこみ上げてくる。
「スースー」
その心配を安心しきってたてている寝息が解消してくれる。
「……まだ起きないのか」
「――!?」
翠華は突然した声に心臓が飛び出すかと思った。
そのぐらい不意を打たれた声だった。
「あなた、いつからそこに!?」
テリトリスだった。
彼が戻ってきたら、かなみを起こすか自分の手で決着をつけるか、その決断が今やってきたのだ。
「つい、今しがた」
テリトリスは悪びれもせず答える。
翠華はまったく気がつかなかった。
テリトリスが気配を消す術に長けていたのか、それとも、寝不足で思っているより注意力が散漫になっていたのか。
「……何しに来たの? 結界を解く気になったの?」
「様子を見に来ただけだ」
「そう言って、寝首をかくなんてことはしないわよね?」
「俺にそんな力はない。俺はこの結界魔法に長けている。逆に言えばそれ以外の魔法はからっきしだ。お前達に危害を加えるような魔法は使えない」
「……そんなにはっきり言っていいの?」
翠華は挑発的な態度でテリトリスへ言う。
「バラしたところでどうにもできないだろ」
「そうでもないわよ。そのうち、仲間が来るのだから」
「仲間? 魔法少女はお前達だけではないのか?」
「ええ、他にも仲間がいるわ。私達が帰ってこないってしったら助けに来てくれるはずよ」
「そうか、それはまずいな。俺は隠れて様子見させてもらうか」
「余裕があるのね。仲間が来ても結界が破られない自信があるっていうのね?」
「そうだ」
テリトリスは自身持ってそう答えて、部屋を出ていく。今度は扉の音を立てて、ごく普通に。
「確かにこの結界は凄いけど、あるみ社長なら難なく打ち破ってくれるはずよ。そうなったら、さぞ驚くでしょうね、フフ」
落ち着いた物腰のテリトリスが驚くところを想像して、思わず笑いがこぼれる。
「社長、いつ来てくれるのかしら?」
ふと、昨晩かなみが言っていたことを思い出す。
『社長ならなんとかできると思うんですけど……なんとかしてくれるんでしょうか?』
かなみの言う通りだと思った。
あるみだったら、このくらいのピンチは自分達のチカラでなんとか切り抜けなさい、と言いかねない。
事実、そろそろ助けが来てもいい頃なんじゃないかと思っても、一向に来る気配が無い。
そうなると自分達だけでなんとかするしかないけど、そのなんとかする方法が思いつかない。
かなみの魔力を使い果たしても、結界は破ることはできなかった。
翠華にしても、かなみと連携して結界の破壊を試みてもダメだった。
携帯電話で外部と連絡を取れないかと確かめてみたけど、この結界は電波をも遮断してしまうのか、圏外になっていた。
とりあえず今のところ打てる手はない。
あとは時間が経つことで、テリトリスの魔力を使い果たして、結界を維持することができなくなることを期待しているのだけど、さっきのやりとりの様子だとまだまだ余裕がありそうな気がする。
(持久戦……もう一晩経ってるけど、もう二、三日くらいかかるのかしらね……)
このビルでの目撃を最後に行方不明になった人達は数日のうちに、このビルのどこかで発見されている。
一日くらいここで閉じ込められても大丈夫だとは思う。
しかし、それが二日三日と続いたら、と、考えたくないけど考えざるをえない。
(水も食べ物もない……どんどん弱っていく一方だわ……本当になんとかしないと……かなみさんのためにも!)
事の深刻さを考えつつ、翠華は真面目に打開策を思案していく。
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