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第122話 学祭! 少女は祭りの彩りに飾りを入れる! (Cパート)
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ヨロズとメンコ姫の二人から分かれて、かなみと翠華は別の校舎に向かう。
「あの二人があんなに協力してくれるなんて意外だったわね」
「この前の戦いでも一緒に戦いましたし、怪人なんですけど、敵って感じがしませんよ」
「そうね。それに、爆弾も見つけてくれて処理までしてくれてありがたいわね」
「あれを処理って言っていいのかわかりませんけど……」
かなみがそう応えると、翠華と揃って苦笑いする。
「あ、でも、これで爆弾を見つけてないの、私達だけになりますね」
みあと紫織が緑色の爆弾を、ヨロズとメンコ姫が青色の爆弾を、それぞれを発見して処理している。
それができていない組は、かなみと翠華だけになる。
「そういえばそうね。誰がどれだけ見つけるかまでは考えてなかったわ」
「負けないように頑張りましょう!」
かなみが張り切る。
「あ、ちょっと不謹慎でしたね。学園祭が中止になるかどうかですし、人に被害でるかでないか危ないところですし」
「いいのよ、かなみさん。遠慮しないで。気負いすぎるよりそうやって楽しんでやった方がかえって見つかりやすいと思うわ」
「そうですか」
「それに、かなみさんが楽しんでいることが何より大事で、」
「あ!?」
かなみが驚きの声を上げる。
「ど、どど、どうしたの、かなみさん!? 私、何かおかしなこと言った!?」
「翠華さん、あれみてください!!」
「……え?」
翠華はかなみが指差し方を見る。
その先に、背は屋台の上幕に届きそうなほどの大きなブロックのダンボールがそびえ立っていた。
側面に穴があって、そこから太いブラスチックのストローのような玩具めいた両手足が生えている。
平時だったら奇怪に見える装いだけど、学園祭では出し物の一つとして受け入れている。
かなみと翠華のコスプレが注目されつつも奇異な視線を向けられていないのも学園祭の出し物だからと受け入れられているからだ。
「あれは……怪人かしら?」
注視すると魔力が湯気のように漏れ出ていた。
怪人がダンボールの被り物をしているのか、あるいはダンボールの被り物のような姿をした怪人なのか。
いずれにしても爆弾と関わりがある怪人の可能性がある。
カラカラカラ
その怪人は手に持った棍棒のような大きさの鳴子を鳴らしている。
「ものすごくお祭りっぽいですね……」
「……そうね」
などと言いながら、かなみと翠華は怪人に近寄る。
「カカカカカ!!」
怪人は大笑いしながら歩いている。
「祭りは楽しいぜ! 祭りをもっと楽しくするには爆弾が必要だからな!! お次はどこに爆弾を仕掛けてやろうか!?」
怪人はそう言いながら、手には黄色のボールを持つ。
「「爆弾!?」
かなみと翠華はそれを見た瞬間、血相変えて怪人の前に立つ。
「あん!? なんだお前ら!?」
「あんたがゴブマツリンね!?」
「何!? 何で俺の名前を知ってんだ!?」
怪人はゴブマツリンだった。
「俺はそれだけ有名になったってことか。カカカ、喜ばしいことじゃないか!」
ゴブマツリンは喜笑する。
「何を勘違いしてるのか知らないけど、私達はあんたの爆弾予告を防ぎに来たのよ!」
「ほう、防ぎにきたのか!? カカカ、だったら防いでみせろよぉぉぉぉッ!?」
ゴブマツリンはボールの爆弾をかなみへ投げ込む。
「かなみさん!?」
「――!」
カキィィィィィィン!!
かなみはとっさにコスプレ用のステッキを降り上げて、ボールを打ち上げる。
バァァァァァァァン!!!
ボールは青色の閃光を放出して爆発する。
「ふう~」
かなみは間一髪爆発を避けられて安堵の息をつく。
「かなみさん、凄かったわ」
「とっさに身体が動きまして……危ないところでした。ステッキもあって助かりましたし」
かなみはコスプレ用で持ってたステッキを見せて言う。
コスプレしていなかったら防げなかったと思うと、コスプレするのも悪くないかもしれないと思った。
「カカカ、俺の爆弾を防ぐとはやるな! だが、派手に爆発したから俺の勝ちだ!! カカカカ!!」
ゴブマツリンは笑って勝手に勝利宣言する。
「何勝った気になってるのよ!? あんたの爆弾は防がれたのよ!!」
「爆弾!? 見事に爆発したじゃねえか!? この祭りに出てるやつは全員空を見上げたことだろうぜ! カカカカ!!」
「そんなんであんたが勝ちだなんて!?」
「祭りは盛り上がった方が勝ちなんだよ!! カカカカ!!」
ゴブマツリンはそう言って、ダンボールの身体の内側からオレンジ色のボールを取り出す。
「まだ爆弾持ってたの!?」
かなみと翠華は身構える。
「カカカカ! さて、こいつはどこで爆発させてやろうか!?」
ゴブマツリンは背を向けて走り去っていく。
ダンボールの後ろ姿がガクガク動いているのに、意外に素早い。
「あ!? 待ちなさい!!」
かなみと翠華は追いかける。
ゴブマツリンは中庭にいる人をかきわけて、スイスイと進んでいく。あの大きさで機敏に動くものだから差が縮まらない。
グズグズしていたら、あの爆弾を放り投げられて爆発でもしたら、この場にいる人達が危ない。
「かなみさん! 私が前に回り込むわ!」
「挟み撃ちですね!」
「そう! かなみさんはこのまま追いかけて!」
「はい!」
校内を知っている翠華は別れる。
やがて、かなみは校舎近くの屋台が並ぶ校庭に出る。
そこへゴブマツリンの前へ翠華が立ち塞がる。
「ここから先は通さないわ!!」
「カカカ!? 挟み撃ちか!?」
「さあ、追い詰めたわよ! 観念しなさい!!」
「観念!? 追い詰めたと勘違いされちゃ困るな!! そぉれぇ!!」
ゴブマツリンは急に横に転がって、たこ焼きの屋台に文字通り転がり込んでいく。
「「わあッ!?」」
屋台で調理していた生徒達はテーブルを壊されて大慌てだけど、幸いなことに焼いている鉄板にまでは被害は及ばなかった。
「なんてことを!?」
かなみと翠華は後を追って、屋台の内側へ入る。
ゴブマツリンは入ってきたところから屋台の入ってきた方から反対側へ出て逃げ去っていく。
「カカカカ!!」
上手く逃げおおせたゴブマツリンは哄笑して校舎へ入っていく。
「逃げられた!?」
「ごめんなさい、詰めが甘かったみたいね」
「翠華さんは悪くないです。あんな逃げ方するなんて思いませんでしたから!」
「そうね。今度はあんな逃げ方もできないくらい追い詰めなくちゃね」
「はい! 追いかけましょう!」
「待って、かなみさん! 校舎の陰で変身しましょう!」
「あ、はい。そうですね!」
魔法少女に変身すれば身体強化で一気に追い詰めることができる。
かなみ達はゴブマツリンを追いかけて、校舎に入るなり、陰に入って、人目がないのを確認してコインを投げ入れる。
「「マジカル・ワークス!!」」
コインを投げ入れて、宙を舞ったコインから光が降り注ぐ。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「青百合の戦士、魔法少女スイカ推参!」
黄色と青色の魔法少女が立つ。
カラカラカラ
鳴子が鳴り響く音がする。
それはゴブマツリンがどこにいるかを教えてくれる。
「三階よ!」
スイカは階段を駆け上がり、カナミはついていく。
すると三階の廊下にゴブマツリンは鳴子を鳴らしながらドカドカと歩いていた。
「カカカカ! 追いついてきたか!!」
ゴブマツリンは嬉しそうに魔法少女を見据える。
「お前達にこの爆弾を防げるかな!? カカカ!!」
ゴブマツリンは白色のボールを見せつつ、すぐ側に空いている教室へ駆け込む。
「ああ、まったく! 迷惑な怪人ね!」
カナミは悪態をついてその教室へ入る。
その教室は手芸部の催しで自作のぬいぐるみやハンカチが展示されている。
そこへゴブマツリンは目もくれず、窓を開ける。
「どこへ逃げるつもり!?」
「カカカ! 祭りに飛び込みはつきものだぜ!!」
ゴブマツリンはそう言って、窓へ飛び込む。
「ああ!?」
「カナミさん、あれを!?」
カナミが飛び込んだゴブマツリンを目で追ったのだけど、スイカは空を指さして、カナミはそれを追った。
「あぁッ!?」
カナミが窓から空を見ると、空の方に白色のボールが飛んでいた。
しかし、飛んでいるボールはいずれ重力に負けて地上に落ちていく。そうなったら、爆発して学校のどこかで被害が出る。
「カナミさん! あれが落ちる前に!」
「はい! わかってます!!」
カナミはステッキを構えて、ボールへ向ける。
バァン! バァン! バァン! バァン! バァン!
ステッキから五発の魔法弾を撃ち出す。
そのうちの一発が白色のボールが命中する。
バァァァァァァァン!!!
命中したボールは、白い閃光放って、花火のように爆発する。
「ゴブマツリンは!?」
ホッとするまもなくカナミは中庭に飛び降りたゴブマツリンを目で追う。
彼はカナミ達から逃げるでもなく、爆発のあった空を見たり、それに驚いている人達を眺めて楽しんでいる。はっきり言って呑気に油断しているといっていい。
「まだ、あんなところに!」
「待ってカナミさん!!」
「どうしたんですか、スイカさん!?」
「怪人が持っていたボール、さっきと色が違っていたような……」
「えぇッ!?」
カナミは思い出してみる。
「たしか今は……白で、さっきのボールの色は……」
あれはゴブマツリンが校舎に逃げ込む前。
いや、それより前にゴブマツリンはボールを持っていた。その時の色を思い出そうとする。
「オレンジ!? 確かに違います!?」
「どうして持ち替えたのかしら? ひょっとしたら、もうどこかに置いてきたのかもしれないわね」
「えぇッ!? どこかってどこですか!?」
「それはわからないけど、見て回る必要があるわね。カナミさん、私はこの校舎を見て回るから、カナミさんは外の屋台を!」
「わかりました! とうッ!!」
カナミは返事するやいなや教室の窓から外へ飛び込む。
「ここ三階なのに!?」
その一部始終を見ていた生徒は思わずその言葉を口にして、ゴブマツリンやカナミが飛び降りた外を確認する。
窓から飛び降りたカナミは、難なく着地してみせる。
「あいつ、どこに爆弾を仕掛けたのよ!?」
「多分、彼が突っ込んだ屋台に置いていったかもしれない」
マニィが言う。
「あいつが突っ込んだ屋台……」
それはなんだったか、カナミはさっきの場所に向かう。
「カナミ、思い出した?」
「えっと、たしか……たこ焼き!」
「あぁ、食べ物だからちゃんと憶えてたね」
「そういうわけじゃないんだけど」
マニィにそんなことを言われて釈然としないまま、カナミはたこ焼きの屋台を向かう。
「あそこ!」
カナミはさっきゴブマツリンが突っ込んだ屋台の前にたどり着く。
「あ……」
カナミは思わず焼かれているたこ焼きの方に目がいってしまう。
「たこ焼き、いかかですか!!」
おまけに声までかけられる。
「あ、あの……さっき怪人が突っ込んできたんですけど」
「怪人?」
カナミがそう言っても、生徒達はピンときていなかった。
「ダンボールの!」
「ああ!?」
生徒達はそれでピンときてそれぞれの顔を見合わせて確認する。
「そういえば、こんなモノが転がって……」
そう言って男子生徒はオレンジ色のボールを持ってくる。
「ああぁッ!?」
カナミは思わず指差して声を上げるものだから、男子生徒はたじろぐ。
「それ、ください!」
「え?」
「早く! お願いします!」
「あ、あぁ……」
男子生徒は戸惑いながらも、カナミの真剣味のこもった懇願に圧されて、オレンジ色のボールを渡してくれる。
「ありがとうございます! そぉれぇッ!!」
カナミはボールを受け取ったすぐ次の瞬間に空へと放り投げる。
「えぇッ!?」
それを目の当たりにした男子生徒は驚きの声を上げる。
しかし、カナミは気にしている余裕はない。
「とりゃッ!!」
バァン!
ステッキから魔法弾を撃って、ボールに命中させる。
バァァァァァァァン!!!
ボールは空中で、オレンジ色の閃光を放って爆発する。
「ふうぅ」
爆発で被害が出すことなく処理できて、カナミは安堵の息をつく。
「あ……」
しかし、次の瞬間に、一部始終をみていたたこ焼きの屋台にいる生徒が呆然とカナミを見ていることに気づく。他にも生徒達の突然の爆発に不安げになっている周囲の生徒もいた。
「い、今のは生徒会の出し物でーす!」
とっさにそんなことをいってごまかす。
「あ、あぁ……そうなのか……」
「そうなのか?」
それで納得する生徒と疑問を持ったままの生徒がいた。
「カカカ! これも防ぎやがったか!!」
カナミの前にゴブマツリンが現れる。
「あんた! いい加減にしなさいよ!!」
カナミはステッキを差す。
「おおっと!? 下手に撃っていいのか!?」
ゴブマツリンがそう言ったことで、カナミは気づく。
ゴブマツリンの背後に人だかりができている。
強力な魔法弾の一撃をふっ飛ばそうものなら人を巻き込んでしまう。
「思ったより強かだね」
マニィが耳打ちする。
「うかつに戦ったらまずい……!」
「カカカ! カカカカ!!」
ゴブマツリンは大笑いする。
カナミにはそれが嘲笑っているように感じられて、神経を逆撫でされる。
「スイカさんがいたら――!」
もし、スイカがこの場にいたらレイピアを突き刺して、周囲に被害を出さずに上手くこの怪人を倒せていただろう。
「カカカカカカカカカ!!」
ゴブマツリンは再び背中を向けて逃げ去っていく。
「待ちなさい!!」
カナミはそれを追いかける。
人の中に紛れられたら、さらに戦いづらくなる。
ゴブマツリンは三メートルもあろうかという巨体にも関わらず、身体を器用に動かして人とぶつからず避けながら走っていく。
「逃がしてたまるかぁッ!!」
カナミは意地になって追いかけるも、人を避けながら進んでいるため、差が縮まらない。
「あいつ、どこに向かってるのよ!?」
「校舎の図を見ると……」
マニィが答える前に、ゴブマツリンは建物に入っていく。
「体育館だよ!」
マニィがワンテンポ遅れて答える。
「体育館ってなんで!?」
「ちなみに今は一年A組の劇が終わったあとだよ」
「そ、そうなの!?」
「ちなみに演目は『合唱の怪談』だそうだよ」
「ちょっと怖くてみなくてよかったタイトルね!?」
カラカラカラ
体育館の中からゴブマツリンの鳴子の音がする。
「あいつ、この中で爆発させる気じゃ!?」
カナミは体育館の扉を、ダン! と開いて入る。
「なんだなんだ!?」
体育館に残っていた見物人達は、劇が終わって一段落ついて出ていこうとする人もかなりいたところに、ゴブマツリンがやってきて、カラカラと鳴子を鳴らして体育館を歩き回る。「何か出し物か」と不審がりながらも見物していた、そんなときに魔法少女カナミがやってきた。
「おお、やっぱりなんかの出し物か!?」
「あの娘、かわいい!」
「怪物とコスプレ、何の組み合わせだ!?」
はしゃぎたつ見物人達。
「出し物だって思われてるね」
マニィが言う。
「カカカカ! 来たな!!」
ゴブマツリンは嬉しそうにカナミを見て言う。
「爆弾はまだあるぜ! 止めたけりゃかかってこいよ!」
ゴブマツリンは右手に茶色、左手に黒色のボールを掲げて見せる。
「まだ爆弾を持っていたのね!? それは絶対に爆発させないんだから!!」
カナミは威勢よく啖呵を切ってみせる。
「おお!」とパチパチと拍手が起こる。
「君って案外こういうことに向いているのかもね」
「どういうことよ?」
マニィの発言に、カナミがぼやいていると、ゴブマツリンは見物人の席と席の間を走り回る。
「待ちなさい!」
「カカカ! カカカカ!!」
ゴブマツリンはジャンプして、壇上に立つ。
そこは、学園祭の催し物を盛り立てるために飾り付けられたステージでもあった。
「来い! 魔法少女!!」
ゴブマツリンが誘ってくる。
爆弾を持ち、それが体育館の見物人に向かって爆発させられたらと思うと、カナミは誘いに乗るしか選択肢がなかった。
「ええい、いってやるわよ!!」
それに壇上なら周囲に人はいない。
ゴブマツリンと戦うにはもってこいの場所でもあった。
「きたか!? カカカ! 祭りってもんをわかってるじゃねえか、見直したぜ!!」
「あんたに見直されても嬉しくないわよ! 絶対に爆発させないんだから!!」
「カカカ! さて阻止できるかな!?」
ゴブマツリンはボールをダンボールの中にしまって鳴子を取り出す。
「やってみせるのよ!?」
カナミはステッキを構える。
「「「おお!!」」」
見物人達は席について拍手を上げる。
やはり学園祭の出し物だと勘違いしているようだ。
それは、カナミにとって好都合だった。
多少現実離れした魔法を使ったとしても、出し物の手品か何かだと思ってもらえる。
爆弾による爆発に備えて避難してほしい気持ちはある。
だけど、それは自分がうまくやればいいだけのことだと、カナミは割り切る。
「カアアァァァァァァッ!!」
ゴブマツリンは大仰に叫んで、鳴子を棍棒のようにカナミへ振るう。
カラカラ! カキィィィィィン!!
カナミはその鳴子をステッキで受ける。
「カァッ! カァッ! カァッ! カァッ!!」
鳴子を振るうたびに、ゴブマツリンは叫びを上げて、鳴子が鳴る。
「こんのおおおおおおッ!!」
カナミはステッキの刃を引き抜いて、鳴子を切り裂く。
「カカカッ! やるな! だったらこれならどうだぁッ!?」
「ああッ!?」
カナミは思わず声を上げる。
ゴブマツリンが茶色のボールを放り投げたからだ。
「なんてことすんのよ!? こうなったら!」
カナミはステッキを天井近くまで放り投げられたボールへ向ける。
「カナミ、それは!?」
マニィが忠告しようとする前に、カナミは魔法弾を撃ち放つ。
魔法弾は茶色のボールに命中して、、茶色の閃光とともに爆発が、――起きなかった。
バァンと音が鳴ったものの、それくらいだったら何かの音響かと思われた。
パチパチパチパチ!
ゆえに、それもパフォーマンスだと思って、拍手が起こった。
「衝撃をかきけす魔法弾。精度があがってるね」
マニィは素直に称賛する。
素直なのが少し気味が悪い。
「とっさにやっただけ……迂闊に撃ったら、天井に穴が空くかもしれないから」
「うん、これだったら損害賠償も結構減るんじゃないかな」
「あ、それいいわね!」
明るい話題に、カナミの顔が明るくなる。
「でも、今はそれよりあいつを損害ゼロで倒さないと!!」
「カカカッ! やれるものならやってみろってんだ! ああ、ついでにいいことを一つ教えてやるぜ!!」
「何よ!?」
「俺が持ってる爆弾はこれが最後の一つだ!!」
ゴブマツリンは白色のボールを見せて言う。
「え!?」
「カカカッ! どうだ、いいことだろう!!」
「なんで、わざわざそんなこと教えてくれるのよ!? 罠のつもり!?」
「カカカ、駆け引きなんかじゃねえ!! これで盛り上がるってモンだろぉッ!?」
「盛り上がるって、そんなことのために!!」
「祭りはそれが全てだろがぁッ!!」
ゴブマツリンは鳴子を振るう。
カラカラカラ!
鳴子とステッキがぶつかる度に、鳴子の音が鳴り響く。
「お?」「お!」「おお!?」「おおぉッ!!?」
鳴り響く度に、驚嘆と歓喜の歓声が渡る。
学園祭のステージにしてはやたら迫力がある。
見物人はすっかり見入り始めてきた。
「仕込みステッキ・ピンゾロの半!」
カナミはステッキの刃を一閃振り抜く。
カラカラカラ!
斬られた鳴子は宙を舞う。
パチパチパチ!
カナミの見事な斬撃に、見物人は拍手が送られる。
本当ならそれに対して応えたいけど、今はそれどころじゃなかった。
「カカカ! やるな!! こうなったら、こいつで!!」
ゴブマツリンは、鳴子を斬られて空いた手から白色のボールを取り出す。
「今です!」
カナミは合図のような号令をかける。
「ノーブル・スティンガー!!」
不意に客席から飛び込んできたスイカが光の矢を想わせる突きを繰り出される。
「ガアアアアアッ!!」
ゴブマツリンの手を的確に突いて悲鳴を上げる。
その衝撃によって、ボールは宙を舞う。
宙を舞ったボールに、ワイヤーが巻き付かれる。
そのワイヤーはヨーヨーのものだった。
ワイヤーによって、ボールを手元に手繰り寄せる。
「いただいたわ!」
体育館のキャットウォークに立つミアは戦利品のようにボールを掲げる。
さらにそれをスポットライトがあてるものだから、いやがおうにも注目を浴びる。
そのボールが意味するところは見物人には伝わらないものの、なんらかのパフォーマンスで取り合いをして、掴み取ったものだとまでは解釈できる。
パチパチパチ!
何が起きているのかよくわからないけど、見事なパーフォマンスだと見物人達は直感して拍手を起こる。
「これでいいのか?」
「上出来だ」
スポットライトを操作したのはヨロズで、あてるタイミングを指示したのはメンコ姫だった。
「本当なら舞台に降りて、戦いところだが」
「オラ達は怪人。本来ならあのゴブマツリンとやらに加勢する立場だ。だからこそ今回は裏方に徹するのが落としどころだ」
「……そうか、そういうものか」
メンコ姫は諭されて、ヨロズは納得する。
「さあ、これで爆弾はなくなったわ!!」
舞台でカナミは、ゴブマツリンへ指差す。
「カカカッ! やってくれたぜ!!」
ゴブマツリンは爆弾を失って、追い詰められたというのに、相変わらず愉快そうに高笑いしている。
まだ何か魔法があるのか、と、カナミは警戒する。
「どうして、笑ってられるの!?」
「楽しいからに決まってるだろ!? 祭りらしく盛り上がったじゃねえか!?」
「盛り上がって楽しかったらそれでいいの!?」
「それが全てだぜ、カカカッ!!」
ゴブマツリンは悪びれもせず、堂々と言い放つ。
「はっきり言うわね、すごく悪の怪人らしいわ」
そうなったら、もうやることは一つしかない。
「スイカさん!」
隣にやってきたスイカへ呼びかける。
「ええ、任せて!」
スイカはレイピアを構える。
「カカカ! さあ来い!!」
ゴブマツリンは鳴子を構える。
カラカラ!
カナミのステッキとスイカのレイピアを、ゴブマツリンは両手の鳴子を受け止める。
キィン! カラカラ! キィン! カラカラ!!
刃の金属音と鳴子の音が鳴り響く。
それが剣戟のアクションに迫力を与えていた。
おかげでこの舞台は大いに盛り上がった。
戦いの方は、カナミとスイカの二人がかりで戦っているおかげで、徐々に追い詰めていく。
ザシュ!!
そこから、隙を見つけてカナミはゴブマツリンの身体を斬り裂く。
「ガギャアッ!?」
ゴブマツリンは悲鳴を上げる。
その斬られたゴブマツリンの身体の中身は空洞でスカスカになっているのが見えた。
「今です、スイカさん!!」
「ええ!」
カナミの号令を受けて、スイカは必殺の一撃を放つ体勢に入る。
「カカカカ!! 来いよ!!」
それを察したゴブマツリンは堂々と受ける体勢を取る。
「ワイルド・スティンガー!!!」
スイカの懇親の一撃を放って、ゴブマツリンの腹に風穴を空けて吹っ飛ぶ。
「カカカカカカカッ!! 見事だったぜええええッ!!」
ゴブマツリンの哄笑が響き渡り、最後には吹っ飛んで、舞台を転がっていく。
そして動かくなり、光の粒になって消えていく。
「「「おおおおおおおおおおおッ!!」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
見事な技を決めたスイカに見物人は大歓声を上げ、大拍手を送る。
「どうもありがとうございます!」
壇上のカナミとスイカは一礼して、緞帳が降りていく。
「まったく世話が焼けるわね」
ミアはぼやく。
彼女が緞帳の捜査やスポットライトを指示して、舞台を盛り上げてくれた。
「ありがとうね、ミアちゃん。おかげでなんとかごまかせたわ」
スイカはお礼を言う。
「スイカさんもありがとうございます。いいタイミングで出てくれました」
「ううん、すぐ駆けつけてこれなくてごめんなさい」
「どうして謝るんですかスイカさんは?」
カナミは笑って訊く。
「本当に、どうしてなのかしらね、フフフ」
怪人を倒せて、学園祭は中止になることなく盛り上がって、スイカは安心して笑い合うことができた。
「一件落着か」
そこへヨロズとメンコ姫がやってくる。
「あ、ヨロズにメンコちゃん! 今回はありがとうね!」
「気にするな、いい経験になった」
ヨロズは殊勝な態度で言う。
「それに祭りを楽しませてもらった」
「アハハ、メンコちゃん楽しんでたね。ヨロズは楽しかった?」
「……さあ、わからない」
ヨロズはそれだけ答える。
その表情は上機嫌でも不機嫌でもなく、ただいつもの無表情だった。
ヨロズとメンコ姫はそのまま帰ることにした。
自分達のような怪人がいるとまた余計なことが起きるかもしれない、とメンコ姫は言った。
「気を使わせてしまってごめんなさい」とスイカは謝ったけど、メンコ姫は「気にすることはない、オラ達怪人はそういうものだ」と答えた。
日が暮れ始めて、生徒達が出し物の片付けを始めた頃、かなみ達は帰ることにした。
「今日は大変でしたけど、楽しかったです」
かなみは翠華にそう言った。
「もっとゆっくり楽しんでいければよかったのに」
「怪人が現れたからしょうがないですよ。それに爆弾とか被害ゼロでよかったです」
「ああいう騒動も祭りの一環ってね。かえって盛り上がったんじゃない」
みあがそう言うと、翠華の気持ちは少し軽くなる。
「今日は楽しかったです。本当に、本当に、」
紫織は言う。
「私もみんなが来てくれて楽しかったわ」
「何の出し物をするか黙ってたけどね」
みあにそう言われて、かなみと翠華は揃ってビクッとなる。
「あ、あれは……ごめんなさい」
「す、翠華さんは悪くないんです。悪いのはお化けです!」
「とんでもない責任転嫁ね」
みあはかなみへ言う。
「でも、翠華さんの雪女は素敵でしたよ!」
「そ、そう……!」
翠華は、本物の雪女だったら溶けて無くなりそうなくらい顔を真っ赤にする。
「……かなみさんってああいうのが好きなのかしらね……それだったらたまにはその方向でアタックすれば、あるいは……!」
翠華はかなみ達に聞こえないくらいの小声で何か言い出す。
「翠華さん、どうかしたの?」
「ああいうのは耳をふさぐのがいいわよ」
みあはかなみへ助言する。
どうして、みあがそんな事言うのか、かなみにはわからない。ただの善意ということくらいしか。
「まあ、後片付けで忙しいからさっさと帰ろう」
「そうですね。それじゃ翠華さん、さようなら!」
「え? あ!?」
翠華がそう言われて気がつくと、かなみ、みあ、紫織の三人はもう手を振って帰りそうだった。
(もうちょっとお話したかったけど……)
まだ名残り惜しいけど、みあが言う通りまだ忙しいのは事実。翠華は手を振って見送った。
「可愛いわね、あの娘達」
「はい。今日は楽しんでもらってよかったです。――って、会長!?」
いつの間にか、傍らに望月藍花が立っていた。
「どうしてここに?」
「青木さんを呼びに来たのだけど、ちょうどいい場面に出くわしてね、フフフ」
藍花は上品に笑う。
翠華はこの会長はどこか計り知れない部分があって、こうした話をするときはついつい緊張してしまう。
「それとお礼を言いそびれてしまったわね」
「お礼?」
「爆弾騒ぎ……生徒や先生方は花火だと思ってたみたいだけど」
「え、そ、そうなのですか……」
「よくわからないけど、青木さん達がなんとかしてくれたみたいね」
「い、いえいえ、私達は特に何も……」
爆弾騒ぎを起こしたのは怪人で、自分達は魔法でなんとかしたなんて、話せないし、そもそもこんな話、一般人の藍花には信じてもらえないだろう。
「ありがとう」
「………………」
しかし、そう言われて、感謝を無碍にごまかす器用さは翠華には無かった。
「あの娘達にもお礼を言いたかったのにね」
藍花は残念そうに言う。
しかし、翠華はつい勘ぐってしまう。どうにもお礼を言うことだけが目的には思えなかった。
「私から伝えておきます」
「そう」
翠華がそう言うと、藍花はそれだけ答える。
「ところで、かなみさんのことなのだけど」
「かなみさんのことですか?」
「そう、かなみさんね。かなみさんはウチを受けるの?」
「え、そ、それは……わかりません……か、かなみさんは、ま、まだ中学二年生ですから!」
「二年生だったの。それでは彼女が入学する頃には私達は卒業ね」
「そうですね。それは残念ですね」
「フフフ」
藍花は急に笑い出して、翠華は驚く。
「本当に残念そうに言うのね」
「え、そ、そうですか……」
翠華には自覚が無かった。
「私も一緒に学校が通えないのは残念だけど、また会えるといいわね、フフフ」
「望月会長……」
「さて、これから後片付けよ。青木さん、手伝ってね」
「あ、はい!」
「あの二人があんなに協力してくれるなんて意外だったわね」
「この前の戦いでも一緒に戦いましたし、怪人なんですけど、敵って感じがしませんよ」
「そうね。それに、爆弾も見つけてくれて処理までしてくれてありがたいわね」
「あれを処理って言っていいのかわかりませんけど……」
かなみがそう応えると、翠華と揃って苦笑いする。
「あ、でも、これで爆弾を見つけてないの、私達だけになりますね」
みあと紫織が緑色の爆弾を、ヨロズとメンコ姫が青色の爆弾を、それぞれを発見して処理している。
それができていない組は、かなみと翠華だけになる。
「そういえばそうね。誰がどれだけ見つけるかまでは考えてなかったわ」
「負けないように頑張りましょう!」
かなみが張り切る。
「あ、ちょっと不謹慎でしたね。学園祭が中止になるかどうかですし、人に被害でるかでないか危ないところですし」
「いいのよ、かなみさん。遠慮しないで。気負いすぎるよりそうやって楽しんでやった方がかえって見つかりやすいと思うわ」
「そうですか」
「それに、かなみさんが楽しんでいることが何より大事で、」
「あ!?」
かなみが驚きの声を上げる。
「ど、どど、どうしたの、かなみさん!? 私、何かおかしなこと言った!?」
「翠華さん、あれみてください!!」
「……え?」
翠華はかなみが指差し方を見る。
その先に、背は屋台の上幕に届きそうなほどの大きなブロックのダンボールがそびえ立っていた。
側面に穴があって、そこから太いブラスチックのストローのような玩具めいた両手足が生えている。
平時だったら奇怪に見える装いだけど、学園祭では出し物の一つとして受け入れている。
かなみと翠華のコスプレが注目されつつも奇異な視線を向けられていないのも学園祭の出し物だからと受け入れられているからだ。
「あれは……怪人かしら?」
注視すると魔力が湯気のように漏れ出ていた。
怪人がダンボールの被り物をしているのか、あるいはダンボールの被り物のような姿をした怪人なのか。
いずれにしても爆弾と関わりがある怪人の可能性がある。
カラカラカラ
その怪人は手に持った棍棒のような大きさの鳴子を鳴らしている。
「ものすごくお祭りっぽいですね……」
「……そうね」
などと言いながら、かなみと翠華は怪人に近寄る。
「カカカカカ!!」
怪人は大笑いしながら歩いている。
「祭りは楽しいぜ! 祭りをもっと楽しくするには爆弾が必要だからな!! お次はどこに爆弾を仕掛けてやろうか!?」
怪人はそう言いながら、手には黄色のボールを持つ。
「「爆弾!?」
かなみと翠華はそれを見た瞬間、血相変えて怪人の前に立つ。
「あん!? なんだお前ら!?」
「あんたがゴブマツリンね!?」
「何!? 何で俺の名前を知ってんだ!?」
怪人はゴブマツリンだった。
「俺はそれだけ有名になったってことか。カカカ、喜ばしいことじゃないか!」
ゴブマツリンは喜笑する。
「何を勘違いしてるのか知らないけど、私達はあんたの爆弾予告を防ぎに来たのよ!」
「ほう、防ぎにきたのか!? カカカ、だったら防いでみせろよぉぉぉぉッ!?」
ゴブマツリンはボールの爆弾をかなみへ投げ込む。
「かなみさん!?」
「――!」
カキィィィィィィン!!
かなみはとっさにコスプレ用のステッキを降り上げて、ボールを打ち上げる。
バァァァァァァァン!!!
ボールは青色の閃光を放出して爆発する。
「ふう~」
かなみは間一髪爆発を避けられて安堵の息をつく。
「かなみさん、凄かったわ」
「とっさに身体が動きまして……危ないところでした。ステッキもあって助かりましたし」
かなみはコスプレ用で持ってたステッキを見せて言う。
コスプレしていなかったら防げなかったと思うと、コスプレするのも悪くないかもしれないと思った。
「カカカ、俺の爆弾を防ぐとはやるな! だが、派手に爆発したから俺の勝ちだ!! カカカカ!!」
ゴブマツリンは笑って勝手に勝利宣言する。
「何勝った気になってるのよ!? あんたの爆弾は防がれたのよ!!」
「爆弾!? 見事に爆発したじゃねえか!? この祭りに出てるやつは全員空を見上げたことだろうぜ! カカカカ!!」
「そんなんであんたが勝ちだなんて!?」
「祭りは盛り上がった方が勝ちなんだよ!! カカカカ!!」
ゴブマツリンはそう言って、ダンボールの身体の内側からオレンジ色のボールを取り出す。
「まだ爆弾持ってたの!?」
かなみと翠華は身構える。
「カカカカ! さて、こいつはどこで爆発させてやろうか!?」
ゴブマツリンは背を向けて走り去っていく。
ダンボールの後ろ姿がガクガク動いているのに、意外に素早い。
「あ!? 待ちなさい!!」
かなみと翠華は追いかける。
ゴブマツリンは中庭にいる人をかきわけて、スイスイと進んでいく。あの大きさで機敏に動くものだから差が縮まらない。
グズグズしていたら、あの爆弾を放り投げられて爆発でもしたら、この場にいる人達が危ない。
「かなみさん! 私が前に回り込むわ!」
「挟み撃ちですね!」
「そう! かなみさんはこのまま追いかけて!」
「はい!」
校内を知っている翠華は別れる。
やがて、かなみは校舎近くの屋台が並ぶ校庭に出る。
そこへゴブマツリンの前へ翠華が立ち塞がる。
「ここから先は通さないわ!!」
「カカカ!? 挟み撃ちか!?」
「さあ、追い詰めたわよ! 観念しなさい!!」
「観念!? 追い詰めたと勘違いされちゃ困るな!! そぉれぇ!!」
ゴブマツリンは急に横に転がって、たこ焼きの屋台に文字通り転がり込んでいく。
「「わあッ!?」」
屋台で調理していた生徒達はテーブルを壊されて大慌てだけど、幸いなことに焼いている鉄板にまでは被害は及ばなかった。
「なんてことを!?」
かなみと翠華は後を追って、屋台の内側へ入る。
ゴブマツリンは入ってきたところから屋台の入ってきた方から反対側へ出て逃げ去っていく。
「カカカカ!!」
上手く逃げおおせたゴブマツリンは哄笑して校舎へ入っていく。
「逃げられた!?」
「ごめんなさい、詰めが甘かったみたいね」
「翠華さんは悪くないです。あんな逃げ方するなんて思いませんでしたから!」
「そうね。今度はあんな逃げ方もできないくらい追い詰めなくちゃね」
「はい! 追いかけましょう!」
「待って、かなみさん! 校舎の陰で変身しましょう!」
「あ、はい。そうですね!」
魔法少女に変身すれば身体強化で一気に追い詰めることができる。
かなみ達はゴブマツリンを追いかけて、校舎に入るなり、陰に入って、人目がないのを確認してコインを投げ入れる。
「「マジカル・ワークス!!」」
コインを投げ入れて、宙を舞ったコインから光が降り注ぐ。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「青百合の戦士、魔法少女スイカ推参!」
黄色と青色の魔法少女が立つ。
カラカラカラ
鳴子が鳴り響く音がする。
それはゴブマツリンがどこにいるかを教えてくれる。
「三階よ!」
スイカは階段を駆け上がり、カナミはついていく。
すると三階の廊下にゴブマツリンは鳴子を鳴らしながらドカドカと歩いていた。
「カカカカ! 追いついてきたか!!」
ゴブマツリンは嬉しそうに魔法少女を見据える。
「お前達にこの爆弾を防げるかな!? カカカ!!」
ゴブマツリンは白色のボールを見せつつ、すぐ側に空いている教室へ駆け込む。
「ああ、まったく! 迷惑な怪人ね!」
カナミは悪態をついてその教室へ入る。
その教室は手芸部の催しで自作のぬいぐるみやハンカチが展示されている。
そこへゴブマツリンは目もくれず、窓を開ける。
「どこへ逃げるつもり!?」
「カカカ! 祭りに飛び込みはつきものだぜ!!」
ゴブマツリンはそう言って、窓へ飛び込む。
「ああ!?」
「カナミさん、あれを!?」
カナミが飛び込んだゴブマツリンを目で追ったのだけど、スイカは空を指さして、カナミはそれを追った。
「あぁッ!?」
カナミが窓から空を見ると、空の方に白色のボールが飛んでいた。
しかし、飛んでいるボールはいずれ重力に負けて地上に落ちていく。そうなったら、爆発して学校のどこかで被害が出る。
「カナミさん! あれが落ちる前に!」
「はい! わかってます!!」
カナミはステッキを構えて、ボールへ向ける。
バァン! バァン! バァン! バァン! バァン!
ステッキから五発の魔法弾を撃ち出す。
そのうちの一発が白色のボールが命中する。
バァァァァァァァン!!!
命中したボールは、白い閃光放って、花火のように爆発する。
「ゴブマツリンは!?」
ホッとするまもなくカナミは中庭に飛び降りたゴブマツリンを目で追う。
彼はカナミ達から逃げるでもなく、爆発のあった空を見たり、それに驚いている人達を眺めて楽しんでいる。はっきり言って呑気に油断しているといっていい。
「まだ、あんなところに!」
「待ってカナミさん!!」
「どうしたんですか、スイカさん!?」
「怪人が持っていたボール、さっきと色が違っていたような……」
「えぇッ!?」
カナミは思い出してみる。
「たしか今は……白で、さっきのボールの色は……」
あれはゴブマツリンが校舎に逃げ込む前。
いや、それより前にゴブマツリンはボールを持っていた。その時の色を思い出そうとする。
「オレンジ!? 確かに違います!?」
「どうして持ち替えたのかしら? ひょっとしたら、もうどこかに置いてきたのかもしれないわね」
「えぇッ!? どこかってどこですか!?」
「それはわからないけど、見て回る必要があるわね。カナミさん、私はこの校舎を見て回るから、カナミさんは外の屋台を!」
「わかりました! とうッ!!」
カナミは返事するやいなや教室の窓から外へ飛び込む。
「ここ三階なのに!?」
その一部始終を見ていた生徒は思わずその言葉を口にして、ゴブマツリンやカナミが飛び降りた外を確認する。
窓から飛び降りたカナミは、難なく着地してみせる。
「あいつ、どこに爆弾を仕掛けたのよ!?」
「多分、彼が突っ込んだ屋台に置いていったかもしれない」
マニィが言う。
「あいつが突っ込んだ屋台……」
それはなんだったか、カナミはさっきの場所に向かう。
「カナミ、思い出した?」
「えっと、たしか……たこ焼き!」
「あぁ、食べ物だからちゃんと憶えてたね」
「そういうわけじゃないんだけど」
マニィにそんなことを言われて釈然としないまま、カナミはたこ焼きの屋台を向かう。
「あそこ!」
カナミはさっきゴブマツリンが突っ込んだ屋台の前にたどり着く。
「あ……」
カナミは思わず焼かれているたこ焼きの方に目がいってしまう。
「たこ焼き、いかかですか!!」
おまけに声までかけられる。
「あ、あの……さっき怪人が突っ込んできたんですけど」
「怪人?」
カナミがそう言っても、生徒達はピンときていなかった。
「ダンボールの!」
「ああ!?」
生徒達はそれでピンときてそれぞれの顔を見合わせて確認する。
「そういえば、こんなモノが転がって……」
そう言って男子生徒はオレンジ色のボールを持ってくる。
「ああぁッ!?」
カナミは思わず指差して声を上げるものだから、男子生徒はたじろぐ。
「それ、ください!」
「え?」
「早く! お願いします!」
「あ、あぁ……」
男子生徒は戸惑いながらも、カナミの真剣味のこもった懇願に圧されて、オレンジ色のボールを渡してくれる。
「ありがとうございます! そぉれぇッ!!」
カナミはボールを受け取ったすぐ次の瞬間に空へと放り投げる。
「えぇッ!?」
それを目の当たりにした男子生徒は驚きの声を上げる。
しかし、カナミは気にしている余裕はない。
「とりゃッ!!」
バァン!
ステッキから魔法弾を撃って、ボールに命中させる。
バァァァァァァァン!!!
ボールは空中で、オレンジ色の閃光を放って爆発する。
「ふうぅ」
爆発で被害が出すことなく処理できて、カナミは安堵の息をつく。
「あ……」
しかし、次の瞬間に、一部始終をみていたたこ焼きの屋台にいる生徒が呆然とカナミを見ていることに気づく。他にも生徒達の突然の爆発に不安げになっている周囲の生徒もいた。
「い、今のは生徒会の出し物でーす!」
とっさにそんなことをいってごまかす。
「あ、あぁ……そうなのか……」
「そうなのか?」
それで納得する生徒と疑問を持ったままの生徒がいた。
「カカカ! これも防ぎやがったか!!」
カナミの前にゴブマツリンが現れる。
「あんた! いい加減にしなさいよ!!」
カナミはステッキを差す。
「おおっと!? 下手に撃っていいのか!?」
ゴブマツリンがそう言ったことで、カナミは気づく。
ゴブマツリンの背後に人だかりができている。
強力な魔法弾の一撃をふっ飛ばそうものなら人を巻き込んでしまう。
「思ったより強かだね」
マニィが耳打ちする。
「うかつに戦ったらまずい……!」
「カカカ! カカカカ!!」
ゴブマツリンは大笑いする。
カナミにはそれが嘲笑っているように感じられて、神経を逆撫でされる。
「スイカさんがいたら――!」
もし、スイカがこの場にいたらレイピアを突き刺して、周囲に被害を出さずに上手くこの怪人を倒せていただろう。
「カカカカカカカカカ!!」
ゴブマツリンは再び背中を向けて逃げ去っていく。
「待ちなさい!!」
カナミはそれを追いかける。
人の中に紛れられたら、さらに戦いづらくなる。
ゴブマツリンは三メートルもあろうかという巨体にも関わらず、身体を器用に動かして人とぶつからず避けながら走っていく。
「逃がしてたまるかぁッ!!」
カナミは意地になって追いかけるも、人を避けながら進んでいるため、差が縮まらない。
「あいつ、どこに向かってるのよ!?」
「校舎の図を見ると……」
マニィが答える前に、ゴブマツリンは建物に入っていく。
「体育館だよ!」
マニィがワンテンポ遅れて答える。
「体育館ってなんで!?」
「ちなみに今は一年A組の劇が終わったあとだよ」
「そ、そうなの!?」
「ちなみに演目は『合唱の怪談』だそうだよ」
「ちょっと怖くてみなくてよかったタイトルね!?」
カラカラカラ
体育館の中からゴブマツリンの鳴子の音がする。
「あいつ、この中で爆発させる気じゃ!?」
カナミは体育館の扉を、ダン! と開いて入る。
「なんだなんだ!?」
体育館に残っていた見物人達は、劇が終わって一段落ついて出ていこうとする人もかなりいたところに、ゴブマツリンがやってきて、カラカラと鳴子を鳴らして体育館を歩き回る。「何か出し物か」と不審がりながらも見物していた、そんなときに魔法少女カナミがやってきた。
「おお、やっぱりなんかの出し物か!?」
「あの娘、かわいい!」
「怪物とコスプレ、何の組み合わせだ!?」
はしゃぎたつ見物人達。
「出し物だって思われてるね」
マニィが言う。
「カカカカ! 来たな!!」
ゴブマツリンは嬉しそうにカナミを見て言う。
「爆弾はまだあるぜ! 止めたけりゃかかってこいよ!」
ゴブマツリンは右手に茶色、左手に黒色のボールを掲げて見せる。
「まだ爆弾を持っていたのね!? それは絶対に爆発させないんだから!!」
カナミは威勢よく啖呵を切ってみせる。
「おお!」とパチパチと拍手が起こる。
「君って案外こういうことに向いているのかもね」
「どういうことよ?」
マニィの発言に、カナミがぼやいていると、ゴブマツリンは見物人の席と席の間を走り回る。
「待ちなさい!」
「カカカ! カカカカ!!」
ゴブマツリンはジャンプして、壇上に立つ。
そこは、学園祭の催し物を盛り立てるために飾り付けられたステージでもあった。
「来い! 魔法少女!!」
ゴブマツリンが誘ってくる。
爆弾を持ち、それが体育館の見物人に向かって爆発させられたらと思うと、カナミは誘いに乗るしか選択肢がなかった。
「ええい、いってやるわよ!!」
それに壇上なら周囲に人はいない。
ゴブマツリンと戦うにはもってこいの場所でもあった。
「きたか!? カカカ! 祭りってもんをわかってるじゃねえか、見直したぜ!!」
「あんたに見直されても嬉しくないわよ! 絶対に爆発させないんだから!!」
「カカカ! さて阻止できるかな!?」
ゴブマツリンはボールをダンボールの中にしまって鳴子を取り出す。
「やってみせるのよ!?」
カナミはステッキを構える。
「「「おお!!」」」
見物人達は席について拍手を上げる。
やはり学園祭の出し物だと勘違いしているようだ。
それは、カナミにとって好都合だった。
多少現実離れした魔法を使ったとしても、出し物の手品か何かだと思ってもらえる。
爆弾による爆発に備えて避難してほしい気持ちはある。
だけど、それは自分がうまくやればいいだけのことだと、カナミは割り切る。
「カアアァァァァァァッ!!」
ゴブマツリンは大仰に叫んで、鳴子を棍棒のようにカナミへ振るう。
カラカラ! カキィィィィィン!!
カナミはその鳴子をステッキで受ける。
「カァッ! カァッ! カァッ! カァッ!!」
鳴子を振るうたびに、ゴブマツリンは叫びを上げて、鳴子が鳴る。
「こんのおおおおおおッ!!」
カナミはステッキの刃を引き抜いて、鳴子を切り裂く。
「カカカッ! やるな! だったらこれならどうだぁッ!?」
「ああッ!?」
カナミは思わず声を上げる。
ゴブマツリンが茶色のボールを放り投げたからだ。
「なんてことすんのよ!? こうなったら!」
カナミはステッキを天井近くまで放り投げられたボールへ向ける。
「カナミ、それは!?」
マニィが忠告しようとする前に、カナミは魔法弾を撃ち放つ。
魔法弾は茶色のボールに命中して、、茶色の閃光とともに爆発が、――起きなかった。
バァンと音が鳴ったものの、それくらいだったら何かの音響かと思われた。
パチパチパチパチ!
ゆえに、それもパフォーマンスだと思って、拍手が起こった。
「衝撃をかきけす魔法弾。精度があがってるね」
マニィは素直に称賛する。
素直なのが少し気味が悪い。
「とっさにやっただけ……迂闊に撃ったら、天井に穴が空くかもしれないから」
「うん、これだったら損害賠償も結構減るんじゃないかな」
「あ、それいいわね!」
明るい話題に、カナミの顔が明るくなる。
「でも、今はそれよりあいつを損害ゼロで倒さないと!!」
「カカカッ! やれるものならやってみろってんだ! ああ、ついでにいいことを一つ教えてやるぜ!!」
「何よ!?」
「俺が持ってる爆弾はこれが最後の一つだ!!」
ゴブマツリンは白色のボールを見せて言う。
「え!?」
「カカカッ! どうだ、いいことだろう!!」
「なんで、わざわざそんなこと教えてくれるのよ!? 罠のつもり!?」
「カカカ、駆け引きなんかじゃねえ!! これで盛り上がるってモンだろぉッ!?」
「盛り上がるって、そんなことのために!!」
「祭りはそれが全てだろがぁッ!!」
ゴブマツリンは鳴子を振るう。
カラカラカラ!
鳴子とステッキがぶつかる度に、鳴子の音が鳴り響く。
「お?」「お!」「おお!?」「おおぉッ!!?」
鳴り響く度に、驚嘆と歓喜の歓声が渡る。
学園祭のステージにしてはやたら迫力がある。
見物人はすっかり見入り始めてきた。
「仕込みステッキ・ピンゾロの半!」
カナミはステッキの刃を一閃振り抜く。
カラカラカラ!
斬られた鳴子は宙を舞う。
パチパチパチ!
カナミの見事な斬撃に、見物人は拍手が送られる。
本当ならそれに対して応えたいけど、今はそれどころじゃなかった。
「カカカ! やるな!! こうなったら、こいつで!!」
ゴブマツリンは、鳴子を斬られて空いた手から白色のボールを取り出す。
「今です!」
カナミは合図のような号令をかける。
「ノーブル・スティンガー!!」
不意に客席から飛び込んできたスイカが光の矢を想わせる突きを繰り出される。
「ガアアアアアッ!!」
ゴブマツリンの手を的確に突いて悲鳴を上げる。
その衝撃によって、ボールは宙を舞う。
宙を舞ったボールに、ワイヤーが巻き付かれる。
そのワイヤーはヨーヨーのものだった。
ワイヤーによって、ボールを手元に手繰り寄せる。
「いただいたわ!」
体育館のキャットウォークに立つミアは戦利品のようにボールを掲げる。
さらにそれをスポットライトがあてるものだから、いやがおうにも注目を浴びる。
そのボールが意味するところは見物人には伝わらないものの、なんらかのパフォーマンスで取り合いをして、掴み取ったものだとまでは解釈できる。
パチパチパチ!
何が起きているのかよくわからないけど、見事なパーフォマンスだと見物人達は直感して拍手を起こる。
「これでいいのか?」
「上出来だ」
スポットライトを操作したのはヨロズで、あてるタイミングを指示したのはメンコ姫だった。
「本当なら舞台に降りて、戦いところだが」
「オラ達は怪人。本来ならあのゴブマツリンとやらに加勢する立場だ。だからこそ今回は裏方に徹するのが落としどころだ」
「……そうか、そういうものか」
メンコ姫は諭されて、ヨロズは納得する。
「さあ、これで爆弾はなくなったわ!!」
舞台でカナミは、ゴブマツリンへ指差す。
「カカカッ! やってくれたぜ!!」
ゴブマツリンは爆弾を失って、追い詰められたというのに、相変わらず愉快そうに高笑いしている。
まだ何か魔法があるのか、と、カナミは警戒する。
「どうして、笑ってられるの!?」
「楽しいからに決まってるだろ!? 祭りらしく盛り上がったじゃねえか!?」
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「それが全てだぜ、カカカッ!!」
ゴブマツリンは悪びれもせず、堂々と言い放つ。
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「スイカさん!」
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スイカはレイピアを構える。
「カカカ! さあ来い!!」
ゴブマツリンは鳴子を構える。
カラカラ!
カナミのステッキとスイカのレイピアを、ゴブマツリンは両手の鳴子を受け止める。
キィン! カラカラ! キィン! カラカラ!!
刃の金属音と鳴子の音が鳴り響く。
それが剣戟のアクションに迫力を与えていた。
おかげでこの舞台は大いに盛り上がった。
戦いの方は、カナミとスイカの二人がかりで戦っているおかげで、徐々に追い詰めていく。
ザシュ!!
そこから、隙を見つけてカナミはゴブマツリンの身体を斬り裂く。
「ガギャアッ!?」
ゴブマツリンは悲鳴を上げる。
その斬られたゴブマツリンの身体の中身は空洞でスカスカになっているのが見えた。
「今です、スイカさん!!」
「ええ!」
カナミの号令を受けて、スイカは必殺の一撃を放つ体勢に入る。
「カカカカ!! 来いよ!!」
それを察したゴブマツリンは堂々と受ける体勢を取る。
「ワイルド・スティンガー!!!」
スイカの懇親の一撃を放って、ゴブマツリンの腹に風穴を空けて吹っ飛ぶ。
「カカカカカカカッ!! 見事だったぜええええッ!!」
ゴブマツリンの哄笑が響き渡り、最後には吹っ飛んで、舞台を転がっていく。
そして動かくなり、光の粒になって消えていく。
「「「おおおおおおおおおおおッ!!」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
見事な技を決めたスイカに見物人は大歓声を上げ、大拍手を送る。
「どうもありがとうございます!」
壇上のカナミとスイカは一礼して、緞帳が降りていく。
「まったく世話が焼けるわね」
ミアはぼやく。
彼女が緞帳の捜査やスポットライトを指示して、舞台を盛り上げてくれた。
「ありがとうね、ミアちゃん。おかげでなんとかごまかせたわ」
スイカはお礼を言う。
「スイカさんもありがとうございます。いいタイミングで出てくれました」
「ううん、すぐ駆けつけてこれなくてごめんなさい」
「どうして謝るんですかスイカさんは?」
カナミは笑って訊く。
「本当に、どうしてなのかしらね、フフフ」
怪人を倒せて、学園祭は中止になることなく盛り上がって、スイカは安心して笑い合うことができた。
「一件落着か」
そこへヨロズとメンコ姫がやってくる。
「あ、ヨロズにメンコちゃん! 今回はありがとうね!」
「気にするな、いい経験になった」
ヨロズは殊勝な態度で言う。
「それに祭りを楽しませてもらった」
「アハハ、メンコちゃん楽しんでたね。ヨロズは楽しかった?」
「……さあ、わからない」
ヨロズはそれだけ答える。
その表情は上機嫌でも不機嫌でもなく、ただいつもの無表情だった。
ヨロズとメンコ姫はそのまま帰ることにした。
自分達のような怪人がいるとまた余計なことが起きるかもしれない、とメンコ姫は言った。
「気を使わせてしまってごめんなさい」とスイカは謝ったけど、メンコ姫は「気にすることはない、オラ達怪人はそういうものだ」と答えた。
日が暮れ始めて、生徒達が出し物の片付けを始めた頃、かなみ達は帰ることにした。
「今日は大変でしたけど、楽しかったです」
かなみは翠華にそう言った。
「もっとゆっくり楽しんでいければよかったのに」
「怪人が現れたからしょうがないですよ。それに爆弾とか被害ゼロでよかったです」
「ああいう騒動も祭りの一環ってね。かえって盛り上がったんじゃない」
みあがそう言うと、翠華の気持ちは少し軽くなる。
「今日は楽しかったです。本当に、本当に、」
紫織は言う。
「私もみんなが来てくれて楽しかったわ」
「何の出し物をするか黙ってたけどね」
みあにそう言われて、かなみと翠華は揃ってビクッとなる。
「あ、あれは……ごめんなさい」
「す、翠華さんは悪くないんです。悪いのはお化けです!」
「とんでもない責任転嫁ね」
みあはかなみへ言う。
「でも、翠華さんの雪女は素敵でしたよ!」
「そ、そう……!」
翠華は、本物の雪女だったら溶けて無くなりそうなくらい顔を真っ赤にする。
「……かなみさんってああいうのが好きなのかしらね……それだったらたまにはその方向でアタックすれば、あるいは……!」
翠華はかなみ達に聞こえないくらいの小声で何か言い出す。
「翠華さん、どうかしたの?」
「ああいうのは耳をふさぐのがいいわよ」
みあはかなみへ助言する。
どうして、みあがそんな事言うのか、かなみにはわからない。ただの善意ということくらいしか。
「まあ、後片付けで忙しいからさっさと帰ろう」
「そうですね。それじゃ翠華さん、さようなら!」
「え? あ!?」
翠華がそう言われて気がつくと、かなみ、みあ、紫織の三人はもう手を振って帰りそうだった。
(もうちょっとお話したかったけど……)
まだ名残り惜しいけど、みあが言う通りまだ忙しいのは事実。翠華は手を振って見送った。
「可愛いわね、あの娘達」
「はい。今日は楽しんでもらってよかったです。――って、会長!?」
いつの間にか、傍らに望月藍花が立っていた。
「どうしてここに?」
「青木さんを呼びに来たのだけど、ちょうどいい場面に出くわしてね、フフフ」
藍花は上品に笑う。
翠華はこの会長はどこか計り知れない部分があって、こうした話をするときはついつい緊張してしまう。
「それとお礼を言いそびれてしまったわね」
「お礼?」
「爆弾騒ぎ……生徒や先生方は花火だと思ってたみたいだけど」
「え、そ、そうなのですか……」
「よくわからないけど、青木さん達がなんとかしてくれたみたいね」
「い、いえいえ、私達は特に何も……」
爆弾騒ぎを起こしたのは怪人で、自分達は魔法でなんとかしたなんて、話せないし、そもそもこんな話、一般人の藍花には信じてもらえないだろう。
「ありがとう」
「………………」
しかし、そう言われて、感謝を無碍にごまかす器用さは翠華には無かった。
「あの娘達にもお礼を言いたかったのにね」
藍花は残念そうに言う。
しかし、翠華はつい勘ぐってしまう。どうにもお礼を言うことだけが目的には思えなかった。
「私から伝えておきます」
「そう」
翠華がそう言うと、藍花はそれだけ答える。
「ところで、かなみさんのことなのだけど」
「かなみさんのことですか?」
「そう、かなみさんね。かなみさんはウチを受けるの?」
「え、そ、それは……わかりません……か、かなみさんは、ま、まだ中学二年生ですから!」
「二年生だったの。それでは彼女が入学する頃には私達は卒業ね」
「そうですね。それは残念ですね」
「フフフ」
藍花は急に笑い出して、翠華は驚く。
「本当に残念そうに言うのね」
「え、そ、そうですか……」
翠華には自覚が無かった。
「私も一緒に学校が通えないのは残念だけど、また会えるといいわね、フフフ」
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「あ、はい!」
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ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
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