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第一章:憂鬱なる入門
レディース総長・直美
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*** 6月の中頃 ***
深夜、純一たちは、いつもとはちょっと離れた街までやって来ていた。どこという目的もなく単車を飛ばし、なんとなくたどり着いた先のコンビニ前で、たむろしていたのだった。
黒の特攻服で揃え、特にやることもなく、うだうだと、ただただ時間を過ごす男子4人の集団。仲間うちで荒い言葉遣いで大声でしゃべっている。
大きな力を抱えながらも、どこかにそのぶつけどころを探して彷徨っている、探し方さえ見つけ出せてない、あえて表現するとそんな感じであろうか。
4人は歩道を占拠している。店舗にも通行人にも、どう見ても迷惑を与えており、傍から見ると避けて通り過ごしたくなる光景。
そこを、まったく物おじが見られない、女子4、5人の集団が近づいて来た。すぐそばまでやってきた女子たち、そこで立ち止まる。
何か目的を持っていそうだ。
先頭を歩いていた女が純一たちに向かって静かに言い放った。
「邪魔!」
体格が良さそうで眼光が鋭いその女、かなりの度胸を持っていそうに見える。
純一が睨む。
「うっせぇ、女は引っ込んでろ。」
「邪魔で歩けねえって、言ってるんだよ。お前がここのリーダーかよ?」
女の強気さが予想外であり、純一は立ち上がって、睨みを利かし始める。
「おいよぉ、姉ちゃんよぉ、女だからって調子こいてんじゃねえぞ、こらぁ!女は引っ込んでろ!」
しかし、女は純一相手に、まったく引かない。
「お前、わたしにタイマン張る勇気ある?」
どうも最初から、純一たちを見つけ、潰すために近づいてきたと見受けられる。
「なんだぁ、こらぁ、この女!」
純一と女が、正面から睨み合う。
「お前、ほんとうに本気なの?」
「は? なんだよ、本気って?」
「お前は、わたしに勝つつもりなのかって、聞いてんの」
「なに言ってんだ、こらぁ。女のくせに、舐めた口きいてんじゃねえぞ。」
「ほぉ、じゃ、本気でやっちまってもいいってことだよな。」
「お前、男に勝つつもりなのかよ? こらぁ。この、なかよし女子チームのリーダーさんよぉ。」
女にすっかり、スイッチが入ったようだ。
「ずいぶんバカにしてくれるじゃん。上等じゃねぇかよ。」
「おぉお、威勢のいい姉ちゃんだわ。」
「じゃあ、わたしが負けたら、うちのなかよし女子チームを解散してやるよ。お前は何を賭けるんだ?」
「俺が女なんぞに、負けるはずねえだろがぁ。もし負けたら、俺たち全員、お前のチームに入って、お前の手下で働いてやるよ。」
純一の言葉に、思わず女は笑ってしまい、仲間の女子たちに話しかける。
「沙紀ぃ、こいつ、うちのメンバーになりたいらしいよぉ。」
女子の1人は沙紀といい、副リーダーらしい。
「はははっ、笑うねぇ。いいじゃん、そんなに入りたいんなら、入れてやったら?」
「こいつらが役に立つかわかんないけど、男どもを働かせるのも、おもしろいかもしれないね。」
純一の怒りは最高潮に達していた。
「じゃ、やろうぜ。女だからって、容赦しねぇからな、おらぁ!」
「そりゃ、こっちのセリフだよ。」
「お前、タイマンってわかってんのかよ?一対一だぞ。そこの周りの女どもに、手を出させんなよ。」
横から沙紀が口をはさむ。
「おいっ、直美がそんなこと、するわけないだろが、おらぁ!」
───……、えっ?、……直美?
一瞬で純一も仲間も凍り付いた。
───直美って、まさか?この女……、あの鬼女の直美のこと?
鬼女の噂は純一も知っていた。
最近のこの地域のレディースの抗争で、最も勢力を伸ばしているのが結成されたばかりのレディースであり、その名が鬼女だということ。
その総長が直美といい、紅葉商業高の女子、しかも1年生であること。
直美はかなりの武闘派であり、いつも総長どうしの真正面からの勝負を仕掛けており、悉く勝利を収めていること。
抗争相手は女だけに留まらず、男を相手にしてもまったく引けをとらず、むしろ圧倒していること
---目の前のなかよし女子チームが鬼女。で、この女が、あの噂の総長・直美であったとは...。
たじろむ純一の様子に、沙紀が気付いたようだ。
「直美ぃ、こいつちょっと、びびってるっぽいよぉ。」
図星であった。純一はかなり動揺していた。
実は、かつて純一とやりあい互角に渡り合った白藤工業高の達彦も、直美の前に押されてしまった、との噂も聞いていた。
---あの達彦を、この女は、既に押してしまっているとは。噂通りの実力だとまったく分が悪い。
直美が口を開く。
「だいたい、お前さぁ、どこのどいつなの?ぜんぜん知らないんだけど。」
後ろにいた、別な女子が話している。
「総長、わたしこいつ、知ってます。こいつ、桐南高の純一です。」
「ふぅん。聞かねぇなぁ。」
沙紀がしゃべる。
「紗耶香、おまえ、なんで知ってるの?」
「はい、わたしの中学の同期です。」
「なるほど、じゃぁこいつ、2つも上の先輩なんじゃん。」
---紗耶香?そっか、中学の同期にいた、あの紗耶香か。
見ると、たしかに紗耶香だ。紗耶香がこの中にいたことに、純一はいま気付いた。雰囲気からして、紗耶香はこの、直美と沙紀の配下にいるようだ。
---2つ下の下級生の手下で働いてるとはな。
---しかし、もしここで自分が負けたら、同じ立場?しかも、男の自分が、年下女子の配下になるってことか?
純一に緊張と不安が沸いてきた。このままダッシュで逃げてしまって姿をくらますことも考えた。が、男として女を前に逃げることは、当時の純一のプライドが許さなかった。
---いや、自分だってそこそこの自信はある。女にそう簡単に、負けるはずがない。やってやるしかない。
純一は平静を装い、告げる。
「じゃ、そこの河川敷まで、来いよ」
直美はすっかり、余裕を食って付いて来ている。
「は~い、先輩のあとに、ついて行きま~す。」
深夜、純一たちは、いつもとはちょっと離れた街までやって来ていた。どこという目的もなく単車を飛ばし、なんとなくたどり着いた先のコンビニ前で、たむろしていたのだった。
黒の特攻服で揃え、特にやることもなく、うだうだと、ただただ時間を過ごす男子4人の集団。仲間うちで荒い言葉遣いで大声でしゃべっている。
大きな力を抱えながらも、どこかにそのぶつけどころを探して彷徨っている、探し方さえ見つけ出せてない、あえて表現するとそんな感じであろうか。
4人は歩道を占拠している。店舗にも通行人にも、どう見ても迷惑を与えており、傍から見ると避けて通り過ごしたくなる光景。
そこを、まったく物おじが見られない、女子4、5人の集団が近づいて来た。すぐそばまでやってきた女子たち、そこで立ち止まる。
何か目的を持っていそうだ。
先頭を歩いていた女が純一たちに向かって静かに言い放った。
「邪魔!」
体格が良さそうで眼光が鋭いその女、かなりの度胸を持っていそうに見える。
純一が睨む。
「うっせぇ、女は引っ込んでろ。」
「邪魔で歩けねえって、言ってるんだよ。お前がここのリーダーかよ?」
女の強気さが予想外であり、純一は立ち上がって、睨みを利かし始める。
「おいよぉ、姉ちゃんよぉ、女だからって調子こいてんじゃねえぞ、こらぁ!女は引っ込んでろ!」
しかし、女は純一相手に、まったく引かない。
「お前、わたしにタイマン張る勇気ある?」
どうも最初から、純一たちを見つけ、潰すために近づいてきたと見受けられる。
「なんだぁ、こらぁ、この女!」
純一と女が、正面から睨み合う。
「お前、ほんとうに本気なの?」
「は? なんだよ、本気って?」
「お前は、わたしに勝つつもりなのかって、聞いてんの」
「なに言ってんだ、こらぁ。女のくせに、舐めた口きいてんじゃねえぞ。」
「ほぉ、じゃ、本気でやっちまってもいいってことだよな。」
「お前、男に勝つつもりなのかよ? こらぁ。この、なかよし女子チームのリーダーさんよぉ。」
女にすっかり、スイッチが入ったようだ。
「ずいぶんバカにしてくれるじゃん。上等じゃねぇかよ。」
「おぉお、威勢のいい姉ちゃんだわ。」
「じゃあ、わたしが負けたら、うちのなかよし女子チームを解散してやるよ。お前は何を賭けるんだ?」
「俺が女なんぞに、負けるはずねえだろがぁ。もし負けたら、俺たち全員、お前のチームに入って、お前の手下で働いてやるよ。」
純一の言葉に、思わず女は笑ってしまい、仲間の女子たちに話しかける。
「沙紀ぃ、こいつ、うちのメンバーになりたいらしいよぉ。」
女子の1人は沙紀といい、副リーダーらしい。
「はははっ、笑うねぇ。いいじゃん、そんなに入りたいんなら、入れてやったら?」
「こいつらが役に立つかわかんないけど、男どもを働かせるのも、おもしろいかもしれないね。」
純一の怒りは最高潮に達していた。
「じゃ、やろうぜ。女だからって、容赦しねぇからな、おらぁ!」
「そりゃ、こっちのセリフだよ。」
「お前、タイマンってわかってんのかよ?一対一だぞ。そこの周りの女どもに、手を出させんなよ。」
横から沙紀が口をはさむ。
「おいっ、直美がそんなこと、するわけないだろが、おらぁ!」
───……、えっ?、……直美?
一瞬で純一も仲間も凍り付いた。
───直美って、まさか?この女……、あの鬼女の直美のこと?
鬼女の噂は純一も知っていた。
最近のこの地域のレディースの抗争で、最も勢力を伸ばしているのが結成されたばかりのレディースであり、その名が鬼女だということ。
その総長が直美といい、紅葉商業高の女子、しかも1年生であること。
直美はかなりの武闘派であり、いつも総長どうしの真正面からの勝負を仕掛けており、悉く勝利を収めていること。
抗争相手は女だけに留まらず、男を相手にしてもまったく引けをとらず、むしろ圧倒していること
---目の前のなかよし女子チームが鬼女。で、この女が、あの噂の総長・直美であったとは...。
たじろむ純一の様子に、沙紀が気付いたようだ。
「直美ぃ、こいつちょっと、びびってるっぽいよぉ。」
図星であった。純一はかなり動揺していた。
実は、かつて純一とやりあい互角に渡り合った白藤工業高の達彦も、直美の前に押されてしまった、との噂も聞いていた。
---あの達彦を、この女は、既に押してしまっているとは。噂通りの実力だとまったく分が悪い。
直美が口を開く。
「だいたい、お前さぁ、どこのどいつなの?ぜんぜん知らないんだけど。」
後ろにいた、別な女子が話している。
「総長、わたしこいつ、知ってます。こいつ、桐南高の純一です。」
「ふぅん。聞かねぇなぁ。」
沙紀がしゃべる。
「紗耶香、おまえ、なんで知ってるの?」
「はい、わたしの中学の同期です。」
「なるほど、じゃぁこいつ、2つも上の先輩なんじゃん。」
---紗耶香?そっか、中学の同期にいた、あの紗耶香か。
見ると、たしかに紗耶香だ。紗耶香がこの中にいたことに、純一はいま気付いた。雰囲気からして、紗耶香はこの、直美と沙紀の配下にいるようだ。
---2つ下の下級生の手下で働いてるとはな。
---しかし、もしここで自分が負けたら、同じ立場?しかも、男の自分が、年下女子の配下になるってことか?
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---いや、自分だってそこそこの自信はある。女にそう簡単に、負けるはずがない。やってやるしかない。
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