憎き世界のイデアゼム

志賀野 崇

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3話『わがまま』

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「同盟?」
 俺の言葉にナザレアは、コクコクと頷いた。
「そうそう。同盟。まぁ、カンタンに言えば共同戦線だよ。僕達を除いた23人が全滅するまでのね」
「初対面の奴に背を預けろと?」
「まぁ、そうなるよね。もちろん、ただでとは言わないさ」
 そう言ったナザレアは、死骸を指差す。
「とりあえず、前払いにここにある全ての死骸を君にあげるよ。これだけあれば物凄いエネルギーが採取できると思うけどね? それだけじゃない。これからも手にかけた獲物の六割を君に譲渡しようじゃないか。そして、君は代わりに僕と最後の二人となるまで共闘する。悪い話じゃないだろ?」
 まぁ、悪い話じゃないが、相手がこいつだから信用できん。そもそもコイツじゃなくても、初対面でこの話は飲めない。
 と、正直なところそう思ったが、今は無言に徹して奴が他にも何かしゃべらないか待つとしよう。
「うーむ。無反応かい。寂しいねぇ。まぁ、仕方がないと言えば仕方がないね。敵の可能性が濃厚な人物にいきなりこうも迫られては警戒するも当たり前か……」
 と、その時、不意に何処からかすすり泣くような声が聞こえてくる。
 見ると死骸の山の一角で、山から父親らしき人物を引きずり出し抱きしめている少女の姿がある。
「ほぅ。生き残りかね……。良いことを思いついたぞ」
 そう言ったナザレアは、俺の通り越しゆっくりと少女に近づく。
 すると、彼女はナザレアに気がつき怯えた様子でナイフを構える。その仕草はあまりにも不慣れなもので、十にもならない彼女の手にその刃物は大きすぎるものだった。
「更に条件をつけようじゃないかアレイヤ君。今から君に僕の能力を見せることにするよ。対能力者戦において相手の能力を知っているというのはかなり有利になると思うんだがね?」
「……」
「交渉成立ということでいいかな?」
 言うなり、彼は死亡している少女の父親に手をかざした。
 その瞬間、父親の死骸がビクリと跳ね上がり、ゆっくりと起き上がる。
「……お父さん?」
 震えた声を漏らす彼女。
 その声に反応した父親は、彼女の方を見ると突然その首を掴んだ。
「っ!?」
 目を見開きもがく彼女と、血涙を吹き出しながら首をしめる死骸。
 ナザレアは、ケラケラと笑う。
「愉快! 実に愉快だよ! さぁどうする少女よ! 君が殺されるが先か、それとも君がそのナイフで父親を刺すが先か! 実に興味深い話だよ!」
 体を抱きしめて、興奮に悶えるナザレア。
 彼はグリンとこちらに首を回すと、ニンマリと笑う。
「僕の能力はね。致死毒性と即効性の極めて強いウィルスの散布。射程なら自由にコントロールも可能でね。更にウィルスで死亡した対象をしばらくの間、ゾンビとして自由に使役できーーーー」
 そこまで口にしたナザレアだったが、彼がそれ以上声を漏らすことはなかった。
 首から上が無くなったナザレアは、激しい血しぶきの代わりに黒い煙を吹き出しながら、ふらつきその場に倒れた。
 彼の声が消えると同時に首を締めていた父親が再び地に伏せる。
 激しく咳き込みその場に崩れる少女。
 俺は、ブラックホールで消しとばしたナザレアの首を踏み潰す。
「胸糞悪いやり方しやがる……やるなら、こうやってサクッとやれよ」
 そう言った俺は、咳き込み続ける少女を一瞬にして重力で押し潰した。
 俺は、舞い散る血しぶきとナザレアの死骸を眺め小さく呟いた。

「俺はなぁ……自分は好きに悪意を振りまくが、他人の悪意は許さないわがままなんでね」

 俺はその場にある全ての死骸とナザレアの骸からエネルギーを採取し、足早にその場を立ち去った。

 あと、23人。
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