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「第二章 夢の学園ライフ」

18ーレッツパーティー!

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「アリーシャ=ベルゼウスーーただいま帰りました!」

ファンファーレが鳴り響く城。ベルゼウス国初のガーレスト学園入学者の誕生に沸いていた。

受験者数約1500人。その中で入学出来るのは、特別科20名。普通科60名。魔法科、武術科それぞれ20名。

1500/100の狭き門を潜り抜けた三人は、国を背負う若き英雄。小国のベルゼウスにとっては、躍進の希望となっていた。

「王女様、おめでとうございます!」
「今日はとびきりの宴会を用意しておりますからね!」
「王女様はベルゼウスの希望です!」
「エミリーも良くやった! さすが勇者だ!」
「ルーク様なら合格出来ると思っていました!」

アリーシャ達の合格に盛り上がりを見せるベルゼウス城。すでに酒を飲んで祝う者までおり、いつまでも宴会が開かれそうな気配まで見える。

「よう帰ったアリーシャ。エミリーとルークもご苦労だった」
「おかえなさい。みんなよく頑張ったわね……」
「はい、ありがとうございます! アリーシャは頑張りましたよ! お父様、お母様♪」

アリーシャと従者二人の凱旋に涙目で喜ぶ王妃。一方、ベルゼウス王は硬い表情でアリーシャを見つめ、何かを我慢しているように見える。

「どうしたのですか? お父様……」
「まったく……ベルゼウス王! もっと言う事があるでしょ!」
「わかっとる……わかっとるんだ!!」

王妃にせっつかれ、ベルゼウス王の何かが弾けた。

「あのアリーシャが……私の娘が……世界一の学園に! なんという快挙。これで国連加盟への足掛かりとなろう。国としてこんなに喜ばしい事はない! ないが……アリーシャが行ってしまうと思うとっ!! 素直に喜べんのだーっ!! ううっっ」
「お父様……」
「あなたが合格したって知らせを聞いてから、ずっとこの調子なのよ……情けない王様よね」

喜びと悲しみが同時に押し寄せたベルゼウス王の涙腺は、崩壊しっぱなしになっていたようだ。

思いがけない娘の巣立ちの時。いつかは旅立つと分かっていても、中々受け入れられないものなのだろう。

アリーシャはベルゼウス王を慰めながらも、旅立ちの準備に追われていく。

国民への挨拶。公族や貴族の訪問対応。
旅立つその日まで、やる事は沢山あった。

国民への挨拶では、それまで公の場へ姿を現さなかった第一王女の登場に国民はざわめき、

『みんな! 行ってくる♪』

なんてかましたところ、最強に可愛い王女様に国民達は、メロメロ状態で大歓声を上げて門出を祝った。

その後も忙しい日々は過ぎ、季節は春を迎えた頃。
いよいよ、アリーシャの旅立ちの日がやってきたーー

「では、行って参ります!」
「ああ、行って……ううっっ」
「もう、しょうがない王様ねっ! アリーシャ、楽しんでらっ……ううっっ」
「「王女様、行って……ううっっ」」
「あらら……」

ベルゼウス王のみならず、王妃や城中の者達まで泣きだしてしまった別れの時。その光景に、少し可哀想になってしまったアリーシャだったが、尾を引いてはいられない。

「私、頑張ってくるからね! みんな元気で待っててよね!」
「ううっっ……エミリー、ルーク。アリーシャを頼んだぞ……」
「「はっ! 命に換えましても!!」」

馬車に乗り込みベルゼウス城を後にするアリーシャ達。
向かうは、世界一の教育機関。
そして猛者の巣窟ーー国連立ガーレスト学園へ。

大陸の南西に位置するベルゼウス国から北東へ馬車で移動する事一週間。大陸のほぼ中央に位置するガーレスト学園にたどり着いたアリーシャ達。

このガーレスト学園は、国連にてどの国も干渉不可を言い渡されており、破れば国連に加盟する各国から火の玉が飛んでくると言われている。

大切に護られている機関だけあり、その影響力は小国を軽く凌ぐだろう。卒業生には国連理事だけではなく、世界の重鎮達が名を連ねているのだ。

在校生にはそんな人物達の令嬢や令息が在籍し、アリーシャのように王族も数多く在籍している。

しかし、どんなに偉い人物の子供であろうが、学園に在学中は一生徒に過ぎず、そこに差はない。

どんなに偉い人物の子供でも、身の回りの事や何から何まで一人でやる事が決められている。だから寮への荷卸しも、自らやる事になっていた。


「重い~っ! ふんぬーっ!」
「アリーシャ様! そんな事は私がやります!」
「師匠は黙って僕らを使えばいい」

入寮するために持ってきた沢山の荷物を一人で運ぼうと頑張るアリーシャ。勿論、雑用など主君にさせる訳にはいかないと、従者二人は止めるのだが……。

「一人でやるのっ! 今の私は護られるだけの姫様じゃなくて、ただの学生! だから一人でやるっ! ふんぬーっっ!!!!」

一人で頑張ろうとするアリーシャ。そんな姿を見た従者二人は、なんだか可笑しくなり、顔を見合わせて苦笑いを浮かべていた。

「だったら……従者としてではなく、一人の"友"として手伝わせて下さい」
「友達なら手伝うもの。文句は言わせない」
「二人とも……うん♪ そうだよね! ありがとね、エミリー、ルーク! あっ、私も二人の荷物運ぶからね!」
「私達は着替えと刀しかないので大丈夫です」
「こんなに荷物があるのは師匠だけ」
「うぐっ! ご、ごめんね~」

(可愛いからって、ぬいぐるみとか小物とか持ってきずきた……)

ありがたい二人の気遣いに感動していたアリーシャだが、そもそも荷物を持ってき過ぎた事に後悔していた。

アリーシャ達が入寮する寮は『グローリー寮』と言い、受験の時に見た最初の寮だ。

主に一年生達が入寮する寮であり、特別科、一般科、専門科で階が別れている。因みに特別科の階は、一番上の四階だった。

「おもいぃーっっ!!」
「なんのごれじぎっっ!!」
「これも修行の一貫と思えばっっ」

重い荷物を最上階まで運ぶのは一苦労だ。階段しかない所で引っ越し作業をした者なら大変さが分かるだろう。

その後、なんとか大量の荷物を自室に運び終わったアリーシャは、休憩がてらにベッドの端に座りつつ、これから袖を通す制服を眺めニヤニヤしていた。

(これが新しい制服♪ 可愛いな~♪)

白いジャケットにはピンク色のラインが装飾してあり、ワッペンにはガーレスト学園のシンボルとなる最強の生物ドラゴンが刺繍されている。

中に着る薄い青のブラウスは、赤とピンクの二種類のリボンが装着可能。白いスカートには、ジャケットと合わせたピンク色のラインが入っている。

(これを着ていよいよ学園生活が始まるのか……ちょっと不安だけど、楽しみには勝てんっ!)

いよいよ始まる学園生活。新品の制服に身を包んだアリーシャは、数十分後に行われる入学式に挑んでいくーー


「新入生の皆様、御入学おめでとうございます!」

在校生からの拍手を受けながら入場する新入生達。
入学式には親達の姿はなく、200名あまりの在校生達が春を祝う。

そもそも各国の貴族や王族の娘や息子達が入学するガーレスト学園で、親達の参加を許可すれば要らぬ争いが起こるのは間違いない。

新入生達も親達の思惑とは無縁な環境で祝ってもらった方が幸せである。

「では、学園長のイザベラ様からのご挨拶です!」
「新入生の皆様。御入学おめでとう」

司会から紹介されたブロンドの髪を靡かせて登場したうら若き女性。その若さからとても学園長とは思えぬが、溢れでる聡明さはさすがであった。

「世界一のガーレスト学園を父から任されて三年目。私が来てから最初の一年生が卒業する年でもあります。在校生の皆様は私がどんな教育方針か知っていると思いますが……ああ、もう無理」
「いや、学園長! もう少し頑張って下さい!」
「うっさい! 堅苦しい挨拶はなし! 今日は新しい春を祝って宴会よ! レッツパーティーピーポーッッ!!」
「「おおっっー! 待ってました!」」
「はあぁっ、またこれか……」

前言撤回。ちょっと馬鹿なのかもしれない。

騒ぎ出す生徒を引き連れパーティー会場へ向かう学園長。新入生は困惑気味に着いていくしかなかった。

その光景を、薄い頭を抱えタメ息混じりで項垂れる初老の男性。多分教頭あたりなのだろう。

(なんか思ってた入学式と違う……あっ、エミリーとルークだ!)

「エミリー! ルーク!」
「アリーシャ様! なんだか可笑しな入学式ですね。堅苦しくなくて良いですが」
「あの学園長と師匠の絡みが楽しみです。今度は見せて下さいね」
「世界一っていうから、もっと厳かな感じだと思ったよ。でも、楽しそうな学校で良かった♪ レッツパーティー!」

肩の力が抜け、緊張した表情が笑みに変わったアリーシャ。和やかな雰囲気に、思ったより楽しそうな学園生活が始まるのだと思っていた。

しかし、そんな和やかさは幻想だったと後に気づく事になる。

特に猛者達の巣窟である特別科で、その猛者達と机を並べる事がどんなに大変か、この時はまだ知るよしもなかった……。
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