ある日、嫌われていた王子の心の声が私だけに聞こえてきたら〜嫌われ王子は超ツンデレ!恥ずかしいから顔見て好きって連呼しないで!〜

瑞沢ゆう

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04『お呼びでないのですけど……』

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 混沌カオスの給仕を気合いで乗り切った私は、部屋に戻りお母様を問いただす事にした。

「どういう事なのお母様っ!?」
「あらまぁ、忙しない子ね。戻って早々なにかしら?」

「聞こえたの! フー様の声が!」
「フー様ってフレデリック殿下の事かしら?」

「そうそう! 聞こえてきたのよ心の声! なんで二人!? 私の運命の人はどっち!?」
「少し落ち着きなさい」

 焦っていた私に水の入ったコップを差し出すお母様。色々あって丁度喉が渇いていた私は、それをゴクゴクと飲み干した。

「ふぅぅ……ありがとうお母様、少し落ち着いてきた」
「それは良かったわぁ。それで、フレデリック殿下のお心まで聞こえてきてしまったのよね?」

「そう! 一体どういう事なの?」
「あらあら、まさかこんなに早く二人目が現れるなんて、お母様も予想外だわぁ」

「二人目って、どういう事?」
「運命の人は一人だけど、候補は二人なの。どちらかと結ばれればもう一人の声は聞こえなくなる。選ぶのはアリアちゃんよ」

 そんなのって……。

「フー様の一択じゃない!」
「あら、そんなに早く決めて良いの? 良く考えて決めないと、後悔しちゃうわよ?」

「だって、ライル様は口も悪くて意地悪だけど、フー様は優しくて周囲からも好かれてるし……」
「アリアちゃんの気持ちはどうなの? フレデリック殿下が、心の底から好き? フレデリック様のためになんでも出来る?」

 そう言われると……。

「分からない……」
「なら、もう少し二人と関係を築いてから決めなさい。本当に好きなのがどちらなのか、アリアちゃんの気持ちを確かめなきゃ」

「分かったわ、お母様」

 お母様にアドバイスを貰い気持ちを落ち着かせた私は、青天の霹靂だった一日を無事に終える事ができた。

 そして次の日、私はお父様の事で話があるとフー様に呼ばれ、応接室に向かっていた。

「アリア、参上致しました」
「来てくれてありがとうね、アリアちゃん」

 うんうん、これこれ。
 優しさが体の中まで染み渡る。

「さあ、座って」
「失礼します。それで、お父様の件でお話とは……」

 私が話を振ると、フー様の表情が固くなった。なにか嫌な予感がする。

「それがね……どうやら、お父上の処刑を早める動きがあったようだ。今の所は僕が食い止めているが、いつまで保つか分からない」
「そんな……」

 まだ何も出来ていないのに、一体どうしたら……。

「それで提案があるんだが」
「提案ですか……?」

「うん、僕と一緒にお父上の事件を調べてみないかい?」
「フー様とですか!?」

 それは凄く助かるけど、王子様としての公務は大丈夫なのかしら……。

「安心して。公務は一通り終わらせて、一月ほどは暇があるから」
「だから王宮に居なかったのですね。もしかして、私のために……」

「そんな顔をしないでおくれ。僕はね、ただアリアちゃんの笑顔が見たいだけなんだ」
「フー様……」

 申し訳ない気持ちと、私のために動いてくれているフー様の優しさが嬉しくて、思わず涙が溢れてしまう。

「な、泣かないでおくれ」

 フー様は自分のハンカチで私の涙を拭いながら、優しく抱きしめてくれた。

「少し落ち着いたかい?」
「はい、ありがとうございます」

 少し落ち着いた所で、フー様は先ほどの件を再び話し始めた。

「それでどうかな。僕とお父上の一件を調べてくれるかい?」
「勿論です! 何から何まで本当にありがとうございます。私の方からもお願いします。どうか、お父様の無罪を晴らすためご助力下さい!」

「うん、一緒に頑張ろうね。じゃあ、決まった所で詳細を詰めていこうか」
「はい!」

 その後はフー様と一緒に、どう動いて行くか話を詰めていく。

 その結果、国内だけで事が済む横領事件から調べていく事になった。

「先ずは、旧サウザンド領で今はディミトリー子爵領から調べて行こうか」
「はい! お父様の領地を受け継いだディミトリー子爵が一番怪しいですもんね!」

 ディミトリー子爵とお父様は、特段仲が悪いといった事は聞いた事がない。

 だけど、ケチの付いた領地をわざわざ引き取った点は怪しい。

 放っておけば王領として管理される筈だった領地を引き取るだけの利点があったと、私とフー様は睨んでいる。

「出発は明日。今日は旅支度をしておいてくれ。その間に、暫く居なくなるアリアちゃんの事は僕の方から話をつけておくよ」
「はい! ありがとうございます!」

 よし、明日からフー様と頑張ろう!
 なんて気合いを入れていた時だったーー

「その話、ちょっと待ったぁぁっっ!」

 応接室の扉を乱暴に開けて入って来たのは、眉間に皺を寄せたライル様だった。

「なんだいライル、唐突に」
「たまたま通って話を聞いてみれば……アリアは俺が侍女にしたんだぞ! 俺が呼ばれていないのは何故だ!」

 まあ、それは一理あるかも?

「ライルに話した所で良案が浮かぶとは思えない」
 
 うん、それも一理ある!

「くっ、なんだとっっ」
「それに、王宮の侍女見習いとして雇ったなら、責任者は侍女長だ。その侍女長には、既に話をして許可を貰っている」

 流石フー様、抜け目ない。

「女を連れて旅なんて危険だ!」
「危険もなにも、アリアちゃんは国一番の腕を持つ近衛騎士から一本取る腕の持ち主だぞ。その辺の輩じゃ相手にならないだろ」

 まあね、女剣聖と呼んでくださってもよろしくってよ。

「でもっ、身分がバレたら事件を調べるどころじゃないだろ!」
「ふむ、そこは黒魔術師に頼んで変装魔法を施すさ。兎に角、お前が心配する事はなにもない」

 これはライル様の完敗ね。
 頭の切れるフー様に、不可能はないのよ!

「そこら辺の黒魔術師なんかに任せられるか! だったら、俺も連れて行け! 兄貴だって知ってるだろ! 俺の黒魔術の腕を!」
「お前も一緒にだと……」
「ライル様も一緒に……」

「おいっ! 二人してその不安そうな顔はなんだ!!」

 確かに聞いた事がある。ライル様は闇属性の適性があり、その腕は国一番の実力を持っていると。

 どうしましょう。このままだと、フー様とのウキウキ二人旅が……。
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