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27「地獄の拷問」

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「それで、ミシェルちゃんは何処だ?」
「知らない……」

しらを切るクズ男の股関にそっと足を置いて優しく押し込んでやった。

「ぐっっ、本当に知らないんだ!」
「正直に言わないと失う事になるぞ? 玉をっっ!!」

少し強めに踏んでやると、声にならない呻き声を上げるクズ男。その様子に、俺の玉まで痛くなりそうだ。

「やめでぐれっっ! 僕に何をしてるか分かってるのか!? 僕は大商会の跡取り息子だぞっっ!!」
「知るかそんなもん!!」

親の笠を着て何を威張ってんだコイツ。
大商会の息子だ? だからなんだ。

「だったら俺はな……モンスターの襲撃から村を守って死んだ男と、病弱だけどどこまでも優しかった女の息子だ馬鹿野郎っっ!!」
「エレンさん……」

リリエッタが優しく背中を撫でてくれたお陰で、クズ男の玉を踏み潰すのを抑えられた。

こんな所で終わらしてはダメなんだ。
ちゃんと洗いざらい吐いて貰わないとな。

「今すぐにでも踏み潰すぞ? なんなら本体も取って、大好きな女の子になっちゃうか?」
「ひっっ、それだけは辞めてくれっっ!」

「だったら早く吐けっっ!!」
「うぐっっ……わ、分かった! 喋るから足を退けてくれっっ 」

少し力を込めて圧迫してやると、クズ男は観念したのか、ミシェルについて語り出した。

「ミシェルは多分、奴隷オークションに賭けられて貴族にでも飼われていると思う」
「どういう事ですかそれはっっ!!」

リリエッタの表情が明らかに変わった。こめかみにはピキピキと筋が立ち、今にもクズ男を殺ってしまいそうな雰囲気を出している。

危ないと思った俺は、少しでも落ち着かせるためにリリエッタの手をギュッと、握った。

「ふーっ……そこに至るまでの経緯を教えなさい」

上を見上げ深く息を吐いたリリエッタは、気持ちを抑えつけるように冷静を装っていた。

「ミシェルは、元々僕のパーティーに入っていたハーレム要員だった。男勝りな性格が、その時は新鮮で良いと思ったんだ。くくっ、ベッドの上でも積極的でね! 上に乗っては喘いでいたよ」
「そんな事はどうでも良いの! 何故、奴隷オークションなんかにかけられたか教えなさい!!」

「面倒になった。ただそれだけだよ」
「なんですって……」

「ミシェルが貴族の娘だと知り面倒になったんだ。貴族の娘ってさ、下手に教育を受けているから小賢しいんだよ! ミシェルは他の女の子に余計な事を吹き込んで、僕の元を離れるように仕向けていた! だから、薬で廃人にして奴隷商人に売り払ってやった! 廃人なら足も着かないし、変な事を言う事もないから喜んで買ってくれたよ!!」
「このクズが……」

ワナワナと震えるリリエッタ。
禍々しいそのオーラは、今にも爆発しそうだった。

だが、リリエッタよりも限界だったのは、

「ぐああああぁぁーっっ!!」

俺の方だった。

足を踏み抜き、玉が一つ潰れた感触を足裏に感じる。
股を抑え悶え苦しむクズ男。
これで良く気絶しなかったなと、褒めてやろう。

「ほら、得意の回復で痛みを取ったらどうだ」
「うぐっっ……め、女神の癒し――」

回復スキルを使い痛みと傷を癒すクズ男。
しかし、失くした物は返ってこない。

「ない! 僕の玉が一つ無い!! お前らっっ!! こんな事をしてタダで済むと思うなよ!!」
「ほう、まだ粋がる気力が残ってるんだな……」

こっちを恨めしそうに睨むクズ男に、ゆっくり詰め寄ると、その表情は途端に青ざめていた。

「もうやめてぐれっ! ちゃんと喋ったじゃないか!」
「いや、まだだ」

まだ聞き出さないといけない事がある。

ミシェルちゃんを何処の奴隷商人に売ったのか、場所は何処か。そして……他にも被害者はいるのか。

もう一つの玉を人質に、俺達は全てを吐かせた。
あまりにも非道で下劣な行いの数々を……。

「女なんてただの便器だ! お前もそう思わないか? ははっ! 俺はいつかハーレムの王に――ぐひぁっっ」

最後に残った玉を思い切り踏み潰し、その煩い口を閉じさせた。流石に今度ばかりは痛みで気絶してしまったようだ。

「どうすんのコイツ? 殺して良い?」

サーシャが、槍をクズ男に突き立て問いかけてきた。
頷いてやりたい所だが、それはダメだ。

「ダメだ。コイツはしっかり裁判にかけて貰う」
「でも! もしミシェルが死んでたら、うちは一生コイツを許せないっっ!! それはリリエッタも一緒でしょ!?」

サーシャに同意を求められたリリエッタは、拳を固く握って必死に気持ちを抑えていた。

「殺してはダメです……」
「なんでよ!? コイツは、ミシェルを――」

「分かってる!! でも、ダメなの!! ここでコイツを殺してしまったら、被害にあった他の子達を救えない。まだ隠している事があるかもしれない。ここでコイツを殺す事は、出来ないの!!」
「でも、証拠が無くて無罪放免になったらっっ」

「心配ありません。私の家が伯爵家だと忘れたのですか? バルロンの家名を賭けてでも、コイツを無罪放免になどさせません!!」

その通りだ。ここでコイツを殺してしまったら、自白という証拠もなければ手掛かりを探す事も困難になる。

コイツは絶対に牢屋にぶちこみ、洗いざらい吐いて貰うしかないんだ。

親が大商会なんて知るもんか。
うちのリリエッタは伯爵家の令嬢だぞ!

「……えっ。リリエッタって、伯爵家のご令嬢だったの??」
「言ってませんでしたか?」

「うん、聞いて……ませんでした。今まで大変ご無礼を! どうかこの通りです!」

やべー! 知らなかったとはいえ、貴族の中でも位の高い伯爵家のご令嬢の初めてを奪ってしまったのか!?

知らぬが仏とは、まさにこの事だな……。

「止めて下さいよエレンさん! 頭を上げて下さい!」
「いや、でも……」

「でも、じゃありません! 伯爵家の令嬢だからなんなのですか! あれですか、恐れおののいて別れるとでも言いたいんですか?」
「それはない! 俺は、リリエッタと一生添い遂げたいとさえ思ってる!! 身分とか関係なく、リリエッタ自身を好きなんだ!」

「エレンさん……」
「ひゅ~っ!エレンやるね~! まさか、こんな所でプロポーズするとは、ビックリだっつうのっ」

サーシャの言葉でハッと、した。

『プロポーズするつもりはまだ無かったのに、ついそれっぽい事を口走ってしまい"ヒヤリ"として、ハッと、した時には後に退けなくなっていた』

これで今月二件目のヒヤリハットだ。
順調に人生の危険を抽出出来ているな、うん。

「エレンさん……あの、その、わ、私で良ければ……」

ほら~、完全にその気になってるじゃ~ん。

まあ、リリエッタは天使だし、結婚出来るなら喜んで人生を捧げるか。

そう思った俺だったが、こんな所で人生の一大イベントを終えたくないと、考えをシフトした。

「いや、この続きはまた今度にしよう! もっと、ロマンチックな所で改めてまた……」
「そ、そうですね! こんな所じゃムードなんて無いですし、そうしましょう!」

ちょっと気まずさを残した俺達は、気を失ったクズ男を引き摺り、途中でマッドとラヴィを拾ってダンジョンを後にした。

クズ男のクランメンバーの女性二人は、気がついたら逃げ出していたらしい。

首都デザイアに戻った俺達は、門番の兵士に事情を話し、近くにいた憲兵を呼んで貰いクズ男を引渡した。

引き渡す時に、このクズは伯爵家のご令嬢を奴隷に落とした極悪人だから、絶対に牢屋から出すなと忠告しておいた。

勿論、リリエッタの実家の家名も伝えてね。

バルロンの家名を聞いた憲兵は、慌ててリリエッタに敬礼していた。

ふふ、どうだ。俺の彼女は凄いだろ?

そんな事を心の中で思ってしまったが、あんまり調子に乗ると、クズ男のように他人の笠をきて威張る事になるからそっと封印しておく。

さて、後は色々やる事はあるが、済ませておかないといけない事がある。

明日から、リリエッタとサーシャはミシェルちゃんの事を報告するため一度実家に帰るそうだ。

一緒にどうですか。
そう聞かれた時は参ったよ。

ただの彼女の家に挨拶しに行くならまだしも、相手は歴史のある伯爵様だ。

礼儀作法など全く知らないうちに行けばどんな恥を晒すか分からないから、丁重にお断りしておいた。

それより、二人には帰るついでに送り届けて欲しい者がいる。

「お前さ……もう、田舎に帰れ」

クランハウスへ戻った俺は、みんなが見守る中――幼馴染で元恋人だったラヴィへ最終宣告を突きつけた。
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